3.プロジェクトの実践(学力の向上について)




3.1

1.実践テーマ:

「確かな学力を身に付けるeラーニングを活用したふりかえり学習の実践」

2.執筆者:

つくば市並木小学校 教諭 野村光弘

3.キーワード:

小学校,5年,国語,短歌と俳句,eラーニング,グループウェア,テレビ会議システム

4.IT活用の意図

  児童に「確かな学力」を身に付けさせるためには,「ふりかえり」をともなった授業及び学習過程の工夫が必要であると考える。
 そこで,eラーニングを授業に導入することにより,教師は児童一人一人の学習習熟度を把握し,より具体的に個に応じた指導を行うことができると考える。そして,児童はeラーニングを活用して学習内容をふりかえり,自分のペースで納得のいくまで何度も繰り返し学習することができることにより,児童は完全に基礎・基本の学習内容を習得することができると考える。
 さらに,話し合い活動を充実させるために電子メールや電子掲示板,テレビ会議システムを活用した遠隔共同学習を授業に導入する。これにより,児童の学習は広がり,児童は話し合いを通して様々な考え方や解決方法を知り,それらを活用して学習問題をよりよく解決していく資質や能力を育てることができると考える。

5.単元名

(1)単元名 短歌と俳句

(2)指導目標
短歌や俳句に興味を持ち,リズムや季節感をとらえようとする。(関心・意欲・態度)
短歌や俳句を情景や心情に注意して読み取ることができるようにする。(読むこと)
短歌と俳句の文語調の表現を読み,親しむことができるようにする。(言語事項)

(3)利用場面
eラーニング 
 教科書の学習内容終了後に利用し,基礎的・基本的内容の習熟度を教師及び児童がふりかえり,確認する。
電子ノート
 発展学習として,各自で短歌や俳句をつくり,電子ノートにコメントやイラストをまじえてまとめる。
電子メール,電子掲示板
 児童の作品を電子掲示板(市の「国語の広場」の掲示板)に登録する。児童が相互に作品を読み合い,感想や意見,アドバイスなどの情報を交換するために電子メールを活用する。
テレビ会議システム
 話し合い活動や意見,感想などの情報交換をより充実させるために,テレビ会議システムを活用する。

(4)利用環境

使用機種

コンピュータ室 DOS/V機 42台
ワイヤレスLANアクセスポイント 10台
ワイヤレスLAN用ノートパソコン 40台

周辺機器

電子情報ボード(スマートボード) 3台
プロジェクター 3台
テレビ会議システム 1台
プリンタ(エプソンPA670他) 15台

稼働環境

全コンピュータLAN接続
各教室及び特別室 無線LAN設置
インターネットには,光ケーブルを使って専用線接続

利用ソフト

スタディノート,インタラクティブスタディ
インターネットエクスプローラ6.02

6.指導計画,指導案

 「確かな学力」とは,「基礎・基本の確実な定着」と「よりよく問題を解決する資質や能力」を指すと考える。そこで,「確かな学力」を向上させるために,国語の単元「短歌と俳句」の学習において,eラーニングを利用したふりかえりの学習と電子メールやテレビ会議システムを利用した交流学習を次のように実施した。
(1)指導計画
第1時・・・短歌と俳句のあらましを知る。
第2時・・・短歌と俳句のあらましを確認する。(eラーニングの活用)
第3時・・・短歌や俳句を朗読し,意味や内容をつかんで感想をもつ。
第4時・・・好きな季節を選び,短歌や俳句をつくる。(電子ノートの活用)
第5,6時[本時 第4時]・・・各自の短歌や俳句を発表し,他校の児童とお互いの作品について話し合う。(電子メール,電子掲示板,テレビ会議システムの活用)
(2)指導の実践
基礎・基本を確実に身に付けるための「eラーニングふりかえり学習」の実践
 「確かな学力」を身につけさせるためには,日々の授業において「ふりかえり」をともなう学習活動を展開することが大切である。
 そこで,国語の単元「短歌と俳句」の学習では,教科書に載っている柿本人麻呂(万葉集)などの短歌や松尾芭蕉,小林一茶などの俳句をもとに,季語や短歌・俳句のルールなどを学習し,情景や作者の気持ちについて感想を発表し合った。

