2.3.3. 交流の実践

2.3.3.1.教師間の交流

 国際交流活動に携わったことのある人であれば誰しも教師間のコミュニケーションがその手始めとして最重要であるということに賛成してくださるだろう。M&Mの場合にはヨーロッパのESP及び日本のCECという2つの支援団体がこの点をよく理解し、目標を立て、緊密な関係を結ぶための最初の会議を奨励してくれた。しかし今年度については、当初の顔合わせの会議が行なわれたきり、緊密な交流は行われなかった。参加教員のためのメーリングリストを作ったにも関わらず、ヨーロッパでは3名のうち1名が年間を通じて定期的に連絡をくれたのみであった。そして先生の努力にも関わらずその生徒たちの活動はテーマ研究、Eメール送信ともに限られたものに留まった。
 日本においては、コミュニケーションについてはそれ以下の状態であった。
 その理由のひとつは、グループの活動が余りにもEメールに頼り切っている一方で教師のほうが不慣れであるということが挙げられる。もっと直接的に、たとえば電話を併用するなどのコミュニケーションのほうが必要だったのだろう。本校においてはM&Mプロジェクトのコーディネイター(筆者)と実際にM&Mを受け持つ教師が同校内にいて、コミュニケーションが容易であり、なにか新しい情報や質問がメーリングリストやBBSに送られると、その回答は両者の間でリアルタイムで返ってくる。そしてこれが重要な点だが、教師は「まだ回答が送られてきていませんよ」という督促を受けることができるのである。教員というものはさまざまな業務や責任に追われる非常に忙しい人種であり、すぐに物事を追いやっては忘れてしまうので、これは非常に重要なポイントである。
 ほとんどの場合、日本ではメーリングリストに必ず回答を寄せてくれたのは1校のみであった。このような状態でプロジェクトを成功させるのは非常に難しい。

2.3.3.2.生徒達の交流

 過去の経験から、さまざまな学校の生徒たちが友情をはぐくみ、それを継続することが重要だということは理解していたが、今年度はこの点で成功したとは言えなかった。私たちは何通りかの方法を通して努力を重ねた。各テーマごとのメーリングリストを作ったことはそのなかでも最も重要なことであった。ファッションや音楽といった、ひとつのテーマの参加人数が多い場合には、グループを2つから3つに分け、複数のメーリングリストを作り対応した。メーリングリストのメンバーの名前とアドレスはM&Mホームページに掲載され、すべての参加校に連絡された。各教師にはそれぞれの生徒にメーリングリストに対してメールを送るよう指示された。
 ドイツの生徒のほとんどは個人のEメールアドレスを持っていないため、教師はクラスの全生徒に自己紹介文を書かせてそれを集め彼女自身がその文章すべてを一通の手紙に編集し、それを学校のネットワーク管理者に渡した。それが1998年の11月のことだった。1ヶ月が経過したが生徒たちの元には1通の返事も返ってこなかった。教師が心配になりネットワーク管理者に何か知っているか、何か問題があったのかを尋ねたところ、彼は言った。「ああ、それならアドレスが間違っていたといって返ってきたよ。」教師はそのことをすぐに報告されなかったことに腹を立てた。彼女の生徒たちはそもそも手紙がまったく送信されなかった2ヶ月の間、ひたすら返事を待っていたのだ。
 後日、M&Mプロジェクトコーディネイターがその手紙を受取り、テーマごとにグループ分けを行ったが、当然ながらドイツの生徒たちは1ヶ月以上もまったく回答がなかったことでやる気を失っていた。残念なことにはこれらのドイツの生徒たちのメッセージがテーマグループのメーリングリストに送られて以後も、ほとんど応答がなかったのである。
 一般的に生徒間にはほとんどEメールでのやりとりは見られなかった。メーリングリストの存在については何度も参加校の担当教師に報知されたものの、果たして何人の生徒がメーリングリストのことを知っていたのか知る術はない。プロジェクトの初期にすべての教師にメールが送られたときでさえ、10人のうち2,3人の反応しかなかったので、結局のところ何名の生徒がメーリングリストについて知っていたのかはわからず終いであった。
 1月中旬、オランダの教師はプロジェクトコーディネイターに自分の生徒がM&M参加を辞めたがっている旨書き送ってきた。理由は生徒達の出した手紙に対する返事が返ってこないためである。本校の担当教師は自分の生徒たちに、受取ったメールに対して返事を書くよう呼びかけたが、それも不規則なものであった。
 2月の半ばにプロジェクトコーディネイターは本校のクラスの生徒に対して他校の生徒との交流について聞き取り調査を実施した。この中で、テーマグループによってメール交換の量が異なることがわかった。あるグループではまったくメールのやりとりがないが、他のグループはドイツ、スロバキア、オランダからメールを受取っていた。最近音楽のグループは東雲高校の生徒からメールを受取った。それぞれのグループリストにメールを送るよう生徒や教師に働きかけてはいるものの、ほとんどの生徒は1通しかメール送信していない。これには多くの理由がある。

