8.プロジェクトの評価について




8.3 評価の結果について

(1)プロジェクト目的・狙いの達成度

○授業実践等(指導案の作成,授業実践の評価と改善)

○学習者の支援(情報機器・ネットワークの活用,ドリル教材の活用,学習者を支援するテキストの活用,システムの活用)

× システム及びドリル教材の課題として,学習内容の定着が十分な児童が発展的にまだ学習していない内容の問題に挑戦する場合は対応できるが,難易度の高い問題に挑戦したい児童がいる場合には問題数が不足している。今後,充実する。

○保護者・教師・児童・生徒の意識の変容(子どもの学習のしかたの変化,学習指導の方法の変化,家庭学習の変化)

(2)教育的効果

○指導案(学習指導要領との関連,学校での学習と家庭学習との関連,本時のめあての達成,学習展開,評価方法)

○授業実践(ちからだめしプリントの活用,システムの活用,機器活用の習熟度,児童の発達段階,実際の授業展開,学習者の反応,学習の評価)

 上記のことから,次のような児童の姿が多くなった。
 学校と家庭の学習を結びつける教材として,ドリル教材と開発したシステム「楽しく学ぼう算数力だめし」,1〜6年を合冊にした領域毎のテキストを利用することにより,教師や保護者はきめ細かく児童の学習の支援を行うことができるようになり,児童の算数の学習の意識が学校と家庭で連続した。このことから児童は「習った算数の問題が解ける」と感じることにつながり,児童の学習意欲が高まった。
 児童の学習意欲が高まることで授業中の挙手が増え,積極的に問題を解いたり,話し合いをしたりする児童が増えた。このことが「授業がよくわかる」という児童の意識につながった。学校で学習したことを,「楽しく学ぼう算数力だめし」などを利用して,放課後や休み時間,家庭で復習できたため,算数の復習にかける時間が多くなった。このことが児童の学習意欲を高めることにつながった。
 「楽しく学ぼう算数力だめし」では,できるようになった問題をアイコンで視覚的に示した。ドリル教材は,学校や家庭でやった問題をファイルに綴じてプリントの量を視覚的に分かるようにした。できる問題が増え,やったプリントの量も増えることが「算数の問題を解くことができる」という児童の自信につながった。
 また,保護者は今回のプロジェクトを,次のように受け止めている。
児童の学習の様子を学校や家庭からこれまでよりきめ細かく知ることができるようにしたことで,学校と家庭が連携して児童の指導の支援や助言,励ましを行うことができるようになった。また,保護者は児童の解くことができるようになった問題をWeb上で確認でき,ファイルにとじられた問題の量でも確認ができた。これらのことからこれまで余り積極的に算数に取り組めなかった児童が積極的に算数に取り組む事例も多く報告された。保護者はこれらのことを好意的に受け止めており,ほとんどの保護者が学校と家庭が連携して児童の学習に関わることの継続を求めている。
 このことから学校と家庭が連携して取り組むシステムの有効性を確認することができた。


(3)2005年の学習環境を想定した評価・提言

 本プロジェクトでは,学校規模,情報機器・ネットワーク等の学習環境の違いによる効果を調べた。本プロジェクトの成果から,2005年の学習環境を想定した場合,情報機器・ネットワーク等を活用して学校と家庭が連携して児童の算数の学習を支援することが,児童の学習意欲を増し,積極的に学習に取り組むことにつながることがわかった。また,学校と家庭で利用できるWeb教材,学習履歴を蓄積して適切な形で提示するシステムの開発,どの学年の児童も利用できるテキストを利用して学校と家庭が連携して児童の学習の支援を行うことが可能であると分かった。
 これらの教材やシステム,テキストは,互いに関連させながら(教材管理,目標管理)作成する必要がある。本システムはCAIではなく,児童が個に応じて自主的に学習を進めることができるものであり,児童が本システムを利用すると,必ず教師や保護者が介在して個に応じた適切な支援や助言,励ましを得ることができるものである。このような教材,システム,テキストの開発にあたっては,長年に渡る算数の問題の蓄積と児童の反応の蓄積と分析をもとに作成する必要がある。また,開発には多くのスタッフが必要である。2005年を迎えたときには,算数以外にもこのようなプロジェクトが立ち上がっていて,様々な教科で学校と家庭が連携して児童の学習を支援する仕組みができている必要がある。
 また,本プロジェクトでは,2005年に実施される「普通教室にコンピュータ2台とプロジェクター1台」の学習環境に比べて,学校でも家庭でも児童が必要なときにいつでもネットワークに接続したコンピュータを利用できることが,児童の意欲化につながることが分かった。ただし,単純に一人1台のラップトップコンピュータを整備することだけでなく,ネットワーク上に児童の興味を増したり,意欲につながったりするようなコンテンツや仕組みを整備することが必要である。このようなコンテンツや仕組みは,児童の基礎的な学習だけでなく,発展的な学習にも対応している必要がある。
 今回のプロジェクトは小学校算数の学習について,学校や家庭での学習を支援する仕組みの構築をめざした。本プロジェクトでは中学校(主に中学校1年生)での実証実験を行ったが,小学生に比べて意欲化につながる事例が少なかった。このことは,中・高校生には,2005年の学習環境を想定した場合に,情報機器・ネットワーク等を活用した別の仕組みが必要であることを示しているとも考えられる。今後,中・高校生が活用できるコンテンツや仕組みについて研究を進めていく必要がある。

