6.評価

6.3.3 結果と考察

■ 情報収集・発信

  それぞれの学校のマップに付加された情報(各校の子どもたちが遊び場をGPS携帯電話を活用して収集した情報)は表1である。

<表1 各校のマップの付加情報量>

学校名

マップへの付加情報数

栃木県稲葉小学校

78

和歌山県熊野川小学校

136

鳥取県日新小学校

62

沖縄県美東小学校

162

  4校あわせると438の遊び場紹介となり、かなりの情報量である。子どもたちは、たった1、2回のフィールド調査でこれだけの量の情報を集めることができたのである。さらに本システムはGPS携帯電話で情報を収集しながら、情報追記型GISシステムによりその場ですぐに自校のマップへ情報を付加することができる。これにより、本システムを活用した結果、情報収集に関してはかなりの有効性がみられたと考える。

■ 情報交換・交流

  次に共同学習では、単に情報収集・発信するだけではなく、これら集めた情報に関して意見交換や付加情報を加えていかなければならない。本システムでは、その場として掲示板を設けている。
掲示板の種類として、本システムでは2種類設けている。

(1)全体の話し合いの場(全体メッセージ)
  この場は、ただ一覧表示される掲示板を採用し、特にテーマを設定せず、自由に書き込みをさせている。

(2)収集した個別の遊び場に対する情報交換の場(メッセージ付き写真)
  この場は、子どもたちが収集してきた遊び場それぞれに対して、ツリー上に表示 されるレス機能を充実させたものである。主にその遊び場に関する情報交換が行われる。

表2は、上記2つの掲示板の書き込み総数を表している。

<表2 全体メッセージ掲示板とメッセージ付き写真掲示板の書き込み総数>

掲示板の種類 書き込み数
(1)全体メッセージ掲示板 72
(2)メッセージ付き写真掲示板 359
合 計 431

■ 全体メッセージ掲示板について

  図1は、全体メッセージ掲示板(以降(1)と表示)である。(1)では、基本的には自由に子どもたちに書き込みをさせている。

【図1 全体メッセージ掲示板】

(1)に書き込まれたコメントの内容を整理・分類するカテゴリー分けを行った(表3)。

<表3 全体メッセージ掲示板の書き込み内容および書き込み数>

カテゴリー 内容 書き込み数
マップ 遊び場マップづくりに関連する内容 37
方言 各地の方言くらべ 16
気候 各地の気候くらべ 10
友情 個人的に友だちになろうとする書き込み 7
要求 システムに関する要望 2

 本実践の交流場面では、テレビ会議システムなどのツールを活用した顔を合わせたり、電子メールや手紙など他のメディアを活用したりすることはなかった。本システムのみ(マップと掲示板)の活用で交流を行った。このような中、お互いのマップのルール(遊びの場所や種類等を表す地図上のアイコンの示し方)を各校バラバラで決めたため、それを発見し合うクイズ形式の取り組みがこの掲示板で始まった。この取り組みによりさらに他校のマップの情報を読み取ることができた。このことは、担当教諭への質問紙調査でも以下のように書かれてある。

 他校のアイコンの規則性を考えたり、自校のアイコンの規則性を考えたりして、発見した規則性からその原因や理由を考察することができた。(N教諭)

 さらに、マップと掲示板とのリンクについてのコメントも以下のように見られた。

 他校の地域に対する認識についても、地図情報だけでなく、掲示板等でのやりとりで情報を補いながら比較することができたため、多くは他地域の特性も理解することができた。(A教諭)

 その他、(1)で現れた方言や気候に関する話題は、子どもたちから自発的に出されたものであった。また、相手に興味を示し、友だちになろうなど、相手を意識する書き込みも多く見られた。
  方言や気候という話題になった要因として、遊び場マップづくりを通した相手の地域の地図情報が大きく関わっていると考えられる。遊びから見出される地域の特性を、さらに方言や気候といった他の情報も得たいという気持ちになったと考える。これは、掲示板単独の交流ではなく、地図と連動した掲示板ということでこのような結果が出たと考える。

■ メッセージ付き写真掲示板について

 図2は、メッセージ付き写真一覧掲示板である。そして、この中の一つの「メッセージを見る」というボタンをクリックすると、図3で示しているメッセージ付き写真掲示板(以降(2)と表示)が現れる。
(2)は、各校で子どもたちがGPS携帯電話を活用して収集した情報1つ1つに対する書き込みができる掲示板である。(1)が全体を通して書き込まれるものに対して、この(2)はマップに付加された遊び場一つ一つに対して書き込みができるのである。
この(2)にそれぞれ書き込まれたメッセージ数で分類したのが図4のグラフである。1つの遊び場に対してどれくらいの意見交換が行われたかをそのメッセージ数で分類し、割合で表したものである。書き込みされた遊び場は、全体の約30%であった。地域の特徴を表すような、またインパクトのある写真を載せているものが選ばれていた。
メッセージ数が1回については、その遊び場に対する追加情報、または他校からの質問のみで終わっているものがほとんどである。2回は、1回に対しての返答や質問が2つ続いているものが多い。3回以上の書き込みがあるものに関しては、その遊び場に関しての情報交換が双方向に行われていると考えると、図4で示されているように約6割の書き込みが双方向のやりとりができていることがわかる。

【図2 メッセージ付き写真一覧掲示板】

【図3 メッセージ付き写真掲示板】

【図4 (2)のメッセージ数別書き込みの割合】

 一番多くメッセージが書き込まれたのは、写真1の遊び場で、4校の子どもたちのやりとりが16回見られた。書き込みの内容としては、「何をとっているのですか?」という質問に対して、「ドジョウがとれます。」と答え、それに対して「まわりにどんぐりがあれば歌えますね。」といったユーモアのある書き込みも書かれていた。さらに川幅をたずねたり、自分の地域と比べた書き込みをしたりと発展していた。

【写真1 稲葉小 写真番号301-8-6 タイトル「魚とり」】

 このように掲示板を活用した取り組みは、児童の質問紙調査からも「楽しく交流することができた」「掲示板で交流することで相手のことがよりわかった」というような結果も出ている。担当教諭への質問紙調査でも以下のようなことが述べられていた。

 BBSを利用した交流にはとても意欲的に取り組んでいた。
 相手の地図を眺めるだけではなかなか相手校を意識することができなかったが、質問に対する答えが返ってきたり、こちらに質問やコメントがくることに双方向のやりとりができていることを実感していた。相手へのコメントは相談しながら考える姿が見られた。(K教諭)

 学級内でお互いに意見交換する場合以上に、相手の質問には丁寧に答えなければならないといった雰囲気が感じられた。
情報が多くなると、返事を書いたものと書かなかったもの、自分に対してきたものなどが見えにくくなったため、十分な返信ができないものもあったが、できるだけ答えようとする姿が見られた。交流期間の長さがもっと長ければ、もっと深く意見交流が進んで行ったと予測する。(I教諭)