2.4.5.評価と展望

 本プロジェクトでは、KIDLINKという世界規模のオンラインコミュニティーに参加することによって、インターネットを用いた国際交流のあり方を実践を通して具体的に明らかにすることをねらいとしている。ここでは、本プロジェクトの評価と、今後の展望を述べることにしたい。
(1)評価
 KIDLINKは、マルチ言語サポート、各国のリーダーからの支援、複数の国からの同時参加、小学生から中学生までの幅広い年齢の子どもたちの参加というように多くの魅力を合せ持つネットワークである。しかし現実的には、次のようないくつかの点で、そこへの参加が難しく感じられることもあることが分かった。
@すでにKIDLINK上で進行しているプロジェクトに参加するためには、かなりの交流のノウハウを持っていないとついていけなくなる。
A新規に提案されているプロジェクトに参加するためには、教師の方でかなりの英語力がないと、十分な打ち合わせができない。
BKIDLINK内に積極的に参加している教師達との人間関係の構築が進んでいかないと日本から新たなプロジェクト提案しても多くの参加が得られない。

 いいかえるなら、KIDLINKでは、「ファミリー」としての相互支援体制が確立しているというメリットが、逆に、そのファミリーのルールとノウハウを十分に理解し習得しなければ参加しにくいという状況を生んでしまいやすいことが分かった。
 このような特殊な条件を踏まえつつも、本重点企画のリーダーである島崎先生のご尽力で、いくつかのすばらしい成果をあげることができた。

@ オンラインでの情報交流と、郵便での物の交換の組み合わせ
 例えば、参加校の清水国際中学校では、綿花の共同栽培によって収穫した綿を使ったクリスマス用の手芸品を送ったり、あるいは、林間小学校では、クリスマスの絵をTシャツに印刷して相手校にプレゼントしている。国際交流では、実際に子どもたちが直接出合うという経験を持ちにくいために、相手から製作品やプレゼントをもらうと大変うれしいものであり、相手への思いやりの心や感謝の気持ちが生れ、心の交流へと発展していく。今年度は、こうした物を通した交流が行われたことは大きな成果として評価できる。

A 日本語と英語の掲示板の稼働
 本年度は、KIDLINKへの参加校同士の交流を活発化するために、これまでのメーリングリストに加えて、日本語と英語による掲示板を稼働させることができた。それぞれの学校での活用事例にみられるように、この掲示板は、利用者が自分の使用言語で気軽に情報の受信と発信をすることができるというメリットがある。
 また、参加校が書き込まれた情報を共有することができるので、お互いの交流実践のあり方に学ぶことが可能になる。さらに、画像データへのリンクが貼れるので、より具体的な理解を得ることができる。これから継続的な活用によって、このバイリンガルな掲示板の有効利用の方法を明らかにすることが大切である。

B 参加校の特殊性とネットワークを生かした交流
 今年度実施されたカブトガニの交流は、まさにKIDLINKのファミリーとしての広いヒューマンネットワークを利用できた好事例である。だれも、昨年度までは、まさか日本の参加校とアメリカの参加校が、お互いに世界的な「カブトガニ」の生息地域にあるとは思ってもみなかったことである。まさに偶然から必然が生れたとしかいいようがないのである。そうした偶然を学習へと高めていけるのも、KIDLINKのリーダーからのサポートと、参加校の多さのおかげである。
 この事例から学ぶべきことは、交流のテーマを決定するにあたって、気温、学校生活、食べ物といった一般的なものだけでなく、その学校や地域にしかない自慢(行事、伝統、動植物、宝物等)を出し合って、その特殊性の紹介と比較から交流を始めることである。そうした価値ある情報は、教師にとっても子どもにとってもわくわくするものであり、それが交流を継続させる大きな要因になるだろう。
 このような成果は、ぜひ国際化WGの共有財産として今後とも活用していきたいものである。

(2)展望
 今後の課題としては、以下の2点を上げておきたい。

@ 校内での翻訳・通訳支援ボランティアの組織化
 翻訳支援については、国際化WGにおいては、KIDLINKと関連づけたプロジェクトとして動いているので詳細な検討はそちらに譲ることにするが、参加校の福井大学附属小学校からの報告にもあるように、最終的にはできればPTAや地域に呼びかけて校内の翻訳支援体制を確立することが大切である。また、これからはインターネット上でもテレビ会議が実施されるようになることを考えれば、通訳ボランティアの組織化も考慮しておく必要が出てくるだろう。通訳は、翻訳と違って一週間という期限を決めておくことも、メールで済ませてしまうこともできない。常時、校内で5人程度の人材バンクができればかなりスムーズな交流が可能になるだろう。

A 学年を越えた交流カリキュラムの運用
 国際交流の大きな障害の一つは、日本と諸外国の学期制の違いである。日本ではすべての学校は、4月から新学期であるが、オーストラリアでは1月、ヨーロッパやアメリカでは9月のところが多い。また、夏休みや冬休みの開始時期や長さも違っていて、ゆったりとした交流のための時間がとりにくいという状況がある。
 そこで、今後「総合的な学習の時間」や中学校における「選択履修幅の拡大」によってより柔軟なカリキュラム編成が可能になることを考慮して、正規授業の枠内で交流を実施するときには、例えば、3学期から始めて、次の学年の2学期までを一サイクルとするような変則的なカリキュラムの組み方についての研究が必要になってくるだろう。
 あるいは、国際交流を継続するためには、次の新しい学年の生徒への引き継ぎ式を設定することも必要になる。各学校においては、例えば小学校の6年生や中学校の3年生を国際交流学年と位置づけて、毎年引き継ぎ式を行い、それを学校の伝統やスクールカラーとして育てていくといった意識がどうしても必要である。
 その時には、先輩から後輩へと、国際交流のノウハウやメディア活用のスキルが伝達されていく。教師がすべてをお膳立てしなければならない交流から、生徒達が児童会活動の一環として主体的に進めていけるような国際交流を目指したいものである。

 

[前のページへ] [次のページへ]