 次に,これまでの学習内容についてプレテストを実施した。児童は学習内容をふりかえり,各自が習熟度を把握したうえで,eラーニングの練習問題に取り組んだ。児童は短歌と俳句のルールに関する問題を100点になるまで何回も繰り返し行った(図1)。児童がeラーニングの練習問題に取り組んでいる間,教師は管理画面で児童一人一人の学習進度や正解率などについて確認する。そして,練習問題に行き詰っている児童を画面上で発見すると児童の席に向かい個別に指導を行った。
そして,eラーニングの練習問題で児童全員が100点をとった後に,ポストテストを行い学習内容の完全習得をめざした。

【図1eラーニングで学習する児童】

電子メールとテレビ会議を併用した「交流学習」の実践

 教科書を活用した授業の後に,eラーニングを利用して短歌・俳句のルールについて学習し,完全に学習内容を習得した児童は,次に自分の好きな季節を選び,短歌や俳句づくりを行った。この後の発表会でのプレゼンテーションを考慮して,グループウェアのノート機能を活用してデジタルノートにまとめた。
児童は,作品に込めた思いや考え,イラストなどを交え,それぞれに表現の仕方を工夫しながら,分かりやすくきれいにまとめることができた。(図2)

【図2 児童の作品】

 次に,それぞれの作品をグループウェアのデータベースに登録し,お互いの作品について感想やアドバイスなどの意見交換を行った(図3)。

【図3 アドバイスメール】

 次に,それをもとに作品をつくりなおして,再度,市の電子掲示板「国語の広場」に登録した(図4)。
 数日後に,電子掲示板に登録した本校の児童の作品を見た吉沼小学校の児童から,テレビ会議を活用した合同発表会の依頼があった。そこで,テレビ会議を活用した発表会の日時を決めた後,発表会までにそれぞれの作品を電子掲示板で確認し,自分の考えや作品の感想を持ち寄り,並木小と吉沼小の合同発表会を行った(図5)。
 司会・進行は本校の児童が行い,それぞれが自分の作品に自信を持ち,活発に意見交換を行うことができた。事前にお互いの作品を確認しているため,発表会はスムーズに進み,ポイントを絞った話し合い活動を行うことができた(図6)。

【図4 電子掲示板「国語の広場」を
活用した吉沼小とのやりとり】
 
【図5 電子情報ボードを活用して
作品を発表している本校の児童】
【図6 テレビ会議でアドバイスをする
吉沼小学校の児童】

(3)本時の学習
本時のねらい

準備物
児童の作品,ノート,テレビ会議システム,コンピュータ,電子情報ボード,プロジェクター
【授業の視点】
 前時までに各自の作品をグループウェアのノート機能でまとめ,電子掲示板に登録した。次に,グループで読み合い友達のアドバイスをもとに「自分の最高傑作」として一つの作品をつくり上げた。その作品について,テレビ会議システムを活用して吉沼小学校の5年生児童に聞いてもらい意見交換を行うことにより,短歌・俳句づくりの参考にしていくとともに鑑賞の仕方を深めたい。
展 開

7.成果と課題

@「eラーニングふりかえり学習」の実践成果
  担任教師が一人で行う一斉授業では,机間巡視を行いながらの個別指導に限度がある。      
 eラーニングを授業に導入することにより,児童がeラーニングの練習問題に取り組んでいる間は(図7),個別指導の時間を確保することができた。また,児童の学習内容の習熟度やつまずきなどが管理画面上で容易に把握することができ,ピンポイントで個に応じた指導を行うことができた。

【図7eラーニングの問題「短歌と俳句」】

 児童は,eラーニングでふりかえりながら,基礎・基本の学習内容を一つ一つ確実に習得することができた。その結果,授業にeラーニングを導入した5回目以降の単元テストのクラス平均点は上がり(図8),成績中位の児童と下位の児童の意欲や基礎・基本の習得は確実に向上していることが分かった(図9)。

【図8 単元テスト平均グラフ】
 
【図9 プレ・ポストテストの結果】

(2)課題
 eラーニングによる学習効果は,中位・下位の児童にとってはかなりの効果があり,優位(※分散分析)であった。しかし,上位の児童にとっては問題が簡単すぎたようである。上位児が優位な効果を得るための問題及び学習システムについて,さらに追究していく必要がある。また,これまでの実践を通して,交流及び共同学習のより望まし構成は見えてきた。しかし,児童の意見交換や情報交換が単発であり,継続しないなどの問題点も見られた。そこで,この原因を解明し,意味のある効果的な交流及び共同学習を実現するための留意点や活動過程の中で教師がどのように働きかけることが重要なのかを明らかにしていきたい。 
8.ワンポイント・アドバイス
 eラーニングを授業に導入すれば,即効果が上がるというわけではない。児童の実態とeラーニングの問題の難易度を照らし合わせて,授業を工夫していく必要がある。

