ここでは、本年度の調査研究の主体である小学校での実践授業におけるIT環境のモデルを述べる。
学校のIT環境としては、パソコンのハード面では、RS-232Cシリアルポートの装着が必須となる。(一般的なパソコンには標準装備されている。)
ソフト面では、Windows98以降のOSがインストールされたパソコン環境が必要となる。いずれも、一般的なコンピュータルームの設備で対応可能であると考えられる。ネットワーク環境は特に必要としない。
ロボット(LEGO Spybotics)及び添付の接続ケーブルは、学校の規模に応じ、10台から20台をプロジェクトから貸出した。
その他の用具として、ロボットを走行させる際の障害物とするために、500mlの空きペットボトルを使用した。ボウリング大会の実習課題においては、ペットボトルをグループあたり最大6本使用した。収集は、先生が児童に事前に声をかけられ、家庭にある空のペットボトルを各自持ち寄ることで実現した。
実習場所は、パソコンをコの字に配したコンピュータルームや、体育館(ノートパソコン使用)など、ロボット動作に支障のない広いスペースを利用した。
(1) 玉野市立第二日比小学校
実践授業は、以下の内容で実施していただいた。
場所は、コンピュータルームを使用された。パソコンの配置はコの字型であり、中央を広くとって、ロボットを動かすスペースとした。
3名1グループで、各グループ1台のパソコンと1台のロボットを使用し、チームとして課題に取り組んだ。
授業構成モデルの作成に参加いただいた先生の授業であり、同校の児童への配慮はもとより、他校で実施する場合の事例となることも意識した、重要な位置づけの実践授業であった。先生の熱意ある指導のもと、児童は全員が「楽しく考える」ことを主体的に経験できた、とても意義のある授業であった。
新聞、テレビの取材もあり、活気あふれる授業となった。
最初は、ペットボトルを周回して戻ってくる障害物走の課題。まず先生が実際に動きの見本を見せる。
どのような動きを組み立てればうまくいくか、児童がグループごとに考えていく。 |
||
児童の考える姿勢は真剣そのもの。どうすればゴールに早くたどりつけるか、様々な工夫と試行錯誤を行う。 | ||
グループ対抗で、実際にロボットを動かして障害物走に挑戦。各グループは、自分たちのプログラムに満を持して、ロボットに愛情を込めてタイムレースに挑む。自分のグループの結果はどうなるか、真剣に見守る。 | ||
さらに高度な8の字走行の課題にもチャレンジ。左右の動きの感覚が難しいが、何度も試行錯誤して、理想の動きに近づけていく。 | ||
次はいよいよロボットを動かしてのボウリング大会。前の課題でロボットの基本的な動かし方はマスターしたので、あとは、どのようなコースでペットボトルのピンをいかに多く倒すかを、何度も考える。 | ||
何度かの試行錯誤のあと、各グループの工夫した点を、先生が画面を使って説明する。 児童は、他のグループの良いところを参考にしながら、さらに工夫を加えていく。 |
||
各グループの作戦もまとまったところで、ボウリング大会にチャレンジ。 2回ずつ走行させ、最高得点のグループを競う。それぞれの結果に一喜一憂する。 |
||
見事、ストライクが出ると、グループは関係なく、クラス全員から歓声が上がる。 先生からのスコア発表のあと、グループの代表が授業の感想を発表する。グループで工夫したり、考えたりしたことが楽しかった様子。 |
||
最後には、思いがけない訪問者、AIBOが登場。前に障害物があると自分で向きを変えて進んだり、音声認識で言うことを聞くのに全員が感動。
先生の粋な計らいにより、最新鋭のロボットに触れることができた。 |
||
テレビの取材にも、元気いっぱいの笑顔で対応。 | ||
(2)福岡市立塩原小学校
実践授業は、以下の内容で実施していただいた。
場所は、体育館を使用された。2列に並べたテーブルに、ノートパソコンを配し、その間を広くとって、ロボットを動かすスペースとした。
4名1グループで、各グループ1台のパソコンと1台のロボットを使用し、チームとして課題に取り組んだ。
