地域活動に関する実践研究の総括 |
今回、調査研究の対象として選定した地域について、その取り組みの特色を表1に示す。
表 1
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今回調査対象とした研究会について、その実施形態としては大きく二つに分けられる。
今回調査対象とした10件中5件が、この形態で実施された。
地域の教職員が中心となった研究会が主催となり、また主催となる実行委員会が組織され、ある程度規模の大きな公共施設等を開催会場として確保し一般に参加者を募集する、といった形態である。
広く賛同者を募る・広く知らしめるといった意味合いの、比較的広い範囲へのアプローチに効果的であることは、周知の事実であろう。
昨年度の調査でも報告したが、イベント=ある程度大規模な発表会等を開催することは、精力的・献身的に取り組まれてきた先生方の貴重な実践授業や様々な事例・ノウハウを広く地域の多くの先生方に紹介することにより意識付けをし、活動の裾野を広げ、またネットワーク技術・活用能力等のスキルの全体的な底上げを図る、といった様々な意味においても非常に効果的である。
しかし重要なのは「テーマ」であり、参加する「対象」であり、また今後の「発展性」であると言える。しっかりとした明確な分かりやすいテーマ、対象となる参加者の意識、またその後どう発展していくかの将来像などを明示することは、イベントそれ自体の評価にも繋がっていくだろう。
お祭り的にイベントを開催し(それでも効果があるケースも、もちろんあるが)苦労された授業実践を披露し合って漠然と終わってしまっては、せっかくの蓄積された授業実践のノウハウや、イベント運営に携わった実行委員会の労力も半減してしまうことになりかねない。
今回対象とした研究会活動のうち、研修会を実施した地域が10ヶ所中5ヶ所であった。
地域の教員を中心にきちんと組織化し、計画的に研修会を実施、ノウハウの蓄積と年度を重ねるにつれての地域教員の着実なステップアップを目指す活動は、小単位毎の活動が可能で、地域に根ざした着実な人材育成を実現する。
継続することが必須条件であるため、中心になる事務局やコーディネータの負荷は高いものになるが、ネットワークの授業への活用等の地域への促進を図るには、こういった組織化・計画性・着実な活動が最も効果的である、と言えるだろう。
今回も校内LAN敷設、学校のインターネット接続を契機に、単に技術的なスキルアップから、不足とされている情報コーディネータ養成研修、ネットワーク運用管理技術などをテーマとして取り上げている研修会が、4件中3件だった。
この3件とも、具体的には(例えば職員室内ネットワークを自分たちの手で敷設することを想定した)ネットワークの基礎技術、簡易ネットワーク構築、カテゴリ5のツイストペアケーブルの作成(コネクタの圧着作業)など実務にまでわたる研修を、同様に行っている。
このような全国的にもネットワーク技術・インターネット利用技術に関する研修会は、非常に多くなっているのではないかと推察されるが、今回対象とした残り1ヶ所の静岡県に関しては、授業実践の研修会、及びプレゼンテーションそのものに関わる勉強会として位置付けられていた。「教育の情報化」「総合的な学習の時間」などにおける現場の問題や悩みの情報を共有する場、授業やプレゼンテーションそのものを学習する場として、助言者に静岡大学の教授を招き、持ち時間一人10分程度の発表形態で毎月行われている。
イベント的に開催された長崎県五島の例でも、小中高25校の教諭がそれぞれの実践事例を10分程度で発表された。地域のデータベース構築・利用をテーマに、総合的な学習の時間に関する取り組みや交流授業の実践例など、「学校インターネット」環境をベースに行われている授業実践の情報共有の場として位置付けられた。
今回対象とした研修会も、それぞれテーマや環境などにより、地域での位置付けや内容も違いこそしたが、それぞれの地域に密着した活動が行われていたと言って良いだろう。
