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実践事例
生き生き学校応援団−地域と科学で輝く未来の教室
未来を照らす私たちの光Spring‐8
実施した教育機関・生徒数・実施日
■上郡町立鞍居小学校
学年 クラス 児童数 実施日 合計授業時間
第6学年 1クラス 18名 平成15年10月21日、24日、28日、30日、11月4日 11時間

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実施した教科・単元
学年 教科名 単元
第6学年 総合的な学習の時間 「いきいき学校応援団─
地域と科学で輝く未来の教室」

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主催した教育機関
上郡町教育委員会

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授業概要
  上郡町内に位置するSPring-8は、蓄積電子エネルギー80億電子ボルトという世界最高性能を発揮する放射光大型研究施設で、世界中から多くの研究者が集まり、21世紀を担う最先端の研究が行われている。主たる研究分野は、材料科学、地球科学、生命科学、環境科学、医学、地球科学など広範に及び、21世紀の科学技術の基礎を築く、まさに現代科学の粋を結集した施設といえる。
  本プロジェクトは、SPring-8を運営する(財)高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)の協力を得て、第一線の研究開発を進めている研究者が直接教壇に立ち、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、IT技術等の研究現場を実地に体験し触れ合う、分かりやすく未来に夢を開く授業を行った。
  本プロジェクトでは、長年、日本原子力研究所において原子炉や核融合炉分野のプロジェクトに携わり、現在、SPring-8/JASRIで施設管理部門長をしている瀬崎勝二氏や現場の研究者らが、SPring-8で行われている様々な分野の研究成果を中心に、科学技術分野の情報を集大成した知見と課題を児童に直接伝えた。また、科学的な実験を行ったり、研究の現場を見学することにより、児童自身が科学に対する本質的な興味や関心をもち、科学的なものの考え方を学習することを通して、科学技術創造立国日本の未来に誇りをもち、地域社会の一員としての自覚を真に促すことをねらいとしており、このことは、新しい学習指導要領の理科が必要とすることである。
  SPring-8は、さまざまな模型や展示物、体験的実験機材、研究成果などの貴重な資料は、教育的な素材の宝庫であり、過去の授業実践の成果もあわせてデジタル化し、授業を分かりやすくするコンテンツとして編集する。コンテンツは大型スクリーンに表示させたり、学習者が個々に検索し活用できるように、CD-ROMを媒体として提供されている。
  また、今回実施の教材や授業内容全体を教育コンテンツとして再編集し、兵庫県教育委員会の進めるブロードバンド教材データベース「学びのポータルサイト」と連携して、県内の教育機関や関係機関においていつでも活用できるよう対応するとともに、継続的に授業を実施・公開するための基盤となる仕組みを構築した。
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授業のねらい
  播磨科学公園都市に建設された大型放射光施設(Spring-8)について、各自が課題調査を設定し、施設見学、科学者による提供授業や、インターネットを使った講師との情報交換を通じて、世界的にも様々な分野において研究開発の可能性があることや、これからの周辺地域の発展について学ぶと共に、科学的な知的探求心を育むことを目的とする。
  具体的には授業を通して、「Spring-8の設備や技術、行われている研究や施設が担う役割」について知り、「科学的に考えたり生命の神秘について知る」ことにより、「身近な環境問題やこれからの研究課題・改善策について考える」基礎的な気づきを与える。
  これにより、「地域に対する誇り」をもち、「身近にあることを科学的な捉え方ができる」ような探究心を高め、「自分で実験して理解する楽しさを学ぶ」という学習効果を得る。
  また、SPring-8の研究者による授業を通じて学んだ知識や思いを発表するためのまとめ学習において、マルチメディア教材を利用することにより、「コンピュータを使って資料を入手する」ことや「学んだことをグループウェア(発表名人)としてまとめる」能力を育てることを目標としている。
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授業内容
実施単位 テーマ
1・2時限目 [Spring‐8と放射光を知ろう」「科学について理解を深めよう」

実施場所 上郡町立鞍居小学校PC教室 実施時間 2コマ・90分
講師 瀬崎 勝二
財団法人高輝度光科学研究センター施設管理部門長
使用教材 マルティメディアライブラリCD-ROM

