I.「特殊教育支援機器
活用相談ネットワーク・センター」の実践研究


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5.インターネットによる支援機器活用に関する相談業務の可能性と課題

5.1 インターネットを利用した本センターの有効性

       本実践研究を通じて明らかになったこととして、インターネットを利用して相談対応を行い、支援機器を貸し出すといった形態の本センターが有効であると評価されたことがあげられる。これは「3.10 アンケートの実施・結果」のアンケート結果からも得られたように、相談者からの回答で証明された。その多くは「資料を見るだけでなく実際に機器を利用できること」、「どのように活用するか具体的な相談ができること」、「実際に利用する際の細かなアドバイスが得られること」、「支援スタッフに子どもの様子を見てアドバイスが得られたこと」等と言ったように、実質的で具体的な相談活動に対して良い評価がされた。この背景として、障害(児)者用の支援機器が高価であり、機能や使用方法等に精通している人が全国的にも少ないこともあって、相談のみならず貸し出しも行う本センターが貴重な存在になったのではないかと考える。このことは、研究を始めるにあたって予想していたことではあったが、実際に本センターを開設し、相談活動を展開してみて証明されたと言える。そして、また一方では、これらの相談及びその評価に関して、インターネットが時間や空間を超えた「手段」として多くの人に活用されるようになったことも大きく、本実践研究がインターネットによって行われた意義も証明されたと言える。

5.2 今後の可能性と課題

       有効活用が期待される本センターの今後の可能性と課題は、1)支援機器のフィッティングからサポートに至る相談活動、2)支援機器の貸し出し、という2つの側面から考えることができる。

       1)については、障害児(者)を支援する人に対して、本センターの支援スタッフが実際に出向いてアドバイスをしながらフィッティングを行い、その後のサポートも行う体制が最も望ましいと考える。しかし、現在の本センターの体制から見て、支援スタッフの人員配置や地理的な問題もあり、実際に出向くことは難しい現状にある。また、本センターの相談業務そのものがボランティアスタッフによって行われているために、実質的・迅速的な対応が難しい場合もあり、ほとんどがメールによるやりとりに頼らざるを得ない。そこで、今後の相談業務の可能性として、高速ネットワークを利用したテレビ会議システム等を使用し、その場にいるのと同じように相談者が支援スタッフからのアドバイスを得られるシステムを考えていく必要がある。

       また、今回の実践研究では、相談そのものが1回限りで終了となってしまったケースが多かったが、相談者自身が次の相談者へのアドバイザーとして育っていくことで、有機的に人的ネットワークが広がっていくことも期待できる。例えば、相談者は支援スタッフ用メーリングリストに参加し、その後のフォローをする中で、今度は他の相談者を支援できるようなスキルを身に付けることも可能ではないかと考える。つまり、質的な広がりへの可能性である。

       更には、相談事例を蓄積することで系統化されたQ&A集を作り上げることも大切である。特に、障害(児)者用の支援機器は、障害の状態に合わせた個別設定が可能なもの(キネックス、オペレートナビ等)も多く、自由度が高いがためにどのような機能が実現できるかがわかりにくいこともある。したがって、相談事例を参考にしながらネットワーク上で利用できるセットアップのデータベースのようなものを作っていくことが、多くの障害児(者)の活動を支援することが可能になるのではと考えられる。

       2)については、官民問わず地域ごとの支援センター、貸し出しセンター、展示センター等を整備することで、相談者やサポートする者に対して支援機器がより利用しやすい身近なものになっていくのではないかと考える。さまざまな情報交換を行うためにネットワークを利用した全国規模の支援センターも必要ではあるが、より地域に密着した相談センターも必要である。この点については、支援・貸し出し・展示等のセンターが有機的な連携を取ることができれば、業務の地理的分化による支援スタッフの負担軽減、配送のスピードアップにもつながる。

       また、先日、文部科学省から出された「21世紀の特殊教育の在り方について〜一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について〜」の最終報告によれば、地域の特殊教育センターとしての盲・聾・養護学校の機能の充実がうたわれている。今回の実践研究を通して本センターの有効性が明らかになったのをうけて、各特殊教育諸学校が本センターのような役割を持つことの可能性も考えられる。

       いずれにしても、地域密着型の支援センターの充実、インターネットを利用し支援情報の相互リンクが取れるようなシステムの構築が今後の課題である。但し、それに伴う人員の配置や教師本来の業務との関係等については、教員定数法等の法的整合性の問題も検討せざるを得ないし、相談における情報交換に関わる守秘義務の問題等とも関係してくるために、今後の議論が必要である。



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