2.2 構築における特徴と課題

特色ある取り組みを進めている地域は、しばしば「あそこは特別」あるいは「恵まれている」と見られることが多い。しかし実際には、特別でも、恵まれているのでもなく、むしろそれぞれの地域の持つ固有の条件をうまく生かしている、ということができる。その意味で、これから構築しようとする自治体にとって、多くの選択肢を提供している。

2.2.1どこが主導して構築するか

本年度の面談調査の対象となった12地域では、教育ネットワークを整備する主体は大きく次のように分類される。

「教育委員会主導型」=4県2市
「行政当局主導型」=2県1市
「ボランティア団体主導型」=2市1町

 「教育委員会主導型」は学校教育を管轄する教育委員会が企画した教育ネットワーク整備で、一般的に見られる形である。
 「行政当局主導型」は行政の首長部局の情報企画部門が企画した地域情報化のための施策の中に、学校情報化を含めたものをいう。首長のリーダーシップの強い自治体で見られる。
 「ボランティア団体主導型」は、ボランティア団体による働きかけを、教育委員会が受け入れておこなわれる学校のインターネット接続をいう。
 これらのうち、特徴的な2つの分類について詳述し、これらの課題についてまとめることとする。

2.2.1.1 行政当局主導型

 首長部局の情報企画部門が主導して教育ネットワーク整備に取り組む自治体では、全県(全市)をカバーする地域情報化の一環として学校の情報化が位置づけられるのが特徴である。とくに地域情報化を首長(知事、市長)が重要な施策として掲げている場合、トップダウンの指示によって予算化も円滑におこなわれ、教育委員会を巻き込む形で整備が進むことになる。大胆な計画が可能で、そのための人員も行政当局側で確保され、スムーズに整備が進行する。
 
行政はバックボーン、教育委員会は学校内施設
 
A県では平成9年12月(全県立学校は10月に接続完了)、県庁と9地方振興局が高速回線で結ばれ、情報ハイウェイが完成。9地方振興局にそれぞれアクセスポイントが設置された。全県立学校(79校)は情報ハイウェイと接続することで、インターネットを利用できるようになった。概要は次の3点にまとめられる。

@     全校128Kbpsの常時接続

A     生徒セグメントと教職員セグメントの分割

B     ネットワーク監視センターに県立学校専用サーバを構築

 

 この情報ハイウェイはバックボーンとして無料で開放されているため、プロバイダの参入が可能になっている。これによって各学校はその学校に合った最適なプロバイダを選択できる上、サービスに不足が生じても他のプロバイダにたやすく乗り換えられる。
 民間プロバイダとの協調も図られていて、次のようにいう。
 「私どもが思っているのは、そのうちに民間からいろんな安いサービスが出てくるだろう、しかしそれを待っていたのでは南高北低とか、いろんなことがあるだろうから、それまでのつなぎとして、これを使っていただき、それがすめば、回線が残っている限りは行政ネットワークとしての役目をすればいい。そう思っているわけです」
 またB県では、県全域を結ぶ情報スーパーハイウェイのサブネットワークとして教育ネットワークが構築されている。県内のどの学校からでも市内通話料金で接続できるよう11カ所にアクセスポイントが設置され、接続校は平成11年2月現在、小学校222校(全310校)、中学校119校(全131校)、高校43校(全44校)、盲ろう養護学校11校(全13校)にのぼる。
 1校1台の接続ではなくLAN型接続を推進するため、平成9〜11年度には県の半額補助によって小中学校の校内LANの整備を実施(計60校)するとともに、高校の専用線接続を順次進めてきた。引き続いて平成12年度からは教職員のための校務用パソコンの導入(2人に1台)に着手するなど、先駆的な整備を進めている。
 この2県では、行政当局はバックボーン整備、教育委員会は学校内施設整備という形で互いに連携が図られている。A県ではさらに学校の接続費用、各室の情報コンセントまでの校内配線費用を、教育委員会予算ではなく県予算で負担している。