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
  第一線の研究者である瀬崎氏が講師となって、「Spring-8と放射光を知ろう」と「科学について理解を深めよう」のふたつのテーマで授業を行った。
  まず瀬崎氏から、SPring-8が世界一の放射光施設であり、それが自分たちの町にあることへの誇りについて説明や施設見学を含めた授業の概要を聞いた。
  授業実施用教材マルチメディアライブラリCD-ROMから資料をスクリーンに提示しながら、SPring-8がどのような装置なのかについて放射光施設の概要を解説した。
  次に、身の回りにある放射線を測定する実験を、放射線測定器で測ってみる実験を行った。自然界にもあること、意外なものから放射線が出ていること、知識があれば簡単に遮蔽できて安全なことなど、児童に科学的な考え方を実感させた。
  質問をうけた後、「科学について理解を深める」ために、マルチメディアライブラリCD-ROMの資料を提示しながら、説明を行った。この中で児童達には、科学は自然の仕組みを理解させ、自然体験の不思議をまず考えることから「科学するこころ」が始まるということを知らせた。また科学の研究で知ることが出来た自然の仕組みや、地球46億歳の中で生命は進化をたどって、自分たちが生きていることを考察させた。
  次の実験では、電位の異なる金属板(亜鉛と銅)をさまざまな野菜や果物に差し込んで電極にし、メロディカードから音がでるかを検証することで、科学的に実験結果を考察させてみた。
  まとめとして、次回学習する予定の生命科学の話題やSPring-8の研究につながるキーワードを提示し、また科学できる目を育てる大切さを児童に語った。

■内容
  授業進行のポイントとして、理解させるより、いかに興味を持たせるかに重点をおいて進めた。

  ・加速器で物質の構造や性質を調べることができる
  ・放射光の正体は強力なエックス線
  ・光は波動と粒子の性質を持っている
  ・電子が曲げられるときに放射光が発生する
  ・エックス線と物質には、4種の相互作用がある
  ・相互作用を利用して、自然の仕組みを調べたり、暮らしに役立つ新しい物質をつくることができる
  ・SPring-8は世界最大の装置
  ・世界中から研究をするために研究者がやってきている
  ・SPring-8は、新しい科学の知識を生み出して、世界の人びとに貢献している
  ・上郡町にSPring-8が作られたのには理由がある
  ・科学とは自然の仕組みを理解すること
  ・自然体験から考えることが大切
  ・科学するこころを持とう
  ・科学の研究で知ることが出来た自然の仕組みについて知る
  ・宇宙は150億歳、地球は46億歳。
  ・地球の生命は40億年の進化をたどり、いま私たちが生きていることを知る
  ・生命科学、とくにDNAについて存在を知る
  ・SPring-8の研究で、どんなことがわかろうとしているのかを知る
  ・科学できる目を育てる大切さを感じる

  実験は、児童に直接携わらせることで、より体験的な学習効果が得られるように実施された。
  身の回りにある放射線を測定する実験では、放射線測定器で自然界にも放射線が存在することを知らせた。残留放射線の話題なども、肥料から食物へ、そして体内にも存在しているという事実から、意外なものから放射線が出ていることを知らせた。時計の文字盤や入浴剤などからも数倍の放射線が出ていることを、知識があれば簡単に遮蔽できて安全なことなどを通して、児童に科学的な考え方を実感させた。
  「野菜電池の実験」では、電位の異なる金属板(亜鉛と銅)をリンゴに差し込んで電極にし、メロディカードから音がでるかを検証することで、科学的に実験結果を考察させてみた。最初は乾電池、次に太陽電池、最後にリンゴという順で、児童に装置を組み立てさせて実験した。原理が理解できたところで、自宅にあったタマネギ、ゴーヤ、ピーマンなどさまざまな野菜や果物で実験を深め、科学的に実験結果を考察させた。
  次の授業までに質問があれば、インターネットに設置された「Q&A掲示板」に書き込むように指導し、書き込みには直接講師が回答をしている。

授業は大型スクリーンを2枚
授業は大型スクリーンを2枚使って、
PC教室で行う

実験では、放射線計測器(サーベイメーター)等を持ち込んで、体験的に児童に分かりやすく解説を加える。
  実験では、放射線計測器(サーベイメーター)等を持ち込んで、体験的に児童に分かりやすく解説を加える。

市販の入浴剤や時計の文字盤などから、多くの放射線が出ていることを、児童が直接測定させて見せる。
  市販の入浴剤や時計の文字盤などから、多くの放射線が出ていることを、児童が直接測定させて見せる。

リンゴを電池にする実験では、異なる金属の電位の違いを利用して、音楽を鳴らせる実験を行う。
  リンゴを電池にする実験では、異なる金属の電位の違いを利用して、音楽を鳴らせる実験を行う。

