4.実施授業・交流




4.2.2 実施授業報告

(A)事前準備

(a)事前調整

 2つの附属高校への高速回線の開通と初めての本格的な遠隔講義の実施を記念して学長による遠隔講義を行うことを計画した。各学校の担当者が電子メールを中心として、教室の選定、機材有無の確認を行った。


(b)事前テスト

 附属高校と広島大学間を2Mbpsから20Mbpsへ増速を行い、マシンの設置、AV機器の配線の後に、MPEG2TSのユニキャスト通信のテストを行った。通信そのものには問題はなかったが、マルチキャスト通信のテストではパケットロスが発生した。音声についてはマルチキャストでも問題なく、MPEG2TS用とRAT用のPCを分けていたため、安定かつ高音質であった。また、この時はまだMRATは開発中であり、MRATのテストも行ったが本授業ではRATを使うこととなった。


(B)活動内容

授業風景は別紙【添付資料4】を参照のこと。

日時 平成14年10月2日(水)15:50〜17:00
授業名 遠隔授業 高大連携遠隔授業 I(理科)
広島大学学長から高校生への遠隔授業「火星に生物はいたのか」
実施場所
及び
実施者
広島大学
情報メディア教育研究センター
1階小会議室
牟田泰三学長
広島大学附属福山中・高等学校
2階マルチメディアホール
平賀教諭、2学年生徒8名、3学年生徒12名、4学年生徒9名、5学年生徒34名(総計63名)
広島大学附属中・高等学校
3階情報館
内海教諭、1年生生徒79名
授業実施内容
  広島大学 広島大学附属福山中・高等学校 広島大学附属中・高等学校
15:50 遠隔授業のシステムについて説明を行った。    
15:51 牟田学長が挨拶を行った。    
15:52
-15:55
学長が、小・中・高の教育の高度化等、今回の遠隔授業の趣旨について説明を行った。    
15:55
-16:38
学長講義開始
まず「火星に生物はいたか」というテーマで、講義を行うことを説明した。
確認として、太陽系の各惑星の位置関係を表した図を示した。
かつて火星に火星人がいるという説が唱えられた歴史的背景について説明した。
ハッブル宇宙望遠鏡について、空気の層の影響が無いため、ゆらぎの無いきれいな撮影が可能なこと等を説明した。
火星に関する様々なデータを紹介した。
・公転周期⇒地球の約2倍
・自転周期⇒地球とほぼ同じ
・太陽から受ける熱量⇒地球の0.43倍
・大きさ⇒地球の約半分
・体積⇒地球の15パーセント程度
・脱出速度⇒秒速5キロ。地球では秒速11キロ。
(火星から隕石が飛んできやすい理由のひとつになっている)
火星に着陸したロケット等について紹介した。
・1976年7月⇒バイキング1号が火星の赤道付近に着陸。同年9月にバイキング2号が火星の北半球に着陸。
・1997年7月⇒火星の北半球にマーズパスファインダーが着陸。
・1997年9月⇒マーズグローバルサーベイヤーが火星の人工衛星となった。
・2001年、マーズオデッセイが火星の人工衛星となった。
(以上、すべてアメリカ製)
・日本では、1998年7月「のぞみ」を打ち上げ、来年に火星へ到着予定。
火星に打ち上げた衛星から、火星の地形の写真が送られており、地図がつくられつつあること、川や海があった跡や土の中から水が湧き出した跡がみられることを説明した。
火星に水が存在することを証明する。その上で空気が少しあれば、生物は生存可能なため、かつて火星に生物がいたという可能性は否定できない、というストーリーで話を進めることを説明した。
水があったことを証明するため、海底や川、湖そして地中の氷がとけて流れ出した跡を表す火星の写真を示しながら説明した。
また、火星の北極と南極には氷があり、地中には永久凍土層があることを説明した。
南極で見つかった火星の隕石から、バクテリアのようなものが発見されたことを説明した。
最後に、宇宙に関する関心・夢について書くよう依頼した。
16:39   校長先生が講義への御礼・挨拶を行った。  
16:39     校長先生が講義への御礼・挨拶を行った。
16:40
-16:54
    生徒の質問
「資料には、隕石の結晶の年代が13億年と1.8億年とあるが、なぜ2つなのか。」
学長の回答
「隕石に含まれる結晶を調べた結果、2つの年代の結晶が得られたと思われる。」
   