 民間企業が全面協力
 
C市では、平成7〜9年度にオリンピック開催に向けて取り組んだ郵政省の補助事業のあとを受けて、オリンピック終了後、オリンピックで使われたVODシステムを活用するためにC市とNTT支社が協力してマルチメディア教育利用共同研究をスタート(平成10〜11年度)。研究フィールドという位置づけで、補助事業で設立したセンターと市立全学校(68校)を12Mbpsの光ファイバー網(ATM)で結び、VODシステムを全学校に再配置している。
 現在の共同研究を経て、平成12年度から始まる本格的な教育ネットワークの整備では、主体を教育委員会に移していく意向だが、NTTという民間企業の全面的な協力を得ている点に、行政外へのパイプを多く持つ首長部局主導のメリットが生かされている。

2.2.1.2 ボランティア団体主導型

 ボランティア団体主導型の整備がおこなわれている3地域から聞き取り調査を実施することができた。共通しているのは、それぞれ、やむにやまれぬ事情からボランティア主導型の整備となったということである。

 資金力を持ったボランティアが接続を支援
 
D市では、非営利の地域インターネット運用組織が、D市内の学校のインターネット接続を支援している。地域インターネット運用組織は、市内にある財団法人が平成9年に地域貢献活動の一環として設立した非営利のプロバイダである。財団法人および併設された私立大学の機器設備類と技術力を利用し、パソコンやルータなど機器類の無償貸与、配線工事、保守メンテナンスまで地域インターネット運用組織が引き受けている。学校の負担は入会金10,000円、年会費30,000円で、128Kbps以下の専用線またはダイヤルアップにより地域インターネット運用組織のNOCに接続させている(回線使用料のみ学校負担)。
 D市教育委員会では情報教育担当の指導主事が窓口となって接続校を選定するなど連携をとりあい、良好な関係が築かれているが、教育委員会全体では担当指導主事を除けば「料金無料のプロバイダ」という受け止め方が強いという。いわば財政難などで動きのとれない自治体を、資金力を持ったボランティア団体が支えている形である。

 学校の教職員がボランティアとして協力
 
E町では町立学校の教職員が中心になった「コンピュータ教育研究特別委員会」という任意団体が教育ネットワーク整備の主力部隊として活動している。整備のための予算は町が出しているが、企画立案から運用、保守にわたってコンピュータ教育研究特別委員会のメンバーによって支えられており、ボランティア団体主導型として取り上げた。
 コンピュータ教育研究特別委員会は昭和63年に町立学校の教職員が集まって組織が作られ、翌年には任意団体として正式に活動を始めて、それから3年後の平成3年に町の教育研究所の組織に組み込まれた。
 メンバーのひとり(学校事務職員)はコンピュータ教育研究特別委員会についてこう説明した。少し長いが引用しよう。
 「コンピュータ教育研究特別委員会は町から補助金をもらっている研究団体です。パソコンの導入に関しても、これからのことを考えて、どういう機種がいいかという諮問があったんです。それで、こういうのはどうでしょうかという答申をするときに、『半分の小学校に入れて、半分はあとで入れるということはしないで、全部の学校に入れていただきたい。でなければ、入れないでほしい。中学校を先に入れて、小学校はあとという入れ方はいいけれども、小学校も中学校も半分ずつという入れ方は止めてほしい』とか、こういう状況で入れてほしいという要望も一緒に付けて出したわけてす。教育委員会はそれを受けて、ここまではできるから、それでいいですよ、と。それだけでなく、ネットワークを作ったら、それを管理する人もいなきゃできない。それは先生方の本業ではないけれども、とりあえず学校に1人ずついることで、当座のトラブルは対処できる。じゃあ、そういう講習会も開こうよという、そういった組織です。似たような組織は他の市にもあります。いろんなところでやっていて、そしていろいろと活動しているんだけれども、ちゃんと行政と結びついているところはあまりないんじゃないかな。
 お互い期待に応え合うことは必要ですよね。学校には、町や教育委員会から何かやってくれても当たり前という意識が結構あるんですけれども、それを止めて、教育委員会がいろいろやってくれるんだったら、こっちも委員会に応えてあげる。コンピュータに関していえば、『コンピュータを入れた』といったら、必ず議会では『どのように活用されているのか。利用状況はちゃんとなっているのか。かけたお金の元は取れているのか』と追及されるのは当たり前なので、それに対して学校側から『ウチではこんなふうに使っているんです』ということを、目に見える形で教育委員会に示してあげる。そうすれば教育長も、かなり答弁しやすいと思うんです。そういう意味で、ギブアンドテイクの関係を作っていくことが大事だと思います。『やってくれ』ではなく、『やってやる』でもない。『お互いにできることをやり合いましょう』ということなんです」
 E町はまた町民のために町営のプロバイダを開設しており、その運営にはコンピュータ教育研究特別委員会のメンバーが数多くかかわっている。町立学校は法人会員として年間1万円の会費で、町営プロバイダを通してインターネット接続している。この町営プロバイダは第三セクタ的な性格も持っている。一般町民もボランティアとして加わり、仲間内のような人的交流が持たれている。教育次長も次のように話す。
 「コンピュータを導入して、一番困っている部分が、技術者の確保なんです。文部省もこれだけインターネットで結ぶという方針を出したのであれば、ハードもそうでしょうけれども、技術者のことも政策としてどこかに取り込んでいただかなければ、絶対に無理だと思います。幸い、私たちはコンピュータ教育研究特別委員会の先生で技術的に堪能な方がおられたので、取り組めたんですけれども、異動で先生方がいなくなったら、おそろしい話なんです。技術者も含めてパソコンを導入するという並行でいかなければ。都会と違って、ここは技術者がどこにでもいるという状況ではありませんから」
 教育委員会と学校現場はともすると対立関係に陥りやすいが、コンピュータ教育研究特別委員会のメンバーは日ごろから教育委員会に出入りし、日常的な関係が築かれている。コンピュータ教育研究特別委員会は平成10年度で解散し、平成11年度からは教育委員会の下部組織として組み入れられる計画である。

