4.国際交流の実践状況




4.3 日韓交流

4.3.1 日韓交流の実施校

(日本側)
福岡県福岡市立平尾中学校(http://www.fuku-c.ed.jp/schoolhp/jhhirao/index.html
生徒数:707人
学年:中学2年
教科:総合的な学習の時間

図4−12 平尾中学校

コンピュータ整備状況
場所 台数
パソコン教室 生徒用40台 教師用2台
職員室 教師用2台
事務室 事務処理用1台
校長室 1台
生徒会室 2台

インターネット接続環境:光ファイバー接続 100Mbps


(韓国側)
韓国釜山広域市 光武女子中学校(http://www.kwangmu-g.ms.kr
生徒数:1053名
学年:中学校2年
教科:総合的な学習の時間


コンピュータ整備状況
場所 台数
パソコン教室 31台
職員室 51台
庶務室 5台
校長室 1台
マルチメディア室 41台
普通教室 29台
特別室 2台
その他 31台

インターネット接続環境:ADSL接続


4.3.2 日韓交流における実践報告

テーマ:国際理解教育から見えてくるもの
― インターネットを利用して ―

報告者:福岡県福岡市立平尾中学校 中里 秀一


(1)福岡市の地理的条件と本校

 福岡市は,アジアに開かれた未来都市を目指した行政活動を行っている。例えば,アジアンマンスと題したアジア各地の人々や文化等を集めた祭典を毎年実施したり,標識をハングルや中国語で表記したりしていることである。それは,福岡の地理的条件が有効に働いていることに他ならない。福岡市と釜山市を結ぶJRの高速船は,福岡・釜山を3時間で結び,飛行機でも40分程の位置である。さらに昨年実施された「日韓共同開催のワールドカップサッカー」の追い風により,アジア,特に韓国と福岡市の交流は年々盛んになっている状況にある。
 福岡市内の小中学校にもその影響は大きく,韓国を中心とした国際交流は小学校中学校共に盛んに行われている。福岡市内60数校の中学校で,韓国修学旅行を実施している学校は15校。じつに全体の4分の1に及ぶ。
 そんな福岡市の中心に位置する平尾中学校は,校区に動植物園が存在する静かな環境をもち,閑静な住宅やマンションが建つ,文教地区である。
 本校は,本年度「国際理解教育」を研修目標に実践を続けている。もちろん韓国以外にも交流校が存在する。オーストラリアのペンロスカレッジ高校やニュージーランドのエプソン女子高校である。両校は毎年来校して,授業や給食活動を共にしたり,お互いの文化を紹介する集会活動を実施したりする交流をしている。地理的な条件から,期間限定の交流の形をとらざるをえないのはやむを得ない。しかし,韓国釜山市「光武女子中学校」との交流は,修学旅行やホームステイを利用して,お互いに行き来することが可能である。そのため,年間を通じての交流を目指し,本校国際交流の柱に位置づけている。

図4−13
エプソン女子校との交流の様子
図4−14
ペンロスカレッジ高校との交流の様子

(2)本校と韓国との国際交流の方針

図4−15 光武女子中学校

 これからの教育に求められるものは豊かな心を持ち,たくましく「生きる力」を育むことだと思う。
今日,社会は国際化・情報化・科学技術の発展・少子高齢化など,様々な面で急激な変化をとげながら発展してきた。変化に合わせて生きていく生徒達にとって必要な「生きる力」は,つまり自ら課題を見つけ・自ら学び・考え・主体的に行動し,よりよく問題を解決する資質や能力と言えるだろう。これらの力は,家庭や地域社会との連携を深め,ゆとりある環境の中で,主体的な問題解決力,豊かな人間性をもつ,調和のとれた人間を育成していくことで実現できると考える。
 これを受け,本校の「総合的な学習の時間」は,上記の実現を目指した生徒の育成に重点を置いている。さらに具体的に「総合的な学習の時間」のねらいを
○自ら課題を見つけ,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること
○情報の集め方,調べ方,まとめ方,報告や発表・討論の仕方などの学び方やものの考え方を身につけること
○国際理解・社会福祉やボランティア活動により,コミュニケーション能力を育てること
等とした。