  生徒の質問
「水の中に、生物が生存するために必要な有機物等はあるのですか。」
 
学長の回答
「現状では、火星の水をすくって調査できない。地下から水を含む土壌を採取する必要がある。しかし火星の土壌からいって、水の中に有機物が無いとは考えられない。」
   
    生徒の質問
「川や海流の水の跡が見られると説明されたが、水以外の液体が流れたとは考えられないのか」
学長の回答
「定常的に数億年ながれていたことを考慮すると、水だと考えられる。」
   
    生徒の質問
「自ら動くものは、生物だと考えて良いのか」
学長の回答
「生命であるための条件は、有機体であることが必要だと思う。」
   
    生徒の質問
「もし、水や空気が無い状態で動くものがいたとすれば、それを生物としますか。」
学長の回答
「自分の意思で動き、進化するとすれば、生命と呼ばざるを得ないと思う。」
   
  生徒の質問
「現在の火星の気温では水が流れないと思うが、かつての火星の環境は、今とは全く異なっていたのだろうか。」
 
学長の回答
「現在よりもう少し大気が濃く、水が流れる環境にあったと考えるのが自然だと思う。」
   
16:55   代表者の生徒が御礼・挨拶を行った。
また、生徒全員で学長に御礼をした。
 
16:56     生徒全員で学長に御礼をした。
17:00 授業終了

(C)ネットワーク構成図

ネットワーク構成は別紙【添付資料13】を参照のこと。


(D)教室レイアウト

レイアウト図は別紙【添付資料22】を参照のこと。

広島大学 安定した映像・音声を送受信するためにMPEG2TS用、RAT用にのPCを分けた。講師に普段の授業とより近い形にするため、プラズマディスプレイを2画面に分け、各学校の様子を映し出した。
広島大学附属
福山中・高等学校
約260名収容の小ホールで、前に設置されている2つの200インチスクリーンを使い、一方には広島大学からの受信画像を、一方には広島大学付属福山中・高等学校から広島大学への送出画像をプロジェクターで映し出した。ビデオカメラはホール天井に設置されたリモコンカメラ、前2つのスクリーン間に設置した生徒の様子を撮すカメラ、ホール右後ろからスクリーンを含めた全体のようすを撮すカメラの合計3台を映像セレクターで切り替えて画像を送出した。またマイクは、質問用と会場の音声収録用あわせて8本のワイヤードマイクをミキサーで調整しながら使用した。会場へ出す音声は、RATの音声とMPEG2TSの音声を別のミキサーで切替ながら、回線の状況に合わせて使用した。
広島大学附属
中・高等学校
受信映像は広島大学の映像のみであったが、MPEG2TS用PCとRAT用PCを分けて用意した。スピーカーは備え付けのものがある教室だったが、より音声が聞こえるようにさらにスピーカーを用意した。また、左右の天吊TVモニタに自画映像を映し出すようにした。

(E)サポート体制

事前テスト
広島大学 相原玲二(広島大学:技術支援)
西村浩二(広島大学:技術支援)
藤田貴大(広島大学:技術支援)
広島大学附属福山中・高等学校 平賀博之(広島大学附属福山中・高等学校:担当教員)
田島浩一(広島大学:技術支援)
藤原裕久(広島大学:技術支援)
広島大学附属中・高等学校 岸場清悟(広島大学:技術支援)
近堂徹(広島大学:技術支援)
交流本番
広島大学 相原玲二(広島大学:技術支援)
西村浩二(広島大学:技術支援)
藤田貴大(広島大学:技術支援)
広島大学附属福山中・高等学校 平賀博之(広島大学附属福山中・高等学校:担当教員)
田島浩一(広島大学:技術支援)
藤原裕久(広島大学:技術支援)
広島大学附属中・高等学校 岸場清悟(広島大学:技術支援)
近堂徹(広島大学:技術支援)
岸田崇志(広島市立大学:技術支援)
柴田賢史(内田洋行:授業記録)

