3.プロジェクトの実践(学力の向上について)




3.5

1.実践テーマ:

「発展的な学習へのeラーニング教材の利用」

2.執筆者:

つくば市並木小学校 久保田善彦

3.キーワード:

小学校、6年、社会

4.IT活用の意図
  「みんなの願いを実現する政治」の単元の学習を通し,多くの児童が政治・経済的事象に関心を持ちはじめている。一方で,小学生の日常では聞き慣れない用語にとまどいを感じる児童もいる。基礎的な学習事項を確認する補充的な学習と,興味関心に応じた発展的な学習を共に進めるべきと考えた。前時に,補充的な学習として,プリント学習を行っている。本時間は,応用問題を解きながら,政治の仕組みを更に詳しく調べていく発展的学習である。学習は3段階に分け,発展的なステップアップ学習を行った。
  利用するeラーニング教材は,教科書の内容を超えた難易度の高いものが多い。そのため,発展的な学習の教材として最適である。

5.単元名
単  元:みんなの願いを実現する政治
指導目標:
(1)自分の身近なできごとと政治との関わりに関心をもち、住民の願いを実現する政治のはたらきを進んで調べようとする。(関心・意欲・態度)
(2)市議会のロールプレイから、住民の願いと政治のはたらきを関連づけることができる。(思考・判断)
(3)市民の生活の安定と向上をはかるために、市の政治が深く関わっていることを理解する。(知識・理解)
利用場面:小単元終了後の発展的な学習
利用環境:コンピュータ室(生徒用PC40台,教師用PC1台)

6.指導計画、指導案:(指導計画の中でのIT活用の利用場面等)
(1)学習計画(6時間扱い)
  第1時  町に地域センターができた
  第2時  地域センターができるまでをロールプレイによって話し合う
  第3時  税金の働きを調べる
  第4時  国会の働きを調べる
  第5時  選挙の大切さを考える
  第6時  補充的・発展的な学習をする[本時2/2]

(2)本時の学習
@本時のねらい
  1)政治に関する,発展的な問題に取り組みながら、知識を増やすことができる。
  2)資料集やインターネットなどから,発展的な問題を解決できる。
A準備物
  教科書,資料集,ノート,コンピュータ
B展 開

7.成果と課題:(学習意欲の向上等の成果、今後の課題等)

 本学習は,政治の知識に関する発展的な学習である。学習コースをA〜Cの3つに分け,順に取り組むようにした。ステップがあがるたびに難易度が増す仕組みである。

 児童は,教科書にはない用語などのeラーニング教材を解くことで理解していった。難易度が高まると,弱音をあげる児童もいたが,お互いに助け合うことで解決していた。また問題解決には,教科書や資料集,インターネットなどの多彩な資料から情報を選択する必要があるために,資料活用能力の育成にも効果的であった。
 発展的な学習の効果を見るために,学習前後で概念地図を書かせた。概念地図とは,単語と単語を結ぶ(リンク)することで,児童の概念の様子を描かせるものである。単語数やリンク数が多いほど,思考が深まったと考えられる。
 単語と単語のリンクの個数を見ると,発展的な学習前には平均6個であったのに対し,学習後のリンク数は15個と倍以上に増えていた。直接確率計算法による集計によると,両側検定が p=0.0783+(.05<p<.10),片側検定がp=0.0391* (p<.05)となり,優位な差となった。また単語数は,学習前が平均7個,学習後が平均19個となっている。直接確率計算法によって集計すると,両側検定がp=0.0289*(p<.05),片側検定が p=0.0144*(p<.05)と,どちらも優位な差が認められた。内容的にも,教科書にはない高度な内容となっていた。

授業の様子
学習前の概念地図

 また,本発展的な学習に対する満足度をアンケートで測定した。学力上位の児童は88%が満足感を示していた。学力中位の児童は63%が満足感を示していた。学力下位の生徒は35%となった。学力が中位と上位の児童にとっては,満足度の高い学習となった。

  学習前 学習後 片面検定 両面検定
リンク数の平均 15 p=0.0391*
p<.05)
p=0.0783+
(.05<p<.10)
単語数の平均 19 p=0.0144*
(p<.05)
p=0.0289*
(p<.05)

8.ワンポイント・アドバイス
 eラーニング教材は,復習に使われることが多かった。しかし,教材の難易度や出題の傾向,解説の提示の仕方などを検討することで,発展的な学習の教材として利用することも可能となる。

3.6

1.実践テーマ:

「発展的な学習における自作eラーニング教材活用」

2.執筆者:

取手市立戸頭西小学校 教諭 石塚 康英

3.キーワード:

小学校,5学年,算数,発展的な学習,eラーニング教材

4.IT活用の意図
 これからの学校には,「基礎・基本の確実な定着を図り,個性を生かす教育を充実する」という新学習指導要領のねらいを実現するために,「子ども一人一人の特性等を十分理解し,それに応じた指導方法や指導体制の工夫改善を図ること」が強く求められている。例えば,教育内容を厳選することにより生じたゆとりを活用して,学習指導要領に示す内容の確実な定着を図るとともに,学習指導要領に示す内容を身に付けている子どもに対しては,さらに進んだ学習,つまり発展的な学習に取り組ませるなど,個に応じた指導の充実を図ることが重要である。
 この発展的な学習について文部科学省は,次のように見解を示している。「発展的な学習とは,学習指導要領に示す内容を身に付けている子どもに対して,学習指導要領に示す内容の理解を深める学習を行ったり,さらに進んだ内容についての学習を行ったりするなどの学習指導であると言える。」(「個に応じた指導に関する指導資料」小学校算数編・平成14年9月) つまり,発展的な学習の内容を大別すると,「学習指導要領に示す内容の理解を深める学習」と「学習指導要領に示す内容からさらに進んだ内容の学習」ということになる。また,発展的な学習の指導の進め方については,「子ども自身が自ら工夫したり,発展させたりしていけるような教材の選択,学習場面の工夫」,「知的なおもしろさが感じられる指導の工夫」,「子どもが算数を学ぶ楽しさと充実感を味わえるようにする指導の工夫」などの重要性が示されている。
 本校では,個に応じた指導の充実を図るため,特に算数科において,全職員が協力してその指導法の工夫に関する研究に取り組んでおり,「発展的な学習の指導の進め方」もその研究内容のひとつである。研究の中では,例えば,学級の枠を超え,学年内の子どもたちが補充的な学習を中心としたコースや発展的な学習を中心としたコースなど,習熟度に応じた複数のコースに分かれての授業を実施している。自分の選択したコースで,自分に合ったペースで学習を進めることができるため,子どもたちの学習意欲は確かに向上しているように感じる。しかし,この形態の授業を継続的に実施するためには解決すべき課題も多い。ひとつは,教師の数の問題である。教師の数が増えれば,コース数を増やすことができたり,一人一人の子どもに対する個別指導を充実することができたりするのは当然である。だが,加配教員の配置された学校などを除き,本校を含めた多くの学校においては,多様なコース別学習を日常的に実施するに必要な教師数は揃えられない,というのが現実である。そこで本校では,eラーニング教材を活用した学習をコースのひとつに位置づけた。誤答を分析してそれぞれの子どもに応じて出題されるコンピュータからの問題により,eラーニング教材コースを選択した子どもたちは,楽しさと充実感のある学習を達成することができている。
 ところで,市販されているeラーニング教材には,基礎的・基本的な内容の定着を図ることを目的とした教材が多く,発展的な内容を取り扱っているものは少ない。そこで,この実践事例報告では,発展的な学習内容を中心としたコースのeラーニング教材を自作し,それを授業で活用した結果,子どもたちにどのような変容があったかを検証したい。

5.単元名  円
ア.単元目標

イ.単元について
 本単元では,直径の長さと円周の関係を調べることを通して,円周率を理解し,円周の長さや円の面積を求める公式を導かせることをねらいとしている。これらのことがらを学習する過程において,円に対する理解を深めるとともに,調べた結果をもとに円周を求める公式を導き出したり,円を等分割して等積変形で円の求積公式を導き出したりする数学的な考え方を育成していくこともねらいとしている。

ウ.指導計画(14時間扱い・本時は第6時)

学  習  内  容 関心意欲 考え方 表現処理 知識理解
・円周と円周率の用語とそれらの意味を理解することができる。    
・円周の長さと直径には一定のきまりがあることがわかる。    
・円周の長さを求める公式を導くことができる。    
・円の直径の長さと円周の長さの変わり方を調べ,その特徴をとらえることができる。    
・目的に応じて円周率を3として,円周の長さを求める公式を適用して,直径の長さを求めることができる。    



・練習(確認テストの後,コース別学習)
「ゆっくりコース」補充的な学習コース
「じっくりコース」理解や技能の習熟を進める学習コース
「とっとこコース」発展的な学習コース(eラーニング)
   

・円の面積は,その半径を一辺とする正方形の面積の約3.1倍になることをとらえることができる。    
・円を長方形に等積変形し,円の求積公式を導くことができる。  

・まとめよう(確認テストの後,コース別学習)  

調査項目 正答 誤答   調査項目 正答 誤答
・長さを正確に測定することができる。 21 ・コンパスを使って正確な円をか くことができる。 28
・長さの単位を正しく変換することができる。 24 ・円周を求めることができる。 29
・半径と直径の意味、関係がわかる。 23 ・円の面積を求めることができる。 29

エ.子どもたちの実態(第5学年2組 児童29人 事前調査1月17日)

 「円」の単元に入る前に事前調査を実施した。事前調査の結果から、多くの子どもが長さの測定や単位の変換をおこなうことができ、半径と直径の意味を理解することもできていた。しかし、2pの目盛りを1p10oと答えたり、4.5pをoの単位に変換することのできない子どもが数人いた。また、半径と直径の関係は理解していても、その名称を忘れている児童も数人いた。これらの児童については、事前に補充指導を実施するとともに、学習の中でも適時、支援を行いたい。円周を求めたり、円の面積を求めたりする方法について、事前に学習している児童はいなかった。

授業の様子

6.本時のeラーニング教材について
ア.eラーニング教材作成時における発展的な学習のとらえ方

イ.eラーニング教材の概要
 eラーニング教材の作成には,スタディライター for web(シャープシステムプロダクト株式会社)を使用した。提示問題や予想回答,回答に応じた分岐を数人の教師で検討した後,入力作業をおこなった。また,提示問題画面内の図については,手書きしたものをスキャナーで読みとり,挿入した。提示問題は,場面1,場面2の問題を合わせて5問で,それぞれの提示問題から回答に応じた分岐画面に移動する。誤答が5回続いた場合には,次の問題に進むようにした。