※ 分散分析 
 今回の実践研究においては,ITの活用が学力の向上に本当に効果があったかどうかを判定するための方法として,多くの場合分散分析を採用した。 
  これまで,2つのテストの得点を比較する場合には,それぞれの平均値で比べていた。しかしそれでは,数名の子どもの点数が大きく伸びるとすぐに平均値が変化してしまう。もし一部の子どもによる変化であれば、平均値が上がったとしても、それは偶然かもしれない為,すべての子どもに学習効果があったかどうかを調べる必要がある。そのために分散分析という方法を今回は用いた。分散分析は,データのバラツキを要因別に分解し比較するため,任意のグループの得点や成績などの差が本当の差なのかを調べることが可能である。 
  一般的に分析の結果は,pの値を見ることで判断する。+p<.10とは,10回に1回の確率で誤差が生じ,**p<.01は,100回に1回の確率で 誤差が生じることを意味する。つまり,**p<.01の方が,より効果が現れている(優位な差がある)ということになる。

3.2

1.実践テーマ:

「確かな学力をつける算数科におけるeラーニング活用の在り方」

2.執筆者:

つくば市竹園東小学校 吉田 浩

3.キーワード:

小学校、5年、算数

4.IT活用の意図:(企画のねらい目的、学校間交流、地域との交流等の意図を記述)
 本校では,一人一人に確かな学力を身に付けるために,算数科において友達同士の「学び合い,高め合い」を重視し,一斉授業において学力を向上させることに力を入れてきた。
 しかし,一斉授業だけでは,子どもたち一人一人が完全に,確かな学力をつけるのには限界があった。どの子どもがどこの部分をどれだけ理解が不足しているのか,完全につかむことができないのである。
 そこで,各単元末に,eラーニングを授業にて活用することで,一人一人がどこでつまずいているのか教師が知ることができる。教師はそのことにより,一人一人に対する指導の手立てを講じることができ,一人一人に確かな学力を保証できると考えた。

5.単元名:(ねらい/指導目標/利用場面/利用環境)

単 元 :

小学校5年生2,3学期の算数の単元
「図形の角」
「小数でかける計算」
「小数でわる計算」

ねらい :

基礎・基本的な内容を全員の子どもが完全に理解できるようにする。

利用場面:

単元終了後のまとめの時に実施

利用環境:

コンピュータ室(生徒用PC40台,教師用1台)

6.指導計画,指導案:
(1) 図形の角
  単元末に,1時間,eラーニングを活用した授業を入れた。この教材は,子どもが 間違えやすい設問に関しては,その間違いを解消してくれるプログラムが組まれている。この教材に取り組むことにより,一斉授業で解決できなかったつまずきをこの学習で解消し,学習内容を全員の子どもが完全に理解できるようにしたいと考えた。
 5年生3クラスで実施した。3クラス共,単元の学習前に,プレテストを行った。2クラスでは,eラーニングの学習の前にテストを行い,1クラスは,eラーニングの学習後にテストを行った。
  テストの結果は,図1のようである。

【図1:「図形の角」におけるプレ・ポストテストの結果】

 プレテストでは,どのクラスも差は感じられない。しかし,ポストテストは,eラーニングを実施してからポストテストを行ったクラスと,eラーニングを実施しないでポストテストを行ったクラスでは,eラーニングを実施してからポストテストを行ったクラスの方が点数の上昇が高いことが分かる。また,それぞれのデータを分散分析にかけると,1%水準で優位な差(F=9.12,**P<.01)が認められたので,学習効果が高いことがわかった。
  さらに,細かく分析していくと,eラーニングを活用した授業で,つまずきを解消した児童が8名みられた。その中で多かったのが,4年生の学習内容を忘れていたことが原因で間違えたことである。間違えた子どもたちも,次のつまずきを解消してくれるプログラム(図2参照)で学習することで,これらのつまずきを解消することができた。