 管轄外の学校を収容するために脱行政
 
F市では、市立学校だけでなく県立や私立など管轄外の学校を収容することを目的に、外部の任意団体である教育ネットワーク研究会に主体を移して、教育ネットワーク整備が進められている。教育ネットワーク研究会は第三セクターでも、また純粋なボランティア団体でもなく、不思議な位置づけの組織として機能している。
 教育ネットワーク研究会は市教育委員会が事務局となって平成8年に結成された。事務局である市教育委員会の担当指導主事は次のように説明する。
 「最初は、F市の小中学校を全部ネットワークで結ぼうということでした。それだったら教育委員会の管轄で全部の学校を網羅できるわけです。ところが、その中に高校も入ってもらおう、ゆくゆくは周辺にある市町村の学校も入ってもらおうとなった。県立高校、私立高校となれば市教育委員会の管轄外ですから、教育委員会が指示を出せる立場ではない。逆に市教育委員会が管轄しているところへ県立高校が入ってくるのも、それぞれ行政の縦割りのなかのものがありますから、非常に具合悪い面がある。それならいっそ、外へ組織を出そうということになって、研究会という形で出ているわけです」
 各学校はこの教育ネットワーク研究会の会員となって、ダイヤルアップで教育ネットワーク研究会のサーバに接続する。会員校は現在、市立全小中学校39校と市内の高校7校(全10校)の計46校。1校あたり月額4000円の会費を徴収し、教育ネットワーク研究会の運営費に充てている。
 担当指導主事の職務内容には「教育ネットワーク研究会に関すること」という1行が含まれており、接続している学校のサポート窓口を兼ねているが、教育ネットワーク研究会への会費の払い込みが市の会計上、難しいという問題があり、新たにNPO法人化の道を探っている。

2.2.1.3 特徴と課題

 ・行政当局主導型の整備ではネットワークの規模が大きく、予算措置も円滑におこなわれている。
 ・ボランティア主導の構築パターンが見られる自治体では、ボランティアの存在もさることながら、その支援を受け止める行政側の見識が必要不可欠である。

 教育委員会が主導しておこなう教育ネットワーク整備では、昨年度の調査でも明らかになったように、教育委員会としての意思形成が図られにくい傾向がある。しかも、一気に整備が実現することはまれであり、段階的にステップを踏んで設備が拡充されていくのが一般的である。たとえば、次のステップのひとつである校内LANの整備(教室への配線拡張)についていうと、行政当局主導型、ボランティア団体主導型の2つのパターンでは、ごく自然に校内LANの整備が目標に取り込まれているのに対し、教育委員会主導型ではそこまでの予算が認められている地域はきわめて少ない(2.3.8参照)。
 それに対し、行政当局主導型の構築はネットワーク規模が大きく、また予算措置も円滑におこなわれ、次のような教育委員会主導型による構築例の平均的な姿と比べると好対照をなしている。

