○授業実践等(指導案の作成,授業実践の評価と改善)
- 各実践校において,学校の実態に即した指導案を作成できた。
- 複数の学年での実践が行われ,様々な形態の実践の蓄積ができた。
○学習者の支援(情報機器・ネットワークの活用,ドリル教材の活用,学習者を支援するテキストの活用,システムの活用)
- 家庭でやったプリントの確認を家庭と教師が行うこと,「楽しく学ぼう算数力だめし」の履歴を家庭や教師が確認できることで,一人一人の児童の算数学習の実態をより正確につかんで指導に役立てている。
- システム(楽しく学ぼう算数力だめし)を作成して,実証実験の中で学習者の支援を行った。その結果,ほとんどの問題に正答する児童は学習した内容の復習に役立っていると感じており,今後もシステムを利用したいと感じている。
- ドリル教材(「ちからだめし」プリント)を学校や家庭で活用した。誤答した問題について学校で指導したり,家庭の協力を得て指導したりしたことで,同じ問題を解いた場合の誤答が減った。また,ドリル教材では児童がプリントをファイルして目に見える形で蓄積したこと,「楽しく学ぼう算数力だめし」ではできた問題が履歴として残り目に見える形で蓄積されることが,児童の意欲につながった。
- 学校でドリル教材を印刷して利用する場合,児童が自分で必要なプリントを印刷して利用する方が児童の充実感が高い。「楽しく学ぼう算数力だめし」で履歴が残ることで児童の充実感が高い。目に見える形での蓄積があることで,児童相互のよい意味での競争が起こる。
- 家庭は,プリントの蓄積や「楽しく学ぼう算数力だめし」の履歴を見ることができる。このことが家庭での児童への励ましの言葉かけにつながり,児童の励みとなっている。
× システム及びドリル教材の課題として,学習内容の定着が十分な児童が発展的にまだ学習していない内容の問題に挑戦する場合は対応できるが,難易度の高い問題に挑戦したい児童がいる場合には問題数が不足している。今後,充実する。
○保護者・教師・児童・生徒の意識の変容(子どもの学習のしかたの変化,学習指導の方法の変化,家庭学習の変化)
- 前述したように保護者の関心が高く,家庭学習で利用するドリル教材,「楽しく学ぼう算数力だめし」の確認や児童からの質問に保護者が積極的に関わっている。
- ドリル教材や「楽しく学ぼう算数力だめし」の利用は家庭からでも可能であり,児童が家庭からドリル教材をダウンロードして,印刷して利用したり,「楽しく学ぼう算数力だめし」の問題に挑戦したりした。
- 保護者は,児童が意欲的に問題をダウンロードして利用したり,「楽しく学ぼう算数力だめし」の問題に挑戦したりすることで,算数に取り組む時間が増えていることから,算数に積極的に取り組むようになったと感じている。
- 教師は,児童が学校で取り組んだ問題だけでなく,家庭から取り組んだ問題についても確認できるため,児童の実態を把握するのに役だったと感じている。
○指導案(学習指導要領との関連,学校での学習と家庭学習との関連,本時のめあての達成,学習展開,評価方法)
- 学校と家庭の学習を結びつける教材としてドリル教材と,開発したシステム 「楽しく学ぼう算数力だめし」,1〜6年を合冊にした領域毎のテキストを利用した。ドリル教材の利用では,児童は家庭で取り組んだドリル教材を保護者に見せるだけでなく,学校でも確認した。「楽しく学ぼう算数力だめし」の利用では,児童の学習履歴は教師も保護者も見ることができた。テキストの利用では,分からない問題があったとき学校や家庭で利用し,家庭での利用する場合は児童が解き方を保護者に聞くなどして保護者が関わった。