さらに,2005年の学習環境を想定した場合に,本プロジェクトでは次のことが分かった。

 今回の実証実験から,情報機器やネットワーク環境等の整っている学校の児童ほど意欲的に取り組む児童の割合が多くなることがあきらかになった。児童がいつでもどこでも情報機器を利用できる環境の整備が望まれるところである。


(4)学習環境別

 学習環境別の効果を確かめるために,学習環境の異なる13の実践校で,同じドリル教材,開発したシステム「楽しく学ぼう算数力だめし」,1〜6年を合冊にした領域毎のテキストを利用して実践を行った。
 へき地複式校,小規模校,中規模校で実践を行ったが,学校の規模にかかわらず児童の意欲が高まることが分かった。また,ほとんどの保護者は算数の学習での学校と家庭の連携がしやすくなったと感じていた。
 今回の実践では,全ての家庭からインターネットに接続して利用できる学校と,インターネットに接続できない家庭が一部ある学校があった。家庭学習において,インターネットに接続できない家庭がある学校では,家庭からの「楽しく学ぼう算数力だめし」の利用はしなかった。家庭で「楽しく学ぼう算数力だめし」を利用した場合と利用しなかった場合では児童の意欲に差が見られた。
 全ての家庭からインターネットに接続して利用できる学校では,ドリル教材と1〜6年を合冊にした領域毎のテキストを利用して学習を行った後,児童は「楽しく学ぼう算数力だめし」を利用して「問題がとけるのか」を試した。問題が解けた場合は満足感につながり,多くの児童が積極的に発展的な問題に取り組もうとした。問題が解けなかった場合も,ほとんどの児童は,テキスト等で解き方を見直したり,計算の仕方を確かめたりして,再度「楽しく学ぼう算数力だめし」を利用して「問題がとけるのか」試した。「楽しく学ぼう算数力だめし」は,一問一答で,すぐに反応を返すため,児童は「問題がとけるのか」をその場で知ることができた。全ての家庭に児童が利用できるコンピュータが備わっていることが児童の意欲を高めることに有効に働くと考えられる。


(5)プロジェクト成果の有効性

 今回のプロジェクトでは,約10,000件の問題からなるドリル教材を準備してWeb上で提供し,学校での確認問題や家庭での復習問題として利用した。また,Web教材を準備してドリル教材と組み合わせて,評価問題として利用し,児童の学習履歴を蓄積した。評価問題やドリル教材を誤答した場合には,領域毎に1〜6年までの領域毎のテキストを作成して,解き方を調べることができるようにした。これらを利用することで,児童の意欲的に取り組むようになっただけでなく,算数嫌いの児童の数が減った。また,保護者の関心が高まり,家庭学習が増えたことや情報機器を活用して算数の基礎的な学習を行っていることへの理解も深まり,児童に励ましの言葉をかけることが報告された。教師は,授業中には児童が必要な問題を印刷して利用したり,評価問題に挑戦したりすることができたため,学習の遅れがちな児童について指導することができた。また,発展的な問題に挑戦したいという児童が取り組める問題と解説を利用できるため,更に学習したいとする指導への対応をすることができた。児童はよい意味での競争を行ってプリントを蓄積したり,評価問題で競い合えたりしたことから,繰り返し練習したり,正確に計算したりすることを自分から行うことができた。これらのことから,教師にとっての支援を行うシステムであるといえる。
 上記のことは今回の13の実践校から報告されており,情報機器とネットワーク環境が整えば,県内の全ての小学校で実現可能なことである。その意味で,今回の実証実験の成果を広めていく必要がある。



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