6.実証授業




6.1 実証授業に向けて

西大寺南小学校/コンピュータ教育/情報教育の実践

 実証校である岡山市立西大寺南小学校に,9月下旬から3ヶ月間,毎週火・木曜日にインストラクタを派遣。校内研修により,教員のスキル向上を図るとともに,ティームティーチングを実施し,コンピュータ等の操作技能向上を図った。

図34 スタンプラリーでスキルアップ
「そうね!見つかったね」
図35 スタンプラリー
「きてきて!みつけたよ」
 
図36 めいじんのよびかけ 図37「毛利さんの動画(左)と写真(右)がみえるよ!」
 
図38 電子ホワイトボードに書いて説明 図39 お絵かきソフトもつかえるよ

6.2 実証授業

 実証授業を行う学校としては,岡山市のブロードバンドスクールに指定されている岡山市内の小学校の協力を得ることができた。作成した「心も育つ理科コンテンツ」の評価のためのデータ収集と分析を目的に授業を実施した。なお,Cチームが作成した近藤氏,脇本氏のコンテンツは12月の実証授業に間に合わなかったため,実施していない。

表10 実証授業実施表

 内山氏,難波氏,指導主事藤本のコンテンツを活用して実証授業を実施。12月3日(火)から17日(火)までの間で実証授業を実施。第3学年・第4学年・第6学年の各2クラスで,実証授業し,そのうち各学年1クラスを公開し,授業後に評価を実施した。



6.2.1 難波由城雄氏コンテンツ

昆虫やクモの写真を中心とした難波由城雄氏のコンテンツは,小学校第3学年理科「こんちゅうをしらべよう」の単元で実施した。

1.学習指導要領での位置づけ

2.単元計画

第1次 こんちゅうのからだやそだちかた  7時間

第2次 こんちゅうをしらべよう         6時間
2-1わたしのきにいったむしさん    1時間
2-2紙でむしさんを作ろう        3時間
2-3わたしのむしさんとなんばさん  2時間

第2次 こんちゅうをしらべよう
単元名:2-1.わたしの気に入ったむしさん(1時間)

学習目標

主な学習活動と児童の反応

 難波氏のディジタルコンテンツの中で,昆虫の顔のマクロ写真を見た際に一様に「ワー」という歓声があがり,興味を持って楽しくコンテンツを開いたり閉じたりしていた。気に入った写真を選んだ後は,クラスで発表しあったが,一人一人の個性的な見方をお互いに認め合っていた。

実証授業の効果

 どの児童も,プロジェクタで大きく映し出された昆虫の顔を興味深く見ていた。
 日常生活の中で,昆虫の顔をこんなに大きく,こんなに間近にじっくりと見る経験のない児童にとって,このような学習場面は,昆虫の興味関心を高めるだけでなく,昆虫をもっと身近に感じさせる機会になったといえる。それは,難波氏の写真一つ一つが優れたコンテンツであるということを物語っている。
 一人一人難波氏のディジタルコンテンツを見る活動では,「この昆虫大好き」「この虫さん,とってもきれい」など児童のつぶやきが聞かれ,昆虫に対しての親近感を高めていったことがうかがえる。さらに,いくつものディジタルコンテンツを観察することを通して,自分が気に入った一枚を選んだ。その一枚には児童一人一人の様々な思いが込められている。
 こうして,気持ちが高まっていく中で,昆虫の体の形やつくりに目が向き,理科としての課題が明確になり,知識・理解面へと学習が展開していくのである。


実施日:平成14年12月6日 学年学級:3年B組
場所:岡山市立西大寺南小学校視聴覚教室 授業者:横山教諭
単元名:こんちゅうをしらべよう−2-1.わたしのきにいったむしさん(1時間 第1時)
教科の目標:昆虫の体の作りをとらえ,共通の特徴をつかむことができる。
情報教育の目標: 相手に伝えるために絵図や資料を見ながら話す。
準備:電子ホワイトボード,コンピュータ,コンテンツ,ワークシート,図鑑

「昆虫もけいをつくるんだよ」という先生の話をきいて,がぜんやる気の児童たち。お気に入りの一枚をさがすために,一生懸命昆虫のディジタルコンテンツを見ている。「印刷は一枚だけ?」と何度もたずねる児童が続出。
初めてみる昆虫のマクロ写真に興味津々「気持ちわる〜い」「かわいい」と感想もさまざま。お気に入りの一枚を選ぶのはとても大変。感想や気持ちをしっかりワークシートに書いてみよう!印刷の待ち時間を利用して,図鑑で模型の設計を考える児童たちも多く見られた。
難波氏と昆虫のコンテンツを自由に見て,ワークシートに感想を記入していく。記入項目は以下の通り。
・なかま
・気に入ったわけを書こう
・昆虫の設計図を書こう
一枚の写真に込められた児童の想いも様々。どれを見ても子どもらしい。
ワークシートに記入した感想を前に出て発表。以前は気持ち悪いと思っていた蛾を選んだ児童は「かわいかったから」と発表。そのほかにも,「かっこいい」「強そう」など。昆虫模型の設計も考え,昆虫に対する想いは膨らんだ。