 
1 表 紙   2 教材についての説明画面。
計算はノートにすることなど,学習上の留意点を説明。
 
3 具体的な場面設定を予告   4 (場面1)自動車レースの場面を
レーシングカーの写真を交えて提示。
 
5(場面1)単純な図形問題。
ひとつのと,直線2本の合計。
  6(場面1)複雑な図形問題。3つの半円
円と4分の1の円,直線2本の合計。
 
7(場面1)レーシングカーの燃料計算。   8(場面2)陸上大会の場面を本校の校庭
の写真を交えて提

7.成果と課題
ア.子どもの変容と成果
 今回は,第6時において確認テスト(プレテスト)を実施してから,それぞれの子どもが希望するコースに移って学習を実施した。そして,コース別の学習後に再度,確認テスト(ポストテスト)を実施して,特に発展的な学習コース(eラーニングコース)に取り組んだ子どもたちに注目してその変容を観察した。図1のグラフは、プレテストにおいて「おおむね達成」の9人(表1)のうち、発展的な学習コース(eラーニングコース)を選択した5人と、プリントなどを中心とした理解や技能の習熟を進める学習コースを選択した4人との数値的変化を比較したグラフである。

  努力を要する おおむね達成 十分に達成
得点グループ 80点未満 80点以上90点未満 90点以上
人  数 9人 9人 11人
プレテスト平均点数 57.8点 85.5点 94.2点

表1 プレテストの点数によるグループとその人数及びプレテスト平均点数

図1 選択した学習コースによる数値的変化

・ テストによる数値的変化から
 プレテスト後,発展的な学習コースを選択した子どもは,80点以上90点未満グループから5人,90点以上グループから11人の計16人。1人が1台のコンピュータにむかってeラーニング教材による学習を開始したが,普段使用しているeラーニング教材とは違うタイプの問題に,子どもたちは一様に驚いた様子であった。また,場面1の内容が提示されレーシングカーの写真が映し出されると,顔つきが真剣になり,その後の問題に対して夢中になって取り組んでいた。4分の1の円周が含まれている問題2,内周,外周でトラックのスタートラインをずらす必要のある問題5がかなり難しかったようで,すぐに正解を導き出せたのは2人であった。結局,時間内に5問すべてを終了できた子どもは,この2人だけであった。
 eラーニング教材による学習後,プレテストとほぼ同じ内容ではあるが,計算する数字が変えてあるポストテストを実施した。プレテストにおいて「おおむね達成」の9人に関してeラーニング教材活用前後の平均点を比較してみると,eラーニングコースを選択した5人の平均点が11.4点の増加、プリントなどを中心とした理解や技能の習熟を進める学習コースを選択した4人の平均点が9点増加した。今後さらに検証が必要ではあるが、発展的な学習におけるeラーニング教材の活用は,その学習効果を認めることができるものと考えられる。
・学習意欲の変化から
 eラーニング教材による学習後にアンケート調査をしたところ,16人すべての子どもが「楽しい」「もう一度勉強したい」と回答している。また,その理由では,「自分のペースで勉強できる」「問題がおもしろかった」といった回答がほとんどで,eラーニング教材による発展的な学習は,学習意欲を向上させる面においても有効であったと考える。
イ.今後の課題
・発展的な学習内容の検討 
 発展的な学習を展開するにあたっては,eラーニング教材に限らず,どんな内容を「発展的」として指導するのかが極めて重要である。本校においても系統表などを作成して検討を重ねているが,前例が少ないだけに容易な作業ではない。学校間で協力して整備していく必要があるものと考える。

・eラーニング教材作成における教師の連携
 コンピュータやソフトウェアの性能向上により、今回のような簡単なeラーニング教材を作成する労力は、以前に比べるとずいぶん軽減されてきた。しかし、その内容が細部にわたって吟味された本当に良い教材を作成するためには、一人だけの努力では難しい。ネットワークが整備されてきた今こそ、全国の教師が知恵を出し合い、優れたeラーニング教材を連携して作成していくことが必要ではないだろうか。

3.7

1.実践テーマ:

「確かな学力を向上させるeラーニング〜数学:第1学年「1次方程式」での実践〜」

2.執筆者:

茨城県つくば市立手代木中学校 教諭 杉田 慶也

3.キーワード:

数学,eラーニング,学習意欲,個別指導,基礎・基本の確実な定着

4.IT活用の意図
  学習指導要領では,基礎・基本を確実に身に付けさせ,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育むため,学力を単に表面的に理解し保持している知識の量と捉えるのではなく,全ての子どもに教える内容を厳選している。この厳選された基礎・基本については,個別指導やグループ別指導,理解や習熟の程度に応じた指導など個に応じたきめ細かな指導を行うことにより,確実に身に付けさせるとしている。
 つくば市内に導入されている「スタディシリーズ」は,コンピュータに支援された学習により,基礎・基本を確実に身に付けさせようとするものである。その基本機能をWeb上で実現し,Web環境の利点を活かした新しい教科型学習支援システム「eラーニング」が昨年導入された。それには,次のような利点がある。
生徒たちにとっては・・・