【図2 つまずきを修正してくれるプログラム例】

 なお,学習後の自己評価で,『「二等辺三角形の2つの角の大きさは等しい」「平行四辺形の向かい合う角の大きさは等しい」など,4年生の学習内容を忘れていて,この学習で思い出すことができて良かった。』といった内容のものが多かった。eラーニングを活用した授業を行うことで,4年生の学習内容で忘れていたものを,思い出すことができたり,理解が曖昧になっていたものが,しっかりと理解できたりしたことが分かる。
 eラーニングを活用した授業後のポストテストでは,内容を理解できていないでの間違いは,ほとんどなかった。計算間違いでの間違いがわずかではあるが,あっただけである。その反面,eラーニングを活用しないで,ポストテストを行ったクラスでは,内容を理解しないでの間違いがみられた。
 また,このeラーニングを活用した学習では,子どもの学習の履歴を全てサーバー上に残すことができるのである。学習中も,教師用コンピュータの画面(図3参照)を見ることで,どの子どもがどこの設問でつまずいているか発見することができる。
 この授業では,6名の子どものつまずきを発見し,支援することができた。さらに,授業が終わった後で,子どもたちの学習の履歴を確認したところ,授業で発見できなかった1名のつまずきを発見することができた。eラーニングを活用した授業後のポストテストの結果が良い結果となっているのも,これらが一つの大きな要因となっている。

【図3:子どものつまずきを発見する
教師用コンピュータの画面】

 しかし,この授業では,早く終わってしまう子どもには,時間をもてあますなど,課題を残した。つまずきのある子どもには大変有効であったが,得意とする子どもには,学習事項を確認するだけで,学力を向上させることができなかった。

(2)小数でかける計算
 (1)の実践と同じように,単元末に,1時間,eラーニングを活用した授業を取り入れた。今度は,eラーニングを活用した授業後にテストするクラスと,eラーニングを活用した授業前にテストをするクラスを,(1)の実践と入れ替えた。
  テストの結果は,次の通りである。

図1:「小数でかけるかけ算」におけるプレ・ポストテストの結果

(1)とクラスを入れ替えたにもかかわらず,プレテストの結果は変わらなかったが,eラーニングを活用した授業後にテストを行ったクラスの方が,数値が高いことが分かる。また,それぞれのデータを分散分析にかけると,1%水準で優位な差(F=7.25,**P<.01)が認められたので,学習効果が高いことがわかった。
 この授業では,早く終わった子どもに対応するために,レベルアッププリントを用意し,難易度の高い問題にチャレンジできるように配慮した。そのことにより,早く終わってしまう子も,さらに難易度の高い問題にチャレンジすることができた。
しかし,これらの学習を,eラーニングで進めることができないかと考えた。そのことにより,学習効果がさらに高まるのではないかと考えた。

図2:eラーニング学習の様子

(3)小数でわる計算
 (1),(2)の実践と同じように,単元末に,1時間,eラーニングを活用した授業を取り入れた。eラーニングを活用した授業後にテストするクラスと,eラーニングを活用した授業前にテストをするクラスを,(1)(2)の実践と入れ替えた。
 テストの結果は,次の通りである。

図3:「小数でわるわり算」におけるプレ・ポストテストの結果

 この結果を見ると,プレテストでは,どのクラスも同じような数値なのに対して,ポストテストでは,eラーニングを活用した授業後にテストを行ったクラスの方が,数値が高いことが分かる。また,それぞれのデータを分散分析にかけると,1%水準で優位な差(F=10.25,**P<.01)が認められたので,学習効果が高いことがわかった。
 この実践では,eラーニングを活用した授業に,発展的な内容を盛り込んだ。(1)の実践での反省を基にしたものである。早く終わってしまった子どもは,発展的な学習に取り組むことで,さらに力をつけることができると考えたからである。

図4:発展的な内容の例

図5:発展的な内容を分かりやすく支援してくれるプログラム

 発展的な内容は,図4のようである。学習指導要領に示されている内容は,小数第1位までの小数をわるわり算であるが,これは,小数第2位でわるわり算である。
 しかし,図5のような,発展的な内容でも分かりやすく支援してくれるプログラムがあるので,子どもたちは,教師の支援がなくても学習を進めることができた。
 この授業では,つまずきのある子どもは,基本的な学習コースで,つまずきを解消し,得意とする子どもは,基本的な学習コースで,基本を学習し,さらに発展的な学習をすることができ,一人一人の状況にあった学習ができた。
 また,この実践では,(1)(2)の実践に比べて,ポストテストの結果が,eラーニングを活用した授業を実施した後にテストを行ったクラスの数値の伸びが大きいことが分かる。このことから,eラーニングを活用した授業の中に発展的な内容を盛り込むと,さらに効果が上がるということが分かった。