 成果が見えて始めて予算がつく(G県)
「財政というのは、成果が見えたら予算をつけてくれますけれども、あらかじめ『これはこうですから』といっても、『これだけの回線の太さがなければできません。太くするべきです』といっても、なかなか予算はつかない」

 また、ボランティアによる支援はこれからの教育ネットワーク整備の重要な課題のひとつであるが、現在のところ、行政として明確な意思あるいは合意を形成した上で、ボランティアを受入れているとはいいがたい。今後ボランティアを活用を促進していくためには、受け入れの基準を設ける必要がありそうである。

2.2.2 どのように利用者を啓発するか

 教育ネットワーク構築にあたって、ネットワーク利用者となる管轄下の学校・教職員に対する啓発活動が見られた。

  教育委員会発行の全公立学校向け広報誌に連載

  講習会活動と町営プロバイダ開設

  ネットデイの開催

  オリンピックの1校1国運動を活用

 

また、市町村を都道府県レベルの教育ネットワークに収容する際も、何らかの啓発活動が欠かせない。

  県教育センター職員による市町村行脚

  ネットデイの実施

 

2.2.2.1 学校・教職員に対する啓発活動

教育委員会発行の教育広報誌で連載
 H県では県立工業高校が100校プロジェクトに参加し、県内の学校ではじめてインターネットの取り組みが始まった。このときH県教育委員会が発行する教育広報誌平成7年6月号で、県立工業高校の取り組みの様子を「新インターネット奮戦記」として特集。それ以後、平成9年3月号まで隔号連載で、インターネットの紹介を続けた。

担当の指導主事は次のように話す。
 「全部の先生が読んでいる教育広報誌なんです。発行は県教育委員会です。県立工業高校さんが100校プロジェクトに選定されたとき、これは必ず全部の学校が歩む道だから、啓蒙普及の特集を組んでもらったんです。連載になってからは、若い先生にキャラクターで登場してもらって、教育委員会の広報誌としては、取り上げ方もユニークでした。最後の平成9年3月には総集編で、生徒と担当者が座談会をやったんです。生徒はここまで意識が高いかというくらい、いい座談会でした。そもそものきっかけは編集担当者が同じ部屋の向かいにいて、『先生、何かない?』と声をかけてきたことですが、私にとっては作戦のひとつでした」

 講習会活動と町営プロバイダ開設
 
I町では教職員で作っているコンピュータ教育研究特別委員会が教育委員会に協力し、校長向け、教頭向け、一般教員向け、議員向けと対象を分けて研修を実施した。そればかりでなく、町民に対するPRを目的に町営プロバイダを開設、運営に協力している。
 コンピュータ教育研究特別委員会のメンバー(学校事務職員)は次のように話す。
 「当時の教育長と話していて、一般の先生と管理職は一緒に研修をやらないほうがいい、日本人の特質からいって。自分よりも若い奴とか、自分よりも職種的に低い者に聞くのはイヤなものですから、それが同じ場で講習を受けるのはツライだろうということで、校長先生だけの講習会、教頭先生だけの講習会、一般教員の講習会と日時を全部分けました。それから、議会の議員さんの講習会、一般町民の講習会もやりました。議員さんも対象に含めたのは、教育長の構想があったんです。最終的に予算うんぬんとなれば、議会を通らないことにはどうにもならない。その前に財政がOKしなければ議会にもかからないわけですけれども、とりあえず、それぞれのポジションの人たちに理解してもらわないといけないから、ちゃんと見てもらおうということで始めたわけです。それで、もっと広く町民にもわかってもらわなければならないということだったので、町営プロバイダも住民サービスとして、PRを目的に始めているんですよ。ですから、町も予算面でバックアップしてくれました。だから、町民は年間5000円で利用できるんです」

 ネットデイの開催
 
J市では全市立学校を結んだ教育ネットワーク構築作業を、市内在住者が多く所属するボランティア団体に委嘱して進めている。各学校の校内ネットワークの敷設作業を、教職員や保護者を巻き込んで、ネットデイとして開催しているのが大きな特色である。平成9年度には7中学校、平成10年度には10中学校でネットデイを実施し、校内LAN配線工事をおこなった。
 ネットデイでは、ボランティア団体のメンバーであるネットワーク技術者はサポートに徹し、教職員や保護者などの参加者が主体となって校内LAN配線工事を進めていく。いわば手作りで、しかも高品質のネットワークを構築しており、具体的な作業を通した啓発活動としても大きな効果をあげている。