指導者にとっては・・・

 そこで,本実践研究では,個々の生徒に応じたきめ細かな指導を実現することができるツールであるeラーニングの有効性と効果的な活用方法を探ってみたい。

5.単元名:第1学年「1次方程式」
(1) ねらい
 eラーニングを使用することにより,クラス全体や一人ひとりの理解状況や誤答傾向を把握し,きめ細かく個別指導を行う。さらに,その有効性と効果的な活用方法を探る。
(2) 指導目標
 方程式とその解,それと方程式を解くということなどの意味を明らかにする。また,等式の性質を理解することから方程式を等式の性質に基づいて解くことができるようにする。方程式を利用して身の回りにあるいろいろな事象を用いた問題を解決する。そのための方法や,その手順を見いだし,それらの問題を解くことができる。
(3) 利用場面
 1節:方程式・2節:1次方程式の解き方のまとめの学習として1時間,3節:1次方程式の応用のまとめの学習として1時間,知識の定着を図るためにeラーニングを利用する。
(4) 利用環境
授業(eラーニング)
 コンピュータ室(生徒用40台,指導者用1台),eラーニングの問題:1次方程式応用コース(教科書の基礎・基本,標準問題程度),スタディタイム「ひとりでスタディ」の問題(SuperCAI):1次方程式(教科書の基礎・基本,標準,応用問題程度)
家庭での自主学習
 eラーニング「つくばオンラインスタディ」の問題:1次方程式基礎コース(教科書の基礎・基本問題程度)

6.指導計画
(1) 指導計画(13時間)
  1節 方程式(2時間)
  2節 1次方程式の解き方(6時間)
  3節 1次方程式の応用(5時間)

 eラーニングは,2節,3節のまとめとして,それぞれ1/2単位時間を2回,計1時間ずつ実施する。まとめの1時間目の最初に事前テスト,2時間目の最後に事後テストを行うことで,一人ひとりが学習の成果を確認できるようにする。また,自分自身の苦手なところや弱点を把握した後で,eラーニング「つくばオンラインスタディ」や問題集などを使って,家庭での学習に自主的に臨むよう助言する。

(2)eラーニングを利用した2時間分の授業展開

7.成果と課題
(1) 授業の様子から
@ 学習意欲が高まり,持続する
 eラーニングによる学習は,教室で問題集やプリントなどの取り組んでいるのと比べ,生徒の学習意欲は高まり,学習時間中ずっと持続した。その理由として,eラーニングは,一斉授業の形態をとりながらも,個別学習に対応できるシステムであることが挙げられる。つまり,各生徒の理解レベルに応じて個々に授業が進められるように考えられており,回答に応じたメッセージが表示されるように工夫されている。生徒はこれによって励まされながら学習を続けることができた。(写真1,2)

 
写真1 授業全体の様子   写真2 問題に取り組む生徒

A 先生によく教えてもらえる(指導者は,理解状況を把握し,きめ細かく個別指導)
 サーバ用コンピュータに収集される生徒の学習経過情報から,どの生徒がどのようなことでつまずいているかを把握することができるので,その生徒に対して適切な個別指導が行えた。この個別指導の際には,生徒一人ひとりの詳細な学習結果・理解状況のデータから,理解状態,応答状況が評価でき,基礎・基本を完全習得しているかどうかを診断することができることが大いに役立った。 また,「先生を呼びなさい」機能により,各生徒への個別指導も行えた。(写真3,4;資料1,2)

 
写真3 管理画面で学習状況を把握   写真4 個別指導
 
資料1 管理画面(進行状況表示 総合)   資料2 管理画面(進行状況表示 目標)

生徒どうしの触れ合い,助け合い
eラーニングの教材は,目的のレベルを全員が達成できるよう考慮して作成されている。したがって,学習意欲を引き出すためにも「わかるまで十分に考えよう」,「どうしてもわからないときは,友達に聞こう,先生を呼ぼう」というように指導した。生徒のやる気を引き出すような雰囲気づくりや,生徒どうしの触れ合い,助け合いを大切にする雰囲気づくりに心がけたわけである。それらは,学習意欲の喚起・持続や,主体的に学習していこう態度の育成につながった。(写真5)
学習の広がり「ひとりでスタディ(CAI)」,eラーニング「つくばオンラインスタディ」
 eラーニングの学習が終了した生徒には,スタディタイム「ひとりでスタディ」の問題(SuperCAI :教科書の基礎・基本,標準,応用問題程度)に取り組むよう指示した。(写真6)
 eラーニングで表れた学習意欲は,家庭学習へとつながる。eラーニングで学習したことで,学習したその日のうちに,問題集やeラーニング「つくばオンラインスタディ」に取り組んだ生徒が多かった。

 
写真5 生徒どうしの触れ合い,助け合い   写真6 eラーニングから   
「ひとりでスタディ(CAI)」へ

(2)プレ・ポストテストの結果から
 1次方程式の解き方の学習後,eラーニングを行う前にプレテストを実施し,授業でeラーニングを1時間行った。その後は,家庭での自主学習として,eラーニング「つくばオンラインスタディ」や問題集に取り組んだ。そして,授業で行ったeラーニングの一週間後にポストテストを実施した。応用も同様に行った。その結果,1次方程式の解き方,応用ともに,事後の平均点が大きく伸びている。(グラフ1)
 次に,学力レベル別の学習効果を見るために,プレテストの結果によって,上位群(31%),中位群(38%),下位群(31%)に分け,それぞれにおけるプレ・ポストテストの結果を分散分析した。(表1,2)

グラフ1 プレテストトポストテストの比較

1次方程式の解き方
 すべての集団で,ポストテストの平均点が上昇していることが分かる。特に,中位・下位群の伸びが著しい。
 分散分析の結果も含めて考えると,上位群の生徒にとっては,有意性が認められないが,中位群・下位群の生徒にとっては,1%の水準で有意であり(中位群:F=17.73 **p<.01,下位群:F=21.71 **p<.01),伸びが著しい。つまり,eラーニングでの1次方程式の解き方における学習効果は,中位・下位群の生徒にとって高いと言える。

