1.実践テーマ: |
「つくばオンラインスタディによる学習支援について」 |
2.執筆者: |
つくば市教育委員会 指導主事 毛利靖 |
3.キーワード: |
eラーニング,人材バンク,WEBメール |
4.IT活用の意図
つくば市では,家庭からeラーニングを使って学習するシステム「つくばオンラインスタディ」を構築しているが,児童生徒が家庭で学習している際,eラーニングでは解決できない問題について悩む児童生徒がいる。そうした問題を解決するため,「つくばオンラインスタディ」にメール機能を持たせ,家庭にいながらにしてつくば市内の先生に学習相談できる仕組みを構築し運用した。
5.実践内容
(1)つくば市内約1000名の先生の人材バンクの構築
まず,どの学校にどんな専門性を持っている先生がいるのかを把握するために,先生方の人材バンクを作ることからはじめた。教育委員会では,あの先生は何の教科の免許を持っているかということは把握できるが,例えば理科の場合,昆虫が専門なのか,天体が得意なのかわからない。また,趣味でスペイン語を学んでいるなんていうこともわからない。しかし,児童生徒にとってみれば,そうした専門の先生に教えてもらえればきっと興味ある話も聞けるはずである。
そこで,校長先生をはじめ全職員に人材バンクに関するアンケートを行った。
市内小中学校長 様 つくば市教育委員会教育長 学習サポーター(TSUKUBA ALL SCHOOLS 通称:TAS+)登録について(通知) 総合的な学習の時間等で問題解決学習を行う際,専門的知識を持った人材が必要とされています。しかし,費用や日程調整等の問題から児童生徒が本当に必要としているときに来校していただけるとは限りません。 1 対象 全職員(校長を含む) 2 提出物 別紙2 3 提出方法 別紙2を全職員分(校長を含む)印刷して回答してください。そして,全員分の別紙2を学校で取りまとめ,ホチキスで止めず,指導課長あて提出願います。 別紙1 学習サポーターTSUKUB ALL SCHOOLS(TAS+)について 研究所の研究員や市内教員の専門的な知識を登録していただき,児童生徒はその登録用紙からWEBメールやスタディノートを使って学習に関する質問をするというものです。 【学校サポーターのメリット】
【登録方法】
【利用方法】
別紙3 【社会】 【算数・数学】 【理科・科学】 【英語・国際理解】 【音楽】 【美術】 【保健体育】 【技術・家庭】 【総合・生活・その他】 |
アンケートの結果,授業を受け持っている先生だけでなく,校長など管理職の先生まで市内ほとんどの小中学校教員が登録した。そのまとめた結果の一部を紹介する。
学校名 | 名前 | 職名 | 番号 | ジャンル |
山口小学校 | 教諭 | d17 | 恐竜 | |
谷田部東中学校 | 教諭 | d17 | 恐竜 | |
谷田部東中学校 | 教諭 | d17 | 恐竜 | |
吾妻中学校 | 講師 | D18 | 岩石 一般的な地層について | |
手代木中学校 | 教諭 | d18 | 岩石 | |
吾妻中学校 | 講師 | D19 | 河川に見られる岩石について | |
吾妻中学校 | 講師 | D19 | 干潟の堆積相について | |
吾妻中学校 | 教諭 | D19 | 地層を調べ,過去の体積環境を考察する。 | |
手代木南小学校 | 教諭 | d19 | 地層 | |
前野小学校 | 教諭 | D19 | 地層 | |
谷田部中学校 | 教諭 | D19 | 地層 | |
筑波東中学校 | 教諭 | D19 | 地層 | |
並木中学校 | 講師 | D19 | 地層 | |
茎崎中学校 | 教諭 | D19 | 地質について | |
松代小学校 | 校長 | D2 | 樹木 | |
竹園東小学校 | 教諭 | D2 | 樹木 | |
筑波第一小学校 | 教頭 | D2 | 樹木 | |
二の宮小学校 | 教諭 | d20 | 気象 | |
谷田部東中学校 | 教諭 | d21 | 火山 | |
筑波西中学校 | 教諭 | D22 | 微生物の採集・写真・観察の仕方 | |
高山中学校 | 講師 | D23 | 地震 | |
谷田部東中学校 | 教諭 | d23 | 地震 | |
田井小学校 | 教諭 | D23 | 地震 | |
茎崎第三小学校 | 教諭 | D24 | 原子核物理 | |
茎崎第三小学校 | 教諭 | D24 | 原子核物理 | |
高崎中学校 | 教諭 | D24 | 化学系 薬品系 | |
手代木中学校 | 教諭 | d24 | 地形 |
(2)つくば市内全教員へWEBメールアドレスの配布と利用研修