 オリンピックの1校1国運動を活用
 
広島アジア大会でひとつの公民館がひとつの国を応援する1館1国運動が生まれたが、長野オリンピックではそれを継承して、ひとつの学校がひとつの国を応援する1校1国運動が展開された。各学校がその国の勉強をしたり、文通などで交流するなど独自に取り組みを始めていたが、ちょうどインターネットに接続できるパソコン1台が各学校に整備されることになり、ホームページを使って1校1国運動を発信したいという機運が高まった。整備を進める主体が意識的におこなった啓発活動ではないが、K市ではそうしたタイミングをうまくつかんで、ホームページ作成研修を実施し、効果を上げた。

2.2.2.2 市町村に対する啓発活動

 県教育センター職員による市町村行脚
 
L県ではセンター集中型の教育ネットワークを整備している。県立学校だけでなく、市町村立小中学校の接続を進めているが、そのための具体的な活動は「市町村教育委員会との面談などを通して、あらゆる質問に答える」というものである。教育センター情報教育部のスタッフ4人が手分けして市町村教育委員会を訪ねることで、面談の機会を作っている。

 ネットデイの実施
 
M県ではボランティアが45小学校をインターネットに接続した。県が進める地域情報化施策の一環として位置づけられ、市町村に対する啓発活動という性格を併せ持っていた。
 「この催しは降ってわいたような話だったんですけれども、本当にいい話ですので、拒む理由はひとつもありませんし、学校の情報化がまた一段と進む話ですので、私どもも協力しました。もともとコンピュータに慣れ親しむということで、市町村にコンピュータを揃えなさい、ネットワークをつなぎなさいといってきていますので、ちょうどそれの手助けになったと思います」と県教育委員会の担当者は話す。

2.2.2.3 特徴と課題

         特色ある教育ネットワークを構築している自治体・地域では、教育ネットワークの利用者に対して、それぞれ工夫した啓発活動がおこなわれている。

         教育ネットワークの利用者に対する啓発だけでなく、教育ネットワーク整備の合意を形成するための啓発にも多くの労力が費やされている。

 

 啓発は本来、教育ネットワークを効率的に運用していくために必要なもので、利用者の参加意識を高め、教育ネットワークの活用を促進することを目的にしている。しかし、現実には、そのような利用者教育としての啓発だけでなく、教育ネットワーク整備そのものについて合意を形成するのために、直接の利用者ではないものに対する啓発が必要不可欠であることを示している。

2.2.3 センター集中型か学校分散型か

本年度の面談調査の対象となった12地域では、インターネットへの接続形態には次のような種類があった。

「センター直接接続」
「センター直接接続+アクセスポイント経由のセンター接続」
「プロバイダ経由」

 「センター直接接続」「センター直接接続+アクセスポイント経由のセンター接続」では、ともに学校はセンターを通じてインターネットに接続することから、まとめて「センター集中型」とし、学校独自にプロバイダ経由でインターネットに接続する「学校分散型」との比較を試みた。

2.2.3.1 センター集中型

 スキルのある人が少ないためセンター集中型にせざるをえない
 
N県は、センター集中型の情報教育ネットワークの整備を進めている。県立高校は専用線網で結び、市町村立の小中学校は南北2カ所に設けられたアクセスポイントに接続する形である。
 学校にはスキルのある教職員が少ないため、保守管理を一元化できるセンター集中型以外に選択肢は考えられなかったという。
 教育センターの担当者はこの情報教育ネットワークの特徴を次のように話す。
 「新しい指導要領の下にすべての教員がネットワークやインターネットを生徒に活用させる指導力をつけていく助走期間でもあるわけですから、1つは、教職員自身の利用のスキルをつけるために、学校代表IDだけでなく、希望する教職員別の電子メールのIDを発行する。
 もう1つは、各学校でホームページを生徒が作るために、ホームページの容量を確保しておくだけでなく、インターネット側に出す外部向けのホームページサーバと、ネットワークの中でのホームページサーバの2つを持ちまして、1つは保護者や地域などインターネット側で見てもらうもの、もう1つは校内向けのホームページとして校内掲示板や校内放送などのかわりにも使っていける。
 そして、ネットワークの運用・管理、教職員の研修、それからセンターとしての研究事業の3つを連携させている。あとの特徴は、有害な情報へのアクセス制限です」

