7.プロジェクトの評価について



7.1 評価の方法について

(1)先生からの評価

 小学校での実践においては、授業を実際に行っていただいた先生、授業の様子を見学された先生とともに、授業後に評価会議を開催し、小学校への導入や活用における有効性や問題点という観点からご意見をうかがった。授業の内容、進行、児童の反応や態度、ロボットや教材ソフトに対する評価などをいただいた。
 高等学校での実践においては、先生からの実践結果レポートの形で評価をいただいた。

(2)児童からの評価

 授業中の児童の様子を観察し、取り組み姿勢や楽しさの度合いの評価を行った。また、授業中に質問対応やヒアリングを行い、授業に対する意識をその都度確認した。授業の様子はビデオ録画し、第三者が見てもその様子がわかるようまとめた。
 授業終了後に、アンケートに記入してもらい、意識調査のためのデータを収集した。さらに、数日後には感想文を書いてもらい、授業のことを振り返って考える機会を設けた。
 児童へのアンケート項目は、下記のとおりである。

○ロボットを使った授業は楽しかったですか? (はい ・ いいえ)
○ロボットを使った授業はまたしたいですか? (はい ・ いいえ)
○授業を受ける前は、ロボットを動かすことについて、どのように思っていましたか?
   (1)とても難しいだろうと思った    (2)難しいかもしれないと思った
   (3)簡単にできると思った       (4)何も思わなかった
○実際にロボットを動かしてみて、どのように思いましたか?
   (1)とても難しかった         (2)少し難しかった
   (3)簡単だった            (4)何も思わなかった
○将来、ロボットやコンピュータなどにかかわる仕事をやってみたいですか?
   (1)とてもやりたい          (2)できればやりたい
   (3)まだわからない          (4)興味がない
○楽しかったことを書きましょう。
○困ったことがあれば書きましょう。

 

7.2 評価の結果について

(1)先生からの評価

【総論】

  小学校での実践では、フローチャートを用いたプログラミングという、この年齢においては少し高度な概念を脱し、順次処理だけを組み合わせてロボットの動きを作ることでも、工夫と思考を誘導できることが検証された。高学年においては、時間をかけてじっくり取り組むことにより、判断や繰り返しというロジカルな思考を伴う実習を取り入れることも可能である。
 競技の要素を取り入れたことにより、目標がより明確になり、得点に一喜一憂しながら、ロボットの動きを調整し、様々な試行錯誤を行っていた。それが、無意識のうちに、「楽しく考える」ことにつながっていた。
 さらに、グループ内のチームワークやコミュニケーション力の養成にも効果的であることが明らかとなった。

【有効性】

【課題】

(2)児童からの評価

 授業中の児童の観察やヒアリングを通じた評価の結果、全員が明るい顔をして、自分から楽しく考えながら取り組み、活き活きとした姿勢で授業に臨んで様子がうかがえた。グループ内の討議も真剣そのもので、ロボットの動きに様々な工夫を加え、試行錯誤して結果を出すことに正面から取り組んでいた。当初予想していた以上に、とても楽しい、活気あふれる有意義な授業になったことは、嬉しい誤算であったといっても過言ではないだろう。

 次に、アンケート結果から得られた評価を考察する。
 「ロボットを使った授業は楽しかったですか?」「ロボットを使った授業はまたしたいですか?」の質問には、ほぼ全員の児童が「はい」の回答を行った。楽しめる、興味があるという面では、最高の結果となった。

 授業前と授業後における、ロボットを操作することに対する印象は、事前、事後どちらも、「とても難しい」「少し難しい」という意見が8割以上を占めた。しかしこれは、難しいからいやだ、という意見ではなく、「難しいから楽しい」というものであることが、授業の楽しさに対するデータや、感想文の内容からの分析で明らかとなった。授業を観察した結果からも、その様子は明らかである。
 考えて工夫すること、試行錯誤すること、グループで課題解決の話し合いをすること自体を、楽しく自然と行うことができた結果と考える。
 この結果の学校間の差はほとんどなかったが、学年による差があらわれた。やはり学年が上がるほど、授業後は思ったより簡単であったという意見が増えるようになる。
 さらに、過去に実施した中学校での実践授業のアンケート結果と比較すると、興味深い結果が現れる。中学生以上の場合は、ロボットそのもののキャリブレーションは本質ではなく、アルゴリズムを考えることが主眼の授業であることを十分認識しており、しかもそれがロボットの動きで確認できることの楽しさが現れていた。小学校の場合は、少し難しいかもしれないことに果敢にチャレンジし、その過程をロボットの動作の微調整という試行錯誤で、必死に考えることを楽しんでいると見受けられる。これは、競技の要素を取り入れたことが大きく影響しているといえる。


 将来の仕事についての質問には、ロボットやコンピュータに関わる仕事を、「とてもやりたい」「できればやりたい」と回答した児童が30%強であった。この授業をきっかけに、将来の夢をふくらませた児童も少なくないと思われる。
 しかし、「まだわからない」と回答した児童が60%近くであった。小学校高学年では、遠い将来の夢が具体的に定まっていないのも無理はないと思われる。この年代においては、様々なものにまず触れてみることが重要であり、今回の授業はその経験を作る上での意義があったことで、先生方からも評価をいただいている。