 具体的に1年生では,上記2番目の情報の収集・発表などの力を身につけさせることを中心活動としている。生徒の意見を反映させつつ,福岡の歴史・文化・祭り・食文化・芸能関係などのテーマを設ける。さらにそれぞれのテーマについて,生徒数人のチームが独自にインターネットや図書館で調べる。中には校外にでていくチームある。が,アポイントメントの取り方やお礼状の書き方についても指導している。これらの学習はパワーポイントや模造紙にまとめる形で,全体に発表される。ここで培われた力が,2年次の本格的な国際交流の取り組みの中で活かされると考えている。ちなみに,前記のペンロスカレッジ高校・エプソン女子校との交流活動の中心となるのも1年生である。
 2年生では,10月の韓国修学旅行を中心の行事と位置づけ,韓国の食文化やスポーツ・日本と韓国の歴史のテーマを設け,それぞれのチームで調べ学習を続け,1年次と同じように発表していく。平行して外部講師を招いての韓国語講座で,簡単なコミュニケーションが出来る程度の語学力をつけ,調べ学習の発表も学習している。また,インターネットの掲示板を利用しての双方向の交流も計画の中心である。
 3年次では,国際的な視野を持ちつつ,地域や自分自身の進路や生き方に着眼した活動に発展していく。
それぞれの発達段階に応じ,「生きる力」が確実に育まれていく。その中心にあるのが,国際交流であると言えよう。


(3)取り組みの流れ

表1 年間スケジュール
行事や活動内容 具体的な内容
本年度
4月
国際理解教育年間計画の確認     
6月 オーストラリア,ペンロスカレッジ高校・ニュージーランド,エプソン女子校両校来日 集会などで交流
7月 修学旅行実行委員会結成
前期調べ学習のまとめ
VTRレターの制作
掲示板の使い方
8月 光武女子中学校にて事前打ち合わせ

平尾中ホームステイ団釜山へ
VTRレターを渡す

ホームステイ(22名)
9月      掲示板での交流
10月 修学旅行 掲示板を使っての交流日韓チャットでの修学旅行打ち合わせ
11月      掲示板でのお礼や交流
12月 修学旅行成果発表集会光武女子中

ホームステイ団福岡へ


ホームステイ(22名)
1月      掲示板の利用者を1年生に徐々に移行開始
2月 1年生の韓国語講座スタート光武女子校にて来年度の修学旅行のための事前打ち合わせ
ネットミーティング
3月 学年末集会で国際交流のまとめ 掲示板を使っての交流
来年度

1学期
韓国についての調べ学習(総合学習  2年) 掲示板を利用しての交流を学年全体に広げる
技術・家庭の時間を使って,掲示板とメールの使い方の学習など
2学期 オーストラリア,ペンロスカレッジ高校・ニュージーランド,エプソン女子校両校来日(1年)
ホームステイ(平尾から釜山へ)
修学旅行
ネットミーティング(9月)
掲示板やチャットを利用して,交流をする
3学期 ホームステイ(釜山から平尾へ)

国際交流発表会
ネットミーティング(3月)

