5.国際交流支援システムの有効性




(2) 中間アンケート結果・ヒアリングの結果と分析

1)先生に対するヒアリング・アンケート

アンケート回答数
琴田小学校 1
時津東小学校 4
平尾中学校 7
Staten Island Academy 1
合計 13名

 各先生へのヒアリングから,慣れれば掲示板自体の操作は難しくなく,短時間の習得時間で基本的な操作を覚えることが可能であることがわかった。既に操作を修得している先生がほとんどで,操作性への不安はないが,交流そのものへの不安が生じ始めてきた頃である。

 翻訳精度の問題が浮き彫りになり,先生,児童・生徒共に翻訳精度の低さに憤りを感じ始め,英語はまだどうにか理解することができるが,韓国語,中国となると自動翻訳掲示板への依存に限られてしまう状況になったようだ。逆翻訳を自らも利用し,必ず見直すように児童・生徒にも指示をしていた。しかし,逆翻訳の結果があまりにも原文とかけ離れたものになることがある場合,更に不安になったという。また,特に返事が来ない場合,投稿文がうまく訳せていないのではないかと心配になったようだ。5-16中間アンケート結果(先生)質問eの結果でも,過半数の先生が翻訳精度への不満をもっていることがわかる。また,事前にはなかった意見で「バーチャル的なコミュニケーションで現実感に欠ける」と感じる先生が増えた(グラフ5-15中間アンケート結果(先生)質問dの結果参照)。実際に掲示板を利用し返答が返ってこない心配と憤りがこの結果を出したと思われる。

 言いたいことをそのまま入力すれば訳してもらえると安易に考えていた期待からかけ離れ,一文を完成するのに予想以上の時間がかかることが頻繁に起こった。時間をかけ調べた結果,文法的に間違っている文章の翻訳はうまく行かず,原文の文法的な見直しが必要だとわかってくると,今までよりも慎重にかつ確実に原文を書く努力を児童にさせるなどの工夫を始めたという意見が,各国の先生から出た。また児童たちの間では,作成した文章に文法的な間違いを自らが探し出し,自国言語の勉強を間接的に行うよい機会になったという回答もあった。

 実際に使用してみていると,翻訳レベルはかなり編集が必要というコメントが日米両国から出ていることが,グラフ5-12から5-16中間アンケート結果(先生)質問a〜eまでの結果からわかる。ただし,内容から理解することが可能なため,相手国も理解していると考えている先生が多いこともわかる。「最初から相手国語を利用するより速く入力することができるので,交流に専念することができる」,「異国の言葉への抵抗も和らぐ」との回答も事前アンケートの結果と同様,高いものであった。実際に使用して翻訳精度の問題が生じても交流をする上では,差支えのない程度と受け止める先生が多かったようだ。 この時点でも,言葉の異なる国との交流をする上では,自動翻訳掲示板の位置付けが高いことがわかる。

グラフ5-12中間アンケート結果(先生)質問a
【回答者数11名・無回答数2 名】

グラフ5-13中間アンケート結果(先生)質問b
【回答数9名・無回答数4 名】

グラフ5-14中間アンケート結果(先生)質問c
【回答数9名・無回答数4名】

グラフ5-15中間アンケート結果(先生)質問d
【回答数6名・無回答数7名】

グラフ5-16中間アンケート結果(先生)質問e
【回答数8名・無回答数5 名】

 翻訳の精度の低さから生じる交流への支障や心配,テレビ会議と比較するとバーチャル的なコミュニケーションのようで実感がわかないこともあるという先生は多いが,それでもコミュニケーションの活発化,連絡手段,児童のコミュニケーションの活発化には,掲示板が役立っているという先生が多かった。また,手紙に比べて頻繁に意見の交換が可能で,電話に比べて安価であること,時差や,距離を気にしなくても交流ができることがメリットとして挙げられた。この時期の興味深い結果として,グラフ5-21中間アンケート結果(先生)質問jの結果からもわかるように,先生の交流に対する不安は,事前も中間も相変わらずあるという意見が多いのに対し,児童・生徒は,自動翻訳掲示板を利用することで言葉の壁に対する不安が減少し,交流に対する期待の方が上回る状況になってきたということである。