- 「本時のめあて」は一人一人の児童が授業中に達成すべき目標である。教師は授業中に一人一人の児童の評価を行うことにより,一人一人の児童が目標に到達したかを判断している。教師は,結果だけでなく,授業中のそれぞれの場面において4つの観点から児童を評価したり,児童の発想の仕方を評価したりして,児童が意欲的に課題解決に取り組むようにしている。場合によって,教師は,児童による自己評価や相互評価を行って,自分や仲間のよさに気づかせるようにしている。今回の実践においても,学校や家庭での学習の様子をより正確につかめるようになったことで,学習展開や評価の仕方を改善することができた。具体的には,一人一人の児童が授業中に獲得した知識は家庭学習や復習によって強化されるが,教師は家庭学習によって強化された知識をプリントやWeb上の履歴として翌日の朝にはつかむことができ,学習内容が十分に定着していない児童に指導を行うことができた。このことにより,教師は,一人一人の児童が前時までの学習内容を理解した上で本時の学習に臨むことができた。
○授業実践(ちからだめしプリントの活用,システムの活用,機器活用の習熟度,児童の発達段階,実際の授業展開,学習者の反応,学習の評価)
- 算数の学習では数学的な考え方を育成するため,筋道を立てて考えることを重視している。このような論理的な思考力を育てるために,考察の対象を柔軟にとらえたり問題の構造や規則性などを見抜いたりする際に働く直感力を育てることを大切にしている。このような直感力を育てるために,児童が意欲的,主体的に学習活動に参加することが必要である。授業中においては発達段階に即して,作業的・体験的な算数的活動を多く取り入れてきた。また,一人一人の児童に毎時間の学習内容が定着し,家庭学習において授業中の学習内容を定着させることができ,毎時間のわかる授業が継続されることで,いわゆる「算数が好き」な児童の割合が増え,授業中の意欲につながる。このような意味から,学習プリントで家庭学習の充実を図り,学習プリントをファイルすることによる蓄積を充実感につなげ,よい意味での競争を行うことで,更に意欲的に取り組もうとする児童が多くなった。また,学習プリントと連携させた,Webシステムやテキストにより,家庭での復習が効果的に行われることになった。
- 算数においては問題解決のために必要な情報を収集し,集めた情報を選択し,判断して問題解決をしたり,新たな情報を創造したりする能力を育成する。このような情報活用を行うために,情報を収集し,選択し,構成して問題解決を行うような問題設定の場を工夫することが必要である。その意味で,今回の実践では,児童が必要なプリントを印刷して利用したり,必要に応じてWebの問題に取り組んだり,分からない問題についてテキストを利用したりする取り組みができた。低学年では保護者が家庭学習の支援を行うことが多く,保護者の支援にも役だった。
- 情報機器の習熟度では,学校でも家庭でも一人1台のコンピュータをいつでもどこでも利用できる環境の学校では低学年の児童から情報機器を使いこなすことができるという報告があった。教室に数台のコンピュータしかない場合には機器の操作の習熟度の差ができていた。
上記のことから,次のような児童の姿が多くなった。
学校と家庭の学習を結びつける教材として,ドリル教材と開発したシステム「楽しく学ぼう算数力だめし」,1〜6年を合冊にした領域毎のテキストを利用することにより,教師や保護者はきめ細かく児童の学習の支援を行うことができるようになり,児童の算数の学習の意識が学校と家庭で連続した。このことから児童は「習った算数の問題が解ける」と感じることにつながり,児童の学習意欲が高まった。
児童の学習意欲が高まることで授業中の挙手が増え,積極的に問題を解いたり,話し合いをしたりする児童が増えた。このことが「授業がよくわかる」という児童の意識につながった。学校で学習したことを,「楽しく学ぼう算数力だめし」などを利用して,放課後や休み時間,家庭で復習できたため,算数の復習にかける時間が多くなった。このことが児童の学習意欲を高めることにつながった。
「楽しく学ぼう算数力だめし」では,できるようになった問題をアイコンで視覚的に示した。ドリル教材は,学校や家庭でやった問題をファイルに綴じてプリントの量を視覚的に分かるようにした。できる問題が増え,やったプリントの量も増えることが「算数の問題を解くことができる」という児童の自信につながった。
また,保護者は今回のプロジェクトを,次のように受け止めている。
