5.調査・分析



5.6.3 分析結果

集計結果より、以下の観点で考察を行った。


(A)本母集団に関する考慮点

 本アンケートは一部、紙媒体での回収方法をとったが、回答者が大半をプロジェクトのホームページで掲載したホームページから回答した者が大半を占める。そのため、潜在的に遠隔交流等に興味があった人が回答している可能性が高い。また、回答者は全国に散らばっているものの、回答数55というのは全国の初等中等教育機関の教員数に比べて、かなり少ないため、全体の傾向として捉えるには有意性がない。ただ、回答者は学校現場で実際にテレビ会議システムを実施した経験者、もしくは実施に興味がある者として、現状の顕著な問題点を提示した結果として意味があると考える。また、テレビ会議に特化した形でのこうした調査は稀であり、今後の問題提起として貴重な結果が集約できたと考えている。


(B)遠隔交流に使用するシステム問題

 問3-1)より、現在使用しているシステムはNetMeeting、CU-SeeMe、フェニックスが圧倒的で、学校現場で使えるシステムがこれくらいしかない現状を反映している。さらに、問3-3)より使用システムの満足度は十分に得られず、問3-6)より画質や音質に対する不満度が高い。これらのシステムを使用している以上、フレーム数、使用帯域、画面サイズなどの制限があり、満足の得られる画質や音質が得られないのも仕方ない。本プロジェクトでは遠隔交流に現状で十分な映像品質が提供されていないという想定のもと、単に広帯域環境を提供するのみならず、映像品質の向上が教育や学習の質も向上できると考え、それに必要なシステム要件をまとめることを目的としている。本項目に関する集計結果は、現状のシステム、画質、音質では満足のいく授業や交流が実施できないことの顕著な表れであり、本プロジェクトの研究意義は高いと考える。


(C)遠隔交流実施のハードル

 問4)より、遠隔交流実施の経験がない理由の半数以上がテレビ会議システムに関する問題点であり、教育効果に関する視点の否定的理由は極めて少ない。これについては、現行の実施環境(システムの操作性、映像品質等)が改善されることで解決が可能になってくる。また、実施環境の問題として表面化していないが、高品質映像が扱え、操作性のよいテレビ会議システムが設置されるだけでは、遠隔交流の環境整備として十分でなく、音声・映像の入出力の制御機器、採光・照度等学校の教室そのものの問題なども解決されなければ、学校現場で手軽に実施できる環境にはならない。このような問題を抱えていることが実用性(定期的な交流)につながらない理由かもしれない(問3-4)より)。
 遠隔交流の経験者の多くは実施に関する問題として、問3-7)より交流相手や交流相手との交渉が約50%を占め、システム準備や操作等テレビ会議システムやネットワークなど実施環境の問題を越えている。これは重要な問題として提起すべきであろう。遠隔授業や遠隔交流は学校をまたがった授業となり、従来の授業計画のままに進めることはできない。複数の授業実施者の調整はティームティーチングの延長として概念としては新しくはないが、交流校間の設備の違い、時間割等学校間をまたがる調整の役割は教育センター、民間企業、NPO組織等の支援が期待される。


(D)遠隔交流の意義と今後の活用

 アンケート実施当初は総合的な学習が遠隔授業や交流の大半を占めると想定していたが、問3-2)より、約50%が教科授業で実施されていることが印象的である。教科の内訳では英語、社会、理科に複数回答が多かった。英語に対する遠隔交流の効果は国際交流による期待としてわかりやすいが、そのほか社会、理科においては地域特有の現象や文化の比較として遠隔交流の意義が出るのではないかと推測している。
 教育効果の向上と授業における必要性が遠隔交流動機の約半分を占める。また、問5)より今後の実施希望は過去に実施経験がないものも含めて98%が遠隔交流を授業として採用したいと回答している。さらに、今後やってみたいと思う授業の内訳にも教科の授業のアイデアが多く挙げられていた。これらの点と教科授業の実施の比重が高い点を考えると、現状においても教員は授業として遠隔交流の教育効果を感じており、遠隔交流は従来の授業の延長として実施することに意義を感じていると分析している。今後の実施アイデアも多様な提案があり、学校現場での遠隔交流の活用に対する期待がうかがえる。



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