 その国独自のものは,直訳では伝わらないというのが,日米両国からの翻訳ソフトを使用する上でのデメリットとして挙げられたが,「小学生のレベルでは,相手国の言語に興味を持つことが大切であり,相手国の文化に触れること,理解することを目的とする」ので,児童翻訳掲示板を利用することは語学学習の障害にはならないという意見が米国を含んだ意見であった。しかし,グラフ5-22中間アンケート結果(先生)質問kの結果からもわかるように,掲示板に依存しすぎてしまうことを心配する先生が増えたのも事実である。言語を全く心配しないで交流を進めることは便利である一方,その言語そのものに興味を持たなくなり,自国の言葉だけでできる安易な交流になってしまわないかという心配である。そこで,先生自身も掲示板上の交流を促すため,自ら相手国の文化と言語を学ぶ努力をし始めたようだ。また,交流を進める中で,掲示板上の交流に加え,手紙やビデオレターなど物として残るものを利用することも計画し始め,交流そのものの充実化を図るようになったという先生が増えた。

 日米の交流では,問題とされた14時間の時差と掲示板をうまく利用して交流を促進させた。日本側の昼中の書き込みに対し,翌朝には,米国からの返事が掲載され,米国側もこれと逆の状況でリアルタイムに近い交流がされることにより,更に交流を活発化させたという。また,米国からは,「異国文化の中にも共通点が多々あることを先生・児童ともに発見することができたことに驚いており,掲示板の交流を通して知ることには,非常に意義がある」との意見があがった。プロジェクトが進むうちに,掲示板から得る新たな情報をもとに児童の事前の相手国のイメージの変化がうかがえる。また,これらの情報が教科書やガイドブックでは入手できない新鮮な情報であり,あまりイメージを持っていなかった児童も着々と関心を示し始めた。このように掲示板上での交流が進むにつれ,交流前と比べ先生・児童・生徒の言語を含め相手国への感心度が高くなる一方,相手国に対する理解だけではなく,自国・自文化に対する感心の高まりが掲示板への書き込み内容から見られたのも事実である。

 しかしその一方で,先生の負担が感心度と比例して増え続け,交流を進める上での準備,テレビ会議開催の準備などに時間を費やすことが多くなり,以降これが国際交流を進める上での大きな問題点の一つに挙げられた。

グラフ5-17中間アンケート結果(先生)質問f
【回答数10名・無回答数3 名】

グラフ5-18中間アンケート結果(先生)質問g
【回答数10〜11名・無回答数2〜3 名】

グラフ5-19中間アンケート結果(先生)質問h
【回答数9〜11名・無回答数2〜4名】

グラフ5-20中間アンケート結果(先生)質問i
【回答数9名・無回答数4名】

グラフ5-21中間アンケート結果(先生)質問j
【回答数8名・無回答数5名】

グラフ5-22中間アンケート結果(先生)質問k
【回答数9名・無回答数4名】

2)児童・生徒に対するアンケート

アンケート回答人数(児童)
琴田小学校 33
時津東小学校      88
平尾中学校 7
合計 128名

 児童・生徒の操作全般にはほとんど問題がなく,先生の指導がなくても短時間で投稿文を完成させ登録する児童がほとんどとなったということが,先生へのヒアリングからわかった。写真,テキストなどの添付操作に関しても,できる児童を中心に先生の支援を借りずとも実行できるグループを中心に進めたようだ。ボタン一つで翻訳をするシステムは,便利と考える児童・生徒が多く,「もっと使っていろいろなことを話したい」という意見が出ていた。しかし,先生のアンケート結果同様,返事が来ない場合は,翻訳が確実にされていないためではないかとの心配の声が増えてきたのも事実である。