 授業を受けて、楽しかったことを自由に書いてもらった。その多くは、「ロボットを自分で動かしたことが楽しかった」「課題をクリアするために、何度も工夫して考えたことが楽しかった」「グループの仲間と一緒に考えるのが楽しかった」という内容であり、授業の様子を観察した結果からも、素直な感想であると思われる。
 以下に代表的なものを記載する。

プログラミングをやるとき、どうしたらいいか考えるのがむずかしかったけど、友達が「こうしたら?」とか2人で考えるのが楽しかった。
ロボットをプログラムして楽しかった。友だちとも仲よくなれたし、自分で動かす楽しさを味わえた。
動かしながら考えるのが楽しかったです。実際に動かすのは、自分が動かしていると思うと楽しかったし、せいこうすると楽しかったです。
最初は簡単だとおもってたけどむずかしくてびっくりしました。でもお友達と協力し合ってできたときはとてもうれしかったです。
プログラムをやって、自分の入れた通りに動いた時や、考えて、どう入れていくか(動き)とするときが楽しかったです。
「これで、全てたおせるだろう。」と思っていたのが、たおせなくて、でも逆にそれで、のめりこんだ。
いっしょうけんめい考えて、成功したのが楽しかったです。
どんなふうに動くかイメージして、そのとおりになった時がうれしかった。
とくに、ボウリングがおもしろかった! 全部たおすと、すごくはしゃいで、「ヤッター!」と叫ぶほどでした。当たらなかったときは、すごくくやしかった〜!
家にいるロボットは同じようなことしかできなかったけど、このロボットはコンピュータのしれいで動くから大変おもしろかったです。あと、ロボットを目的の場所までいくには、考えがひつようだと思いました。
ロボットが動いてほしいように、よく考えながら入力していくのが楽しかった。そして、ロボットがしじ通りにまがったり障害物をよけたりしてくれるのがとても感動的だった。
ちょうせいをするのがおもしろかった。ペットボトルをたおしやすくちょうせいしたのが楽しかった。
ワイパー作戦をしようと思ったけれど失敗して新しいやり方を考えるのが楽しかった。
きのうとちがってかいてんとか調整をすごくかえてやった。むずかしかったけどすっごくたのしかった。

 また、授業中に困ったことがあれば自由に書いてもらった。全体的に、あまり困った様子はなく、記入も数人にとどまった。その意見は、ロボットの個体差や床の状況、電池の消耗度などの要因で、直進安定性や曲がる角度の微調整が大変であったことに集約されていた。

 授業の感想文を寄せてくれた学校もあった。どの感想文も活き活きと書かれ、楽しかった授業をふりかえっている様子であった。将来の夢や情報社会の未来について言及する内容のものもあり、この授業が、ただ楽しかっただけでなく、自分のこと、友達のこと、社会のことについて考えるきっかけとなる面があったと思われる。
 以下に代表的なものを掲載する。

【授業の感想文】

 

【授業の感想文】

(3)3年間の学校での実践とその評価

 当プロジェクトにおいて、過去3年間の学校での実践とその評価につき、概要を以下の表にまとめる。

【平成14年度】

実践校
評価
大分県立別府
鶴見丘高等学校
生徒の興味が高く、自発的にグループ議論を始めたのには驚いた。情報はもとより、数学にも活用できそうである。
大分県立大分
雄城台高等学校
言語での実習と違い、シンタックスエラーが出ないため、授業の進行がよく、思考に集中できるので理解度も高い。
大分市立
滝尾中学校
実際にロボット(AIBO)を自分のプログラムで動かすことで、生徒の興味、関心を大いに引く。

【平成15年度】

実践校
評価
北海道教育大学
附属札幌中学校
制御の学習として、またプログラムの学習として最適であることは多くの先生方もわかっているはずなので、普及を期待する。
福岡市立
平尾中学校
試行錯誤の繰り返しで、プログラムを完成までこぎつけた充実感をみんなで共有していた。
大分市立
滝尾中学校
安価なロボット(LEGO Spybotics)でも学習効果は十分である。台数が多い分、生徒が各自でじっくり取り組める。
大分県立別府
鶴見丘高等学校
思ったとおりのプログラムを作る目標は達成された。ロボットへのプログラム転送は、通信の実感を持つのに有効であった。
スコーレアソカ
博多リバレイン
教室
小中学生を対象とした一般のロボット工作教室で実践。低学年の子も、年上の子の世話で楽しく学習した。小学校での実践の可能性を生んだ。

【平成16年度】

実践校
評価
玉野市立
第二日比小学校
楽しみながら考え、工夫することを自然に行うことができる。意見を出し合いながら課題解決をすることが定着してきた。
福岡市立
塩原小学校
これほど子供たちが楽しく活き活きと取り組める授業は例を見ない。学校の取り組みのアピールにも有効である。
福岡市立
若久小学校
将来の日本の技術の担い手を育成するためにも、学校現場にロボット教育を積極的に取り入れたい。
兵庫県立
高砂南高等学校
アルゴリズムと実際の言語学習との間の理解のギャップを埋めるため、フローチャート教材を用いることは非常に有効である。
京都府立京都
すばる高等学校
言語学習の前段階としての、アルゴリズム学習の導入には非常に使いやすい教材である。
大阪府立
清水谷高等学校
生徒は、理論的なプログラムと実際の走行の違いをいかに縮めるかを考えることで、すばらしい体験をした。

 



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