自宅から持ち込んだ
  自宅から持ち込んだ様々な野菜や果物でも音楽がなることを体験し、その種類によって音量が異なるところから、科学的に実験結果を考察してみる。

講師は、テーマごとに児童からの質問を受け付ける。質問の内容は、小学生とは思えないような高度なものもあった。
  講師は、テーマごとに児童からの質問を受け付ける。質問の内容は、小学生とは思えないような高度なものもあった。


実施単位 テーマ
3〜6時限目 「Spring-8施設見学」

実施場所 財団法人高輝度光科学研究センター
実施時間 4コマ・180分
講師 原 雅弘
財団法人高輝度光科学研究センター広報部長
使用教材 パンフレット「大型放射光施設Spring-8」
マルティメディアライブラリCD-ROM
講師作成のプレゼンテーション資料(非公開)

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
  Spring-8の設計者であり、この国家プロジェクトのリーダーである原広報部長が直接講師となって、見学授業を進めた。
  まず広報施設のある普及棟での、講師制作のプレゼンテーション資料、マルチメディアライブラリCD-ROM、パンフレット「大型放射光施設SPring-8」を使って、施設の概要や運営の仕組み、現在すすめられている先端研究のトピックスなどの講話を行った。
  普及棟にある実験フロアには、原氏が設計したさまざまな模型があり、放射光施設の原理や働きについて学習できるようになっている。児童は原氏から説明を受けたのち、直接模型を操作したり、補助の職員に質問したりして、体験的に多くの知識に触れることができた。
  見学では、児童は1グループ6名、計3グループ(見学の父兄も同伴)に分かれて、各グループに原氏、瀬崎氏、及び広報次長が補助役となって、同じルートで実験ホールや中央制御室の見学を進めた。実験ホールでは、普段は見ることの出来ない研究者の作業の様子やこれまでの研究の成果物をみることで、科学への探求心を啓発する授業を行ない、放射光施設の原理や役割などへの理解を深めた。
  児童には、グループ毎にデジタルカメラなどを持たせて、まとめ学習用の画像素材の取材をしたり、職員や研究者にインタビューを行った。
  普及棟に戻り、児童からの質疑に応えた。
■内容
  ・授業進行のポイントとして、実際に本物(の知識)にふれることで、科学への探求心がかき立てられるよう、体験的な学習から知識導入が行えるよう内容に配慮した。

普及棟での講話では、
  ・SPring-8の紹介
  ・施設の概要
  ・運営の仕組み
  ・研究の様子
などを中心に、動画による資料も使って、分かりやすく解説を行う。

普及棟での模型の見学・操作では、
  ・加速器の原理を理解
  ・電子の発生と加速の仕組み
  ・電磁石を使って電子の軌道を曲げる
  ・放射光発生メカニズム
  ・見えない宇宙線を見てみる
  ・研究内容を紹介するパネル説明
などをポイントにして、難しい原理ながらも自然の仕組みの中で動く装置について、体験してみた。

実験ホールと中央制御室では、
  ・実験ホールで研究装置(ビームライン)と研究の様子を見る
  ・中央制御室で、職員がコンピューターを使って仕事をしている様子を見る
  ・研究者や職員にインタビューをしてみる
ことにより、より身近に科学することを感じられるよう留意した。

質疑応答の際には、放射光の原理に関する質問が多く出て、児童の理解や興味が深まったと感じられた。
引き続き質問は、「Q&A掲示板」を利用するように指導した。
普及棟大会議室
 普及棟大会議室で、原氏からの講和を受ける

説明資料などを使って、
 説明資料などを使って、放射光施設の原理や先端研究の概要などについて説明する

講師の説明を受けて、
 講師の説明を受けて、展示模型を操作し、施設の原理への理解を深める

施設見学から
 施設見学から普及棟に戻り、質疑応答を行う


実施単位 テーマ
7・8時限目 「Spring-8で行っている研究」「最近の研究、今後の研究」

実施場所 上郡町立鞍居小学校PC教室
実施時間 2コマ・90分
講師 瀬崎 勝二
財団法人高輝度光科学研究センター施設管理部門長
使用教材 マルティメディアライブラリCD−ROM、
日本生命誌館「What's DNA-DNAって何だろう」、
図鑑「ネイチャーワークス 地球科学館」、「地球を救え」、
「生命と地球の進化アトラス 地球の起源からシルル期」、
「パワーズオブテン_宇宙・人間・素粒子をめぐる大きさの旅」、
講師の用意したスライド(非公開)