 学校分散型にするとセンターの仕事は軽くなるがネットワークは動かなくなる
 
O市の担当者は、センター集中型の教育情報ネットワークを採用したことについて、次のように話す。
 「センター集中型のネットワーク構成をとったことが、人員不足に影響してる面はあるでしょうが、もし学校分散型で、センターでやらなくなって、ノンサポートでやっていくとなれば、もっと学校の先生方の負担が増えるわけです。むしろ、そちらのほうが問題でしょうね。障害が起こったときは学校で対処してくださいということになるでしょうし、各学校が好き勝手にやっていくことになれば、結局、校内ネットワークの構築をはじめいろんなことがおこなわれなくなってしまうでしょうね。いまはセンターでお膳立てをして、連絡を取ってやっていますけれども、完全に学校単位でするようになれば、面倒くさいから、やらなくていいよ、となってしまうと思います」

 バラバラになってしまう
 
P県の担当者は「学校独自でつなぐとバラバラになる」として、センター集中型を採用した理由を次のようにまとめる。

@     学校独自にプロバイダに接続すると、必要な数のメールアカウントをもらえない。しかもホームページがそのまま公開されることにも懸念があった。

A     学校にサーバを置いて運用すると、メールアカウントの発行も自由にできるが、管理が大変で、先生が管理に関わっていくと、何もできなくなってしまう。外部からの侵入防止策を考えるような余裕はなく、クラッキングの問題が生じる。

 

 そして、P県の固有の条件として、市町村立小中学校を含めた学校が収容されている電話局のすべてが、教育センターの位置する市を中心として30km以内に収まっていることをあげる。つまり、市内通信エリアを拡大するNTTのエリアプラスを利用すると、毎月350円の負担によって、どの学校からでも教育センターに市内通話料金でアクセスできるので、NOCやアクセスポイントを県内に分散して配置する必要がないことである。
 しかし、それに加えて、今回の調査では、これまで意識されることのなかったもう1つの恵まれた条件が明らかになった。それは教育ネットワークのセンターとなる教育センターの人員構成である。
 P県の教育センターの中で教育ネットワークを担当するセクションには技術職員である技師が7名配置され、そのうちの2人が教育ネットワークの運用にあたっている。
 ネットワークを運用するためには専門知識を持った人材が必要だが、ほとんどの自治体では指導主事、研究主事が教育ネットワークの運用を兼務でおこなっている現状がある。
 「専任技師ですから、県立学校からの問い合わせはその人にまかせておける。だから私たちは学校との折衝などで、あちこちに出ていけるんです」と、仕事量や負担が集中するセンターの中で、ごく自然に役割の分担がおこなわれている。

2.2.3.2 学校分散型

 インターネットは水平に広まっていくものである
 
Q県はNTTの「OCNスクールパック」というサーバ機器とそのサポートサービスが付いた専用線接続サービスを利用し、学校がそれぞれインターネットに接続している。担当の指導主事は次のように理由を挙げる。

@     県域が広く、遠隔地域から市外通話でアクセスするのは現実的ではない。

A     プロバイダに接続するとメールアカウント数やホームページの容量に制限がある。

 

 「その点、OCNスクールパックは非常に簡単なサーバなんです。工業高校や商業高校といったノウハウのある学校であれば、ちょっと大きなパソコンを買って、パソコン用のUNIXを入れると、フリーソフトで簡単にサーバは構築できるんですが、ノウハウのない学校がそれをすると、セキュリティに不安がある。そこがこれのいいところで、セキュリティ関係はきちんとNTTさんのOCNセンターで管理してくれる。フルサポート付きで、しかも学校内のイントラネットが簡単に組めるんです」
 プロバイダと契約してインターネットに接続した場合、メールアカウント数や公開できるホームページの容量に制限を受ける。それに対する不満は2.2.3.1で述べたセンター収容型を採用した理由と重なり合っていることは見逃せない。
 Q県の場合、OCNスクールパックを利用した学校分散型の接続を開始する以前に、すでに全県立学校の4分の1が独自に何らかの形でインターネットに接続していたことが背景にあるという。
 「先行して『個性輝く学校づくり推進事業』という事業があったんですが、この事業を使ってアナログあるいはISDNのモデムで、インターネットをやっていた学校が8校ありました。そして、これは私がいえないのかもしれませんが、すでに独自でプロバイダを通じて接続している学校が16校あったんです。学校をタダで接続してくれるプロバイダを利用して、同窓会の電話を使ったり、進路指導のためにつないだり、部活動で動いているところもありました。そういうことも背景にあります」という。

