4.国際交流の実践状況




4.2 日米交流

4.2.1 日米交流の実施校

(日本側)
長崎県西彼杵郡時津町立時津東小学校(http://www.togitsuhigashi-e.ed.jp/
児童数:651人
交流実施学年:小学校6年
教科:総合的な学習の時間

図4−6 時津東小学校

コンピュータ整備状況
場所 台数
パソコン教室 児童用 20台 教師用 1台
職員室 教師用 1台 サーバー2台(校内用1台,インターネット用1台)
事務室 事務処理用 1台

インターネット接続環境:ADSL 1.5Mbps


アメリカニューヨーク州 Staten Island Academy
                    (http://www.statenislandacademy.org
児童数:255人
学年:小学校6年
教科:プロジェクト学習

図4−7 Staten Island Academy

コンピュータ整備状況:
場所 台数
パソコン教室 20台(2教室)
普通教室 各教室 2台
図書室 8台

インターネット接続環境:T1 1.5Mbps


4.2.2 日米交流における実践報告

テーマ:自動翻訳機能付き電子掲示板を利用した日米での共同学習

報告者:長崎県時津町立時津東小学校 上西 誠


(1)はじめに

 「Tokyo has Disneyland?」(東京にディズニーランドがあるのですか?)
 スタテン・アイランド・アカデミーからの返事にどよめきが起こった。
 「えっ,東京にディズニーランドがあるのを知らないの?」
子供たちは意外なことに驚いた。日本では常識と思っていたことが通用しない。国際交流の面白さである。本校の6年生は昨年から総合的な学習の時間で国際理解教育に取り組んでいるが,2年目を迎えたニューヨーク市の小学校とのインターネットを利用した交流は,子供たちの意欲的な取り組みが目立った。その様子と交流の大きな役割を担った自動翻訳機能付き電子掲示板の使い勝手を紹介したい。


(2)共同学習テーマの決定

 日本は4月から新学年が始まり,アメリカでは9月。このずれがあるため,交流時期は11月頃から2月末頃までとなる。日本側としてはもう少し早い時期から取り組み始めたいところであるが,相手の事情を考えると我慢するしかない。また,祝祭日はもとより,相手の学校が休みとなる時期も微妙にずれている。このように日本国内だと全然問題ならない部分からまず調整を始めないといけない。
 交流を始めるためには,まず教師同士の打合せが十分でないといけない。だが,相手が海外だと言語の違い,時差などにより気軽に電話で打合せなどというわけにもいかない。主に電子メールでのやりとりとなるのだが,これも文章や考え方の違いなどを意識すると億劫になる。そこで,教師同士の打合せも電子掲示板を利用して行った。
 今回の総合的な学習の時間の目的は国際理解であり,あくまで交流はそれ自体が目的ではないので,テーマを設定し共同で学習をしていくことにした。テーマ設定に当たっては,米国側から「宗教」というテーマではどうかという提案があったが,日本では難しいことを伝え,「日米の文化」というテーマで取り組むことにした。テーマは両国で共通している部分があるものと違う部分があるものが望ましい。そんなことからも「宗教」より「文化」の方が取り組みやすいと判断したのである。
 このように意見に食い違いが起こったとき,頼りになるのがコーディネーターである。今回コーディネータとして児童の保護者や近くの大学生,NECのスタッフに依頼した。コーディネーターには全体のスケジュールの調整や交流のアドバイス,機器の調整などをしていただいた。テーマの決定に当たっても,こちらの意思を伝え,相手の事情を聞いていただき,テーマを調整することができた。このようなコーディネーターの存在なしには国際交流は難しいのではないかと言うこともできるし,コーディネートをしてくれる団体などがあればお願いすべきである。


(3)電子掲示板を使っての自己紹介

 今回の共同学習は,日米の文化を12のテーマに分けて行うことにした。
 自動翻訳機能付き電子掲示板を使って普段の会話を行い,日米に共通の統合ソフト「スーパーYUKI21i」を使って調べたことをまとめ,交流の始めの自己紹介と終わりの発表会をテレビ会議で行うこととした。
 まず行ったのは,電子掲示板での自己紹介である。昨年からの経験で文章作成のポイントがある程度分かっていたので子供たちには次のことを指示した。

1.主語を必ず入れる
日本語は普段かなり主語を省略して使っている場合が多い。
「私の名前は○○○○です。(私の)好きなスポーツはバスケットボールです。」
というときである。すると翻訳された文章は
「It is…」
から始まってしまう。そこで必ず主語を入れるように指導した。
2.文章を短くする
文章が長くなるとどれが主語かわからなくなり,正しく翻訳できない。文章はできるだけ短くするようにした。
3.漢字を使用する
同音異義語は自動翻訳の苦手とするところである。漢字が分かるところはできるだけ漢字を使用するようにした。
4.変換できないときはカタカナ→ローマ字へ
「私の名前は上西です。」名前のような固有名詞も自動翻訳が苦手とするものである。そのまま変換すると「My name is the west above.」と訳されてしまう。そこで,変換がうまくいかなければカタカナで,それでもうまくいかなければローマ字で入力するというようにしてみた。すると固有名詞でも翻訳がうまくいくようになった。また固有名詞を辞書登録することで変換をスムーズにすることができた。
図4−8 掲示板の様子