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
  瀬崎氏が講師となって、「Spring-8で行っている研究」と「最近の研究、今後の研究」のふたつのテーマで授業を行った。
  まず講師から、SPring-8の施設見学を終えて、それぞれ感じたことや学んだことを児童に発表をさせた。その上で、世界一の放射光施設の役割や地域に存在する誇りを持つことへ講話を行い、施設見学での学びや気づきを振り返りつつ、科学できる目や科学するこころを育てるひとの大切さを語った。
  科学的資料として図鑑をどのように利用したら良いのか、代表的な書籍を教材として提示し、その内容から何が読みとれるのかを児童とともに語り合った。
  つづいて、授業実施用教材マルチメディアライブラリCD-ROMから資料をスクリーンに提示しながら、SPring-8で現在行われている研究とその成果を解説した。
  「科学する目を育てる」という狙いで実験を行い、同じように見えても素材が異なる物質の反発力の違いを体感したり、児童が持ち込んだコマから見える科学する目を解説した。
  科学雑誌などから整理したスライドを用いて、DNAの構造や役割について解説し、生命の不思議について児童に考えさせ、映像資料として「What's DNA-DNAってなに?」を一部映写して、児童の生命に関する理解度を深めた。
  最後に、不思議だと感じるところから科学できる目が育ち、科学するこころが芽生えることを伝え、自然の中で遊ぶことによって大いに感性をみがくことを奨めて講義学習を終えた。

■内容
  授業進行のポイントとして、「科学できる目・科学するこころ」を育むことに重点をおき、児童の気づきを誘発するよう、高度な技術や知識について、具体的な身近な事例や興味ある事象を引き出して、提示することに心がけた。

  ・ナノテクノロジー(物質科学)では、コンピュータがナノテクによる集積率の飛躍的向上により、どのように変わるかを例示した。
  ・バイオテクノロジー(生命科学)では、タンパク質の研究領域において、画期的な新薬の開発が進んでいることを例示した。
  ・高エネルギー科学では、新たに計画されている巨大な装置の役割や夢を語った。
  ・微量物質の分析では、「カレー砒素事件」の成分解析をSPring-8で行って、事件の解決に貢献したことを述べた。
  ・超微細加工(マイクロ・マシニング)では、液晶パネルの開発技術において、企画されている新技術の一端を想定される製品にみたてて紹介した。

  これら、SPring-8で現在、そして今後行われる実験をもとに、DNAを主題として生命の仕組みを解説し、地球の誕生からとてつもなく長い時間をかけてゆっくりと変化してきた自然環境が、人間がかかわることで一瞬の内に大きく変化してきたことを知り、ありのままの自然をまもることの大切さを児童に考えさせた。

講師が用意したDNA
 講師が用意したDNAの構造を立体モデル化した模型

市販の図鑑を提示し
 市販の図鑑を提示し、児童とともに科学するということを考えた

児童が持ち込んだ
 児童が持ち込んだ「地球ゴマ」を使って、科学的にものを見る実験を行った

講師が整理した
 講師が整理した科学雑誌のスライドを提示し、学習を深めた


実施単位 テーマ
9・10時限目 「発表のための調べ学習」

実施場所 上郡町立鞍居小学校 PC教室
実施時間 2コマ・90分
講師 鞍居小学校教諭
小川真也
使用教材 児童学習ノート、パンフレット、マルチメディアラリブラリーCD-ROM

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 ・児童5〜6人が1グループとなって計3グループが、それぞれにテーマを決めて学習の成果を整理する。

■内容
 ・施設見学で取材した内容や、授業実施用教材マルチメディアライブラリCD-ROMを使用し、講師となった研究者の話から学んだことを、児童がまとめた。
 ・不明なことは、積極的にインターネットから情報検索して調査し、発表に反映させるよう指導した。
 ・発表には、クイズ形式などを取り入れるなど、児童の理解・興味・関心を高められるよう努めた。
 ・発表の形式は、グループウェア(発表名人)を使用し、プレゼンテーション作成能力の向上を図った。

マルティメディアライブラリ
 マルティディアライブラリCD−ROMから、発表資料を引き出す

教師が補助しながら
 教師が補助しながら、インターネットから資料を検索する


実施単位 テーマ
11時限目 学習発表会 「科学する喜び」

実施場所 上郡町立鞍居小学校 PC教室
実施時間 1コマ・45分
講師 鞍居小学校教諭 小川真也
瀬崎 勝二
財団法人高輝度光科学研究センター施設管理部門長
使用教材 発表用児童制作プレゼンテーション

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
  保護者にも参観日として授業を公開した学習発表会。
   3グループに別れて、それぞれがテーマ別に発表を行い、その都度講師から専門的かつ科学的な観点からのコメントをもらう。
   最後に一連の学習に関する総括的な講話をもらうとともに、一部参観者から感想をもらう。

