5.プロジェクトの実践(メール(掲示板)による学習支援の効果について)




5.1

1.実践テーマ:

「つくばオンラインスタディによる学習支援について」

2.執筆者:

つくば市教育委員会 指導主事 毛利靖

3.キーワード:

eラーニング,人材バンク,WEBメール

4.IT活用の意図
 つくば市では,家庭からeラーニングを使って学習するシステム「つくばオンラインスタディ」を構築しているが,児童生徒が家庭で学習している際,eラーニングでは解決できない問題について悩む児童生徒がいる。そうした問題を解決するため,「つくばオンラインスタディ」にメール機能を持たせ,家庭にいながらにしてつくば市内の先生に学習相談できる仕組みを構築し運用した。

5.実践内容
(1)つくば市内約1000名の先生の人材バンクの構築
 まず,どの学校にどんな専門性を持っている先生がいるのかを把握するために,先生方の人材バンクを作ることからはじめた。教育委員会では,あの先生は何の教科の免許を持っているかということは把握できるが,例えば理科の場合,昆虫が専門なのか,天体が得意なのかわからない。また,趣味でスペイン語を学んでいるなんていうこともわからない。しかし,児童生徒にとってみれば,そうした専門の先生に教えてもらえればきっと興味ある話も聞けるはずである。
 そこで,校長先生をはじめ全職員に人材バンクに関するアンケートを行った。

市内小中学校長 様

つくば市教育委員会教育長

学習サポーター(TSUKUBA ALL SCHOOLS 通称:TAS+)登録について(通知)

 総合的な学習の時間等で問題解決学習を行う際,専門的知識を持った人材が必要とされています。しかし,費用や日程調整等の問題から児童生徒が本当に必要としているときに来校していただけるとは限りません。
 そこで,市内の教職員の専門的知識(教科の知識だけでなく)を登録していただき児童生徒がスタディノートやWEBメールを使って質問ができるようにしたいと考えております。
 趣旨をご理解の上,貴管下職員に周知願いますとともに下記により回答願います。

1 対象   全職員(校長を含む)

2 提出物  別紙2

3 提出方法 別紙2を全職員分(校長を含む)印刷して回答してください。そして,全員分の別紙2を学校で取りまとめ,ホチキスで止めず,指導課長あて提出願います。

別紙1

学習サポーターTSUKUB ALL SCHOOLS(TAS+)について

 研究所の研究員や市内教員の専門的な知識を登録していただき,児童生徒はその登録用紙からWEBメールやスタディノートを使って学習に関する質問をするというものです。

【学校サポーターのメリット】

  • 学校にいながらにしてさまざまなジャンルの専門家に学習に関する質問ができます。
  • 教師1人でも児童生徒の多様な学習課題に対応ができます。
  • 教師ならではの教育的配慮(安易に答えを教えない等)で返事を書くことができます。
  • 返事をする方は電話とは違い余裕のある時に返事ができます。

【登録方法】

  • 登録内容はご自分の専門教科だけではなく趣味や特技も大歓迎です。
  • 一人いくつ登録していただいても結構です。
  • 登録するWEBメールアドレスは教育関係者並びに市内児童生徒に公開いたします。
  • 転出入等での登録変更は随時受け付けております。

【利用方法】

  • 市内の児童生徒,教職員なら誰でも利用できます。
  • 学習サポーター登録表から質問したい人を選び,スタディノートやWEBメールを使って質問を送ります。
  • メールを受け取った先生は時間の余裕がある時にアドバイスメールを返信してください。無理に長文を書くなど負担がかからないようにしてください。
  • 児童生徒からのメールに指導が必要な時には,担任に連絡してください。

別紙3
 あなたが得意とする分野全てに○をつけ( )に具体名を書いてください
【国語】
A1俳句短歌 A2作家の研究(作家名    ) A3ことわざ A4方言 A5漢字 A6書道 A7ことばの歴史 A8朗読 A9文法A10その他(     )

【社会】
B1郷土の歴史 B2日本史(時代    ) B3世界史(時代    ) B4郷土の地理 B5日本地理(地名    )B6世界地理(国名    )B7昔話・民話 B8民俗学 B9考古学 B10政治のしくみ B11世界の通貨 B12流通 B13伝統文化 B14日本の農業 B15世界の農業 B16土器作り B17その他(    )

【算数・数学】
C1数学の歴史 C2数学の人物 C3数学の法則 C4数学パズル C5和算 C6測量 C7その他(     )

