7. 国際交流支援システムの要件




7.4 テレビ会議機能


 掲示板では日常的なコミュニケーションを目的に作成し,実際の交流においてもコミュニケーションの場として活用されたが,テキストのみの交流のため交流の実感がわきにくい。また翻訳された言葉で交流を行っているのでほか国の人と交流をしている実感がない要因となっている。そこで,今回の交流においてはテレビ会議を行った。
  テレビ会議によって琴田小学校の木内先生が授業実践で書かれているように『ネットミーティングで縮まった中国との距離ネットミーティングを経験することにより,児童は中国の友達の顔を見,声を聞き,表情や声の調子を確認しながら,生の交流をすることができた。このことによって,中国の友達に対して,より親近感がわき,海を隔てた中国が「遠い国」ではなく,「お隣の国」だということを実感した。そして,中国のことをもっと知りたい,中国の友達ともっと親しくなりたい,という意識が高まってきた。』というようにテレビ会議は子供たちに大きな影響を与えるコミュニケーション手段である。
  テレビ会議は,時津東小学校では交流を始める際に自己紹介を中心に行い,交流を始める動機づけにした。琴田小学校でも交流をより積極的に行う機会とし,実際テレビ会議を終了した後は掲示板の書き込みが一時的に増え,テレビ会議の効果があった。
 今回利用したNetmeetingは社内の会議システムとしてマイクロソフトが位置づけているだけあって機能的には充実しており,インタフェースも難しくなく,各国語のバージョンがそろい,その上無償で利用できるなど,学校で利用するにあたって非常に便利なソフトウェアである。国内交流でも多く利用されているソフトの一つである。
 今回国際交流においても上記の理由でNetmeetingを使用した。しかし無償のソフト故の問題点,運用上の問題点も浮き彫りになってきた。


表7−2 テレビ会議ソフトの比較
    Netmeeting MSN Messenger Yahoo!
Messenger
Eye ball
ビデオ,オーディオ
会議

※ビデオは
WindowsXP版
のみ可能

※全言語版で対応
していない模様
ホワイトボード ×
チャット
※但し中国や韓
国語とのチャット
はできない

※但し中国や韓
国語とのチャット
はできない

※ほか言語は不明
ファイル転送 ×
プログラム
の共有
× ×
リモートデスク
トップ共有
× ×
プロキシ・
ファイアウォール・
ルータ対応

※一部対応した
機器や設定方法
で可能になる
場合がある。

※一部対応した
機器や設定方法
で可能になる
場合がある。

※設定によって
可能になる場合
がある。

※設定によって
可能になる場合
がある。
NAT対応 ×
※対応機器に
より可能
不明
ビデオ映像
の拡大
×
映像圧縮方式 不明 不明 不明 不明
日本語対応 △(有償)
外国語版 英語版のみ
価格 無料 無料 無料 無料