(F)生徒の感想

1 学長の講義が聴け、貴重な体験が出来、しかも質問が出来てよかった。
2 もっと長い時間で詳しく、講義してもらいたかった。
3 生物学の知識(特に生物発生の条件について詳しく)をもったうえで、講義受けたかった。
4 テーマを火星ではなく銀河など広大なことをして欲しかった。
5 こういう授業により知識も増し、又勉強意欲が高まると思う。
6 今度のテーマは「ブラックホール」について講義して欲しい。
7 宇宙のことをもっと知りたい。
8 宇宙について興味があるので、こういう授業をもっとしてもらいたい。
9 話がわかりやすく楽しかった。
10 火星について詳しく講義してもらい、面白かった。
11 火星の生命体について、話を聞けてよかった。
12 火星以外の惑星のことも知りたい。
13 「火星人」がいないことを理論的に説明してもらえて、良かった。
14 「火星人」がいないときっぱり言われ、ショックです。
15 火星に生物がいないと知って、残念です。
16 宇宙人はいると思う。(火星人がいないのはショック)
17 火星人・宇宙人がいて欲しい。(友達になりたい)
18 地球人が住める惑星があったら住んでみたい。
19 地球外に生命がいて将来コンタクトできるようになったら嬉しい。
20 火星が地球に似ていることに驚いた。水があれば火星に住みたい。
21 脱出速度を聞いて、火星でバスケがしたいと思った。
22 最近の望遠鏡はすごいと思った。
23 火星探査機のことを詳しく聞けて、良かった。
24 日本の探査機が楽しみです。
25 宇宙へ行く技術が進歩していくことが楽しみです。
26 川の跡から、生物(火星人)がいたのではないか?これからも探査して欲しい。
27 将来、少しでも多くのことを解明して欲しい。
28 土を採ってくることが出来たら、もっと実験が出来るだろうと思った。
29 昔の火星人想像図はオーソン=ウェルズの「火星人襲来」のものかと思ってました。
30 宇宙へ行ってみたくなった。
31 隣の星でもわからないことが多いのだから、他の星も謎だらけなのだろうと思った。
32 火星は色々な謎があって、面白い。しかし、地球のことをもっと知ることが重要だと思う。
33 宇宙に対してどんな感心を持っていますかという質問について地球のそれ本に住んでいる自分には、空(宇宙)の話は多すぎて感心をもてない。まず地球のことに関心をもとうと思う。
34 宇宙には人間が知ることの出来ないことが多くあり、新しいことが分かってもそれによって新たな謎がうまれてくるところが興味をそそられる一端であるのだが、未来に宇宙旅行が手軽に行ける時代がきたら真っ先に飛んで行きたい。
35 宇宙はスケールが大きいが小さなことも重要だと思った。
36 宇宙は未知の世界ではなく、地球の科学とかが、あてはまっていて、宇宙が少し身近な物になったと思う。
37 宇宙に対する関心、夢がもてた。
38 火星(宇宙)に興味が出た。
39 宇宙でまだ発見されていない星を見つけたい。
40 自分が火星や宇宙のことを何か解明できればいいなと思った。
41 進化の過程をみてみたい。
42 宇宙は恐い(暗く無限大なので)
43 宇宙の終わり(外)を見てみたい。
44 日常とかなりかけ離れた宇宙の出来方が特に知りたい。
45 人口増加に伴い移住が将来必要になると思うが、文化的なことは別として、問題が酸素濃度・気などがあると思う。人間が火星生きられるようにするにはどのような操作が必要なのか?あるなら果たして可能なのか?あとどのくらい時間が必要なのか?疑問がわいた。
46 幼い頃から「宇宙」に興味があり、地球の広さは〇←球形だが果たして「宇宙」は?「宇宙」って何?「宇宙」はなぜあるの?宇宙よりさらに大きな何かがあるのか?考えれば考えるほど疑問が増す一方です。
47 空気と水がなくても無機物の生命体が生息しても不思議ではないのでは?(質問したかった)
48 地球以外に本当に生物がいないか疑問です。
49 火星に将来人間が移住することが、出来ないものか?
50 大気が薄くなった理由を知りたい。
51 宇宙に限界があるのか?
52 ワープは実現するのか?
53 宇宙の果てはいつまでも広がりつづけているのか?
54 火星の北南極にある水の中に生物の跡は無いのか?
55 夏に氷が見えるということは、もしかしたら溶けて、生物が存在するのでは?
56 火星のすべての氷を溶かしたら、地表から約20mの深さで覆われるそうだが、地球では、どのくらいになるのだろうか?
57 なぜこの題材が選ばれたのか?授業をつぶして行うならば、大学受験に役立つものにすべきだと思う。
58 興味ない人は聞かなくてもいいのでは?
59 遠隔授業は大多数の人が一気に講義を受けられ、パネルをも見やすいので、効率がよいと思った。こういう授業は視野が広がり、将来についても考えやすくなるので良いと思う。
60 学年全員は入れる部屋がないので、他の部屋でも聞けるようにしたらいいと思う。
61 将来遠隔授業の技術が発達すると、各家庭で授業が受けられるので、学校がいらなくなるのでは?とてもよい経験をした。
62 遠隔授業のさきがけに広大系列がなれば、東大、京大に方を並べられるのでは?楽しみです。
63 何ヶ月に1回、こういう授業が受けられるようになればいいと思う。
64 日本中の偉人の方の講義を聴きたい。
65 遠方の人と会話して、授業するのは不思議な感じ。しかし普通になって行くのだろう。
66 講義の合間に質問できたり、講義後福山の生徒と話し合いをしたり、福山の映像が見れたら、良かった(楽しかった)と思う。
67 質問できるのが良かった。
68 質問する時間が、もっとあったらよかったとおもう。(質問しづらかった)
69 映像、音声もはっきりしてよかった。
70 動画が見たかった。(映像がもう少しキレイになって欲しい)
71 遠隔授業は不便さの中にも便利さが感じられてよかった。
72 目の前で授業をしている感じがした。
73 写真などの資料を用いてくれて、分かりやすかった。
74 講義の資料が配ってもらえたので、資料に書き足しするだけでよかったので、話もよく聴けてよかった。
75 カメラがたくさんあって、緊張した。
76 先生に正面から見られるよりカメラで見られる方が緊張した。