表1  1次方程式の解き方の結果
学力レベル テストの平均 伸び 分散分析の結果
プレ ポスト
上位群 92.36 96.00 3.64 F= 0.49 nsp>.10
中位群 58.92 80.62 21.70 F=17.73 **p<.01
下位群 22.36 46.36 24.00 F=21.71 **p<.01
全員 57.94 74.69 16.75 F=26.41 **p<.01

1次方程式の応用
 上位群は,プレ・ポストテストともに100点であるため,伸びはない。中位・下位群で,ポストテストの平均点が上昇していることが分かる。分散分析の結果も含めて考えると,下位群・中位群の生徒にとっては,1%の水準で有意であり(中位群:F=13.27 **p<.01,下位群:F=12.87 **p<.01),伸びが著しい。つまり,eラーニングでの1次方程式の応用における学習効果は,解き方同様に,中位群・下位群の生徒にとって高いと言える。

表2  1次方程式の応用の結果
学力レベル テストの平均 伸び 分散分析の結果
プレ ポスト
上位群 100.00 100.00 0.00 F= 0.00 nsp>.10
中位群 61.54 84.62 20.08 F=13.27 **p<.01
下位群 22.73 45.45 22.72 F=12.87 **p<.01
全員 61.43 77.14 15.71 F=15.58 **p<.01

(3) 生徒の感想から
  eラーニングを利用した授業の自己評価・感想によると,生徒全員が,「学習に集中して取り組むことができた。」としており,その多くが「学習に最後まで集中できた。」としている。また,「友だちに教えてもらえたのでよかった。」,「いつもより,先生によく教えてもらえた。」という感想も目立った。下位群の生徒を中心に,「分からないで悩んでいるときに,先生が来てくれた。」という感想もあった。

 また,学校で行ったeラーニングの学習意欲が,自主的な家庭学習につながったと読み取れる感想が多かった。家庭学習では,上位・中位群の生徒は問題集を,下位群の生徒はeラーニング「つくばオンラインスタディ」を中心に取り組んでいた。
  以上から,eラーニングは,学習意欲が高まって持続し,先生によく教えてもらえ,その意欲が家庭学習につながるということが分かる。
(4) 課題
  eラーニングの学習は,教材ソフトウェアに左右される。つくば市内の公立学校で導入されている教材ソフトウェアには,教科書の基礎・基本問題程度で作られている「基礎コース」,教科書の基礎・基本,標準問題程度の問題で作られている「応用コース」が用意されている。導入予算の問題があるが,可能ならば,「基礎コース」・「応用コース」ともに用意したいところである。
  eラーニングの設計思想のすばらしさは,一本道の学習コースをただ辿るのではなく,入力された回答を分析して対話的なメッセージを表示し,最適な学習課題へと分岐を行うインタラクティブな機能を備えているところにある。つまり,「正しい間違い」に対して適切な「治療コース」を用意するわけである。しかし,今回使用した市販の教材ソフトウェアのすべてが,そのようにできているわけではない。今後,教材ソフトウェアの質の面での充実が求められる。

8.ワンポイント・アドバイス
 つくば市内の公立学校で導入されているeラーニングの教材ソフトウェアは「基礎コース」である。そのようなケースの場合,より効果的に使うためには,次のような工夫が効果的であると思われる。

eラーニングを使うときにちょっと工夫すると,より一層一人ひとりに合った学習ができるようになると思われる。

3.8

1.実践テーマ:

「確かな学力を向上させるeラーニング〜第1学年理科1分野「光や音,力で見る世界」での実践〜」

2.執筆者:

茨城県つくば市立手代木中学校 教諭 浅野 陽子

3.キーワード:

中学校,1年生,理科

4.IT活用の意図
  確かな学力とは,知識・技能に加え,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力であると言える。中学校理科では,ある課題に対する観察・実験を行い,考察を考えることを通して,確かな学力を身に付けることを目標としている。しかし,観察・実験の授業だけでは,知識・理解を高めることが難しく,小単元ごとにプリント等を利用して問題演習を行い,基礎・基本の徹底を図ってきた。しかし,プリント学習は,ほとんど問題を解けずに時間を過ごしてしまう生徒や逆に早く終わりすぎて時間を持て余してしまう生徒がいるなど難易度や量を決めることが難しく,生徒の意欲を高めることも困難である。また,教師一人の対応では,1時間の中で全ての生徒の理解度を認識し,学力の向上につなげることが難しい。
  そこで,単元のまとめにプリント学習ではなく,eラーニングを利用することによって,生徒一人ひとりの学習に対する意欲を高め,ともに学び合う態度を育てることができ,確かな学力の向上につながるのではないかと考えた。また,単元テスト前にeラーニングでの学習を通して,自分の弱点を把握し,考え方や解き方を復習することは,家庭での自主学習を啓発することにつながるのではないかと考えた。

5.単元名「光や音,力で見る世界」
(1) ねらい 
  身近な事物・現象についての観察,実験を通して,光や音の規則性,力の性質について理解させるとともに,これら事象を日常生活と関連付けて科学的にみる見方や考え方を養う。
(2) 利用場面
  単元のまとめに,知識の定着をはかるためにeラーニングを利用し,自主学習の授業を2時間行う。その後,単元テストを行って,目標の達成度を評価した。
(3) 利用環境
  コンピュータを一人一台で使える環境にするため,コンピュータ室(生徒用40台,教師用1台)で授業を行った。

6.指導計画
(1) 指導計画(23時間)
  4節 光の性質(7時間)
  5節 音の性質(4時間)
  6節 力と圧力(9時間)
  7節 単元のまとめ(3時間)