7.4.1 システム的な問題点

(1)Netmeetingのソフトウェア上の問題点

・ソフトウェアの不安定
 Netmeetingには様々な機能があるが,テレビ会議を実施している最中にうまく起動しない場合や,システム自体がストールすることがよく見受けられた。チャット機能やホワイトボード機能が通信相手と同期して起動しない場合や,音声が途中でとぎれたり,映像が止まるなどの現象が起きた。授業でなければ,または国際交流でなければ,相手側と連絡をとり復旧させたり,原因を追及することは可能である。しかし授業のような限られた時間内で終わらさなければならない場合(アメリカとの交流では時差もあり,時間をきっちり終わらさなければならない)には頻繁にストールすることは,予定していた内容を消化できないばかりか,参加している子供達の集中力を落とす結果になる。また,Netmeetingが途切れたときには相手側との連絡を取る手段がない。大抵の学校においてはPC教室に電話が引かれていないことが多く,国際電話をかけてコンタクトを取ることができず,再びNetmeetingの接続を待つしかない状況になる。
 またWindows95や98ではリソース不足と思われるOSの不安定さから,Netmeetingが正常に動かない場合も見られた。Windows2000もしくはXPを利用した場合には安定して稼働した。
・画質・音声のクオリティ
 Netmeetingでのテレビ会議の不満点で児童・生徒にとって一番大きい不満点は画質・音声であった。特に中国との交流を行った琴田小学校ではその不満点は高かった。通常Netmeetingで利用できる画質は最大320ドット×240ドットである。しかしながら,この画質ではネットワーク,PCに負荷がかかり不安定になる。またNetmeetingは自動的にフレーム数が落ちるためぎこちない動きになる。時津東小学校では,テレビ会議でアメリカの子供たちにけん玉の様子を見せたが,高画質の場合は動きが遅くなり,画質を落とすと動きは早くなるが細かな画像が見えなくなるというジレンマに陥った。実際は中間の160ドット×120ドットで利用したが,これでも動きはネットワークによって左右されるため安定しているとはいえない。また,学校でこのようなテレビ会議を行う際には,通常プロジェクタで映し出すことが多いが,低解像度のためどうしても映像が汚く映ってしまう。
 またカメラの性能も映りを左右することがある。安価なカメラではパンフォーカスで低解像度でフレーム数が少なく,レンズも悪いことが多い。一対一の交流ではこのようなカメラでも問題は起こらないが,会議に参加している子供全員を映したり,少しでも良い映像を映すためにはズームができるようなデジタルカメラもしくはデジタルビデオカメラを利用する方が良い。
 ほかにもテレビ会議システムは存在するが,画質とシステム価格は比例することが多く,ビジネスで利用されるシステムは専用ソフトウェアと機器の用意が必要であるし,インターネットではなく専用線や一般の通信回線を利用しなければならず海外への通信費が大変高くなり,学校で気軽にテレビ会議を実施することはできない。また国際交流では相手側にもソフトウェアや機器を用意する必要があり,言語の対応やセットアップの必要性を考えると,一般的にはあまり実用的ではない。
・ネットワーク設定の問題
 Netmeetingはシステムの制限上,グローバルIPアドレスが基本的に必要である。またルータやファイアウォール,プロキシを越えることが難しい。まずグローバルIPアドレスに関しては,PC端末が持っている必要が基本的にある。学校内LANやルータ接続している場合は,PC端末にグローバルIPアドレスがふられていることがまずないため,利用することができない。また学校自体がインターネットにどのようにして接続しているのかということにも影響を受ける。教育センターやそのほかの施設に接続してインターネットを利用している場合,グローバルIPアドレスがふられていない場合もある。また,そのような接続の場合は教育センター配下のイントラネットのセキュリティを守るためにファイアウォールやプロキシの配下に接続されている可能性が非常に高いため,そのような機器がNetmeetingに対応していない限りテレビ会議を行うことができない。さらに,対応している場合でもそのような機器の設定を変更する必要があるため教育委員会へ申請を出したり作業を依頼する必要がある。
 また,直接インターネットに接続していてグローバルIPアドレスがふられているような学校においても,ルータ接続していればルータ自体がNetmeetingに対応している必要がある。

 今回は表7−3のように各学校によって状況が異なる。

表7−3
学校名 インターネット グローバルIP ルータ等 そのほか
時津東小学校 プロバイダに
接続
あり Netmeeting 非対応
プロキシサーバ運用
ルータの設定を
変更することに
より使用
琴田小学校 プロバイダに
接続
あり Netmeeting対応   
平尾中学校 教育委員会に
接続
不明 教育委員会は
テレビ会議には
対応していない
とのこと。

 時津東小学校の問題点は,ルータとプロキシサーバを運用していることであった。両機器ともNetmeetingに対応しておらず,そのまま利用することはできなかった。そのため,Netmeetingを利用するときだけルータ機能を外し,ブリッジ接続することにした。この場合,学校内LANをはじめ,PC教室においてもインターネットを利用できなくなるが,幸か不幸か日米交流では時差の関係からテレビ会議の実施が早朝か夜のため,ほかの授業への影響は小さかった。ただ,ルータ設定方法に関してはマニュアルにもインターネット上にも詳細な情報がなく,サポートセンターに聞くことになった。
 琴田小学校では,特に問題点はなかった。ルータは出荷状態ではNetmeetingを利用することができないが,ホームページ上でNetmeetingの設定の方法が掲載されているため,参考にして設定を行った。ただ,昨年はプロバイダから提供された機器を利用しており,そのままでは利用できなかったため試行錯誤をすることになった。まず確認したのは機器を提供したプロバイダ会社であったが,マニュアルもインターネット上でも詳しい説明がなくサポートセンターに連絡したがインターネットの接続に関してのみのサポートであり,それ以外の件に関しては回答できないとのことであった。機器の販売会社等に確認し結局のところ機器がNECのOEM提供品ということであったため,確認できたが,一般の先生が設定するのは困難である。
 平尾中学校では市の教育イントラネットに接続しており,教育センターの環境からNetmeetingの利用が不可であり,環境の変更は行わないということであったため,別に回線を引くことになった。
 以上のように,ネットワーク環境は場所によって異なり,一律に設定等が行えないため業者や専門家の助けが必要である。