 琴田小学校の場合は,言語が中国語でほとんど意味がわからないため,翻訳を自動翻訳に依存する傾向があった。自分たちの言いたいことが通じているか,また相手の言っていることが理解できるかの質問に対して,「だいたい通じており,理解できている」という回答が半数を占めていたのは,中国語の文章中で知っている漢字から意味をくみ取ることを行った結果だったようだ。他校の交流と比べ翻訳精度に心配は残すものの,掲示板そのものへの不満は低かった(グラフ5-23中間アンケート結果(児童) 「掲示板について」琴田小学校参照)。同様に分からない言葉を使用しての交流ではあるが,平尾中学校への同じ質問に対する結果から,自動翻訳の日韓の翻訳精度は他の言語と比較するとかなり高いものであることがわかる(グラフ5-25中間アンケート結果(児童) 「掲示板について」平尾中学校参照)。一方,日英の翻訳精度が低いこと,翻訳精度への不満度が高いことが,時津東小学校の児童たちの回答からわかる(グラフ5-24中間アンケート結果(児童) 「掲示板について」時津東小学校参照)。

 また,翻訳精度が上がらない理由が,スペルミスや不完全な文章によることがわかった時点で,入力の際の注意が先生より指示があったようだ。主語・述語を明確に,文章を短くするように指示をされ,自らの間違いに気付かなかった児童も,改めて自国の言語の難しさを知り勉強になったという声があった。これは,日米両国に同じことが言えた。ただ,入力の際の注意事項が多いと,面倒くさいいという児童も出てきたのも事実である。

 翻訳精度の問題はあるものの,「掲示板を利用すると交流がよく進む」と回答した児童数が,日米交流で翻訳への不満度が高い時津東小学校を含め,過半数に及び,高い評価を出ている。この頃には,写真などの投稿も増え交流も活発になってきており,翻訳以外の問題の指摘はほとんどないのも事実で,掲示板の便利さが優先されたようだ。

グラフ5-23中間アンケート結果(児童)「掲示板について」琴田小学校

グラフ5-24中間アンケート結果(児童) 「掲示板について」時津東小学校

グラフ5-25中間アンケート結果(児童) 「掲示板について」平尾中学校

グラフ5-26中間アンケート結果(児童) 「掲示板について」全体計結果

 交流を始めた時点では,ほとんどの生徒が不安を感じ,大変だと思っていたが,自動翻訳掲示板を利用することで,交流前と比較すると言葉の壁に対する不安が減少し,交流に対する期待の方が上回る状況になってきた。交流自体楽しいと答えた児童は全体の70%を超えたことが,グラフ5-30中間アンケート結果(児童) 「交流について」全体集計と見るとわかる。翻訳精度の問題はあるが,掲示板上の交流の楽しさと期待が大きく膨らんできた時期でもある。「直接話せないが,掲示板を使えば他の国の人とも話せるようになることが楽しい」,「英語を知らなくても交流ができることが楽しい」,「時間もかからず,沢山話せることが嬉しい」,「返事が来るのが楽しみである」などの意見が続出した。

 事前のアンケートで,自国のことを相手国にうまく伝えることができたかという質問に対し,琴田小学校では,言葉への不安から「できる」と回答をした児童が20%だったのが,中間アンケートでその回答が50%に上がった(グラフ5-27中間アンケート結果(児童) 「交流について」琴田小学校 参照)。一方,英語を使用する時津東小学校では,同じく事前の45%の回答が,中間では30%に及ばない結果となった。交流の回数は日米交流の方が活発に行われていたのにも関わらず,この結果から日英翻訳の精度が日中に比べると低く,児童の翻訳精度への不安が大きいことがわかる。しかし,グラフ5-28中間アンケート結果(児童) 「交流について」時津東小学校を見ると,交流が活発化されたことにより,交流前に比べ「交流が楽しい」と答えた児童が半数近くに上ったことは,掲示板を利用した交流の成果はあったといってもよい。また,この頃,第1回目のテレビ会議を終えた児童からは,テレビ会議と比較し,「日常的に使えるところ,気軽に投稿できるところが便利である」という意見も出た。

グラフ5-27中間アンケート結果(児童)「交流について」琴田小学校

グラフ5-28中間アンケート結果(児童) 「交流について」時津東小学校

グラフ5-29中間アンケート結果(児童) 「交流について」平尾中学校

グラフ5-30中間アンケート結果(児童) 「交流について」全体集計



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