 本校では,単元が終わるごとに単元テストを行っている。本実践では,単元テスト前の2時間をeラーニングを利用して,自主学習を進める時間と設定した。1時間目の最初にプレテスト,2時間目の最後にポストテストを行うことで,一人ひとりが学習の成果を確認できるようにした。また,自分の苦手なところや弱点を把握した後で,家庭での自主学習に望めるよう助言を行った。
 ソフトは,1時間目の「光と音」に関しては,基礎編(反射と屈折)及び応用編(とつレンズの利用)の両方を使用し,2時間目の「力と圧力」に関しては,基礎編のみを使用した。

(2) eラーニングを利用した授業展開(2時間)

7.成果と課題

(1) 授業の様子から
  プレテストおよび自己採点を行ったことで,小単元ごとの理解度を各自で確認することができ,学習の意欲へとつなげることができた。教室でのプリント学習と比べ,一人ひとりが自主的に学習することができたようである。その理由として,次のことが考えられる。まず,コンピュータに向かうことに慣れており,画面上で問題を解くことに強い意欲を感じ,集中力を持続できる生徒が多いということが挙げられる。また,一問一答形式で問題が作られており,一問ずつ答え合わせをしていくことで,自分のペースに合わせて学習を進めることができ,理解度も高まる。加えて,間違えた問題や分からなかった問題については,下の写真2のように解説の画面が現れるので,それをノートに写すことで個人的に復習することができる。また,解説画面の次には同じような問題が再度出題されるので,再確認することができる。
 また,写真3のように,分からない問
題について,お互いに相談しあいながら取り組む生徒も多く,互いに学び合う姿勢を育成することにもつながったのではないかと考えている。また,進度状況を競い合うことで,学習への意欲を高め合った生徒の姿も見られた。
 一人ひとりが自分のペースで学習を進めることができるので,短い時間で全ての課題を終了することができる生徒に対しては,ひとりでスタディなど他の課題や受験問題など難易度の高いプリント課題を用意しておき,意欲を継続できるように工夫した。
  また,eラーニングの課題が難しく,なかなか先に進むことができない生徒に対しては,個別に指導し,基礎が少しでも定着できるようにした。また,eラーニングでは,一人ひとりの進度状況や理解度を確認するために,資料1にある先生機の一覧表を利用するのが効果的であった。生徒一人ひとりに対して,1つ1つの目標に対しての正答率を一覧で表示してくれるので,授業中や授業終了後に理解度を確認することができ,指導に活用することができる。

写真1 授業の様子
写真2 ノートに解説を写す生徒

 
資料1 先生機の一覧表   写真4 分からない問題を調べる生徒

(2) プレ・ポストテストの結果から
 下記の表にプレ・ポストテストの平均点をプレテストの結果によって,上位(31%),中位(38%),下位(31%)に分けて示した。すべての集団で,ポストテストの平均点が上昇していることが分かる。分散分析の結果も含めて考えると,成績上位の生徒にとっては,有意性が認められないが,下位・中位の生徒にとっては,p<.01となり1%水準で有意であり,特に下位の伸びが著しい。つまり,eラーニングの学習効果は,下位・中位の生徒にとって高いと言える。
 また,eラーニングの「力と圧力」を単元テスト前に行ったクラスと行っていないクラスについて,プレテストと単元テストの「力と圧力」の問題について,正答率の平均を比べたのが下記のグラフである。未実施のクラスでは,正答率の伸び(2.35%)に対するF比が0.30と大変低く,誤差の範囲で起こる現象と考えられ,優位性はないと考えられる。それに対して,実施したクラスの正答率の伸び(17.03%)は,分散分析の結果より1%水準で有意であると言え,eラーニングの実施は,その後の学習効果を高めることができたと考えられる。
  このクラスでは,標準偏差も32.5から18.7に変化しており,ばらつきが減っている。これは,前述の下位・中位の生徒の平均が上昇していることと関係していると考えられる。
 以上から,eラーニングは,特に,成績が下位・中位の生徒に対して高い学習効果があると言える。

表2  1次方程式の応用の結果
  テストの平均 伸び 分散分析の結果
プレ ポスト
上位 91.77 93.40 1.63 F=0.89   p>.10(ns)
中位 73.77 84.72 10.95 F=40.79 **p<.01
下位 43.82 61.92 18.10 F=111.46**p<.01
全員 69.92 80.25 10.33 F=86.92 **p<.01
 

(3) 生徒の感想から
  eラーニングを利用した授業の感想を聞くと,ほとんどの生徒が,「集中して課題に取り組むことができる。」と答え,コンピュータ室での授業を楽しみにしている様子が伺えた。プリント学習や普段の授業では,集中力が続かず,時間を持て余してしまう生徒が,最後まで一生懸命に取り組むことができたと答えている。また,問題,解説,問題の繰り返しによって,効果的に基礎知識の定着を図れるということに気づき,家庭でもeラーニング「つくばオンラインスタディ」を利用して学習したという生徒も増えてきた。つまり,eラーニングの学習は,楽しく分かりやすく学習することができるという感想を持った生徒が多いといえる。