 この電子掲示板には日本語→英語→日本語という再変換機能があったので,いずれの場合も子供たちは日本語に再変換されたのを確かめて,何かおかしな部分があれば教師を呼び,教師の方で英訳を確認して再度入力するようにしたので,きちんと翻訳されなかった文がそのまま相手に送られるということはなかった。もちろん,掲示板に掲載する内容は事前に教師の方でチェックして登録するようにした。
 また,子供たちは電子掲示板に一人一人やグループごとの写真を貼った。相手の顔が見えると,今後の発言でも誰が言ったのかがよく見えてくる。写真やビデオが添付できるのは便利であった。
相手から送ってきた写真と文章は模造紙に貼り,パソコン室の壁面に掲示した。これで電子掲示板に書き込みがあったとき,すぐさま相手の顔を確認できるようになった。さらには,他の学年が「6年生はこんなことをしてるんだ。」
ということを知ることができた。


図4−9
教室に貼り出された掲示板の内容

 電子メールでも同じように文章を翻訳ソフトなどで翻訳し,写真を貼付して送ることができる。しかし,電子掲示板のメリットは発言を一覧として見ることができるところである。子供たちは自分の自己紹介に返答が来るのを楽しみにして待ち,また相手の自己紹介に返答を行った。


(4)電子掲示板使用の実際

図4−10 掲示板の発言一覧

 次に電子掲示板を使ったのは,調べ学習に入ってからである。「私たちが調べることを相手はどれぐらい知っているのだろう。」という疑問から「皆さんは,○○を知っていますか。」と質問した。たくさんの質問をしたが,全然返答が来ないものもあれば,逆に相手からも質問が来るものもあった。特に盛り上がったのは冒頭の「ディズニーランド」と「寿司」である。
 「what is disney sea?」(ディズニーシーは何ですか?)
 ニューヨークの子供が東京にディズニーランドがあることを知らない,さらには,ディズニーシーについては聞いたこともないというのは,子供だけでなく教師たちも驚いた。また,カリフォルニアロールやクリスマスロールという聞いたこともない寿司の名前に,子供たちは世界と日本の違いを感じていた。
 この二つが盛り上がった理由は,やはり両者に共通の話題であったということであろう。ニューヨークヤンキースに移籍した松井の話題が増えつつあることからも,それが感じられる。ただ,寿司の名前にはやはり固有名詞が多いので「かっぱ巻き」が「The good swimmer volume」,「鉄火巻き」が「The red hot iron volume」と誤訳されたりもした。
 盛り上がる話題だと返答も速くなる。日本とアメリカの交流であれば問題になるのは時差であるが,電子掲示板の使用ではこれがプラスとなった。昼間に電子掲示板に書き込みしておけば,次の日の朝には返事が来ているのである。そこでまた昼間に電子掲示板に書き込むという具合である。子供たちもだんだん電子掲示板に慣れてくると,英語部分は画面上で縮めてしまい,自分が作った日本語の文章と再変換された日本語の文章のみを比べて文を訂正するようになった。
 「私は日本語を知りたい。」
という書き込みがあった後は,日本語学習のサブボードを作成した。「『こんにちは』を『KONNICHIWA』と言います。」("Hello" is called "KONNICHIWA")
と説明し,子供が「こんにちは。」とマイクで言った音声ファイルも添付した。


(5)テレビ会議(ネットミーティング)で発表

図4−11 TV会議の様子

 共同学習の発表は,統合ソフトスーパーYUKI21i(米国 Leonardo)で作成したデータを互いに送り,テレビ会議(ネットミーティング)を通して行った。テレビ会議では今度は時差が障害となるために,顔合わせと発表の2回のみを行った。通訳を保護者の方や近くの大学の学生さんにお願いし,約1時間半の発表となった。機器の準備や日程の打合せには,コーディネーターの力が大きく付与した。
 またテレビ会議の前には,子供たちが調べたものの中から,自作の竹とんぼや将棋の駒,剣玉,CD,日本のテレビ番組が録画されたビデオテープや新聞などを実際にニューヨークまで送った。電子掲示板,テレビ会議とどうしてもバーチャルな交流になりがちなので,少しでも実物に触れての交流を加えることは意義があると思う。
 6年生は3月で卒業だが,アメリカの卒業は6月である。そこでこの交流を今後も引き継いでいくために,電子掲示板の使い方を6年生から5年生に教える時間を作った。6年生が自分たちが実際に使って得た便利な使い方,正しく翻訳ができる文章の作り方などを5年生に引き継ぐことで,次の学年へ交流をつなげるのである。卒業時期がずれる日米間の交流をこうして利用することで,学校同士の交流が続いていくことになるであろう。


(6)終わりに

 外国の学校と交流するときに,言語の違いは一番の障害である。特に英語を学習していない小学校では,優秀な通訳が身近にしかも常時いない限り難しい。しかし,子供たちは外国の子供と話したい,触れ合いたいという意識は持っている。今回利用した自動翻訳機能付き電子掲示板はその敷居を低くすることに大変役立ち,そのため,子供たちは自分たちの言葉で相手と直接会話するように交流することができ,さらに相手のことを知りたい,自分たちのことを伝えたいという思いが高まった。
 もちろん,電子掲示板だけでは交流の広がりや共同学習までの発展は難しい。教師はテレビ会議や共通のソフトなど様々な方法を使い,子供たちが国際社会の中で生きる力をつける共同学習まで高めてやる必要がある。その入口の道具として電子掲示板は使いやすく,便利な道具である。




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