 人員を配置できない
 
R市は任意団体の運営するネットワークに学校を接続しているが、かつてセンター集中型を検討したことがあった。担当の指導主事は次のように話す。
 「たとえば、サーバ管理から何から全部する人間が必要ですね。それを教育委員会の中の人間がやっていこうとすると、いまの人的な配置を考えると、知識をしっかり持って管理できる人間がつねにそこにいるということは保証されないわけです。情報専門の人間を配置するという条例化したものでもない限りは、できないでしょうね。そういうことがあって、やはりセンター方式でやっていくのは難しいだろうと考えられたんだと思います」
 つまり、人事異動により、技術的に強い職員がかならずしも配置されない場合のことを配慮しているわけである。

2.2.3.3 特徴と課題

  負担が1カ所に集中するセンター集中型の教育ネットワークを円滑に運営管理するためには、一定の条件が必要だが、そのことが意識されていない。

  活用が進むにつれて、「物理的には分散型、論理的には集中型」という新しい形のあり方が模索されるようになっており、VPN(仮想イントラネット)技術の活用が望まれる。

 

 センター集中型と学校分散型の大きな違いは、運営管理の負担をセンターに集中させるか、それとも各学校に分散させるか、という点にある。どちらを採用した自治体でも、その運営管理にあたる人員の確保という問題は依然として解決されていないことがわかる。
 負担が1カ所に集中するセンター集中型には、とくに専門技術スタッフの確保が課題になるが、そのことはあまり意識されていない。S県では県立高校を専用線で接続するためのサブ拠点を県立工業高校と商業高校の2カ所に設けたが、これは両校には汎用機の設備があるため実習助手の形で人員を手当てできるという理由からである。
 また、それぞれの活用経験が進むにつれ、「物理的には分散型、論理的には集中型」という新しいあり方の接続が求められている。これは別々のプロバイダに接続されている複数の学校が、あたかも1つのプロバイダ(例えば教育センター)に接続されているかのごとく扱いたいという要求である。これはVPN技術が利用できれば実現可能であり、学校がインターネットに接続する場合の選択肢も増える。

 閉じたネットワークは必要に応じて
 
「学校同士の、いわゆる閉じたネットワークの必要性について、ネットワークありきで議論するのは間違いだろうと思います。学校分散型でも、たとえば環境教育に熱心な学校はそこでつながっていくでしょうし、細胞が自己増殖するように、閉じたネットワークが必要なときにはそれが形成されていくと思うんです。外部の人がまったく入ることのできない内側のイントラネットの部分と、外部の部分とをきちんと分けてありますので、内部の部分をある学校とある学校が共有すれば、そこだけをシェアリングすれば、そこだけは共通になります。ですから、最初から会員制のクラブを運営するからどうぞではなく、必要に応じたところがそれぞれ動き始めるのだろうと思います」

2.2.4 サポートは外部か内部か

 本年度の面談調査の対象となった12地域の半数以上で、学校・教育委員会から見ると外部によるサポートがおこなわれている。サポートを誰が(どこが)おこなうかは、教育ネットワークの構築にあたって重要なポイントのひとつである。
 外部サポートを選択した理由は次のようなものであった。

  責任を明確にするため

  学校の負担を軽減するため

  スキルを持った人材がいない

  業者にだまされない

  管轄以外の学校も巻き込むため

  共同研究の参加企業が協力

  研究会を行政が支援

 