(4) 課題
  課題として,以下の2点について述べたい。
  まず,1つ目として環境面の問題である。eラーニングでは,一人一台のコンピュータを使用して授業を行えないと,自分の進度に合わせた自主学習の推進につながらず,効果的な成果は期待できない。そのため,コンピュータ室での授業が前提となるが,他の授業との兼ね合いもあり,指導計画通りに進まないことがある。環境面を整えていくことが大変重要であると考える。
 次に,理科という教科についてである。eラーニングには,科学用語を問う問題も多く作られているが,その際に,ひらがなで答えても正解となる上に,コンピュータが自動的に漢字に変換してしまう。そのため,事後テストや単元テストでは,ひらがなでの解答や漢字の間違いが多く見られた。通常の授業の中で,科学用語を正確に漢字で書く習慣をつけていく必要があるだろう。また,理科の授業では,観察・実験が基本であることには変わりがない。eラーニングでも観察・実験の様子がビデオの形で含まれているが,これはあくまでも復習や補助的なものとして扱うべきであると考える。

8.ワンポイント・アドバイス
 生徒一人ひとりによって,理解度も進度も違う。その一人ひとりのニーズに合わせるために,eラーニングは効果的に活用することができると考える。しかし,内容は基礎・基本的なことに限定されているので,実践を行うときには,応用編との併用や内容の難しい別課題を用意しておく必要がある。また,コンピュータの操作に慣れていない生徒や課題が難しいと感じる生徒もいるので,ローマ字表や補助教材等も必要になる。しかし,実践を通しての個人的な感想として,単元のまとめに基礎・基本の定着を図るという目標に対して大変有意義な時間であったと感じている。

3.9

1.実践テーマ:

「確かな学力を向上させるeラーニング 〜第2学年 英語 There is [are]構文での実践〜」

2.執筆者:

茨城県つくば市立手代木中学校 教諭 佐野 賢一

3.キーワード:

英語教育,基礎・基本の確実な定着,学習意欲

4. IT活用の意図
 英語教育では,近年,実践的なコミュニケーション能力の育成が叫ばれてきている。中学校学習指導要領外国語でも,英語の学習を通して,日常的な会話や簡単な情報の交換などができるような実践的コミュニケーション能力の基礎を養うことを大きな目標として掲げている。一方で,英語をコミュニケーションのツールとして使いこなすためには,「聞くこと」,「話すこと」,「読むこと」,「書くこと」の4領域の中でも特に「聞くこと」,「話すこと」の習得が求められる。また,言語材料についての知識・理解を深めることは,自分の考えや気持ちを伝え合う段階に高めるまでに,絶対に必要な基礎・基本として捉えることができる。eラーニングを利用することでリスニングの能力を高め,言語材料の確実な定着を図れる他,様々な点での学習効果が期待できると考える。

(1)生徒個人のペースで学習し,何度も反復練習することができる。しかも,つまずきに対して戻って学習し直すことができる。
(2)言語材料の意味・用法を理解し,補充・発展的な学習をすることができる。
(3)画面を見ながらネイティブの発音を聞くことを通して,視覚・聴覚からのインプットを利用しながらリスニングの能力を育成することができる。
(4)生徒一人一人が音声を伴った様々な出題形式の問題に慣れることで,通常授業では体感することが困難な,実践的な言語使用場面を疑似体験することができる。
(5)応用的な問題に触れることで,より高いレベルでの学習意欲の向上・持続を図ることができる。

 上記のような学習効果を念頭に置き,授業での実践をおこなった。

5. 単元について

 (1)単元名 :

Unit6 Christmas is Coming
(New Horizon English Course 2 東京書籍)

 (2)文法項目:

There is 〜/There are 〜

 (3)指導目標:

There is [are]構文(肯定文)の形・意味・用法を理解し,表現できる。
There is [are]構文(疑問文と応答)の形・意味・用法を理解し,それを用いて簡単な対話ができる。

 (4)教材観・
  指導観:

Unit 6 Christmas Is Coming は,クリスマスを共通のテーマにしており,物語を追いながら,英文を読み進めるという単元である。言語材料の大きな目標としては,「There is [are] 〜.」【○○が〜にあります,います】の構文の肯定文,疑問文の形・意味・用法を理解し,表現できることが挙げられている。できるだけ多くの言語使用場面を理解させ,充実した言語活動へとつなげたい。

6. 指導計画,指導案(指導計画の中でのIT活用の利用場面等)         
(1)指導計画【8時間扱い】

 新出文法がより効果的に定着するように,新出文法導入→教科書の内容理解→eラーニング→言語活動という流れで行い,一通りThere is[are]の学習を通常授業でした後,eラーニングを活用した。教科書の学習内容には,現在形の用法についてのみ触れられているが,eラーニングでは,過去形についての学習もできるようになっている。また,How many 〜are there〜?のような,応用的な疑問文に関する出題も取り上げてられている。There is [are]の応用として,過去形も扱い,言語活動ではさまざまなバリエーションを活かしたコミュニケーション活動を実施することにした。

(2)実践に先立って
 eラーニングを利用したのは1時間であるが,その1時間を有効に使うために,コンピュータ室での動作環境を整える必要がある。まず,音声を伴った学習ができることから,ヘッドフォンを用意することが望まれる。今回の実践では準備することができなかったが,集中して学習に取り組ませるためには必要不可欠であると考える。

(3)指導案:展開例

(4) 実践の実際

 
図1 授業の様子
 学習内容を把握し,各自の目標を立て終えた後で,eラーニングを起動し,各自が学習をスタートするようにした。一人一人が自分のペースで学習に取り組み,集中している様子が伺える。
 通常授業では学習に向かうのに時間を要する生徒も,熱心に画面に向かいThere is [are]の文法説明を読みながら,問題に取り組むことができていた。また,過去形などの応用的な文法事項について学習メモをとる生徒の姿を見ることができた。