【理科・科学】
D1野草 D2樹木 D3きのこ D4木の実 D5栽培 D6昆虫 D7蝶 D8鳥D9魚 D10水生昆虫 D11動物(動物名        ) D12科学実験D13力学 D14天文 D15宇宙 D16化石 D17恐竜 D18岩石D19地層 D20気象 D21火山 D22微生物 D23地震D24その他(   )

【英語・国際理解】
E1各国の文化習慣(国名  ) E2中国語  E3フランス語 E4ポルトガル語 E5スペイン語 E6イタリア語 E7ドイツ語 E8ロシア語 E9韓国語E10その他の言語(   語)E11その他(     )

【音楽】
F1作曲 F2箏演奏 F3三味線演奏 F4尺八演奏 F5太鼓演奏 F6その他の和楽器(楽器名       ) F7洋楽器演奏(楽器名      )F8合唱 F9音楽の歴史 F10世界の音楽(国名     )F11その他(   )

【美術】
G1彫塑 G2デザイン G3絵画 G4工芸 G5芸術家の研究G6その他(    )

【保健体育】
H1柔軟運動 H2器械運動(種目  ) H3陸上競技(種目  )H4水泳 H5球技(種目 ) H6武道(種目 )H7創作ダンス H8フォークダンス H9エアロビクス H10交通事故防止 H11応急手当 H12薬物乱用防止 H13エイズ教育 H14性教育 H15その他(     )

【技術・家庭】
k1木材加工 k2金属加工 k3機械 k4設計 k5作物の栽培 k6エネルギー教育 k7コンピュータのプログラミングk8食品の栄養 k9日本食の調理 k10世界の料理の調理(国名  )k11服作り k12保育 k13住まいの設計 k14悪徳商法 k15その他(              )

【総合・生活・その他】
J1水環境 J2酸性雨 J3大気汚染 J4環境調査 J5リサイクル J6ビオトープ J7ボランティア J8手話 J9点字 J10盲導犬 J10メダカ J11ケナフ J12花・作物の栽培(   )J13地域の祭 J14豆腐作り J15昆虫飼育(昆虫名   )J16セミの観察 J17トンボの観察 J18釣り J19山登り J20古銭集め J21切手収集 J22お菓子作り J23旅行 J24ダンスJ25刺繍 J26編み物 J27合唱 J28陶芸 J29サイクリング J30ガーデニング J31パッチワーク J32その他(   )

アンケートの結果,授業を受け持っている先生だけでなく,校長など管理職の先生まで市内ほとんどの小中学校教員が登録した。そのまとめた結果の一部を紹介する。

学校名 名前 職名 番号 ジャンル
山口小学校   教諭 d17 恐竜
谷田部東中学校   教諭 d17 恐竜
谷田部東中学校   教諭 d17 恐竜
吾妻中学校   講師 D18 岩石 一般的な地層について
手代木中学校   教諭 d18 岩石
吾妻中学校   講師 D19 河川に見られる岩石について
吾妻中学校   講師 D19 干潟の堆積相について
吾妻中学校   教諭 D19 地層を調べ,過去の体積環境を考察する。
手代木南小学校   教諭 d19 地層
前野小学校   教諭 D19 地層
谷田部中学校   教諭 D19 地層
筑波東中学校   教諭 D19 地層
並木中学校   講師 D19 地層
茎崎中学校   教諭 D19 地質について
松代小学校   校長 D2 樹木
竹園東小学校   教諭 D2 樹木
筑波第一小学校   教頭 D2 樹木
二の宮小学校   教諭 d20 気象
谷田部東中学校   教諭 d21 火山
筑波西中学校   教諭 D22 微生物の採集・写真・観察の仕方
高山中学校   講師 D23 地震
谷田部東中学校   教諭 d23 地震
田井小学校   教諭 D23 地震
茎崎第三小学校   教諭 D24 原子核物理
茎崎第三小学校   教諭 D24 原子核物理
高崎中学校   教諭 D24 化学系 薬品系
手代木中学校   教諭 d24 地形

(2)つくば市内全教員へWEBメールアドレスの配布と利用研修
 いくら人材バンクを作っても,通信手段がなくては質問できないので,市内小中学校教員全員にWEBメールアドレスを配布した。一般的なメールではなくWEBメールを採用した理由は,設定をせずにどこのコンピュータからでもアクセスできることアドレスを知らなくても市内全員の教員にメールを送信できることウイルスに強くセキュリティが高いことなどがあげられる。