■内容
 児童はグループごとに自らが決めたテーマで発表を行った。
  「人・DNA・細胞・目のしくみ」
  「DNAの働き」
  「SPring-8の放射光」

  ・児童は、まとめ学習において、施設見学で取材した素材、インターネットから情報検索した資料、授業実施用教材マルチメディアライブラリCD-ROMをもとに、作成用ソフトウェア「発表名人」で発表資料を制作し、プロジェクターを使用して発表を行った。
  ・児童はプレゼンテーションソフトによる発表だけでなく、実験も加えて解説を試み、わかりやすくしようという努力が随所にみられた。
  ・瀬崎氏に、それぞれの発表が終わる毎にコメントをもらった。主な内容は、「人・DNA・細胞・目のしくみ」では、大学の教養レベルの発表を、小学生が行っていることに関する驚きを、「DNAの働き」では、科学できる目を育てて科学者を目指してほしいおもいを、「SPring-8の放射光」では、実験を行うことでニセの科学にだまされずに科学するこころを持ち続けることが大切であると述べた。
  ・瀬崎氏の総評のあと、授業参観者だった安則眞一上郡町長と江見英数上郡町教育長、山本幸子SAS推進者(元播磨高原東小学校長)に感想を述べてもらい、一連の授業を終わった。
「発表名人」を使って
「発表名人」を使って、プレゼンテーションを行う児童

学んだことを劇にまとめて龍野小へ発信
児童の発表の後、
コメントを述べる講師

感想を述べる安則眞一上郡町長
感想を述べる上郡町長


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授業の成果
 播磨科学公園都市に建設された大型放射光施設(Spring-8)は、現代科学の粋を結集した世界最大の施設であり、未来の日本科学の基礎技術を担う大変重要な施設である。そこには、世界の第一線の科学者が、バイオテクノロジーやナノテクノロジーなど最先端の研究を行っている。今回の授業は、「小学生に科学する喜びを伝える」という志の下、日本の科学技術の将来を支える優秀な研究者と地元の教育者関係者との協同作業として企画されたものであった。
 当初は、小学生に難解な理論を伴う科学の授業を提供することに、関係者の中でも異論があった。科学的探求心を持たせるという高いレベルの学習観点をもつ授業内容に、児童がついていけるかが不安に感じられたからである。しかし、実際に科学者による授業を実施してみると、周囲の大人達の心配は杞憂であったことがわかった。「本物の授業」(学校長・教委担当者)を提供することによって、「教師が普段の授業では踏み込めない部分にしっかりと踏み込め、本物に触れることの素晴らしさを子どもたちはしっかり受け止めていた」(教諭)といい、「今回の授業は子ども達の夢づくりにつながった」(教諭)という。アンケート結果をみても難しい内容であったにも関わらず児童の興味や意欲が高まっていたことがわかる。
  また、普段は勉強が得意でない児童が、科学の授業で生き生きと発言していた様子などからも、単に産業界の講師が授業を行っただけでない情意的効果を、児童に与えていたことが見える。児童は「難しい言葉を覚えるのではなく、講師のお話のエッセンスつかんで、それぞれが知識を取り込んでいた」(教諭)というが、このような感性を目覚めさせたことが今回の科学の授業の本質であると思われる。
 「ふるさとを愛する子どもづくり、誇れる子どもづくりに役だった」(学校長)というように、これまでは縁遠かった世界一の施設を身近に感じることや、科学への興味を持つことによって、自らの誇りと感じることができたように思われる。世界一の規模の施設が地元に存在するというだけなく、児童は科学の持つ未来への可能性の結集としてSPring-8の存在を認め、自らの誇りと感じていることが、感想文から読みとれる。
 今回の授業の効果は児童だけでなく、参観に来ていた保護者や教師自身にも及んでいる。多くの家庭では、一連の授業を学校だけの機会と捉えず、親子の学習として考えていた。そのため、「子どもも親も必死に勉強しました」(保護者)など、「学校と家庭が延長線上で繋がった」(講師)ことによる効果は、「家庭で共通の話題ができた」(教師)だけでなく、「子どもを通して、保護者まで変わる」(元校長)ような流れを生みだした。「教師が大きくなった」(学校長)のは、ただ単に教育に関する面だけでなく、教育者としての人間的成長が見られたことにあったのだろう。
 「絶対科学者になるという子どももいて、将来が大変楽しみ」(講師)という、目に見える反応が現れただけでなく、「難しい授業であったが、全部わかるのではなくて、いろんなキーワードを子ども達が持ち帰ったので、目的とする『科学するこころに触れ、科学できる目を育てる』には、大きな効果があった」(講師)というように、確かな手応えも感じられた授業だった。「今はわからなくても、高校生や大学生になって、蘇ってくるような知識も重要だと思うし、子ども達はそれをしっかりと受け止めていた」(講師)というのは、今後の理科教育の在り方にも一石を投じるくらいのコンセプトを、この授業が持っていたからと言うことが出来る。感じると思う。
 短期間の授業であったが、施設見学、科学者による提供授業や、インターネットを使った講師との情報交換を通じて、科学的な知的探求心を育むという目的は達成された。児童には、科学への本質的な興味を持たせる大きなきっかけになったに違いない。特に「身近にあることを科学的な捉え方ができる」ような探究心が高まり、「自分で実験して理解する楽しさを学ぶ」ことを知ったことは、良い経験になった。
 SPring-8の研究者による授業を通じて学んだ知識や思いを発表するためのまとめ学習において、マルチメディア教材を利用することにより、コンピュータを使って資料を入手し、発表資料にまとめる能力を育てることについても、「まとめ授業でPCを使って発表したが、子ども達があそこまでできるとはと驚いた」(学校長)というように、大きな成果があった。
 第3回「国際数学・理科教育調査 (注1)」によると、日本の小学生は、「算数・理科は得意だが嫌い」という調査結果が出ている(注2) 。さらに理科については別の調査でも、理科がおもしろいと思う生徒の割合が、小学校の高学年から減少し始め、中学、高校でさらにその勢いは加速するという傾向が見られ、昨今の若者の「理科嫌い」がはっきり現れている。また、同時期に内閣府によって実施された「科学技術と社会に関する世論調査」によると、科学技術についてのニュースや話題についての関心は、40〜50歳代が最も高く、それに比べて20代の若者は、年を経るごとに関心が減少し、成人層の中で最も低くなっている 。(注3)
 2004年1月、文部科学省が全国の高校三年生を対象に40年ぶりに実施した教育課程実施状況調査(学力テスト)の結果が公表されたが、数学と理科4科目の大半が、同省が専門家の意見を聞いて想定した「期待正答率」を10ポイント前後下回り、教育関係者が指摘する学力不安をはっきりと裏付ける結果となった(注4) 。すでに子ども達の環境は「成績は良いが勉強は嫌い」からより悪化していきつつあると言えるのかも知れない。
  今回の授業を通して、実現しようとした目的は、以上のような評価から概ね達成できたといえ、また日本の若者の「理科離れ」を止めるひとつの視点を提案したといえるのではないだろうか。