イベントで発表された内容としては、おおむねITを駆使した授業実践や総合的な学習の時間に関する授業実践、インターネット・ネットワークを利用した授業実践等の発表をベースにプログラムが組み立てられているのが大半であったが、テーマとしては地域や学校間における「連携」を目指して、または意識して開催されたケースが多かったように見受けられた。
「地域」との連携(即ち「地域の行政」「地域の教職員」「地域の子どもたち」「地域の企業」「地域の人々」との連携である)や情報共有、そこまでテーマとして掲げなくても「地域への発信」といったように、はっきりと「地域」を意識した活動を行ったものが大多数であった。
また一方で、早稲田で開催された語学教育系のイベント(中学・高等学校・大学の連携)や和歌山で開催されたイベント(養護・小学・中学・高校)では明確に打ち出されているように、「学校間の連携」もテーマとして多く取り上げられている。
地域における学校間の“横断的な”、また幼稚園、小学校から大学まで“縦断的な”連携というテーマは、中高一貫教育や、義務教育の学校選択制度が話題として取り上げられている中、今後さらに重要になってくると思われる。
以前に比べると、「学校におけるインフラ整備の充実」や「教職員における技術レベルの向上」、「技術情報共有」等を、発表テーマや開催テーマとして大々的に掲げるケースよりも、地域に根ざした協働の活動に結び付ける、もしくはあまり情報交換さえされてない学校間を横断的または縦断的に行うような活動が目立ってきたようにも思える。
研修会では、こういったテーマを少人数で、もしくは各プロジェクトのユニット毎に勉強会を開催し、実際にネットワークの知識や技術力等を習得する、という傾向であった。
前述した通り今回調査対象の研修会4件中3件が技術研修・実技を取り入れて開催されたが、一様にネットワークスペシャリストとしての技能を求めているのではなく(専門の企業なりの技術者レベルを目指すのではなく)利用者としてのある程度の基礎知識・基礎技術と、全体の概略を掴み企業の専門家なりへの指示が可能な程度のレベルを(明確に)目指していたのは、特筆すべきであろう。
過去インターネット導入時(特に100校プロジェクトの初期)においては担当した教職員が全ての事柄(サーバ設定にはじまる技術的な要素から授業への活用まで)をカバーしなければならなかった。物理的にも環境的にも全てを十分に満たすことは難しく、苦労された先生方も多くおられただろう。ハード障害・ネットワーク障害等で労力を割かれたその弊害として、教育実践や授業そのものへの時間をつぶさなければならなかった問題は、今も現存している。しかし、こういった活動が継続されれば、徐々にではあるが、改善されていくことになるだろう。
共催・後援・協賛・協力等々、イベント開催や研修会実施に伴い各協力団体との関係も重要なものである。行政、各種関連団体、学校、企業などそれぞれのレベルで様々なからみ方があり、環境や歴史等にも左右されるが、実際に各地区ともそれぞれの団体とそれなりに付き合っている研究会や、うまく付き合っている研究会など様々であった。
原則としては活動そのものを常日ごろから認識させる情報発信や啓蒙等の活動など関係作りに関するある程度の継続した努力も必要とされるし、活動を継続することによって信用・信頼が発生する。とは言え、結局のところ重要なのは、これもヒューマンコミュニケーションなのではないか、と考える。
教職員対象のイベントや研修会を任意・有志で行う場合、活動の広がり、参加者の行動等を鑑みると、行政など公共機関における後援名義の使用承認許諾を得ることは、ある程度重要なことである。このことにより当該事業がより公共性を増し、信頼度が増し、より活動に広がりができ、かつ参加者(教職員)にとっても参加のし易い事業となる。
公共機関等への後援名義使用承認依頼は、その当該機関等により様々であるが、「明確な主催組織」「公共性」「社会的意義」などの他に、ある程度「継続性」などの実績も着目されるケースが多い。
今回実施されたイベントや研修会も、表2で示す通り主に教育委員会などの公共団体より後援名義を取得したケースが多かった。
表 2