 WEBメールの仕組みは,先生1人1人に割り振られたIDとパスワードで入ると,メール,スケジュール,ファイル室などが利用できるようになっている。さらに,アドレス帳には市内全教員のリスト(学校名,氏名,職名,担当)があり,誰でも簡単に目的の人にメールを送信できるようになっている。
 このメールを市内の先生方に利用されるようにするために,これまで,教育委員会と各学校の連絡に使っていたFAXを極力廃止し,このWEBメールを使うようにした。こうすることでWEBメールの利便性と必要性を各先生に理解していただいた。

 また,WEBメールの研修会も実施した。情報教育担当者に対して行うばかりではなく,学校のリーダーである校長を対象に研修会を実施した。写真は,WEBメールの校長研修会でつくば市教育委員会教育長があいさつしている様子である。このように,教育長などトップに立つ方に趣旨を理解していただくことは非常に重要なことである。

(3)つくばオンラインスタディの仕組みについて
 つくば市教育委員会指導課のトップページから,市内の小中学生のいる家庭に渡したIDを使ってeラーニングシステム「つくばオンラインスタディ」に入ることができる。このシステムには,小学校1年から中学校3年まで約1万題の問題が収録されている。
 児童生徒は,利用したい学年,教科,単元名を選択し,問題を解くことができるようになっている。問題は解答方法によって分岐しているものもあり,誤答を繰り返す生徒には動画や3Dを使って分かりやすく解説を行っている。

 

(4)児童生徒が先生としかやりとりできないメールシステムについて

 「つくばオンラインスタディ」のトップページに児童生徒が学習に関する質問ができる「質問メール」コーナーを設置した。児童生徒が書き込んだ内容は,つくば市教育委員会が管理する質問受付専用メールアドレスに送信されるようになっている。
 質問を受けると,教育委員会のIT担当スタッフが市内の先生の人材バンクから回答にふさわしい先生を選んで児童生徒の質問を転送する。できるだけ同じ先生が何度も回答することのないように配慮した。実践当初は,児童生徒から来た質問はその生徒に返事しようと考えていたが,個人的な質問以外は質問と答えを広く公開することで他の児童生徒に対しても学習効果があるのではないかと考え,修正し,個人的な学習のやりとりはやめた。その代わり,「お答えフォーラム」や「科学なぜなぜ教室」という寄せられた質問に対する答えを載せたページを作成した。
 先生方の負担が増えてしまうのではないかという危惧もあったが,ある中学校の先生に「質問メールが来ましたので答えてください」とメールしたところ「この日を待ってました」と快諾し,回答していただいた先生もいらっしゃった。また,単に児童生徒の質問に対して回答するのではなく,ヒントを出してみたり,児童生徒に考えさせるように書いてみたりと先生ならではの回答をしてくださる方が多かったのもこの人材バンクを使ったメールの学習支援の特色だと考えられる。

下の図は,科学なぜなぜ教室で回答した画面である。

(5)児童生徒が先生としかやりとりできないメールシステムを使った学習効果について
 「つくばオンラインスタディ」では,質問の他,やってみた感想を書くコーナーも設置している。そこに寄せられた感想を紹介する。

【メールで質問した児童の感想】
学年:小学5年
 質問に答えていただいてありがとうございました。とてもよくわかりました。これからもオンラインスタディで勉強したいと思います。また質問したときはよろしくお願いします。それから,他の人の質問もとてもおもしろかったです。

学年:小学6年
地震について詳しく教えてくれてありがとうございました。津波のできる理由がよくわかりました。

【「つくばオンラインスタディ」を活用したことで学力があがったという感想】
学年 :小学3年
 私は理科と算数をやりました.最後の問題はとくにきんちょうして,「これで最後だ!まちがえたらどうしよう。」などとおもいましたが,クリアして,百点になれました。「計算ドリルより面白く感じました。「計算ドリル」があきたら,「つくばオンラインスタディ」をやりたいです。これからも楽しくやりたいと思います。

学年 :小学四年
 ぼくは,理科と算数をやりました。理科は「星の動き」をやって百点になりました。星が動く動画があって,とても楽しく覚えられました。算数は紙に筆算をして,コンピュータで答えを打ちこんで,結果が出るのが楽しみです。百点になったとき「ヤッター,百点だ!」と思いました。百点じゃなかったら,もう一度やって,百点にします。これからも,たくさん勉強したいと思います。