第2次 こんちゅうをしらべよう
単元名:2-2.紙でむしさんを作ろう(3時間)

学習目標

昆虫の模型作りを行い,昆虫が頭部,胸部,腹部からできていることを指摘できる。
相手に伝えるために絵図や資料を見ながら話す

主な学習活動と児童の反応

 以前の授業で昆虫の体は頭部,胸部,腹部の三つからなることを学習済みにも拘わらず,模型作りに反映されていないものが多く,昆虫図鑑や実物でよく調べるよう支援する必要があった。一方,昆虫のあしがどこからついているかを昆虫図鑑で念入りに調べて模型作りを行って学習を深めた児童もいた。

実証授業の効果

 一枚の写真を選んだ時から,児童の想いはどんどん膨らんでいく。模型作りに向けての材料収集,選択等の活動も児童の想いを後押しする。従来,知識・理解の伝達に偏りがちな授業展開が多い中,本実践は,児童の興味・関心からスタートしているところに大きな違いがある。自分の気に入った昆虫に深く迫れるというところに授業のうま味がある。
 作成前から,児童はわくわくし,どんな風に作ろうかとイメージが頭の中を駆け巡っていたに違いない。作成中には,頭部にあしがついている昆虫が飛び出すハプニングもあったが,このような活動があればこそ,児童一人一人の知識・理解面についてのチェックが可能となり,その後の指導に役立つ。さらに,模型に込められた児童一人一人の想いが,コンテンツを通して難波氏の見方・考え方,願いにつながっていく。


実施日:平成14年12月9日 学年学級:3年A組
場所:岡山市立西大寺南小学校 3A教室 授業者:江口教諭
単元名:こんちゅうをしらべよう−2-2.紙でむしさんを作ろう(3時間 第1〜3時)
・いろいろな昆虫の頭部のマクロ写真を利用して,昆虫のからだを表わす紙模型をつくり,昆虫のからだの特徴を指摘できる。
・作成した昆虫の感想や気持ち・工夫した点を説明できる。
教科の目標:昆虫の模型作りを行い,昆虫が頭部,胸部,腹部からできていることを指摘できる。
情報教育の目標: 相手に伝えるために絵図や資料を見ながら話す。
準備:セロテープ,のり,紙コップ,モール,ストロー,割り箸,図鑑

準備した材料を使って,自分が決めた昆虫の模型作りを始める。
先生の話を聞くよりも,早く作りたいという児童の作成意欲がひしひしと伝わってくる。
「あたま」,「むね」,「はら」の三つの部分から体ができていることに注意する。あしの数,あしの付く位置,羽の付く位置に特に留意する。前時に印刷した昆虫の顔を準備しておく。何度も図鑑を見ながら,体のつくりを確認する児童,机上の材料を試行錯誤しながら組み合わせている児童など,すべての児童が作成活動に夢中であった。
「あたま」の部分の前面に昆虫の顔を貼り付ける。
「かまきりらしくなったね」
「え? 前のあしって 頭に付いているの?」
疑問点は,図鑑を見ながら調整する。
出来上がった昆虫は「こん虫ランド」に運んで展示し,多くの児童に公開する。
誇らしげな児童の表情が印象的,楽しい「こん虫ランド」の完成である。

第2次 こんちゅうをしらべよう
単元名:2-3.わたしのむしさんとなんばさん  (2時間)

学習目標

主な学習活動と児童の反応

 昆虫への親しみや難波氏のメッセージをワークシートに記入した後で,難波氏と交流を行った。この交流では,コンテンツで難波氏を繰り返し視聴していたため,突然の登場にびっくりした反面,すぐに親しみをこめて質問できたり,熱心に説明に耳を傾けたりできた。お別れには難波氏にサインをねだるものや,給食をいっしょに食べようと提案するものまで現れるほど,難波氏への親しみを抱いていた。難波氏のコンテンツでは,難波氏本人が語りながら撮影をしている場面が多く,第3学年の児童にも状況や内容,難波氏の人柄を理解しやすいものであったことがこうした児童の活発な反応からうかがえる。

