4.プロジェクトの実践(家庭でのインターネットの有無と学力との関係について)




4.1

1.実践テーマ:

「つくばオンラインスタディの学習効果」

2.執筆者:

つくば市並木小学校 久保田善彦

3.キーワード:

小学校,6年,算数

4.IT活用の意図
 つくば市では,家庭から利用できるインターネットを使ったeラーニング「つくばオンラインスタディ」が7月から導入された。インターネットを利用できる家庭の大部分が,このシステムを使い家庭学習を進めることができる。このつくばオンラインスタディを利用した児童に,どの程度の学習効果があったのかを検証した。
 一部の生徒は,夏休みにつくばオンラインスタディを使って1学期の復習を行っている。2学期のはじめに1学期の学習の確認テストを行い,つくばオンラインスタディを使った児童の変容を調べた。

5.単元名:

小学校6年生1学期の算数の単元
「数や図形の見方」「分数のたし算とひき算」「直方体と立方体」「平均」
「体積」

利用場面:

夏休み期間中,各家庭において

利用環境:

各家庭のコンピュータ(インターネット接続済み)

6.研究の手順
 夏休みに入る前に,クラスの児童全員につくばオンラインスタディの利用法を伝え,学校で試験利用させた。また,システムを利用したい児童は,各家庭で動作の確認をするように伝えた。この時点で,約半数の児童が家庭で,つくばオンラインスタディの動作確認を行っている。更に,このつくばオンラインスタディは,単元の復習に適していることを伝え,可能であれば夏休み中にこのシステムで1学期の復習を行うことを進めた。
 夏休み中,家庭や学校の開放日に少しなりともシステムを利用した者は20人程度いた。クラスの約2/3である。その中でも,算数の単元をすべて学習した児童は,7人,「数や図形の見方」を学習した児童は17人,「分数のたし算とひき算」を学習した児童は10人,「直方体と立方体」を学習した児童は8人,「平均」を学習した児童は9人,「体積」を学習した児童は12人であった。算数の単元をすべて行った7人の児童の内訳は,学力上位0名,学力中位4名,学力下位3名であった。 9月の初旬に,1学期の学習の確認テストを全員に行った。1学期には各単元末にテストを実施済みである。9月のテストは1学期に実施したテストと同様な難易度のものを採用した。
  テスト実施後,1学期の単元終了時のテストと2学期の復習テストの得点を比較した。
 

7.成果と課題:(学習意欲の向上等の成果,今後の課題等)
 図1〜図5は,各単元の得点表である。すべての単元において,夏休みにつくばオンラインスタディを利用した児童の得点平均が伸びていることがわかる。単元終了時のオンラインスタディ実施児童の平均が未実施の児童より低いのは,実施した児童が下位もしくは中位児が多かったためである。
 詳しく見ていくために分散分析を行った。以下はその分析結果である。
  「数や図形の見方」の単元では,つくばオンラインスタディを行った児童の得点の伸びと,行ってない児童の得点変化の間に優位な差が現れた。(F=5.59,*p<.05)つまり,つくばオンラインスタディによる学習効果があったと言える。
  「分数のたし算とひき算」の単元では,つくばオンラインスタディを行った児童の得点の伸びに,優位傾向が見られた。(F=3.85,+p<.10)
  「直方体と立方体」の単元では,つくばオンラインスタディを行った児童の得点の伸びと,行ってない児童の得点変化に優位な差が現れた。(F=6.81,*p<.05)つくばオンラインスタディによる学習効果があったと言える。
  「平均」の単元では,つくばオンラインスタディを行ったことによる得点上昇は見られるが,統計上は優位な差が認められなかった。(F=0.16 ns)
  「体積」の単元では,つくばオンラインスタディを行ったことによる得点上昇は見られるが,統計上は優位な差が認められなかった。(F=0.66 ns)
 母数が少なかった(児童32名での集計)ために,必ずしも統計上正しいとはいえないが,5つの単元のうち3つにつくばオンラインスタディの効果が現れた。このシステムを利用した児童に感想を聞くと,「自分のペースでできてよかった。」「復習に最適だった。」「わからないことがわかった。」など,満足度の高い回答が得られた。このことからも,このシステムの有効性が伺われる。

 
図1   図2
 
図3   図4
   
図5    

8.ワンポイント・アドバイス
 近年,2学期制を導入する市町村が増えている。2学期制での夏休みは,学期と学期の境目はない。夏休みの学習は,学びの連続性を意識し,前期の学習を十分に振りかえることが重要となる。つくばオンラインスタディを自治体が提供することで,効果的な復習ができ,学びの連続性を保証する一つの手だてとなるのではないだろうか。

4.2

1.実践テーマ:

「確かな学力を向上させる学校と家庭におけるCAI実践」

2.執筆者:

つくば市立吉沼小学校 山田摩耶

3.キーワード:

小学校,全学年,eラーニング,家庭学習

4.IT活用の意図
  eラーニングを授業に導入することで,児童は自分のペースで単元の復習をし,自己の達成度をとらえることができる。また,教師は学習履歴を取ることによって,児童のつまずきをその場でとらえて個別指導に生かすことができる。