注1) 1995年、世界26ヶ国・地域で約17万人の小学生が参加して、国際教育到達度評価学会(IEA)が実施した調査。
注2) この調査は日本では、公立小学校の3年生と4年生計9,000人が参加し、成績は算数が第3位、理科は第2位であった。しかし、教科の好き嫌いでは、嫌いが算数では世界で2番目、理科は全体の平均と同じで、そこからは「成績は良いが勉強は嫌い」という小学生の姿が浮かぶ。
注3) その傾向は10代の若者にはさらに拡大しており、産業・経済界の関係者はこのような若者の「理科離れ」「科学技術離れ」が「ものづくり軽視」の風潮を呼び、科学技術立国・日本の基盤を揺るがしていると危機感を強めている。
注4) 期待正答率は学者らで構成する文科省の問題作成委員会が「これくらいは正答者がいないと困る」とした水準だが、期待正答率を58.5%とした生物が45.7%と12.8ポイントも足らなかったのを始め、地学が11.7ポイント、物理が8.9ポイントそれぞれ期待正答率を下回った。

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実施環境
実施場所 財団法人高輝度光科学研究センター
上郡町立鞍居小学校PC教室
使用した機器 ノートパソコン、プロジェクタ(2台)、スクリーン(3枚)、書画装置(OHC)、DVDプレーヤー
その他 講師持込の機材(サーベイメーター)

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使用教材
教材タイトル マルチメディアライブラリCD-ROM「世界一の放射光施設 SPring-8」
教材仕様 動画(WMVまたはAVI)別冊の素材集を含め102コンテンツ
静止画(JPEG)209コンテンツ
教材概要 SPring-8の施設、建設、放射光の原理、装置の概要、研究の内容などを動画、静止画で紹介するコンテンツ教材。メニュー選択方式で児童が目的にあわせて自学できるシステム。(小学校4年生以上)

教材タイトル パンフレット「大型放射光施設 SPring-8」
教材仕様 A4版カラー6頁の印刷物
教材概要 放射光の原理や利用をアニメを使って分かりやすく解説している広報媒体(小学校3学年以上)