授業内容は、授業構成モデルにほぼ沿ったものであったが、6年生ということもあり、モデルにはない判断(条件分岐)やループ(繰り返し)の課題も取り入れて実施された。小学校では初めてのケースであったが、特に混乱はなく、概念は理解できた様子であった。
児童はみな明るい顔をして、自分から楽しく考える姿勢がうかがえた。途中、4年生の児童が見学に訪れた。その何人かは、興味深げに、熱心に6年生に問いかけていた。
まずは、ポールのまわりを回って戻ってくる課題に挑戦。いかに小さく回るか、何度も試しながらプログラムの完成度を上げていく。 | ||
どうすれば、思ったとおりの動きが実現できるか、グループで一生懸命考える。チームワークの重要性を認識する。 | ||
8の字走行の課題にも挑戦。さらに、この後は判断(条件分岐)を使った障害物回避にも取り組んだ。さすが6年生、かなり高度なプログラミングにも果敢にチャレンジし、理解を深めていた。 | ||
いよいよ次はボウリング大会、というところで、4年生が見学に訪れた。楽しく考える6年生の姿をじっくり見学した。熱心な児童は、6年生に質問をしていた。 | ||
どんな動きでペットボトルを倒すのがよいか、紙に書いて設計してみる。考えたとおりにロボットを動かすために、何度も試行錯誤しながらプログラムを組み立てていく。 | ||
先生に作戦のアドバイスを受ける。それぞれのグループがユニークな動きを考え、その楽しさを先生と一緒になって味わう。 実際にロボットを動かしたら、どのようになるか楽しみである。 |
||
広々とした体育館で、児童は思う存分ロボットを動かす。果たして思ったとおりにペットボトルが倒れるか、グループで話し合い、何度も工夫を重ねることが、理想の動きに近づけるためには重要である。 | ||
精一杯工夫を凝らしたプログラム。ロボットは、ペットボトルをうまく倒してくれるだろうか。 コースを見極め、狙いを定めて、ロボット始動スイッチを入れる。 |
||
ペットボトルは見事に全部倒れてストライク。 喜びのあまり、思わず飛び上がって歓声を上げる。目標を見事に達成した充実感が沸きあがる。 最後に、クラスの代表が、授業の感想を発表し、楽しみながら考える授業は終了した。 |
(3)福岡市立若久小学校
実践授業は、以下の内容で実施していただいた。
場所は、コンピュータルームを使用された。室内にはロボットを動かすための十分なスペースが確保できないこともあり、プログラミングはコンピュータルームを利用し、実際にロボットを動かす時は教室前の廊下を利用した。
2名1グループで、各グループ1台のパソコンと1台のロボットを使用し、チームとして課題に取り組んだ。
授業内容は、前半(1、2時)は授業構成モデルに沿って行われ、後半(3、4時)はボウリング競技の代わりに、コース上のペットボトルを倒しながら進んで行く課題を実施された。
授業終了後、昼休みに自由時間を設け、一部の児童が自由にロボットを動かすプログラム作成を行った。判断(条件分岐)のプログラムを試す児童も見られた。また、ロボットにウィリー走行のようなことをさせるプログラムを作成するなど、ユニークな発想が見られた。
「若久ロボカップ」と名付けられたロボットの授業、まずは先生が課題を説明する。 課題は、ペットボトルをターンして戻ってくる「ビギナーコース」、8の字走行を行う「マスターコース」と、チャレンジ精神をより促す工夫がされた。 |
||
机の上で、自分の手でロボットを動かしてみて、プログラムのシミュレーションを行う。 実物で試してみることで、考えがまとまり、理解度が一層高まる。 |
||
友達と協力して、ロボットの動きを入念に考え、プログラムを作っていく。 グループで考えることで、豊富なアイデアが浮かび、動きのバリエーションも増える。 |
||
片方のロボットはうまくペットボトルを回ることができたが、もう片方のロボットはぶつかってしまった。うまくいかなかったグループは、さらに工夫を重ねて完成に近づけていく。 | ||
同校では、自分たちで設計したコースどおりに、ペットボトルを倒しながら進んでいく課題を実施した。 設計図どおりに、うまくロボットを動かすために、試行錯誤を繰り返して課題に挑んだ。 |