(4) 家庭学習,個別指導でのeラーニング活用
 このeラーニング学習は,家庭でもインターネットを介して,取り組むことができる。特に,算数を苦手としている子どもにとっては,「自分のペースで学習に取り組むことができる」「間違った場合も,その間違いを修正してくれるプログラムがある」ということから,子ども,保護者からも好評である。
 ある子どもの例を紹介する。算数を苦手としている子どもである。夏休みの長期休業日を利用して,1年生からの算数の教材を使って復習を始めた。家庭で取り組むとともに,夏休みに学校に登校し,eラーニング学習に励んだ。すると,2年生,3年生の学習内容での大きなつまずきを発見し,eラーニング学習の間違いを修正してくれるプログラムにより,大きなつまずきを解消することができた。その結果,5年生の学習内容もスムーズに解けるようになった。さらに,2学期になっても,家庭学習で,eラーニング学習に取り組みつづけた。その子どもの,夏休み前,夏休み後のポストテストの結果は,図6のようである。

図6:ある子どものポストテストの結果

 この結果を見ると,eラーニング学習を集中的にした夏休み前(1学期期末テスト)と夏休み後(図形の角)で,大きく向上しているのが分かる。その後も,安定した成績を保っている。このことから,授業だけでなく,家庭学習でも活用することで,学力が向上することが分かる。

(5)休み時間,放課後のeラーニング学習
 本校では,だれもが,休み時間・放課後もeラーニング学習ができるように,コンピュータ室,各教室のコンピュータが使えるようにしている。子どもたちは,自由に教材を選択し,学習に励んでいる。苦手な教科の学習をする子どももいれば,得意な教科の学習をする子どもも多い。休み時間のコンピュータ室は,3年生から6年生まででいっぱいである。休み時間に,ドリルなど自ら学習する子どもはほとんど見られない。しかし,eラーニング学習であれば,自ら学習する子どもが多い。eラーニング学習は,自ら学習するなど効果も高い。

図7:休み時間に学習する姿

7 成果と課題:(学習意欲の向上等の成果,今後の課題等)
 (1)〜(3)の結果から,eラーニングを活用した授業をすることで,学力が向上することが明らかになった。さらに,発展問題などeラーニングの教材を工夫することにより,より学力を向上させることができることが分かった。
 5年生の子ども全員に聞いたところ,eラーニングを活用した授業は,全員が楽しみにしているという。そして,このことから,算数が好きになったと答える子どもも多い。eラーニングを活用した授業は,学力を向上させるだけでなく,学習意欲を向上させることにもつながっている。
 また,授業だけでなく,家庭学習での活用,放課後や休み時間の活用とをうまく兼ね合わせることで,さらに効果が高くなることが分かった。
 今後の課題として,さらに,教材を子どもが使いやすく改善していくことである。それは,教材によって,子どもの学習の充実度が変わっていくためである。今後も,教材をよりよくし,子どもの学力向上に努めていきたい。

3.3

1.実践テーマ:

「eラーニング教材を使ったステップアップ学習による完全習得学習」

2.執筆者:

つくば市並木小学校 久保田善彦

3.キーワード:

小学校、6年、理科

4.IT活用の意図

 つくば市では,つくばオンラインスタディの導入によってeラーニング教材を各家庭から利用できるようになっている。主に家庭では自主学習として,各自のペースで学習を進めている。もちろん,学校でも同じ教材を利用することができる。しかし学校でeラーニング教材を利用する場合は,教師が適切な指導をすることで,更に個に応じた学習を展開できると考える。これによって,すべての児童の学力を保証することを目指す。
 今回利用したeラーニング教材は,学力が中位に位置する子どもにとって効果があることがわかった。そこで,学力が下位な子どもには,教師と一緒に問題を解くコースを設定した。また学力上位の子どもには,補充問題を用意し学力の定着を促すことにした。これよってすべての児童が学力を向上させることができた。

図1:放課後,つくばオンラインスタディを利用する

5.単元名

単 元 :

水溶液の性質

ねらい :

基礎・基本的な内容を全児童が理解できるようにする。
学習内容を十分に定着させる。

利用場面:

単元終了後のまとめの時に実施

利用環境:

コンピュータ室(生徒用PC40台,教師用PC1台)

6.指導計画、指導案:(指導計画の中でのIT活用の利用場面等)
(1)eラーニング教材の特性の把握
 学校においてeラーニング教材を効果的に活用するために,eラーニング教材の性格を分析した。ステップアップ学習を行う「水溶液の性質」の前の単元「土地のつくりと変化」において,eラーニング教材の効果を分析した。
 まず,単元のはじめにAクラスとBクラスの2クラスでプレテストを行った。両クラスとも,同様に授業を進めた。単元終了時にAクラスは,プリントによる問題演習を実施後にポストテストを行った。Bクラスは,単元終了後に,Aクラスと同じプリントによる問題演習とeラーニング教材を実施した。その結果が図2である。eラーニングを実施したクラスの方が,平均値の伸びが高いことがわかる。分散分析を行うと,どちらのクラスもプレテスト・ポストテスト間で優位な差が認められた。(F=8.28,**p<.01) しかし,eラーニングの実施,未実施による学習効果は十分に認められなかった。
 次に,プレテストの点数をもとに,学力が下位の児童の得点変化,学力が中位の児童の得点変化,学力が上位の児童の得点変化を分析した。図3がそれぞれの変化を示したグラフである。

図2:大地の変化におけるプレ・ポストテストの結果

 それぞれのデータを分散分析にかけると,下位群は,eラーニングの実施による学習効果は認められなかった。(F=0.05, n.s.) 中位群の児童は,1%水準で優位な差(F=10.34,**p<.01)が認められたので,学習効果が高いことがわかった。上位群の児童は,優位な傾向が認められた。(F=4.33,+p<.10) 多少の学習効果があったといえる。これらの分析から,利用しているeラーニング教材は,学力中位の児童にもっとも効果が高いことがわかる。学力上位の児童には学習効果がわずかながら認められるが,学力下位の児童にとっては十分な学習効果が認められなかった。

図3:学力別のプレ・ポストテストの結果

  これらの分析から,本教材を利用して完全習得学習を目指すのであれば,学力下位の児童と学力上位の児童に対する教師の手だてが必要であることがわかる。

(2)すべての学力の児童に応じた学習の工夫

図4:ステップアップ学習の概念図

 分散分析の結果からわかるように,学力に応じた教師の手だてが必要になる。学力が下位の児童には,教師が寄り添いいっしょに問題を解くこととした。学力が上位の児童には,より多くの問題にチャレンジできるように問題演習プリントを行わせることとした。児童の学力向上に合わせて学習ができるように,図4のようなステップアップ学習を行った。

 ステップアップ学習とは,eラーニング教材による到達度評価をもとに,自分のレベルに合わせた学習を順番に行っていくものである。この学習は,一つのステップの学習をマスターできた児童が次のステップに進むことができるためステップアップ学習という。
 教材には,eラーニング教材(基本編),eラーニング教材(応用編),問題演習プリントを用意する。具体的な進め方であるが,eラーニング教材(基本編)によって各児童の到達度を評価する。この段階で70点以下の児童は,教師と一緒にeラーニング教材(基本編)を解くことになる。70点以上の児童は,自分の力で再度,問題を解く。100点がとれた児童は,eラーニング教材(応用編)に進む。この教材は,児童の自分の力もしくは友人と協力しながら解いていく。eラーニング教材(応用編)が100点になった児童は,プリント学習へ進む。プリント学習は,教室内の模範解答をみながら自力で学習を進める。

図5:eラーニング教材を行っている様子
図6:教師用画面

7.成果と課題:(学習意欲の向上等の成果、今後の課題等)

 この学習で教師は,教師用画面の学習状況画面を注意深く見ることになる。この画面から,つまずいている下位の児童を素早く発見し,「先生と一緒コース」を行う。
 コンピュータ室でのeラーニング教材の利用は,児童の学習履歴がとれる。100点がとれなかった児童が,再度問題演習にチャレンジした場合は,前回できなかった問題のみを学習できる仕組みになっている。そのため,何が間違っていたのかをきちんと振り返りながら学習を進めることができた。
 eラーニング教材(応用編)および問題演習プリントは,まず最初は自分の力で解き,どうしてもできない場合は,友人に相談しながら解いていた。
 図8は,ステップアップ学習を行ったクラスと行っていないクラスによる,学習効果の比較である。分散分析を行った結果,下位群は*p<.05で優位な差が認められた。中位群と上位群は,どちらも**p<.01であり,より学習効果があったことが分かる。eラーニング教材による学習だけでは,中位群の児童のみしか高い学習効果を示さなかったが,ステップアップ学習を行うと,すべての学力の児童に学力の向上がみられた。