児童の学習の様子を学校や家庭からこれまでよりきめ細かく知ることができるようにしたことで,学校と家庭が連携して児童の指導の支援や助言,励ましを行うことができるようになった。また,保護者は児童の解くことができるようになった問題をWeb上で確認でき,ファイルにとじられた問題の量でも確認ができた。これらのことからこれまで余り積極的に算数に取り組めなかった児童が積極的に算数に取り組む事例も多く報告された。保護者はこれらのことを好意的に受け止めており,ほとんどの保護者が学校と家庭が連携して児童の学習に関わることの継続を求めている。
このことから学校と家庭が連携して取り組むシステムの有効性を確認することができた。
本プロジェクトでは,学校規模,情報機器・ネットワーク等の学習環境の違いによる効果を調べた。本プロジェクトの成果から,2005年の学習環境を想定した場合,情報機器・ネットワーク等を活用して学校と家庭が連携して児童の算数の学習を支援することが,児童の学習意欲を増し,積極的に学習に取り組むことにつながることがわかった。また,学校と家庭で利用できるWeb教材,学習履歴を蓄積して適切な形で提示するシステムの開発,どの学年の児童も利用できるテキストを利用して学校と家庭が連携して児童の学習の支援を行うことが可能であると分かった。
これらの教材やシステム,テキストは,互いに関連させながら(教材管理,目標管理)作成する必要がある。本システムはCAIではなく,児童が個に応じて自主的に学習を進めることができるものであり,児童が本システムを利用すると,必ず教師や保護者が介在して個に応じた適切な支援や助言,励ましを得ることができるものである。このような教材,システム,テキストの開発にあたっては,長年に渡る算数の問題の蓄積と児童の反応の蓄積と分析をもとに作成する必要がある。また,開発には多くのスタッフが必要である。2005年を迎えたときには,算数以外にもこのようなプロジェクトが立ち上がっていて,様々な教科で学校と家庭が連携して児童の学習を支援する仕組みができている必要がある。
また,本プロジェクトでは,2005年に実施される「普通教室にコンピュータ2台とプロジェクター1台」の学習環境に比べて,学校でも家庭でも児童が必要なときにいつでもネットワークに接続したコンピュータを利用できることが,児童の意欲化につながることが分かった。ただし,単純に一人1台のラップトップコンピュータを整備することだけでなく,ネットワーク上に児童の興味を増したり,意欲につながったりするようなコンテンツや仕組みを整備することが必要である。このようなコンテンツや仕組みは,児童の基礎的な学習だけでなく,発展的な学習にも対応している必要がある。
今回のプロジェクトは小学校算数の学習について,学校や家庭での学習を支援する仕組みの構築をめざした。本プロジェクトでは中学校(主に中学校1年生)での実証実験を行ったが,小学生に比べて意欲化につながる事例が少なかった。このことは,中・高校生には,2005年の学習環境を想定した場合に,情報機器・ネットワーク等を活用した別の仕組みが必要であることを示しているとも考えられる。今後,中・高校生が活用できるコンテンツや仕組みについて研究を進めていく必要がある。
さらに,2005年の学習環境を想定した場合に,本プロジェクトでは次のことが分かった。
- 児童が,教室でも家庭でもインターネットに接続できるコンピュータが自由 に使え,必要なときに印刷ができる環境では,児童がやりたいドリル教材を自分で印刷して学校や家庭で解いたり,評価問題に挑戦して学習の定着を確認したり,間違えた問題の解き方をテキストで確認したりすることは,中学年(3〜4年)以上の児童はできていた。低学年の児童は,家庭では保護者の援助で,学校では教師の支援を得て実施することができた。低学年の児童が簡単に操作できる情報機器(コンピュータの操作性を含めた)の開発が望まれる。