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表2中、静岡県に関しては主催団体(に順ずる位置付け)がほぼ公的機関であることと、立ち上がったばかりで任意の勉強会の位置付けになるため後援名義はとっていない。(しかし、研究会の会長を始めメンバーには校長職やセンターの指導主事が席を置き、教育委員会もその存在を認めている)
また長崎県の場合は、「先進的ネットワークモデル地域事業」の検討推進委員会が主催の中間報告会のため、行政の協力を特に受けなかった。
行政の協力を受けた例で今回特筆すべき地区は、三重県である。
当地区においては中学校の先生方が主体となって、もともと伝統文化などの地域データベース構築を試みる活動を行ったり、学校現場においてケーブルテレビの敷設によりインターネット接続環境整備が進むのを背景に、学校と企業の連携によりテレビ会議による授業実践(例えばNASDAとの交流授業、近隣学校とのテレビ会議交流)を行ったりと、着実な実績を2年越しで積み上げてきた。
今回のイベントは、そんな草の根的な活動を大きく飛躍させるべく企画されたもので、地域企業と学校の連携の中、行政側も巻き込み、最終的には教育委員会共催という形に発展していった。地域連携の一つの成功例と言えるだろう。
企業との連携というのも、「地域」というキーワードを考えるとその位置付けは重要になってきているのではないだろうか。もちろん協賛金支援という形で協力してもらい運営資金に補填する一方、企業側も展示など情報提供の場として利用する、といった連携の仕方もあるし、むしろこれは一般的であろう。
前項で挙げた三重県のように、実際に企業と連携して研究授業を長年継続して行ってきている例もそうだが、その他で特に企業との連携に成功を収めていた例として、宮城県の例を挙げる。
宮城県のシンポジウムは、東北6県を対象に150名あまりが泊りがけで参加し、「教育と地域の情報化」をテーマに授業実践発表やパネルディスカッションを行うイベントである。
このイベントで特筆すべきは、参加者に対しノートパソコンを貸与し、参加者から会場内のイントラネットサーバ上にある掲示板に対してそれぞれの発表者宛ての質問事項を随時アップしてもらうシステムを採用・実施したことである。このアップされた質問・意見等をパネルディスカッションのコーディネータが取りまとめ、パネリストに対してどんどん議題を投げていく仕掛けで、質問し易い環境を(なおかつ多くの)参加者に提供することと、質疑応答時間の短縮・削除の両方の効果を得ている。
この環境を構築・維持するためと展示による情報提供などを、協賛として地域の企業から協力を受ける一方で、協賛企業展示を行いさらに「地域と企業」に類するテーマで協賛企業の発表も行った。
企業協力としては、会場のネットワーク敷設・設定全般に関して物資供給・人材派遣を行ったが、地元通信企業などは無線基地を急遽建設するなどの対応も行った。
実際に、「教育と地域の情報化」をテーマにして、関連した団体・企業等がイベント成功に向けて一丸となって取り組んだ成功例としては、(実行委員会によるリーダシップの発揮も含めて)他に類を見ないのではないだろうか。
ここでは運営主体の組織に関して、その形成の基準・実態等を報告する。
組織(グループ)を形成するにあたり、今回見てきた例を見ても、実際に事務局として機能するのは1人か2人であるが意思決定等重要な部分を担うメンバーとして(もちろん開催するイベント・研修会等の規模にもよるが)3〜5名は最低必要である。
一つの組織形成の例として、一般的にはイベントを開催する際にはプログラムコミッティ(PC)として方針の決定、プログラムの策定から経費の管理まで、事務局を中心に比較的重要な役割を担当し、全体を把握、運営全般を管理する機能を設置することが重要である。
一方でその配下に、会場手配・環境整備等を担当するローカルアレンジメント(LA)を設置する。
役割分担として負荷が一極集中することを避け、上記の例では大きく2分化することにより負荷分散を図り、組織・事業を運営していくことが定石である。
和歌山の例を見てみることにする。