(4)交流の実際

1)待望の同時通訳掲示板

 昨年度から本校と光武女子中との交流はスタートした。昨年度の修学旅行後は,光武の生徒から数多くのメールが学校のメールアドレスに送られてきた。しかし,困ったことにハングル文字のままで送られてくるのである。ハングル文字を読める先生はいないので,日韓翻訳ソフトに頼った。メールソフト上で翻訳するのだが,その翻訳の精度が悪かった。日本語に変換した文章が『その後,どうお過ごしですか』らしき文章が『お前,何してる』という文章に変換されるのだ。意味の通じないことが多かった。中には英語で送られてくることもあったが,いずれにせよ翻訳しなければならない。韓国の生徒は英語の学習がかなり進んでいるようだが,日本の生徒は英語で送られてきてもすぐに理解できる生徒は残念ながら少ない。また,学校のメールアドレスに送られてくると,日本語に変換して生徒に渡す作業が必要になる。ほとんどの場合,こちらから返事を送ることもなく交流は途絶えがちだった。国際交流をする場合,言語の問題は越えなければならない最低限のハードルだった。
 そこで今年度は,修学旅行前に数時間の韓国語講座を準備した。簡単な挨拶から,交流に必要ないくつかのパターンまで学習した。生徒は予想を超えて熱心に語学学習に励み,掲示板でも変換される文章を見て学習の理解を深めていった。ハングル文字を読めるほどには上達していないが,ハングル文字に触れる楽しさを感じているようだった。誤訳も,昨年までの翻訳ソフトほどではなかった。しかし,最初戸惑ったのが,名前の表記についてだった。中里とか山内などの名字で自己紹介しようとしても漢字で表記されない。生徒は自分の名前をハングル文字で表記できるようになっている。当然ハングル表記されるものと思っており,不思議がった。日本語からハングル文字へ。ハングル文字から日本語へと変換される画面を見ながら,どうやったら自分の名前が正しく表記されるのだろうかと挑戦してみたが,どうやってもだめだった。結局,ローマ字表記でクリアーした。ワープロを使いこなす生徒が多く,文章の入力時に翻訳ソフトの存在はそこにはない。翻訳ソフトのためにここをこう書き直すのだという感覚がすぐには理解できなかったのだ。


2)待ち続けた返事

図4−16
訪福した光武女子中ホームステイ団

 まずは簡単な自己紹介を送ってみる。掲示板の可能性に期待していた私達は,光武女子中側も同じように感じていると思っていた。時差もないし,最低でも1週間ほどで返事が返ってくるだろう。その日から,毎日掲示板のチェックを行った。楽しみと不安が混ざり合う不思議な感覚を生徒と共に味わっていた。
 しかし,いくら待っても残念ながら返事はこなかった。
 返事がこないことに,勝手に不安や不満を感じながら,修学旅行までに2回訪問した時の光武女子中学校での様子を思い出していた。そこで感じたのは,高度な情報教育に裏付けられた国だということだった。98%が個人のメールアドレスを持ち,各教室のモニターで朝の連絡が行われる。HPも見事なものだった。2回目の訪問でのことだ。コンピュータ担当の先生が,「インターネットを使っての交流ならば,光武女子中のHPを使えばいい。そこに国際交流のページがある。」また,「メールの交換ならば,個人のメールアドレスを使ったらいい。ほとんど全員がアドレスを持っている。」という言葉だった。「掲示板を使ってやっていきましょう。」の提案にも,自分たちの意見を主張するお国柄が伺えた。実はその後もたびたびこのお国柄の違いを痛感させられることになる。
 残念ながら最後まで返事はこなかった。このことで生徒が掲示板をあきらめ始めていると感じた。ひいては交流そのものにも影響が及ぶことを心配した。交流の難しいところはここだ。お互いにキャッチボールが出来てこその掲示板だし,交流だからだ。
 そんな時,生徒からではなく先生からの修学旅行の打ち合わせの書き込みがあった。大量の文章だった。掲示板は韓国でも機能している。ではなぜ?かえって疑問がふくらんだ。



3)日韓チャットで打ち合わせ

 修学旅行も近くなり,交流会での流れなどの細かい部分の打ち合わせが必要だった。そこで力を発揮するのが,日韓チャットだ。時差のない日韓だからこそ,リアルタイムの打ち合わせが,チャットなら出来る。チャットの日程を決めて始めることに。な・なんと!チャットのページが開かない。福岡市の教育センターに問い合わせると,チャットはフィルタリングソフトにより,表示できないようにしているとのこと。校長からもお願いしてもらったが,どうしようもないとの返事。あきれた。福岡市のインターネット環境は,どうも障害が多すぎる。仕方ない。NECに協力してもらい光武とNECでチャットしていただいた。平行して私がNECと電話で話す形をとった。こんな歪んだ形ではなく,平尾と光武でチャットしたかったが仕方がなかった。修学旅行本番の日,光武女子中に着いた私は,掲示板の説明を今一度コンピュータ担当の先生に切り出した。驚いたことに「掲示板を使って授業をやってないし,交流ならメールでいいじゃないですか。」という返事。驚きあきれた。やはり,こちらの意見は伝わってはいなかったのだ。うーん。難しい。とはいえ「じゃあ,出来るだけ書き込めるようにしましょう。」という返事。今度こそ大丈夫だろうとホッとして日本に帰った。
 しかしながら,またもや返事がこない。理由はテスト期間中ということだった。ようやくテスト期間が終了した頃には,日本は冬休みに入っていた。