5.利用場面
a 各教科の単元終了後に,授業内で復習をする目的で利用する。
b 家庭で学習内容の補完をする目的で利用する。

6.利用環境

7 指導内容
a 家庭学習支援システム開通式
 つくば市は平成16年7月よりeラーニング「つくばオンラインスタディ」を導入した。7月14日には,テレビ会議で市内の全小中学校を結んで「開通式」を行い,本校で教育関係者や報道関係者等に向けてこのシステムを利用した授業を公開した。

 
【授業公開の様子】   【つまずいている児童には個別指導】

 このシステムは,インターネットに接続ができれば,市で定められているIDとパスワードを使って,家庭や地域の公民館,図書館等でも利用することができる。この日,児童は学校以外の場所で学習していることを想定して,国語・社会・算数・理科の中から思い思いの教科や単元を選択して学習に取り組んだ。問題に正解した児童は「やったあ!」などと歓声を上げ,分からなかったところや忘れていたところがあった児童は「もう一回やってみよう」などと意欲的に学習を進めることができた。
  終了後の児童の感想は「すぐに正解が分かるのが良かった」「自分で好きなところを学習できるので良かった」「家からもできるので,夏休みになったら苦手な教科を復習したい」など,このシステムの導入を喜んでいるものが多かった。
  この「開通式」の様子はテレビや新聞等でも報道された。本校では,学校のホームページで開通式の様子を伝え,保護者に向けて市から配布されたパンフレットとともにeラーニング「つくばオンラインスタディ」の導入についてのお知らせを配布して家庭での利用を呼びかけた。

b 夏季休業中のコンピュータ室開放
 このシステムが導入されたのが夏休み間近であり,休みに入る前に全児童にシステムを体験する時間を確保するのが困難であったことと,本校児童の全ての家庭にインターネットを利用できる環境が整っているわけではなかったことから,本校職員の協力を得て,希望する児童に対し夏季休業中のコンピュータ室開放を行うこととした。
 利用希望者数の予測がつかなかったため,低・中・高学年にそれぞれ5日間ずつコンピュータ室を割り当てて開放することとした。

 
友達と学習内容について話し合ったり相談したりしながら学習を進める】

 夏季休業中の利用者数は延べ67名であった。この数値は,あらかじめ希望をとった人数よりも若干多い。夏休みに友達同士で誘い合って利用しに来た児童がいたためである。ノートを取りながら黙々と苦手分野の克服に取り組む児童もいれば,友達と一緒に話し合いながら問題を解く児童もおり,思い思いのペースで学習を進めることができた。中には,迎えに来た保護者と楽しみながら算数の学習をした児童もおり,その保護者は「コンピュータでの学習というのがどのようなものかイメージできなかったので少し心配していたが,これなら安心して学ばせられる」と喜んでいた。

c インターネットを利用した質問と回答
  このシステムの特長として,疑問が生じたときにはインターネットで質問できることがある。ちょうどホタルの出ている時期であったため,児童が自宅から「つくば市内でホタルが見られるところはありますか?」と質問を送ったところ,「田井小学校の近くで見ることができます」と,すぐに回答が来た。質問を送った児童はそれを見て「今度ホタルを見に行ってみたい」と嬉しそうに話していた。

本校児童が送った質問と回答の画面】

津波の仕組みについて質問をした児童は「すぐ返事が返ってくるので嬉しかった。これからも質問があったら利用したい」と話した。このシステムは,質問メールを受けた側には質問者の学校名と氏名が分かるようになっている。したがって,算数の学習でつまずいていた本校の児童が夏休みに「算数がよく分からない」という質問を送った際も,本校職員がメールで連絡を受け,担当教諭が直接対応することができた。

d 授業での活用事例
第6学年理科「土地のつくりと変化」の単元での実践である。この単元は地層のできかたについての学習と,岩石や火山灰でできた土地(地層)についての学習を行ったあと,「火山による土地の変化」についてか,「地震による土地の変化」についての選択学習をすることになる。
そこで,各自どちらかを選択し,調べたことをまとめる学習を行ったあとで,そのまとめた内容を交換し合った。互いに調べたことについて質問するなどの活動を通して,学習内容を共有することができたが,その理解をさらに深める目的でeラーニングを利用した。

 

上図のように,間違えた問題については,その正答だけでなく,抑えるべきポイントが分かりやすく示されるため,しっかり復習することができる。このeラーニングの活用によって,自分が選択した以外の課題についての理解も深められた児童が多かった。
低学年の児童は2学期から授業の中でeラーニングを利用するようになった。しかし,1年生はコンピュータの操作に慣れていない児童が多かったため,
初めて利用するときに6年生がそばについて操作の補助をした。その結果,1時間の授業が終わる頃には誰もがスムーズにコンピュータを操作して問題に取り組むことができるようになり,現在も楽しく学習を続けている。

8.成果と課題
【成果】

【課題】

9.ワンポイント・アドバイス
1時間の授業全てをeラーニングで行うのは,学年や教材の内容によっては時間が余るなどする場合がある。児童の実態に合わせて適切な活用ができるよう,利用前に教師が教材の内容を実際に体験して準備することが必要である


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