いくら人材バンクを作っても,通信手段がなくては質問できないので,市内小中学校教員全員にWEBメールアドレスを配布した。一般的なメールではなくWEBメールを採用した理由は,設定をせずにどこのコンピュータからでもアクセスできることアドレスを知らなくても市内全員の教員にメールを送信できることウイルスに強くセキュリティが高いことなどがあげられる。
WEBメールの仕組みは,先生1人1人に割り振られたIDとパスワードで入ると,メール,スケジュール,ファイル室などが利用できるようになっている。さらに,アドレス帳には市内全教員のリスト(学校名,氏名,職名,担当)があり,誰でも簡単に目的の人にメールを送信できるようになっている。 |
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また,WEBメールの研修会も実施した。情報教育担当者に対して行うばかりではなく,学校のリーダーである校長を対象に研修会を実施した。写真は,WEBメールの校長研修会でつくば市教育委員会教育長があいさつしている様子である。このように,教育長などトップに立つ方に趣旨を理解していただくことは非常に重要なことである。 |
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(3)つくばオンラインスタディの仕組みについて |
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(4)児童生徒が先生としかやりとりできないメールシステムについて
「つくばオンラインスタディ」のトップページに児童生徒が学習に関する質問ができる「質問メール」コーナーを設置した。児童生徒が書き込んだ内容は,つくば市教育委員会が管理する質問受付専用メールアドレスに送信されるようになっている。 |
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下の図は,科学なぜなぜ教室で回答した画面である。
(5)児童生徒が先生としかやりとりできないメールシステムを使った学習効果について
「つくばオンラインスタディ」では,質問の他,やってみた感想を書くコーナーも設置している。そこに寄せられた感想を紹介する。
【メールで質問した児童の感想】 学年:小学6年 【「つくばオンラインスタディ」を活用したことで学力があがったという感想】 学年 :小学四年 学年 :小学4年 【苦手な問題を繰り返して行うことで学習成果があがった感想】 学年 :小学4年 学年:小学四年 学年:小学6年 【学校よりも進んだ学習をしたいと考えている児童生徒の感想】 学年 :小学6年(発展的な学習を進んで行っている児童の感想) 【中学生の感想】 中学校 2年 |
このように感想を寄せた児童生徒のほとんどが,eラーニングを利用することで,学習意欲が高まったり,知識が身についたりすることができた。これは,eラーニングの特徴である一人一人の進度に応じて自分のペースで学習できたからだと考えられる。eラーニングの弱点である挫折しやすいという問題については,問題を解くだけでなく,分からないところは質問できることで生徒の学習に対する挫折を少なくすることができたと考えられる。
(6)eラーニングシステム「つくばオンラインスタディ」の継続的な利用について
「つくばオンラインスタディ」が夏休みに稼働した当初,1日平均約1000件のアクセスがあるなど非常に利用率が高かったが,2学期に入り9月10月と1日平均300〜400アクセスに減ってしまった。これは,eラーニングの弱点である「飽きやすい」ということが原因だと考えられる。そこで,児童の学習意欲を高めるために紙媒体で「つくばオンラインスタディ通信」を発行し児童全員(1万5千枚)配布した。WEB上にあるから宣伝は不要という意見もあったが,児童の意識に直接働きかけるには紙媒体で訴えかけるのが有効と考えたからである。「つくばオンラインスタディ通信」を11月15日に配布したところ次第にアクセス数は回復し,11月21日には稼働開始時の1日1000アクセスに迫る勢いとなり,12月には稼働以来4ヶ月で10万アクセスを突破するに至った。
6.ワンポイント・アドバイス
eラーニングは,学力を向上させるのに非常に有効な手段の一つではあるが,それを利用する児童生徒に対しては常に刺激を与えなければ学習意欲が続かないことがわかった。メールによる学習相談もその方策の1つであるし,紙媒体でのお便りも有効な手段であった。いずれにしても成功させる秘訣は,評価してあげたり声をかけてあげるなど人的な関わりがあって初めて成功するのだと考えられる。