教材タイトル DVD「What's DNA-DNAって何? Part1-3 総集編」
教材仕様 A4版変形カラー16頁の冊子
教材概要 日本生命誌館制作の映像資料。「進化の新しい原理を探る」「ゲノム伝」「DNAは変化する」の3パートで構成。(小学校4学年以上)

教材タイトル 「ネイチャー・ワークス 地球科学館」
教材仕様 大型本 350頁の図鑑
教材概要 生島緑ほか訳、同朋舎出版、ISBN: 4810417786 ; (1994/06)
「私たちがくらす地球のしくみ」「地球の生命をまもる大気」「地球の生命30億年のあゆみ」「地球で子孫をのこすために」「地球で生命をはぐくむふしぎ」「人間がかぎをにぎる地球環」等で構成。(小学校4学年以上)

教材タイトル 「地球を救え」
教材仕様 大型本 206頁の図鑑
教材概要 芹沢高志訳、岩波書店、ISBN: 4000081659 ; (1991/09)
世界的な環境保護運動家のひとりジョナサン・ポリットの呼び掛けに応じ、世界17ヵ国で発刊された環境キャンペーンブック。「大自然からの勘定書」「私たちの選択」「目覚め」「大地」「大気」「火」「水」「癒し」等で構成(小学校4学年以上)

教材タイトル 「生命と地球の進化アトラス (1)」
教材仕様 大型本 144頁の図鑑
教材概要 小畠郁生訳、朝倉書店 ; ISBN: 4254162421; (2003/07)
生物の進化を地球科学的なイベントと絡めながら解説した、オールカラーの目で見る進化アトラス。1は地球の起源からシルル紀まで。化石のでき方、藻類の進化、節足動物の進化、脊索動物の進化などを解説している。(小学校4学年以上)


教材タイトル 「パワーズ オブ テン ―宇宙・人間・素粒子をめぐる大きさの旅」
教材仕様 変形B5版 169頁の図鑑
教材概要 小畠郁生訳、日経サイエンス ; ISBN: 453206239X ; (1983/01)
この書籍は、チャールズ&レイ・イームズ夫妻が1968年に製作した短編映画「Powers of Ten」をもとに製作された。肉眼ではとても見えない、素粒子レベルのミクロの世界から、我々がいまだ行き着くとこができない、宇宙のスケールまで、ページごとに10倍のスケールへ我々を誘ってくれる。映画にくらべて、書籍ではそれぞれのスケールに関する興味深い説明を読みながら、じっくり立ち止まることができる。(小学校4学年以上)


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授業協力メンバー
所 属 氏 名 授業での説明
財団法人高輝度光科学研究センター 瀬崎勝二
教室での授業の講師
財団法人高輝度光科学研究センター 原 雅弘
施設見学での講師
野島電気有限会社 和崎 宏
進行及び機器操作補助

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授業の感想
■主催した教育機関
  • 授業の中での実験や施設見学を含めて、内容、展開、狙いなど、本当の授業を実施していただけたと感謝している。
  • 授業を通じて、はっきりと子どもたちが変わったと感じる。教育委員会としては感謝するばかりである。
■授業実施者
 (産業界講師)から

  • 子ども達の作文を読むと、多くの児童が「お母さんにほめられた」と喜んでいる。授業を契機として、学校と家庭が延長線上で繋がったことは、本当に素晴らしい。
  • 中には「絶対科学者になる」という子どももいて、将来が大変楽しみである。
  • 最初から組織で対応すると実現は困難だったかも知れないが、志を持った個人が前向きに動いてくれることによって、プロジェクトが成功した。
  • 成功の鍵は、@教育コーディネーターの存在、A掲示板での質疑応答などにITの活用、B支え合うチームワークであった。
  • 難しい授業であったが、全部わかるのではなくて、いろんなキーワードを子ども達が持ち帰ったので、目的とする「科学するこころに触れ、科学できる目を育てる」には、大きな効果があったと思う。
  • 今はわからなくても、高校生や大学生になって、蘇ってくるような知識も重要だと思うし、子ども達はそれをしっかりと受け止めていたと感じる。
  • 実際に模型をみたり触ったりすると、原理を理解しているのではないのに、子ども達は一様に感動していたのが印象的だ。実験の好きな子どもに育って欲しい。