図7:プリント学習を行っている様子

図8:ステップアップ学習の効果

8.ワンポイント・アドバイス
 ステップアップ学習は,習熟度別学習と位置づけることもできる。学習者のレベルや個に応じた教材を用意することでそれが可能になる。eラーニング教材は,子どもの力で学習が進められる,自分の学習成果が振り返られる,必要なところだけ学習できるなど利点が多い学習形態である。教科は,理科だけでなく,算数や社会など様々な教科に利用ができる。
 また,eラーニング教材を行うことは,学力が伸びるが,すべての児童に確かな学力を保証しようとするならば,その教材の性格(難易度や出題傾向)と児童の実態に即した学習計画を立てる必要があるだろう。

3.4

1.実践テーマ:

「eラーニングを活用した完全習得学習の授業実践」

2.執筆者:

つくば市並木小学校 教諭 野村光弘

3.キーワード:

小学校,5年,理科,てことものの重さ,eラーニング

4.IT活用の意図
 基礎・基本の学習内容を確実に身に付けさせるためには,ふりかえりをともなった学習が必要である。
 そこで,授業終了後にプレテストで既習内容や習熟度をふりかえり,習得が不十分なところをeラーニングで繰り返し練習することにより,児童は完全に基礎・基本の学習内容を習得することができると考える。
 さらに,教師は児童一人一人の学習習熟度を的確に把握し,より具体的に個に応じた指導を行うことができると考える。

5.単元名
(1)単元名 てことものの重さ
(2)指導目標
  てこを使い,力の加わる位置や大きさを変えて,てこの仕組みやはたらきについて調べ,てこの規則性についての考えをもつことができる。
(3)利用場面
  教科書の学習内容終了後に補足的・発展的学習としてeラーニングを利用し,基礎的・基本的内容や習熟度を教師及び児童がふりかえり,確認する。
 家庭でもeラーニングで繰り返し練習し,内容を完全に習得させる。
(4)利用環境

使用機種

コンピュータ室 DOS/V機 42台
ワイヤレスLANアクセスポイント 10台
ワイヤレスLAN用ノートパソコン 40台

周辺機器

電子情報ボード(スマートボード) 3台        
プロジェクター 3台

稼働環境

全コンピュータLAN接続
各教室及び特別室 無線LAN設置

利用ソフト

インタラクティブスタディ
インターネットエクスプローラ6.02

6.指導計画,指導案
(1)指導計画
第1〜3時・・・てこのはたらき
第5〜9時・・・てこのつり合いとものの重さ
第10時・・・ふりかえりテスト(プレテスト)
第11時・・・問題練習(eラーニングの活用)
第12時・・・単元テスト(ポストテスト)
(2)指導の実践

理科でのeラーニングを導入した授業実践
 理科の単元「てことものの重さ」学習で,eラーニングを導入した授業を行った。まずはじめに,教科書をもとに実験や観察,話し合い活動行い,「てこのはたらき」や「てこのつり合いとものの重さ」について学習していった。
 実験では,グループ(4人程度)で行い,グループごとに実験結果から分かったことをまとめた。そして,各グループが掲示した実験結果をもとに,全員で話し合いながら,「てこのはたらきと力の大きさの関係」や「てこのつり合いのきまり」などについて確認し,まとめていった。
 次に,既習内容についてのプレテストを行った。児童は,テストの結果から自分の学習習熟度を確認し,学習内容の完全習得にむけての学習計画をそれぞれが立てた。教師は,現時点での児童の学習習熟度をテストから把握し,指導計画を見なおすとともに,次の授業のeラーニングを活用した学習の具体的な指導計画を立てた。
 次時のeラーニングを活用した問題練習の授業では,児童はプレテストのふりかえりをもとに,教師が提示したeラーニングの練習問題を100点になるまで,何度も何度も繰り返し行った(図1)。教師は,管理画面で児童の学習進度を確認しながら,問題につまずいている児童を個別に指導していった(図2)。成績が上位の児童には,eラーニングの応用問題を用意し取り組ませた。それでも授業終了前にeラーニングの問題を終えてしまう児童には,さらに難易度の高い応用問題をプリントで用意した。
 そして,eラーニングでの問題練習の学習の後に,単元のまとめのテスト(ポストテスト)を行った。これにより児童は学習内容を完全に習得していった。

