6.授業実践等の事例




6−2−1 学校名および担当教諭
Y町Y小学校 S.K.教諭

6−2−2 授業実践に参加するに至った経緯
  1)ゲーム感覚で取り組め、子どもたちの興味に合っている。
  2)何度も練習ができる。
  3)履歴がわかる。(習熟の過程がわかる。)
  4)一人で学習できる。

6−2−3 児童のプロフィール

氏名:M.M. Y小学校 2年生女児 (6:9)
診断名
●ダウン症候群(H9.4)
諸検査の結果
●田中ビネー式54(H15.1.21)
身体・医学面
●低身長
●視力測定不能
学力(国語)
●ひらがなの清音と濁音の読み書きができる。促音と拗音は練習中である。
●カタカナは半分程度読める。
●漢字に興味を持ちだした。1年生の80文字の内、32文字が読め、12文字が書けた。(11/29)  
学力(算数)
●10までの1対1の対応はできる。
●10までの数の大小がわか る。
●大きさ、長さの比較ができる。
●指を使って10までの+算 -算ができる。
興味・関心・強い面・指導に利用できるもの
●アンパンマン、ハム太郎のアニメが好き。
●なわとびができるようになった。
●オルガンやピアニカに興味を持っている。
●自転車は、補助輪をつけて乗っている
言語・コミュニケーション
  • 話し好きで、「あのなぁ、わたしなぁ・・・」と話し かける。話の筋が通らないことがある。
  • 発音が不明瞭で聞き取りにくいことがある。
行動 ・社会性
  • 愛想がよく、友だちとの交流を好む。
  • 自分の思い通りにならないと、すねて動かなくなる。
  • 交流学級の教室に移動したとき、「恥ずかしい」と言って、教室入口でしゃがんでしまう。
運動・基本的生活習慣など
  • 指しゃぶりから抜け出せず、絶えず指を2〜3本しゃぶっている。
  • 鼻水の始末は、ほぼ自分でできる。
  • お箸がうまく持てず、指で食べることがある。
  • 体育の時間、集団行動からはずれ、C公園に遊びに行くことがある。

6−2−4 指導計画
 タブレットPCを使って文字の形、読み方、書き方を覚え、将来的に文字の読み書きができるようにする。 具体的な手順は以下のとおりであった。

1)目標の確認
 「今日は、○の字を練習しよう。」

2)タブレットPCでの書字練習

3)ノートで練習する

4)合格シールを貼る

6−2−5 指導記録

T:今日は、どの漢字を練習しようかな。
C:これがいい。(金を指定)
T:何て読むか知ってる?
C:「かね」
T:よく知ってるね。お金の金やね。それじゃあ、さっそく練習しようか。
C:(ペンで練習を始める。しかし、◎がつかない。)
T:おかしいなぁ。どこがちがうんやろなぁ。書く順番、合ってるかなぁ。
C:(書き順をクリックし確かめる。)
T:分かった?ここを先に書くんやね。いいか?
C:うん。(2回目の挑戦)
  (◎がついて、やったぁ!と喜ぶ。)
T:おめでとう。よかったなぁ。じゃあ、あと2つ◎がつくまで、がんばりよ!
C:(書いてみるが、◎がつかない。)
T:おかしいな。どこが違うんやろう。Mちゃん、ちがうところ見つかったか?
C:ううん。
T:ここちがうかなぁ。
  と、手本と見比べながら、間違いの箇所を指摘する。
C:ほんまや。(もう一度挑戦。)
  (◎がもらえて、やったぁ!と喜ぶ。)
T:これで◎が二つ。あと一つでPCでの練習はおしまい。 がんばりよ。
C:うん。(と言って書き始め、◎がもらえて喜ぶ。)
T:Mちゃん、おめでとう。よかったなぁ。ところで、この字は何と読むの?
C:きん
T:そうやね。一度、PCの声を聞いてみようか。
C:(PCの音声をクリックし「きん」と読む声を聞く。)
T:次に、今覚えた金という字を、ノートに書いてみようか。金、金、金と、3回書いてみよう。
C:(ノートに書いてみる。しかし、形が正確ではない。6画目と7画目がまっすぐ立ってしまう。)
T:Mちゃん、ここが、おかしいで。  この場所に斜めにくっつけるんやで。   
C:分かった。
  (と言って再び書く。)
T:そうそう、それでいいんやで。あと二つ書いてごらん。
C:(金を二つ書く。)
T:合格や。そしたら、金を使った言葉を集めるで。どんな言葉があるかなぁ。
C:お金。
T:ピンポンピンポン。
C:(お金と書く。)
T:いいで。他にどんな言葉がある?
C:金いろ。
T:かね金きんきんと読むことを知ってたん。すごいやん。いいのを見つけたなぁ。
C:(金いろと書く。)
T:そうそう、そこは(6、7画目)、斜めに書くんやったな。よくできました。さあ、いよいよあと一つで合格やで。
C:うーむ。分かれへん。
T:そうか。じゃあ、ヒント。月、火、水、木・・
C:金よう。
T:ピンポンピンポン。
C:書けました。
T:合格や。おめでとう。(握手)じゃあ、合格のシールを貼っとくわ。今日の勉強は、これでおしまい。
C:やったぁ。先生、遊ぼう!

6−2−6 評価
 漢字を覚えたいと興味を持っていたM児は、漢字ドリルを使って練習を重ねていた。なぞり書きや視写を繰り返していたが、筆順が間違っていたり、形が不正確だったりして、なかなか定着しなかった。

 書字練習のステップを、タブレットPCで◎が3回になるとノートでの単音練習3回、それが合格すると言葉集めを3つというように、3段階に分けた。これは、3回・3つという数が、子どもたちにとって分かりやすい数であること、意欲の持続という点でも適当な回数であると判断したためである。このタブレットPCを使用するようになって、M児の意欲は高まり、「やりたい」という声が頻繁に聞かれた。また、集中して取り組む時間も長くなった。定着については、取り組み始めて日が浅く、まだ検証し切れていない。以下、タブレットPCの長所と改善点を挙げてみる。

(1) タブレットPCの長所
 書いたらすぐに正解(◎)不正解(◎なし)が表示され、反応が早さが子どもの思考と合っている。
 間違えた場合も、何度でも練習できる。
 漢字の形・書き順・意味・音がセットで表示され、記憶するのに適している。
 ノートで練習している際にも、PCに戻って確かめることができる。
 パターンを覚えると自学自習の道具として活用できる。
(2) 改善点
  書き順を示すペンの動きが速い。画数が多くなると分からない。
  書き足して補正した文字に反応しない。(短いと思った線を書き足して、形を整えても◎がつかない)

 



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