「酸性雨/窒素酸化物(NOx)調査プロジェクト」
実践マニュアル


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5. 酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査の未来

     21世紀を迎え、環境問題は地球人類の未来を決定する重大な課題となっている。

     幹事校である広島大学附属福山中・高等学校の環境教育の授業では、環境を観測し、環境の状況を知るという2つの段階を経て、第3の段階としてそれまでの観測や学習の体験を基に、世界中の子どもたちとインターネットを通して交流していくように年間のカリキュラムを構成している。こうした交流活動は、環境教育の手段として大きな変化を生徒にもたらしていると感じている。当校の生徒達はインターネットを利用して他の国の学校に酸性雨の状況や川のようすを問い合わせるといった交流を行っている。こうした交流では「世界中に環境問題を真剣に考えている多くの仲間がいることを知って、これからさらに仲間を広げていけば、自分たちの努力は決して無駄にならないと思う。」という感想を書いた生徒もおり、環境に対して行動しようという意識が生徒に芽生えてきていると感じている。今年度行った酸性雨のデータ分析は、越境酸性雨の可能性を示唆している。こうしたことからも、現在日本国内だけで行っているこのプロジェクトを、将来は海外、特に東アジア地域に発展させていくことができれば、環境教育としてもあるいは「総合的な学習」としてもより有意義な学習の場を構成できるものと考えている。

     また環境教育の実践の中でもっとも強く意識していることは、生徒にいかに実践力を付けさせるかという点である。環境に対していかに豊富な知識を持ち、環境問題の重要性を理解していたといえども、実際に環境に対して行動ができなければ環境問題の解決はあり得ない。その中でコンピュータやインターネットは他の手段では代えることのできないものになってきている。インターネットを利用すれば多くの情報を手に入れ活用することができるだけでなく、手軽に遠方の相手と交流をおこなうことが可能となる。同時に注意すべきこともある。コンピュータが作り出す仮想現実の世界を実体験の代わりにすることはできない。生徒たちがインターネットでの交流をもとに、もっと知りたい、もっと体験したい、もっと関わりたいと考え、最終的には例えばある地方の情報を調べた生徒が将来その地方を訪れたいという気持ちになることが望ましい。すなわち、直接体験を肩代わりするためのインターネットではなく、直接体験を欲するようになる、あるいはそうした気持ちを育てるためのインターネットの活用が理想であると考える。

     酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査プロジェクトに参加した生徒が、インターネットの世界だけにとどまることなく、環境問題に積極的に取り組み行動していくことが、このプロジェクトの究極の目標である。プロジェクトに参加している生徒が集まって、研究発表を行い、環境問題について討議する「酸性雨サミット」も、いずれの日にか実現させたいと考えている。そこでは、インターネットを越えたより強い結びつきが生まれ、環境問題に対して行動する姿勢を育むことができるのではないかと考えている。



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