■担任から
  • (教師として児童の成長を願い)率直に面白そうだとおもって手を挙げたが、(1学年1学級という環境もあり)科学的探求心を持たせるという高いレベルの学習観点を、充実させることができるか心配だった。
  • SPring-8の学習を通して、地域人としての誇りや上郡町の素晴らしさを、児童にしっかりと感じてもらいたかった。
  • 中学校に入学する段階で、(最低限習得しておかせたい技術を)学習発表のプレゼンテーション作成において、PCに触れ合ってしっかりと実践できた。
  • 科学雑誌のニュートンを見たりしている児童が出てきたように、今回の授業は子ども達の夢づくりにつながったと感じる。
  • 学習の枠を外して普段の授業との関連を持たせることなく、総合的な学習の時間で行えたことが縛りがなく良かった。
  • チャイムが鳴る3分前に全員理科室に入っていることからもわかるが、理科の時間における児童の目や態度が異なってる。
  • 実験をすることが本当に好きになって、科学的探求心に大きな進歩がみられる。

■児童から
  • 今日したことは、恐竜のことや、DNAのことは、ちょっとだけ難しかった所もあったけど、やっぱり楽しかった。それと、うれしかったのは、実物を近くで見れたりできたことだ。すごいと思ったのは、スーパーボールが二つとも同じ値の軽さなのに、はねる高さがすごく違っているからだ。もう少しでもいいからやりたいなと思った。
  • 今日は、しょうじきもっと実験がしたかったです。でもDNAのしくみについて少しわかりました。もっとたくさん話を聞いたり、見たり、ふれたり、実験したりしたいです。
  • 説明が分かりやすかったし、おもしろかった。よかったです!
  • 今日授業をうけてよかった事は化石にさわれた事です。いままでそんなこうかな物にはさわった事がなかったのでよかったです。次はいよいよ発表です。町長さんも来るのでがんばりたいです。「ガンバルゾー」
  • 第三回も終わって、私は自分で自分がえらくなったと思います。今までの話とかがすこしずつだけど頭にはいってきています。この学習をやっててよかったです。
  • 今日は、ありがとうございました。化石とかが見れてよかったです。次の授業が楽しみです。次の授業も、集中して、話を聞きたいです。本当にありがとうございました。

■教育関係の立場から
  • 学校外の人々との授業は、両者の熱意につきると感じる。使命感とでもいうべき位置付けが企業のトップになければ、この授業は成り立たないし、代表して児童の前に立つ方が未来を志向しうる方であることが重要になる。また、受け入れる学校も校長の見識や担任の情熱に左右される。子どもたちは、その両者の融合のなかで社会をみつめ未来に向かうにちがいない。両者の意識改革こそ、鍵をにぎる。そういう意味で今回の事業は大きな役割を果たしていると思う。上郡という刺激の少ない地域に最先端の知をもって挑戦したことは意味深い。
  • この企画がマスコミに大きくとりあげられたことで、とてもよい学校のPRになった。子ども達も親や地域、そして遠くの知人にまで関心を持ってもらったことで意欲的だった。科学者に教えてもらっているというだけで、子ども達は貴重な体験をした。すごい人に教えてもらっているんだという気持ちの高揚は忘れられない思い出になる。実験は、学校では経験できないものだったから目を輝かせていた。レベルの高い教具を使うことの大切さを知った。子ども達は、今回の授業のことは忘れられないだろう。普通は学校の授業は心に残らないものだが、そういう意味でも意義があったと思う。
  • 子どもたちに科学の楽しさ、喜びの目を持たせていただいて本当にうれしく思います。素直な疑問を深く追求することで、理解する楽しさや自信につながっていったと思います。難しい言葉もしっかり発表出来ていたので、すごいなあと思いました。とても勉強になりました。ありがとうございました。
  • 当初はいろいろ課題もある中、非常に意義深いかつ中身のある、また大変反響の大きな授業を実施して頂き、関係者の皆様には深く感謝する。
  • 科学の授業で一番に感じたのは、子ども達が本物にふれて、目が輝いたことであった。
  • なんでも応えてくれる講師の凄さに驚いた。
  • 授業内容は、子ども達にとってやはり難しかったが、それを越えた素晴らしさがあり、子ども達もしっかりと受け止めていた。
  • 子ども達は大人になっても、きっと今回の授業のことを忘れずに記憶にのこっていることだろう。
  • まとめ授業でPCを使って発表したが、鞍居小の子ども達があそこまでできるとはと驚いた。
  • 授業を通じて、ふるさとを愛する子どもづくり、誇れる子どもづくりに役だった。
  • 担任の先生も、今回の授業を成功させて、大きな自信をつけて育った。

■授業情報提供者から
  • さまざまな関係者が、それぞれの役割を理解し、立場を越えて、「子ども達のために」と前向きに力をあわせることにより、コラボレーションが成立した、非常に素晴らしいチームであった。


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