(G)成果・課題

(a)教員の感想・評価

 普段接することのない学長先生から講義を受けることは、身近にいる高校の教員から授業を受けるのとは格段の違いで、集中して講義を受けることができた。テレビ会議システムを利用した遠隔講義も、MPEG2TSの画像品質であれば、テレビの画質が当たり前と考えている生徒にも、十分納得のいくものになったと感じた。
 「学長の講義が聴け、貴重な体験が出来、しかも質問が出来て良かった。」という肯定的な意見が大多数を占めていた。大多数の生徒は、今後このような授業の回数や時間が増えることを希望している。
 また生徒が2会場で講義を受け、質問も両会場から行ったため、競争意識のためか質疑応答がとても盛り上がったものになった。他会場の生徒の様子がとても気になったようで、相手会場の画像も見たかったという感想を書いた生徒もいた。ただし、講義の後で附属中・高等学校と附属中・高等学校へ学長から簡単な課題を出していただき、それに両附属から解答する予定だったが、時間の都合で省略し、質疑応答だけにした。
 「遠隔授業は大多数の人が一気に講義を受けられ、パネルをも見やすいので、効率がよいと思った。こういう授業は視野が広がり、将来についても考えやすくなるので良いと思う。」など、システムに対する満足度も高かった。
 ただし、附属福山中・高等学校の回線の状況が悪く、講義中にしばしば映像が止まったため、プレゼンテーションの画像や講師の先生の顔が見えなくなったことが生徒にとっての最も不満な点であった。また、福山中・高校では事前に送っていただく予定だったプレゼンテーションの資料プリントが、講義終了頃に到着するというハプニングもあり、講義の内容を十分に把握できなかった生徒もいたように思う。音声についてはとぎれることなく鮮明に聞こえたため、せめてプリントがあればと残念であった。ハプニングとは言え、資料の準備は余裕を持って行うべきであると感じた。


(b)課題

(1)教室

 広島大学からの画像はプレゼンテーションの画面の中に講師の先生の様子がオンスクリーンで小さく映されていた。プレゼンテーションの画面だけにならないので生徒も集中しやすくとてもよかったと思うが、200インチのスクリーンでも、講師の顔が小さくなり物足りないように感じた。教室の前にスクリーンが2つあるので、できれば事前にプレゼンテーションデータを送ってもらい、一方のスクリーンに講師の先生の画像を、もう一方にプレゼンテーションの画面を映し出すようにすればより見やすい遠隔講義になったと思う。


(2)ネットワーク

 広島大学附属中・高等学校は広島大学情報通信ネットワーク(HINET)、福山附属中・高等学校は広島県情報通信ネットワーク(メイプルネット)を経由したが、回線を20Mbpsに増速したためネットワーク的な問題はとくに起きなかった。


(3)設備及び機材

 AV機器に関しては充実した教室を選定したが、PC類に関しては今回の交流では安定性を重視したため、広島大学、広島市立大学のもので準備することとなった。


(4)サポート体制

 今回PCが多かったため、各拠点のシステム操作担当のスタッフが必要であった。




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