||
何度も失敗を繰り返しながら、ついにコース上のペットボトルをすべて倒すことに成功した。知恵と工夫の成果が現れる瞬間である。 喜びの歓声と拍手が起こる。 |
||
こちらのグループも、コースやプログラムを考え抜いた様子が、紙の図からうかがえる。 ロボットの走行を、固唾を飲んで見守っている。 じっくり考えた結果が、ロボットの動きとなって実現したことで、大きな充実感と達成感を残して授業は終了した。 |
(4)兵庫県立高砂南高等学校
実践授業は、以下の内容で実施していただいた。
日時:2004年10月 4日・ 7日(ロボット組み立て)
2004年10月14日・25日・28日(アルゴリズム実習)
学年・科目:2年生 情報活用基礎I 男子23名・女子9名 計32名
4人で1台の割合で8台のロボットを使用
同校では、実際にLEGOのロボットを組み立てるところから授業を開始された。組み立てに苦労していたチームがあったが、四苦八苦しながらも楽しみながら、授業時間を2時間かけ作成することができた。
アルゴリズムの実習は、ロボットを使ったIT教育教材ソフトを使う前に、 順次構造と選択構造の簡単なフローチャートを作成する演習をWordを用いて行い、アルゴリズム作成の前に、VBAにおける演習を事前に行っていた。この事前学習の成果もあり、ロボット教材にもスムーズに移行することができた。
実習課題は、ロボットを使ったIT教育教材ソフトで用意したものに沿って、下記のとおり実施された。
「アルゴリズム」Step1 実習1・2・3
Step2 実習1・2・3
「コンピュータによる計測と制御」Step1 実習1・2・3
約4人ずつの8つの班で、どの班が早く課題を終了させるのかの競争に取り組み、早い班は2時間かけずに終了させることができた。
10月14日は公開授業として、8人の先生方がロボットを活用した授業がどのようなものかを見学していただいた。
ロボットの問題で、逆走してしまうハプニングもあったが、生徒はロボットやプログラムに高い関心を持って授業に臨むことができた様子であった。
座学で単調になりがちなアルゴリズムの学習は、ともすれば苦手意識を持ってしまいがちであったが、この実習を取り入れることで、生徒にも受け入れられやすかった。来年度も、言語でのプログラミング実習の前に、アルゴリズムの演習としてこの教材を用いた授業を行われる予定である。
(5)京都府立京都すばる高等学校
実践授業は、以下の内容で実施していただいた。
実習課題は、ロボットを使ったIT教育教材ソフトで用意したものとは別に、簡単なコースを作成し、そのコースをクリアするためのアルゴリズムを考える課題を独自に設定された。
やはり、自分でプログラムしたものが実際に動くという点で、生徒の興味関心は大きかった。理解度も高いものであった。
ロボットの個体差により、直進安定性確保のための微調整に苦労していた場面も見受けられたが、ほとんどの生徒が、興味を持って主体的に取り組んでいた様子であった。
同校では、ロボットを使ったIT教育教材での授業を、IT人材育成プロジェクトでのアルゴリズム学習の一環に位置づけ、この後、言語を使ったアルゴリズム学習を進められている。また、中学生の体験入学でも導入され、アルゴリズム学習の導入教材として有効に活用されている。
(6)大阪府立清水谷高等学校
実践授業は、以下の内容で実施していただいた。
同校では、ロボットを使ったIT教育教材を利用した授業の前に、事前授業として、アルゴリズムとフローチャートの説明と、産業協力授業によるロボットの授業を実施された。
当日の実習課題は、ロボットを使ったIT教育教材ソフトで用意したものに沿って実施された。
実際に動くものを授業で行うことで、よい動機付けとなり、生徒の興味関心が向上した様子であった。
生徒は、理論的なプログラムと実際の走行の違いをいかに縮めるかを考えることで、すばらしい体験ができたとのコメントをいただいた。
ロボットを使ったIT教育教材でのアルゴリズムの学習の後、より発展的な学習として、MSWlogoによるプログラミングに結び付けることを予定されている。