和歌山県で行われたフォーラムは、地域の養護学校から小学校・中学校・高等学校(基調講演として大学)までを分科会として開催しそれぞれに運営責任者を置く、という運営を行った。
実行委員会にて運営方法や会場その他全体に関わることが協議され、それぞれの分科会においてプログラムの決定・発表者の選定・資料の手配などが行われた。分科会の進捗状況、問題点等は実行委員会にて報告され、情報共有が図られた。
この例は、最終的には全員がプログラムコミッティでありローカルアレンジメントの役割を担うことになったが、組織形成における成功例として挙げることができる。
組織運営、イベント・研修会等の運営として、メーリングリストの活用がもっとも一般的になりつつあり、また効果が挙がっている。
今回全ての研究会において、メーリングリストの運用がなされていた。もともとの情報共有用に設置されているケースはあったが、今回は特にイベント・研修会等を運営・準備するために新たに設置されたケースのほうが多かった。
通常は運営組織と関連してその対応したメーリングリストを設置するようだが、おおよそ次のような形態(段階的には、例えば表3のような形態)が例として考えられる。
・スタッフ用 | − | 運営用。必要に応じて細分化する。あまり多くても混乱するので注意が必要。 |
・参加者用 | − | 告知用。スタッフからの情報提供や参加者同士の情報共有、参加者への事前アンケートを行うなどにも利用できる。 |
表 3
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いずれにせよ、組織・開催する事業(イベント・研修会)・環境などにより、最も適した分類・運営方法を選択することになり、またメーリングリストをうまく活用すれば効率は格段にあがり、スムースな運営が可能となる。
学校現場にコンピュータが導入され、インターネット接続や「教育の情報化」などいわゆるIT技術の授業への利用・活用が徐々になされてきている現在、今までの流れを振り返ってみれば、まずインフラが整備され(学校にコンピュータが導入される、インターネットに接続される)教職員の各個人がスキルアップに努め授業への活用に試行錯誤して一人で走り続けたフェーズが初期にはあった。
その後、培った技術や授業実践を全国に発信するフェーズを経て、この1〜2年では周辺・地域等で確実に共有する、またそれらを地域へ根付かせていくフェーズに移行してきているのではないか、ということが今回の調査では浮き彫りになってきたといえる。
まだほんの一部の活動、一部の認識かもしれないが、着実に変わりつつある学校現場、また地域の連携を少なからず実感することができた、ということが今回の成果であると認識している。
昨年度から続けて全国各地の研究会等を支援してきた。述べ18地区になるが、昨年度の調査項目として重要視したのがノウハウの抽出であった。今年度も同様に特色のあるイベントや研修会があり、質の高いノウハウも存在していた。
全体的に、学校・教職員における技術的なレベルアップは徐々にではあるが着実に進んでいるように思える。また総合的な学習の時間に関する授業実践や、インターネットの活用・ネットワークを利用した授業実践も徐々に浸透してきている、と感じる。
それらを踏まえて今回特に実感したのが「地域」への意識の高さが各地で現れていることである。この「地域」において情報の交流や連携がうまくいっている地区であればあるほど、イベント・研修会等の成功も容易になっているように見受けられた。
2001年の全国4万校インターネット接続や2005年全教室にネットワークが敷設されるなど、教育の情報化におけるインフラ整備が進んでいる中、各個人・各学校・各地域毎にノウハウの蓄積がなされ、その地域での共有や周辺への普及活動がそれぞれの形で行われていることを認識できた本調査の最後に、いろいろな地域で、やはり中心になっているのは情熱を携えて活動されている方々だということを再認識させられた。
「地域との連携」学校、行政、企業、家庭など、まだまだそれぞれの立場で行えること、行わなければならないことがあるはずである。この一つの結論も、今回の成果である。