実証授業の効果

 "なんばさんになってみんなに話そう"のワークシートを記入する。立場を変えて考えることは難しい。しかも人の見方・考え方,願いに迫ることは簡単なことではない。しかし,難波氏のコンテンツを視聴することにより,昆虫に対する難波氏の見方・考え方,願いに少しでも近づくことができたのではないだろうか。児童のワークシートの中にも,「小さい命でも生きている」「虫も一緒に住んでいる」など,小学生らしいきらりと光る記述があった。従来の理科では,実現困難な部分が,コンテンツにより引き出される。
 そして,難波氏と突然の直接対面,児童たちの顔が一層輝きを増す。本物との出会いが心を動かし,心を育てる瞬間である。語り,写真,カメラに直接触れながら,昆虫を愛する,自然を愛する難波氏の見方・考え方,願いに引き込まれていく。


実施日:平成14年12月12日 学年学級:3年B組
場所:岡山市立西大寺南小学校視聴覚教室 授業者:横山教諭
単元名:こんちゅうをしらべよう−2-3.わたしのむしさんとなんばさん(2時間 第1時)
教科の目標:難波氏のコンテンツを視聴して,難波氏の伝えたいことを指摘できる。
情報教育の目標:相手に伝えるために絵図や資料を見ながら話す。他の人の発言した情報の良いところを見つける。
準備:電子ホワイトボード,コンピュータ,コンテンツ,ワークシート

電子ホワイトボードに昆虫を映し,前回の授業で作成した昆虫模型について発表している様子。(模型の顔には,昆虫のコンテンツ写真を印刷したものを使用)その昆虫を選んだ理由や作成時に工夫した点などを発表した。緊張ぎみの児童であったが,模型を提示しての発表は説得力がある。
写真の撮影者である難波氏の動画を見て,その声や姿から,難波氏の見方・考え方,願い等について想いをめぐらす児童たち。撮影している様子,カメラを始めたきっかけ,目標を持って夢に向かってがんばることなど,動画にはたくさんのメッセージが詰まっている。
難波氏と昆虫のコンテンツを自由に見て,ワークシートに感想を記入していく。記入項目は以下の通り。
・おすすめコンテンツ
・かんそう
・なんばさんがみんなにつたえたいことを,なんばさんになりきって書いてみよう!
ワークシートに記入した感想を前に出て発表。
「小さい命でも生きている,すごい。」
「虫にはいろんな種類がある。」
「虫は僕の人生だ。」
「虫は人間と一緒のところに住んでいる。」


実施日:平成14年12月17日 学年学級:3年B組
場所:岡山市立西大寺南小学校 3B教室 授業者:横山教諭
単元名:こんちゅうをしらべよう−2-3.わたしのむしさんとなんばさん(2時間 第2時)
教科の目標:コンテンツの視聴,昆虫の模型作り,難波氏との直接交流を通して,感じた難波氏の見方・考え方,願いを指摘できる。
情報教育の目標:相手に伝えるために絵図や資料を見ながら話す。他の人の発言した情報の良いところを見つける。
準備:ワークシート,カメラ(難波氏所有物)

"なんばさんになってみんなに話そう"というタイトルのワークシートに,難波氏が伝えたいことを考えて記入する。
「虫の写真をとるのはおもしろいよ。みんなもチャレンジしよう。」
「小さい命でも虫は生きているんだよ。」
コンピュータの中の人だった難波氏の突然の登場。驚きと嬉しさと不思議さを感じつつ,"本物の難波氏"の話を聞く児童たち。写真を撮るきっかけとなったジョロウグモの話は興味深い。児童たちの質問にも,次々分かり易く説明された。
コンピュータで見る写真と本物の写真は違うということを説明され,パノラマを含む6点の写真を持参された。昆虫のアップの写真には毛の一本一本まで確認することができる。そして,是非,実際の自然を見てほしいと強調された。「気持ちわるい」の印象もどこへやら「かわいい」,「きれい」の言葉が聞こえてきた。
難波氏のカメラで,水滴のついたサボテンと,セミの抜け殻の撮影を行った。「うわ〜,何これ大きい!」(水滴を見て),「あしの先がギザギザだった。」(セミの抜け殻を見て)等,レンズの中の世界に驚きながら,心地よいシャッター音を響かせていた。


第3学年 こん虫をしらべよう!

図40 虫のコンテンツを使って選んだ理由を発表 図41 「ほら!こんな虫がいるよ」
     
図42 「選んだ虫をつくろう!」
 
図43 「羽をつけるとカマキリだ」 図44 図鑑や模型とにらっめこ
 
図45 「こん虫ランドのできあがり」


図46 難波氏のコンテンツを見る 図47 「難波さんに会おう!」
  
図48 授業を見守る難波氏(右端) 図49 「なんばさんの気持ちになって」
     ワークシートに書き込む児童
  
図50 写真を紹介する難波氏 図51 真剣にファインダーを覗く
児童と見守る難波氏



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