8.プロジェクトの評価



8.2 インストラクタ・SEの起用

8.2.1 配置の状況

 実証授業を依頼した岡山市立西大寺南小学校は高速回線が平成13年度より敷設されているものの,教職員の情報機器を扱う技能が実証授業実践には十分とは言えない状況であった。そこで児童・教職員の技術支援が必要と考え,専門のインストラクタを3ヶ月間起用し,スキルアップ,学習活動支援することとした。また,急なシステムの不調とか操作上のトラブルにも対処することを考えた。

(1) 勤務について

 週5日のうち,2日間を西大寺南小学校で,残り3日間を県情報教育センターで勤務する。ただし,必要に応じて弾力的な勤務ができるように配慮した。9月中及び,11月〜12月については学校へ多数日勤務した。

(2) 仕事について

 小学校では,主として授業設計の相談と機器・教材等の準備及び,児童のスキル支援にあたった。表13のように,県情報教育センターでは,今回開発の教材の作り込みにあたった。

表13 インストラクタの作業状況

8.2.2 配置期間

 事業実施期間の内9月17日〜12月16日の3ヵ月間とし,一名の情報教育センター勤務経験者を充てた。

(1) 9月17日〜10月16日(第1期)

 情報環境の整備,児童の操作技術向上,教職員の校内研修等を中心の仕事とし,1か月間で児童・教職員ともほぼ通常のコンピュータ操作法を習得することができた。

(2) 10月17日〜12月16日(第2期)

 10月16日で一人目のインストラクタの勤務を終了し,二人目のインストラクタと交代した。なお,インストラクタ二名は個人的に連絡可能な間柄であり,引継ぎも円滑であった二人目は教員免許を保有しており,授業設計支援及び,情報教育の推進と啓発にもあたることができた。

8.2.3 特徴的な仕事の例

(1) ティームティーチング(TT)

 火,木曜日の勤務日はできるだけ各授業をコンピュータ教室で展開するようにし,そのTTとして支援にあたった。表14のように,後半の11月,12月はほとんど一日中,視聴覚教室(コンピュータルーム)が活用される状況となった。

表14 視聴覚教室使用状況

(2) 授業準備支援

 県情報教育センターの指導主事の助言を得ながら,業間,放課後,コンピュータやインターネット等の情報手段を活用した指導設計を支援した。「ハイパーキューブJr」の活用と,県情報教育センターから発信しているディジタルコンテンツの活用が中心となった。11月末からは,実証授業に向けての相談が中心であった。

(3) 視聴覚教室(コンピュータルーム)の開放

 9月末から12月にかけて,朝,昼食後,放課後に開放し,児童の操作技能向上のために活用した。スタンプラリー(図100)が好評であった。あらかじめ準備したカードに印刷された動画を,県情報教育センターWebページ上のディジタルコンテンツから見つけるゲーム(図102)である。見つけて挙手すると,図101のようにインストラクタが確認し,スタンプを押す。5個見つけると顔写真入り名刺が渡される。これにより,極めて短期間に検索の概念形成とコンピュータ操作能力が飛躍的に向上した。11月に入ると飽きてきた者,レベルが高くなった者が現れた。このため,コンテンツを利用して折り紙を作る者(図103)とか,コンテンツを見ながら手話が出来るようになったら確認するという次のステップのゲームに移る者もいた。

図100 スタンプラリーへの呼びかけ
図101 手をあげる児童たち
図102 ディジタルコンテンツ発見!
図103 コンテンツを見つけ
折り紙を作成する2年生

(4) 教材等の開発

 主にパワーポイントの数枚のシートからなるコンピュータ操作指導のための教材開発(図104)を進めた。教員からの要請があればそれ以外の様々な教材を開発した。授業の導入時や新しい操作をする際に活用するものである。また,11月末からは,今回作成した「心も育つ理科コンテンツ」の活用法の紹介にもなった。授業中活用するワークシート(図105),印刷物,タイトル文字(図106)を印刷した大きな文字のシートなども作成したので,教員の負担がかなり軽減でき,その分,授業進行に専念できた。

図104 パワーポイント教材
図105 ワークシート
図106 タイトル文字

(5) 校内教職員研修

 表15のように原則として火,木曜日の放課後をこれに充てた。自主研修ではあったが,ほとんどに近い教職員がいろいろな形で参加することとなり全員が操作可能教員となった。研修用資料として,岡山県情報教育センター作成のモジュールを利用した。しかし指導可能教員研修を行うには,時間が十分とれないことや,インストラクタが教職経験者でなかったため,多少困難な面もあったが徐々に進んだ。そこで具体的な授業の進め方などは,相談時に実践的に進めた。

表15 PC校内研修
図107 真剣に取り組む
図108 電子ホワイトボードの使用法

8.2.4 配置による効果

・教員は機器の不具合対応,操作技術の問題から開放され,安心して授業に専念する事ができた。各教員が機器やシステムの専門家になる必要がなく,その分授業の準備,進行等の時間に専念した。
・教職員の情報活用能力の向上に貢献することができた。3ヶ月という限定があったため,切迫感も手伝い,中には個人用コンピュータを持参して操作研修する者もいた。
・子どもたちとのコミュニケーションが十分にでき,学習者にとっても安心して活動ができる環境となった。