 生徒はキーボードの操作,マウスの操作をしながら問題を解き進める。画面のスピーカボタンをクリックすることで,何度でもネイティブの発音を聞くことができる。
 画面には問題に付随した絵や図,表が載せられており,生徒は聴覚からの情報と,視覚からの情報をもとに問題を解く。ネイティブの発音と一緒にshadowingする姿が見られた。

図2 画面の様子
 
図3 支援の画面
 教師用パソコンの画面には,進度や得点一覧表を映しだしておき,どの生徒がどのぐらい進んでいるのか,どこでつまずいているのか把握することができる。回答に時間のかかっている生徒や,得点の低い生徒がつまずいている場合が多かった。実際に支援に行くと,操作上の問題で遅れる生徒も見られた。  
 終了した生徒へは,次の活動のアドバイスをした。

 一覧表を見ながら,つまずいている生徒を支援しにいくと,同じ間違えをくり返していたり,勘違いをしたりしている生徒を的確に見いだすことができる。生徒達は個別指導を受け,正しい表現を身につけることで,次のステップへと進んでいた。
 操作上のトラブルと,つまずきでの遅れや誤答での得点の低下を見極め,瞬時に支援の方策を判断することが教師側に求められる。

図4 教師の支援
 
図5 学び合い・教え合い
 学習が進むと,生徒同士が分からない部分を教え合ったり,学び合ったりする環境が自然にでき上がっていた。お互いの進度の確認を行ったり,できない部分を話し合ったりする生徒の様子が見られた。それぞれの生徒が,自分達の学習について語り合う雰囲気は,通常授業の学習環境の中では自然に生まれにくい。コンピュータ室での学び合いが,生徒相互の学習意欲を喚起して教室外での学習にもつながってくると思われた。

7. 成果と課題

(1)実施クラスデータ分析(2クラス実施)
 プレテスト,ポストテストの平均点を,プレテストの結果で,上位(19名),中位(25名),下位(19名)に分けて分析をした。上位では事後の平均点が落ちた。中位,下位の平均点が上昇していることがわかる。分散分析の結果も考慮すると,上位の生徒には優位性が認められなかった。中位の生徒は5%の水準で優位傾向(F=4.19 *p<.05)にある。下位の生徒は1%の水準で優位性(F=7.83 **p<.01)が認められた。eラーニングによる学習効果が中位,とりわけ下位の生徒にとってたいへん高いことがわかった。

  テストの平均 伸び 分散分析の結果
プレ ポスト
上位 18.89 18.21 -0.68 F=1.8   p>.10(ns)
中位 15.52 16.56 1.04 F=4.19 *p<.05
下位 9.52 10.94 1.42 F=7.83 **p<.01
全員 14.73 15.36 0.63 F=4.27 *p<.05

(2)実施クラス,未実施クラスデータ分析

 
  テストの平均 伸び 分散分析の結果
プレ ポスト
未実施 14.16 14.58 0.42 F=1.28 p>.10(ns)
実施 14.73 15.36 0.63 F=4.27 *p<.05
全員 14.44 14.96 0.52 F=4.79 *p<.05
 
 未実施クラス(2クラス63名),実施クラス(2クラス65名)共にプレテストに比べ,ポストテストの平均点が伸びていた(グラフ参照)。
 分散分析の結果では,未実施クラスには,優位性が認められなかったが,実施クラスでは5%の水準で優位傾向(F=4.27 *p<.05)にあることが分かった。
 以上の結果から,eラーニングによる学習効果があることがわかった。

(3)アンケートの結果
生徒の感想では,非常に興味深い意見が多かった。

 気になる意見としては,「問題が簡単だった」「頭に残らない気がした」という声が上がった点である。また,授業後に家庭でeラーニングを使ったかという問いに対しては,36人中3名が「使用した」と答えていた。使用した生徒達は,為になった点・良かった点として「テスト勉強として使って,成績が少しupした」という意見を挙げた。

(4)今後の課題
 eラーニングが秘める学習効果は興味深く,学習者にも指導者にも使い勝手が良い教材であり,学習単元の補充的な役割を担うにはたいへん優れている。コミュニケーション能力育成の視点から考えても,実際の会話場面の前段階としてリスニング力を育成したり,フレーズを定着させたりすることに期待が持てる。今後の大きな課題としては,通常授業での言語(コミュニケーション)活動とのタイアップ,バランスのとれたeラーニング年間指導計画作成であろう。以下にその他の課題を挙げる。

 また,不登校生徒の学習支援として,填補教材としての利用も考えられる。更なる活用法について,今後も粘り強く検討し実践していきたいと思う。

8. ワンポイント・アドバイス
 特徴の1つである音声面を活かすために,ヘッドフォンを必ず用意することが重要であると感じた。また,通常の授業にもつながることであるが,一人一人の進度が違うので,教師側でどの生徒がどこを学習しているのかできるだけこまめに確認する必要がある。
 生徒のつまずきや誤答に関しては,即座に支援を行うことが求められる。支援が遅れると,生徒は間違いをくり返してしまい,学習の良い機会を逃してしまう事につながる。セクション終了後に戻ることは可能だが,クリックで画面が切り替わってしまう点も注意したい。また,成績上位の生徒には学習が無駄にならないような手だてを工夫する必要がある。
 操作上のトラブルとしては画面のフリーズ,スピーカーの故障等があった。事前の動作確認をし,フリーズをした場合の対処法等を指導しておくことも重要であると思う。


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