酸性雨/窒素酸化物 調査プロジェクト
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本校は1998年度より本企画に参加しているが,継続的な観測や体験学習を通して,環境問題をより身近な問題として捉えるようになるとともに,これからどうすればいいかを考え,実践する能力を高めていきたいと考えている。ネットワークを利用し、様々な情報を交換することによって,より深く多面的に考察できるようになる。環境問題は,これまで理科や社会,家庭科などの教科・科目で取り扱われてきたが,ネットワークから得られる情報は,既存の教科・科目の内容を補完し,深めることができる。それだけでなく,これから高等学校で本格的に授業実践が行われる「総合的な学習」でも,本企画の成果を活用することができる。このような考えから,継続して本企画に参加することとした。
今年度の本校における本格的な始動は,9月からである。8月に酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト指導者研究会(東京)に参加し,企画の進め方と配慮すべき点を確認し,各校の様子を知ることができた。会議では有益な情報が得られるとともに,参加意欲が高まり,オフラインミィーティングに参加することの必要性を痛感した。研究会の内容は詳細にまとめ,関係教員に知らせた。
研究会の内容として印象的だったのは,1)ホームページを見て調べるということを主体とした学習だけでは,いずれ行き詰まる。2)測定とホームページへの書き込みを継続することに意味がある。3)各地の測定値を比較することによって地域性を見い出すことを,生徒とともにすべきである。4)初期降水のph値をみると,降水直前のその地域の大気中の酸性物質量を推定することができる。5)ph値は,連続晴天日数や風向・風速などの気象条件やそのときの大気汚染発生源の状況と関係していることが多い。6)平均ph値は、降水量の多少や雨雲の発生地域,移動経路と関係がある。太平洋で発生する熱帯低気圧がもたらす降雨は酸性物質が少なく,ph値は高いが,中国大陸で発生した雨雲が東進してもたらす雨のph値は低い傾向にある。7)酸性物質が多くても,中和するアルカリ物質が多ければ,ph値は低くならない。都市は石灰が大気風塵に大量に含まれている。黄砂の時期のph値は高くなる。G晴天日の日中の窒素酸化物濃度は低くなることもあり,発生源からの距離・風向・風速と関係がある。気温・相対湿度・風向・風速などのデータを収集し,天気図や気象衛星「ひまわり」の画像を用いて雲の発生と移動を把握し,測定地域の地形や人口分布,土地利用などもみるとよいといったことである。
(単位:phはph値。導電は導電率のことで1.41はmS/cm,他の値はμS/cm)
9/1 |
9/3 |
9/12 |
9/15 |
9/22 |
9/29 |
10/13 |
11/1 |
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ph |
導電 |
ph |
導電 |
ph |
導電 |
ph |
導電 |
ph |
導電 |
ph |
導電 |
ph |
導電 |
ph |
導電 |
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1) |
6.7 |
1.41 |
5.6 |
1.41 |
7.0 |
9 |
6.4 |
34 |
5.3 |
10 |
6.7 |
37 |
4.2 |
37 |
6.7 |
43 |
||
2) |
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|
6.2 |
1.41 |
6.9 |
8 |
7.0 |
14 |
6.0 |
29 |
4.3 |
58 |
4.4 |
162 |
6.1 |
5 |
||
3) |
|
|
6.0 |
1.41 |
6.9 |
6 |
6.7 |
7 |
4.6 |
3 |
4.3 |
43 |
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|
6.0 |
5 |
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4) |
|
|
5.7 |
1.41 |
6.8 |
9 |
6.6 |
5 |
4.9 |
20 |
4.7 |
16 |
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|
6.6 |
6 |
||
5) |
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|
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6.8 |
6 |
6.5 |
5 |
4.8 |
5 |
4.5 |
31 |
|
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6.6 |
7 |
||
6) |
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6.7 |
10 |
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4.7 |
29 |
5.3 |
13 |
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6.6 |
5 |
||
7) |
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7.2 |
18 |
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4.7 |
54 |
6.4 |
9 |
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6.5 |
3 |
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8) |
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6.4 |
8 |
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4.3 |
34 |
6.6 |
9 |