教師の感想から
・教師の意識も少しずつ変わりはじめ,研修の必要性を感じている。
・人的物的環境整備がされたので積極的に取り組めた。
・子どもたちは驚くほど上達吸収がはやい。時間内に担任一人では対応しきれないが,インストラクタのサポートで安心でき,授業準備が進んだ。
・子どもたちの表現力が大変向上し(多数教員の声)積極的に情報手段を活用するようになった。
・今回の試行で情報化の大きな流れをうれしく思い,ITを活用した授業の在り方が見えてきた。

8.2.5 考察

 これまで情報教育を進めようとすると,インストラクタはスキル教育のみに従事し,教員は情報教育とともにスキル教育を併せて受け持つことが普通であった。しかし,今回後半,教員免許を保有し,情報教育センターでの研修補助を経験したインストラクタを起用することで,効率的な情報化の姿を見ることが出来た。その結果,児童のスムーズなスキル教育を進めることが出来,これが教師の情報手段活用授業の呼び水となったと考える。

8.2.6 今後に向けての提言

 各学校の情報教育担当は,これまでシステム管理の必要性もあるため,システムやコンピュータのしくみ,ソフトウェアの扱い等に強い教員があたることが多かった。そのため,情報教育を機器活用教育と誤解することにつながっていた。しかし,こうした仕事をインストラクタが代行することにより,教師の本来の意味での情報教育にかける時間と教員研修時間を生み出し,教育の情報化を一層促進した。
 今後はこのような形のインストラクタを各学校一名もしくは少なくとも二校に一名配置することを制度化する必要があると考える。

8.3 コンテンツに関する評価

(1) 授業設計について

 実証授業担当の教師は,指導主事藤本の「オオサンショウウオのコンテンツは授業設計しやすいが,難波氏の昆虫,内山氏の植物のコンテンツは,授業のイメージが湧きにくい」という声があがった。このことは,指導主事藤本は元中学校の理科教師であり,学習指導要領との位置づけを考えた上で一つ一つのコンテンツを撮影していたことと,教師と編集プロチームによる協同作業の成果であると考えられる。一方,内山氏,難波氏のコンテンツでは,身近な自然の存在と多様な見方・考え方への気付きのきっかけとなるという点では貴重な写真ではあるが,学習指導要領への具体的な位置付けを設定し撮影・制作していないため,授業設計のイメージがつかみにくかったものと考えられる。

(2) チーム編成とコンテンツの評価

 三つのチームによるコンテンツ制作には,以下に示す知見が得られた。
Aチーム
 Aチームは,科学技術映画祭で数々の受賞経験をもつ制作プロダクションである。ここでは,内山氏や難波氏など動植物写真家の身近な自然に対する見方・考え方や願い等を鋭く描き切るコンテンツを完成させた。一方,コンテンツの中には10分を超えた長いものがあり,45分の授業で素材として活用するには,児童の注意力持続等の問題で一層の短縮が必要である。
Bチーム
 教師と編集プロチームでは,学習指導要領への位置づけおよび対象の児童生徒の能力を十分に共通理解した後に,撮影の計画と台詞の検討を行うことができた。コンテンツ仕上げには,編集,ナレーション入れ等専門的な技術と多くの時間が必要であったが,編集プロの能率的で確かな作業により順調にコンテンツ制作を進めることができた。
Cチーム
 教師集団では,学習指導要領への位置付けおよび対象の児童生徒の能力の把握が十分であり,撮影計画はスムーズに立てることができた。しかし,教師は多忙であり,取材や編集等の時間確保が困難で,コンテンツ完成が実証授業までに間に合わなかった。

 (1)(2)のことから,今後はコンテンツ制作に動植物研究家,教師,コンテンツ制作プロダクションが協同で作り上げることが,教師が授業設計しやすく,しかも多様な見方・考え方,願い等を付加した価値の高い理科コンテンツに仕上がるといえる。

8.4 実証授業に関する評価

 開発したコンテンツは,小学校第3学年理科「こんちゅうのからだ」,小学校第4学年「四季の移り変わりと植物の成長」,第6学年理科「生き物のくらしと環境」である。それぞれの学年の授業担当者に開発したコンテンツを視聴していただきながら実証授業の単元構成を設計した。

8.4.1 授業設計と心の問題

 設計の過程では,授業担当者には「理科は実物が大事なのでディジタルコンテンツは使いたくない。」とか「心も育つという心とは何か。」といった戸惑いがあった。そこで,ディジタルコンテンツが自然の事物・現象の観察実験を進める意味で有効に活用する方法を試行錯誤することが目的であること,心はさまざまだが理科教育で育てなければならない心として「自然への親しみ」を中心に考えるとともに,制作者の見方考え方が学ぶべき心であることを理解していただいた。

8.4.2 学級経営と心の問題

 実証授業を実施してみると,それぞれの理科教育で育てなければならない知識・理解の面では指導者の支援のあり方や学級の学びの集団の雰囲気に左右されることは少なかった。しかし,昆虫,植物,オオサンショウウオに対する親しみの心や学習者の互いの気持ちの表現の場面,動植物研究家の見方・考え方や願い等に想いをめぐらせる場面では,指導者の支援の仕方一つで,また学級の雰囲気で大きな違いが現れた。今回の実証授業で強調した「心」のように情意的な面の育成においては,教師は児童生徒一人一人の抱いた気持ちや感想を認め合うよう十分留意する必要性がある。日頃の学級経営でも教師と児童生徒,児童生徒どうしの受容的な関係作りが,心を強調したコンテンツの特徴を十分に生かした授業を行うための必要十分条件であることを再認識できたことは,実証授業の成果であった。



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