 その後12月のホームステイで光武女子中の校長先生方と打ち合わせが出来た。今度こそ掲示板を使って交流を続けたい平尾中の意図が伝わったように思った。だが残念なことに韓国は1月中旬から2月いっぱい冬休みに入る。こちらのカリキュラムと大きなずれがあることが分かった。両国のカリキュラムをろくに調べもしない,こちらの身勝手さを感じた。
 12月のホームステイでは光武女子中の生徒が私の家にも3日間滞在した。お互いのコミュニケーションをどうとるべきか悩んだ。「なんとかなるだろう。」とは思いながらも幾分かの不安は残った。ヘランはシャープ製の翻訳機を手にしていたが,残念ながらあまり役に立ったとは言えない。そこで,思いついたのが,掲示板だった。困ったときには掲示板を翻訳機にして意思を伝えあった。ヘランも掲示板の存在にかなり頼っていたように思う。
 ホームステイの中学生達は,本校の生徒と言葉を越えて,実に楽しそうに語り合い(?)遊んでいた。言葉を越えた交流が可能であることを痛感した。実際に会ってみれば言葉などいくらでも克服できる。しかし,会えない期間は掲示板が交流の足がかりになる。前述したように地理的に有利な条件をいかに利用し,会えるときは言葉を越え,会えないときは掲示板に頼りつつ交流を継続していく。そんな2本立て(チャットやネットミーティングを使えば4本立て?)での交流が大切だろう。


(5)交流の成果と課題

 韓国は,数年前の日本の受験戦争よりも熾烈な受験戦争が展開されている。小学校から大学進学を目指して塾に通い,帰宅は12時になるときもあるという。「休日は,暗い内から塾に行き,帰りも真っ暗です。弁当を三つ持って通ってました。」とは,韓国語を教えてくれる先生の話だ。韓国のすべての学校がそうであるとは考えにくいが,遊ぶまもなく学習する国であるらしい。また,カリキュラムの違いも大切だ。授業をやってる時期が違うと,返事も期待できない。
 さらに自分に自信をもっている国であることも今回発見したことだ。自校のHPに自信を持っている。「交流は全員もっている個人のアドレスを使えばいい。なぜ新しく掲示板を使う必要があるのか?」というのが最初から光武の先生が主張していた意見だった。

図4−17 釜山タワーから

 このように今回の国際交流は,違う文化と違う言語の国との交流であることをもっとも痛感した。言葉の障害は,掲示板によって乗り越えることができる。軌道にのれば掲示板とチャットによって,かなり深い交流が進むだろう。しかし,そこまでに準備しなければならないことがいくつかある。ひとつは,先生同士の連絡を十分に行っておくことだ。国民性の違いが誤解を招きやすいが,誠実に対応することでなんとかなるだろう。互いの文化や教育制度を十分に理解した通訳の方がいらっしゃれば万全だ。次に,両国のカリキュラムや試験などの行事を出し合っておきたい。こちらが返事を待っても,出せない状況がある以上,生徒に不安を招く。両国が十分にコミュニケーションできる時期を設定することだ。次に掲示板のチェックを丹念に行い,返事は遅くても1週間を過ぎない範囲にしたい。もし生徒が出せなければ,教師がその旨を知らせればいい。これだけでも安心感は格段に違う。相手が見えないだけに,誠実な対応は必要だろう。
 以上のことをもう一度クリヤーした上で,来年度はさらに交流を発展させたい。初年度であったためにせっかくの掲示板を駆使することが出来ずじまいであったが,掲示板とチャットやネットミーティングは,生徒達も大変期待しているし,交流の根幹をなすものになるだろう。もし,同じテーマで語りあることが出来れば,中学生ならば,かなり深い話し合いがきるだろう。近くて遠い国が急ピッチに近くて近い国に変わりつつある。その中で,互いに大事にしていることや相互理解を,インターネットによる掲示板を中心としたリアルタイムの交流によって期待できるのである。




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