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4.7 |
14 |
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平均 |
6.7 |
1.41 |
6.0 |
1.41 |
6.8 |
13 |
6.6 |
14 |
4.5 |
10 |
6.6 |
15 |
|
|
6.2 |
10 |
【結果】太平洋で発生する熱帯低気圧がもたらす降雨はph値は高く,中国大陸で発生した雨雲が東進してもたらす雨のph値は低いことが確認できた。降り始めの雨は、不純物を多く含む。
換算表(単位:比色表の数値(μg/ml)、窒素酸化物濃度(ppm))
比色表の数値 |
〜0.1 |
〜0.2 |
〜0.3 |
〜0.4 |
〜0.5 |
〜0.6 |
窒素酸化物濃度 |
〜0.019 |
0.019-0.038 |
0.029-0.056 |
0.039-0.075 |
0.048-0.094 |
0.058〜 |
【注】1999年度はNox調査薬と比色表,2000年度はユニメータとザルツマン試薬を用いて窒素酸化物濃度を測定した。
平均値の比較 |
1)校舎2階 |
2)校舎3階 |
3)校舎4階 |
4)駐車場 |
5)城 山 |
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比色表(1999年度) |
0.1 |
0.2 |
−−− |
0.2 |
0.2 |
|
Nox濃度(2000年度) |
−−− |
−−− |
0.0182 |
0.0210 |
0.0154 |
|
6)正 門 |
7)グラウンド |
8)商店街 |
9)工場近辺 |
10)松山空港 |
11)国道 |
12)職員室 |
0.2 |
0.2 |
0.3 |
0.2 |
−−− |
0.3 |
0.2 |
0.0252 |
0.0168 |
0.04620 |
0.0280 |
0.0322 |
0.0322 |
0.0196 |
【結果】 工場周辺地域は公害対策がなされており,自動車交通量の多い地点の窒素
酸化物濃度が高いと言える。観測日による値の差は,1)の校舎2階(東向きの校舎)で0.0112ppm、2)のグラウンド(東隅で観測)、10)の松山空港、11)の工場周辺で0.0224ppm( 10)と11)は天候に左右されやすい)となった。東西方向の風に影響されやすい印象を受ける。
実施に当たって,1)年間学習計画の中で、インターネットを活用した環境学習をどう位置づけ展開するか,2)生徒が積極的に活動し,実践力を高められるための方法を準備しておく必要がある。しかし今年度は,肩肘を張らず,教師・生徒とも負担にならない方法で授業を展開したいと考えた。メールやホームページを活用した「調べ学習」も予定していたが,ビデオを視聴したり,観測器具を教室に持ち込んで,生徒に計測させたりする程度にとどまった。
指導内容と学習経過 |
結 果 と 反 省 |
ビデオ『未来からの電子メール』を視聴する。 インターネットを活用して環境学習をしている学校に着目させる。 |
オゾン層の破壊,酸性雨,温暖化の原因と影響,二酸化炭素の排出量を削減するために行われていることなどをまとめ,問題を解くことによって,中学校で習った学習内容を確認させた。「酸性雨」企画に興味をもち,参加してみたいという生徒が数名いた。 |
写真や図表を使って説明する 写真(A4サイズ, 帝国書院発行)や新聞記事,ホームページなどをもとに発表用の文章と図表を作成させる。 |
テーマを設定し,グループごとに分かれて,写真やホームページ,書籍などをもとにまとめさせる「調べ学習」を予定していたが,担当教員の説明が中心となった。グループ学習ができるかという不安と,時間的な制約があった。ビデオの内容から少し掘り下げ,次の酸性雨の内容につなげる展開となるよう配慮した。 |
酸性雨のホームページを検索する。 1)酸性雨の測定方法 |
検索エンジンから調べると時間がかかるので,事前にブックマークに入れておく。1)測定方法では実際に器具を使って測定させたが,各校の測定値を比較し,分析まで発展させることはできなかった。 |
酸性雨の分析 1)ph値に関わる要因 |
要因を分析するには,天気図やひまわり画像,土地利用図,気象データなどの情報を授業で活用しやすいように加工しておく必要がある。今年度は準備が整わなかったため、今後の課題としたい。 |
酸性雨調査グループへ質問 |
このクラスの生徒はメールアカウントをもっているので、専門家に質問のメールを送ったり、授業の感想を担当教員にメールで送ることもできた。 |
定点観測は,環境問題をより身近な問題として捉える契機となった。
機器を用いて体験させ,酸性雨に対する興味や関心をより高めさせた。
測定で分からないことをメールやホームページで教えていただいたり,励まされたりした。
継続して観測すると,誤差が相殺され,傾向が把握できる。計測機器に違いによる値のずれが心配されたが,大きな違いは見られなかった。
負担にならない作業と進度によって成果が上がることを再認識できた。
本校は,レインゴーラウンドを雨が降りそうな時に設置しているので,週末や担当者が不在の時は測定ができないことが多かった。生徒に測定させる体制づくりが課題である。
校内の掲示板に観測データを表示し,多くの方に知ってもらう努力が必要であった。
観測データをホームページの掲示板に書き込めなかった。グループをつくり,役割分担を明確にすべきであった。教員主導で継続すると広がらないし深まらない。
窒素酸化物の測定は,今年はザルツマン試薬とユニメータを用いたが,測定ミスやデータの散逸などで,データを完全にそろえられなかった。データの書き込みは迅速にすべきであった。測定曜日も天気や公務の関係で火曜日に容器を設置し、水曜日の夜遅く回収する状況であった。
生徒の学習が一過的にならないよう,日々の実践に結びつくような内容と方法の研究が求められる。
環境問題に関するメールの交換(教師レベル・生徒レベル)が進めば、成果が上がる。メーリングリストの活用があまりできなかった。
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キリンビール株式会社 企画毎日ビデオライブラリー(1997)「未来からの電子メール」
文部省(1995)「環境教育指導資料(中学校・高等学校編)(事例編)」
松山市消防局の気象データ、愛媛新聞の天気図
酸性雨調査研究会、徳島酸性雨を測る会、新酸性雨調査のホームページ
松山市消防局の方々には、お忙しいにも関わらず、気象データを快く閲覧させて下さり、感謝申し上げます。