- Web上の算数のドリル教材や評価問題は学校では一人1台のコンピュータ を使って利用する方が望ましい。教室にプロジェクターと数台のコンピュータ,プリンタしかない場合では,個に応じて利用することができない。個に応じた学習を展開するために,一人1台のコンピュータをいつでもどこでも利用できる環境が必要である。そのことにより,児童の学習履歴が蓄積・利用でき,学習履歴を学校や家庭から適切に利用することで児童の意欲化につなぐことができる。
- コンピュータがある家庭とない家庭の場合には,学校で一人1台のコンピュ ータを利用しているため,児童の情報機器操作の習熟度や印刷して利用するドリル教材の量の差はないが,Webの利用が学校に限られるため発展的な学習を行う時間が十分とれないことがある。家庭でもコンピュータが利用できる環境が望ましい。
今回の実証実験から,情報機器やネットワーク環境等の整っている学校の児童ほど意欲的に取り組む児童の割合が多くなることがあきらかになった。児童がいつでもどこでも情報機器を利用できる環境の整備が望まれるところである。
学習環境別の効果を確かめるために,学習環境の異なる13の実践校で,同じドリル教材,開発したシステム「楽しく学ぼう算数力だめし」,1〜6年を合冊にした領域毎のテキストを利用して実践を行った。
へき地複式校,小規模校,中規模校で実践を行ったが,学校の規模にかかわらず児童の意欲が高まることが分かった。また,ほとんどの保護者は算数の学習での学校と家庭の連携がしやすくなったと感じていた。
今回の実践では,全ての家庭からインターネットに接続して利用できる学校と,インターネットに接続できない家庭が一部ある学校があった。家庭学習において,インターネットに接続できない家庭がある学校では,家庭からの「楽しく学ぼう算数力だめし」の利用はしなかった。家庭で「楽しく学ぼう算数力だめし」を利用した場合と利用しなかった場合では児童の意欲に差が見られた。
全ての家庭からインターネットに接続して利用できる学校では,ドリル教材と1〜6年を合冊にした領域毎のテキストを利用して学習を行った後,児童は「楽しく学ぼう算数力だめし」を利用して「問題がとけるのか」を試した。問題が解けた場合は満足感につながり,多くの児童が積極的に発展的な問題に取り組もうとした。問題が解けなかった場合も,ほとんどの児童は,テキスト等で解き方を見直したり,計算の仕方を確かめたりして,再度「楽しく学ぼう算数力だめし」を利用して「問題がとけるのか」試した。「楽しく学ぼう算数力だめし」は,一問一答で,すぐに反応を返すため,児童は「問題がとけるのか」をその場で知ることができた。全ての家庭に児童が利用できるコンピュータが備わっていることが児童の意欲を高めることに有効に働くと考えられる。
今回のプロジェクトでは,約10,000件の問題からなるドリル教材を準備してWeb上で提供し,学校での確認問題や家庭での復習問題として利用した。また,Web教材を準備してドリル教材と組み合わせて,評価問題として利用し,児童の学習履歴を蓄積した。評価問題やドリル教材を誤答した場合には,領域毎に1〜6年までの領域毎のテキストを作成して,解き方を調べることができるようにした。これらを利用することで,児童の意欲的に取り組むようになっただけでなく,算数嫌いの児童の数が減った。また,保護者の関心が高まり,家庭学習が増えたことや情報機器を活用して算数の基礎的な学習を行っていることへの理解も深まり,児童に励ましの言葉をかけることが報告された。教師は,授業中には児童が必要な問題を印刷して利用したり,評価問題に挑戦したりすることができたため,学習の遅れがちな児童について指導することができた。また,発展的な問題に挑戦したいという児童が取り組める問題と解説を利用できるため,更に学習したいとする指導への対応をすることができた。児童はよい意味での競争を行ってプリントを蓄積したり,評価問題で競い合えたりしたことから,繰り返し練習したり,正確に計算したりすることを自分から行うことができた。これらのことから,教師にとっての支援を行うシステムであるといえる。
上記のことは今回の13の実践校から報告されており,情報機器とネットワーク環境が整えば,県内の全ての小学校で実現可能なことである。その意味で,今回の実証実験の成果を広めていく必要がある。