   a)メールを出したが返事がない
   b)返事は来たが、冬休みの直前だったのでそれには返事を書いていない
   c)自分ではなくグループの中の誰かが返事を書いた
   d)あまり頻繁にメールチェックをしないので、いつメールが来たかわからなかった
   e)調査のほうに一所懸命でメールを送る時間がない

 2月中旬に、同志社国際高校の生徒たちに「メーリングリストについてどう思いますか?活用していますか?」と尋ねた。「それ何ですか?初めて聞きました」というのがあるグループの答えだった。「たしかそれはM&Mのホームページにあるでしょう?」とある生徒。また別の生徒は「ええ、知っています。メーリングリストを使って何通かメールを出しました。」
  ただし他校の生徒と活発にコミュニケーションを取っていると答えた生徒はひとりもいなかった。
 この一年のコミュニケーションの悪さを振り返って、プロジェクトコーディネイターとして考える主な原因は以下の通りである。

1)多くの学校が以下のような技術的な問題を抱えている
  ・ネットワークにつながるコンピュータの不足
  ・生徒の個人アドレスがないこと。そのためすべて教師経由で活動しなければならない
  ・生徒がメールを書くための時間の不足
  ・ネットワーク管理者とのコミュニケーション不足、あるいはネットワーク管理者によるサポートの不足

2)多くの学校が以下のようなカリキュラム上あるいはクラス設定上のさまざまな問題を抱えていること
  ・M&Mに与えられる時間は2週間に1度というものから週2回までさまざまである
  ・生徒がコンピュータはじめ他のメディア機器を使用できる時間に  差違がある。

3)多くの教師が以下のような悩みを抱えている
  ・コンピュータを定期的に使うことができない
  ・定期的にEメールを使う習慣が無いため、コミュニケーションの輪の中からこぼれ落ちてしまう
  ・さまざまなコンピュータテクノロジーを十分に使いこなせない
  ・新たなプロジェクトに参加するための学校現場のサポートの不足

 

将来の展望
 プロジェクトも終盤の2月中旬になって堰を切ったように活動が集中した。音楽のグループに東雲高校より数通のメールが送られてきた。同志社国際高校の生徒はそれに返事を書くよう促されている。「フォレスト・ガンプ」BBSにメールが掲載され始めた。同志社国際では東京国際学園からの自己紹介ビデオを受取った6週間後に自分たちの自己紹介ビデオを送った。教師も生徒もさらなるコミュニケーションの必要を感じている。問題はこうしたコミュニケーションをいかに年度内の早期に開始し、生徒たちの活動のなかにいかにそれを組み入れるかということである。
 1999年2月に、M&Mの今年度最後の会議が開かれ、各校の関わりや参加を増やすための方法として、M&Mという大きなプロジェクトよりもむしろ、すべての学校が参加しやすい小さなプロジェクトを数多く設定することが提案・決定された。このアイデアは大きな可能性を秘めていると思う。次年度もこうした新たなアプローチに取り組めることを期待している。

                                                ヒレル・ワイントラウブ
                                         (hillelw@intnl.doshisha.ac.jp)
                            Me&Mediaプロジェクトディレクター
                                                1999年2月
                         (翻訳:河西 由美子yumiko@intnl.doshisha.ac.jp)

 

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