6.授業実践等の事例




6−5−1 学校名及び担当教諭
M市J幼稚園 指導補助 H.Y.

6−5−2 授業実践に参加するに至った経緯
 幼稚園児ということで、本プロジェクトの適用は適切かどうかを保護者と話し合った。確かに本児は書字および読字上の大きな問題はないと思える。むしろ年齢相応以上の能力を持っている。現状において個人内での能力には問題はないものの、集団生活を送る上ではさまざまな不安やストレスを抱えている。特に4月に小学校入学を控えて、本人も保護者も言い表せない不安ある。その要素として、学校生活に慣れることができるかどうかと、学習についていけるかどうかがある。
 本児は確かにある程度の書字能力はあるが、できないと思ってしまったり、できると思っていたことで失敗すると急に自信をなくしてしまう傾向が強い。これにより小学校入学以後につまずきや自信の喪失をまねく恐れがある。
 そこで本プロジェクトを適用することにより、書字および読字に関して本児により一層の自信を持たせることで、小学校入学に向けての不安を少しでも解消することを目的とした。

6−5−3 児童のプロフィール
幼稚園年長組 (6.1歳) 性別:男児 診断名:ADHD
 
1)読字に関する能力

2)書字に関する能力

6−5−4 指導計画
 幼稚園で本プロジェクトによる文字の学習をすることは難しいため、家庭で使用するようにした。はじめに指導補助者(以下私と記す)が、タブレットPCおよびソフトの使い方を本児とともに確かめ、以後は母親の補助のもとで半月間学習を進めた。1月には私が週に2回家庭訪問を行い、一緒に学習を行った。

●学習の目標

6−5−5 指導記録
 はじめの1週間については、ひらがなのみを練習する。これは、練習できる漢字の文字数が少なかったことと、本児が自信を持って書ける文字から練習したいと思ったためである。
 1週間を過ぎると、徐々に練習する文字の種類が増えてくる。本児にとっては、文字の形をうまく捉えて筆順どおりに書けると◎が表示されることがわかりやすく、また上手くできなくてもやり直しがすぐにできるため、苦手な文字も練習する意欲がわいたためであると思える。
 私が家庭訪問をした際には、漢字の練習にも取り組んでいた。はじめのうちは、「漢字はわからない。」と言って書こうとしなかったが、画数の少ない文字を練習して、◎が表示され上手く書けたことを確かめられると、次々に画数の多い難しい漢字も練習するようになっていた。また本児の特徴として、一度書いてしまうと間違っていても確かめることをしないことが多かった。しかし学習から1か月を経過するころから、◎が表示されなければ、どこが間違っているのかを画面上で確かめたり、母親に聞いたりして確かめることができるようになった。漢字の読みについては、自信を持って書ける漢字は読みも覚えることができていたが、書くことが学習の中心になっていたため読みを重視した指導は現在のところできていない。

6−5−6 本プロジェクトの長所と課題

●タブレットPCの長所
 正解の場合は◎が表示されるように、単純化した指標が児童の意欲につながる。
 間違えてもやり直しが容易にでき、ストレスをあまり感じなくても済む。
 漢字の形・書き順・意味・音がセットで表示され確かめるのに役立つ。
 パターンを覚えると自学自習の道具として活用できる。
●改善点
 書き順を示すペンの動きが速い。画数が多くなると分からない。
 漢字の読みの表示が1通りしかないため、他の読みを覚えにくい。

6−5−7 評価
 本児のように文字に対する関心が高く、書字についての自信が持てれば学習を進めることができる児童にとっては、本プロジェクトで示すタブレットPCの適用は大変有効であると言える。パソコン上では、正しいか間違っているかを◎が出るか出ないかで示すことになっている。このように単純化された指標を示すことは、学習の目的を単純化されたかたちで示すことができるため、本児のように音声言語による指示で混乱をしやすい場合には、わかりやすく学習意欲も向上しやすいと考える。また、本児はパソコンの操作も短時間で覚えることができていた。そのことも、学習を進めることができた大きな要素の1つと言える。

 



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