学年 :小学4年
 私は,「つくばオンラインスタディ」がとてもおもしろくて大好きです。私は,家でもやっています。私は,理科をやっているとき最初は58点だったけれどもう一回やってみたら100点になりました。これからも家でも学校でもやりたいと思います。

【苦手な問題を繰り返して行うことで学習成果があがった感想】
学年 :小学6年
 私は,戦国時代を勉強しました。戦国時代は,苦手なので,何度もやり直しました。間違えた問題が繰り返しできるので,とてもよかったです。また,繰り返していくうちに,だんだんわかってきました。もう一度,教科書をよく読み,頭の中を整理したいです。

学年 :小学4年
 
僕は,今日初めてやりました。これは,繰り返しできるので,できるまで,やりたいと思います。もっとたくさん問題をやりたいと思うので作ってください.教科書に出ない問題もやりたいです。特に理科がしたいです。これからもよろしくお願いいたします。

学年:小学四年
教材名 :理科の月の観察
 私は理科の基本問題の10問をやってみて80点をとりました。わからない所がありました。それは,月の形の動きです。でも,何回かやってみたらできました。これからがんばっていきたいです。これからも,問題を出してください。よろしくお願いします。

学年:小学6年
教材名 :理科 算数 社会
 教材をやってみて私は,簡単に分かりやすく,できるのがいいと思いました。にがてな教科もだんだん好きになりました。

【学校よりも進んだ学習をしたいと考えている児童生徒の感想】
学年 :小学4年(中学英語を勉強したいと考えている小学生)
 英語も勉強したいので,よろしくお願いします。

学年 :小学6年(発展的な学習を進んで行っている児童の感想)
 
ぼくは,理科が好きなので,理科を勉強しました。地層の作りのところで,発展学習の三日月湖のできかたが,動画になっていて,よく分かりました。言葉の説明よりも,動画のほうが,よく分かると思います。

【中学生の感想】
中学校1年生
教材名 :社会 数学 英語
 こんにちは。つくばオンラインスタディはいつもいいなぁと思っています。なぜかというと,授業でもつかっているからです!数学の授業では,よくCAI室でパソコンをやります。そのときは「つくばオンラインスタディ」をつかわせていただいてます。テスト勉強にも役に立つし,普段の勉強でも役に立つので,とっても良いと思っています。これからも,良い教材をつくってくださぃ!

中学校 2年
教材名 :英語 数学 国語 社会 理科
 初めてやりましたが解説など,とても分りやすかったです!!正解すると1回1回誉め言葉が出るのがとても嬉しくてがんばって正解するように努めています(*^−^*)vこれからもガンバリたいです!!!!!!!

 このように感想を寄せた児童生徒のほとんどが,eラーニングを利用することで,学習意欲が高まったり,知識が身についたりすることができた。これは,eラーニングの特徴である一人一人の進度に応じて自分のペースで学習できたからだと考えられる。eラーニングの弱点である挫折しやすいという問題については,問題を解くだけでなく,分からないところは質問できることで生徒の学習に対する挫折を少なくすることができたと考えられる。

(6)eラーニングシステム「つくばオンラインスタディ」の継続的な利用について
 「つくばオンラインスタディ」が夏休みに稼働した当初,1日平均約1000件のアクセスがあるなど非常に利用率が高かったが,2学期に入り9月10月と1日平均300〜400アクセスに減ってしまった。これは,eラーニングの弱点である「飽きやすい」ということが原因だと考えられる。そこで,児童の学習意欲を高めるために紙媒体で「つくばオンラインスタディ通信」を発行し児童全員(1万5千枚)配布した。WEB上にあるから宣伝は不要という意見もあったが,児童の意識に直接働きかけるには紙媒体で訴えかけるのが有効と考えたからである。「つくばオンラインスタディ通信」を11月15日に配布したところ次第にアクセス数は回復し,11月21日には稼働開始時の1日1000アクセスに迫る勢いとなり,12月には稼働以来4ヶ月で10万アクセスを突破するに至った。

6.ワンポイント・アドバイス
 eラーニングは,学力を向上させるのに非常に有効な手段の一つではあるが,それを利用する児童生徒に対しては常に刺激を与えなければ学習意欲が続かないことがわかった。メールによる学習相談もその方策の1つであるし,紙媒体でのお便りも有効な手段であった。いずれにしても成功させる秘訣は,評価してあげたり声をかけてあげるなど人的な関わりがあって初めて成功するのだと考えられる。


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