(2)ネットワークの問題

1)回線速度の問題

 Netmeetingをより快適に利用するためには高速回線が必要となってくる。基本的にADSL1.5Mbpsの帯域があればほとんど利用することができるのであるが,場所によっては期待したほど通信速度が出ないことがある。また,いくら学校側で通信速度が確保されていたとしても,相手側の通信環境が不安定である場合は,快適に利用することができない。特にインターネットは専用線とは異なり帯域が確保されておらず,外国との接続であればさらにその危険性が高まる。たとえば中国との交流では前日のテストの際には快適に通信できていたが,本番当日には通信状況が不安定になり,切断や画像,音声の劣化が見られた。
 また交流においては音声や映像だけではなくプログラムの共有による発表も行われるが,情報量が増えれば必要帯域も増加し,限られた帯域の中で通信を行うため全体的にパフォーマンスが悪くなり,画像,音声の劣化が起きる。前述の日中交流の場合は,作品を紹介するためにプログラム共有をしたとたん音声が断続的に切断され,音声のコミュニケーションを行うことができなくなったため,プログラム共有を断念せざるをえなかった。せっかく児童が作成した作品を中国側に見せることができず苦労が報われない結果となってしまった。
 (参考)詳細はマイクロソフトが公開しているリソースノートに記述されている。


2)ネットワーク機器の問題

 最近一般家庭でもブロードバンド化が進み,インターネット接続だけではなくIP電話やチャット,ネットワークゲームそしてテレビ電話的な使用が増えてきた。それに伴ってそのようなアプリケーションに対応するネットワーク機器は増えてきている。しかしながら,学校でネットワーク機器を導入する際にはこのようなアプリケーションを利用することを想定していない。そのため設定だけではテレビ会議を実施できないものや設定すら変更することができない状況のところも多い。
 またネットワーク機器の設定変更は学校のネットワーク全体を把握しなければ,安易に設定変更を行うと,学校全体の通信ができなくなる可能性もある。
 今後学校においてもブロードバンド環境を利用した授業が増えてくることが想定されるのでさまざまなネットワークアプリケーションを利用できるネットワーク機器を用意することが望ましい。


(3)運用上の問題

1)準備

 システム上の問題から,テレビ会議を実施するまでの準備に大変な時間を費やした。特に先生方の負担になったのは,テレビ会議で行う内容と打ち合わせであった。テレビ会議の性格上,どうしてもイベント的な意味合いを持たざるをえない。その際には普通の授業以上に特別なスケジュールを組まなければならないし,発表会的な要素もあるので児童・生徒たちに発表のための準備作業を行わなければならない。その上言葉が違うためにストレスと不安が大きくなり、先生方の負担は大変重くなってしまう。
 一方、機器の設定に関しては,日本側は今回NECで実施したが,相手国側はコンピュータ担当の先生もしくは交流担当の先生方が対応するため、必ずしも専門知識がなく設定に戸惑うことも多かった。
 特にコンピュータ担当という自負や国民性もあってか,自身が間違っていないことを主張されたり,時差もあることからなかなか作業が進まないことがあった。またコンピュータ用語が各国によって異なるので説明が難しい問題もある。接続できればリモートで相手側のPCをコントロールすることもできるので,一度成功させることができれば環境が変わらない限りこちらからコントロールはできるものの,大変な時間を費やしたのは事実である。

2)通訳

・通訳探し
 テレビ会議の本番では,子供たちの発言や相手国の発言を翻訳をするための通訳が必要となる。今回は通訳を日本側で用意したため,学校側で通訳を探すのに苦労した。通訳を民間業者に依頼すれば1日10万円弱の金額を請求される。これでは学校から依頼することは難しく,基本的には身内や保護者,ボランティアなどを探すことになった。英語であれば校区内の英語塾の先生や,中学・高校の英語の先生など依頼する先は多い。しかし韓国語や中国語,特に中国語を話せる人材は少なく,通訳探しは困難である。今回は近くの中学校に在籍する中国人の女子生徒に依頼することになり,本番でもうまく通訳をこなすことができたが,スケジュールや学業を考えると依頼が難しい。
・通訳を利用したコミュニケーション
 通訳を通してのテレビ会議では日本語の発言であれば [日本語]→(通訳)→[相手国言語],[相手国言語]→(通訳)→[日本語]となり,2倍強の時間がかかる。または的確な翻訳ができないこともある。一つにはテレビ会議上の音声が必ずしも明瞭ではないため,通訳を担当した人が理解し訳すまでに時間がかかること。二つ目には相手国言語ができるからといっても必ずしも通訳ができるとは言えない(またはノウハウを持っていない)ことも理由である。
 特に児童・生徒が発言する内容は子供たちの努力で相手側にわかりやすいように話をしたり,区切ったりしているつもりであっても必ずしもうまくいかないこともあるし,学習内容の特性から発言内容が日本の文化に依存しているもので直訳が難しいこともある。その結果,通訳が戸惑ったりすると子供たちが敏感に反応して意欲や集中力が落ちることになる。

(4)まとめ

 以上のように今回利用した掲示板やテレビ会議システムは国際交流を実施するにあたって問題は存在するものの不可欠な手段として,一定の成果をあげてきたと考えられる。だが,設定の問題や品質の問題から起因する状況は学校で実験的ではなく,授業に取り入れていくには無視できないものである。また今回利用したシステム以外にも国際交流特有の問題も含め実現できれば,先生方の負担を減らし交流を活発化させる可能性がある。




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