【図1 eラーニングの練習問題に
熱心に取り組む児童】
【図2 管理画面で児童の
学習進度を確認する教師】

eラーニングによる学びの広がり
 本校には,各教室にデスクトップのコンピュータ2〜3台が設置されており,その他にもノートパソコンが10台ある。それらのコンピュータは,校内LAN(無線LANも含む)で結ばれており,いつでもどこでもインターネットを活用した学習が可能な環境が整えられている。
 こうしたインターネットの環境を利用して,eラーニングの導入後には,休み時間に,eラーニングの練習問題(図3)で自主的に学習を行う児童の姿が見られた。例えば,授業でのeラーニングの学習で100点がとれなかったからといって,再度,休み時間等に教室前のコンピュータを使ってeラーニングの練習問題に取り組む児童。コンピュータの画面の前に教科書やノートを置き鉛筆を持って熱心に繰り返し問題に取り組んでいる児童。解き方が分からない児童にeラーニングの問題を使って教えている児童。そして,問題に正解し「やった。できた。」とうれしそうな笑顔で教師に報告する児童など,それぞれの児童がそれぞれの実態や能力に応じて,eラーニングを活用した自主学習に取り組んでいった(図4)。

【図3 eラーニング教材画面】
【図4 休み時間にeラーニングの
問題に取り組む児童】

7.成果と課題
(1)学習の成果

プレテストとポストテストの分散分析
  eラーニングを実施したクラスと実施していないクラスのプレテストとポストテストの結果を分散分析にかけ,その効果を考察してみた。
  その結果,図5のグラフのように,実施クラスと未実施クラスのプレテストとポストテストの間で,有意が認められた(F=9.73,**p<.01)。

【図5 分散分析の結果】

 次に,プレテストとポストテストの平均値と標準偏差を計算してみると図6のような結果になった。平均と標準偏差の結果を考察すると,以前から授業でeラーニングを実施してきたクラスの方が未実施のクラスよりプレテストの平均点が高く,ポストテストの結果も非常に伸びていることが分かる。また,標準偏差も実施クラスの方は差が少ないことが分かった。また,個別に児童のテストの結果を考察してみると,学校だけでなく家でもeラーニングでの学習に取り組んでいる児童は,学習成果が著しく伸びていることが分かった。

  プレテスト ポストテスト
  平均 標準偏差 平均 標準偏差
実施クラス 88.08 10.38 96.85 8.7209
未実施クラス 83.08 17.87 85.5 15.9645
【図6 プレテスト・ポストテストの
平均と標準偏差】

A児童のアンケート結果から
 eラーニングを使った学習についてのアンケートを実施した。eラーニングの利用時間や場所についての質問では,学校と家庭の両方でeラーニング(家庭=つくばオンラインスタディ)で学習している児童がほとんどであった。これは授業にeラーニングを導入した学習の成果を児童が実感している結果である。
 また,「eラーニングを使った学習はためになった。良かった。」という質問では,児童から高い評価を得た。このアンケートの結果から,eラーニングを使った学習は,児童の学習意欲を喚起し,それぞれのペースで分かるまで何度も取り組めるなど,高い学習効果を得ることができると考えられる。
(2)今後の課題
 eラーニングの教材や問題によっては,治療コースが十分でないものや問題のレベルにばらつきが見られるものがあった。こうした問題点を考慮して,eラーニングを使った授業を組み立てるには,かなりの教材研究の時間を費やしてしまった。また,今回の活用したeラーニングの学習システムは,中位・下位の児童にとってはかなりの効果があり,優位であった。しかし,上位の児童にとっては問題の内容が簡単であったため,別にプリントを用意するなどの配慮が必要になった。今後は,上位児が優位な効果を得るための問題及び学習システムについて,さらに追究していく必要があると考える。

8.ワンポイント・アドバイス
 eラーニングを使った学習は,ただ単に児童が問題を解いて学習内容を習得すれば良いということではない。eラーニングの問題の解決を通して,教師や他の児童といかに関わり合わせるかが大切である。関わりを重視した授業を進めていくことが「確かな学力」を身に付けさせる学習指導のポイントであると考える。


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