2.2.4.1 外部によるサポート例

 責任を明確にするため
 
T県は専用線、サーバ機器、そしてサポートがセットになったOCNスクールパックを採用した。採用の決め手となったのは、管理責任である。たとえば学校のサーバのセキュリティが破られ、被害者でありながら同時に加害者として巻き込まれる場合などが考えられる。ネットワーク上のそうしたトラブルから学校を守る壁として、外部サポートを位置づけている。
 「悪意の人は、どこかセキュリティが甘いところのシステムを経由して悪さをする。そういうことになったら、責任の所在はどこにあるのかというと、ユーザである学校の先生がシステムに関しての責任をとれないですし、学校としてもとれないだろうと思うんです。現実に弱小プロバイダではさまざまな訴訟とか問題が起きている。そういうものに対して、学校はきちんとした壁を作っておかなければならないと思います。OCNスクールパックはそこのところがNTTになっていますので」
 しかし、外部サポートが満足できるものであるかどうかについては、慎重な表現で「素晴らしいとはいえない」という。
 「ヘルプデスクも人によるんですね。ポンポンと対応が返ってくる人と、全然対応できない若い人がいたりするので、結局、学校がヘルプデスクに相談して、ラチがあかなかったときには、必ず私のところに来るんです。で、私がNTTの担当者に話をして、もう1回、ヘルプデスクに再度アクセスするよう学校に伝えるわけです。そうすると、大体わかる人が出て話が進むんです。まだ初年度ですから、接続校が25校だからいいんですが、これが全部(約100校)になると、私はそれをやっているだけで1日が止まってしまう」

 学校の負担を軽減するため
 
U市ではシステムの保守をすべて外部企業に委託して教育ネットワークを構築・運用している。1校あたり年間いくらという定額料金を負担して保守業務を外部委託している自治体は他に見あたらない(教育ネットワーク全体のSEサポート契約を結んでいる地域はある)。その理由としてあげるのは、学校の負担の軽減である。
 「たとえばトラブルが起きたときは、学校から外部企業に連絡が行きます。要するにメンテナンスのすべてを委託している、と考えていただいたらいいと思います。私たちとしては、学校に新しいものを入れたときに、なるべく学校に負担をかけたくない。市の方針として入れても、当初は、時期尚早だという方もいらっしゃいましたし、いろんな意見があるわけです。やはり学校には抵抗がある。自分たちはそんな負担をしたくないという教員の意識は結構強いんですね。ですから、こういうものを入れるときには、なるべく学校に負担をかけない。トラブルが起きたとき、あるいはホームページの作成、あるいは教材の問題にしても、学校とは違った組織にやっていただくのが一番大きいだろう。そのためにはある程度のコストがかかっても致し方ない。そういう考え方を持ちました。ですから委託費用が高いか安いかということに関しては、他のところと比較したことがないですし、また比較例はないと思います。ただ、外部企業から見れば、もっともっと取りたいでしょうね。だから外部企業も、ノウハウをそこで蓄積するということですから、要するにギブアンドテイクの関係だと私たちは見ています」

 スキルを持った人材がいない
 
V県は保守管理を一元化できるセンター集中型の教育ネットワーク整備を進めている。しかし、県域が広いため、アクセスポイントを2カ所に分散配置せざるを得ない。また、2箇所のアクセスポイントが職業高校であるため、NOCと勘違いされて技術的な相談を受けることが少なくない。教育センターを含めて接続拠点が3カ所に広がると、「スキルを持った人材がいない」というセンター集中型を選択した同じ理由で、サポートを外注せざるを得ない状況が生まれている。
 「県内で3カ所の拠点を作って、運用していける人材がそれだけ配置できるかというと、SEを常駐するとか、業者に発注すれば別ですけれども、そういった発想は財政にはないでしょう。センターでやれ、やれる先生がやれということですが、3カ所の拠点を作って、その3カ所でトロイカ方式でやっていけといわれても、人はいません」

 業者にだまされない
 
地域貢献、生涯学習を目的とした財団法人が資金面でバックアップしている地域インターネット運用組織が1996年に設立された。W市教委は地域インターネット運用組織の正会員となり、年会費3万円を払っているが、サポートの実態は地域インターネット運用組織によるボランティア活動である。
 彼らからは、行政や教育委員会が正規に整備を進めた場合、仕事を請け負うことになる業者の技術力に対して、懐疑的な意見が聞かれた。
 「たとえば、ある学校がインターネットに接続したいというと、普通だったら、業者さんがやったりしますよね。ただ、業者に投げてしまうと、悪い言い方をすれば、業者にだまされることがあるわけです。別に業者はだまそうと思っているんじゃないんだけれども、本当にその学校に必要なネットワークなり、資源なり、そういうものを適切に配備するところが、ややオーバースペック気味だったり、逆に足りなかったりすることがあります。地域インターネット運用組織では、今のところはちょっと大変だけれども、自分たちで足を運んでつないでいますから、何となくその学校の環境もわかる。W市の学校は全部で50校ぐらいです。全体が見渡せる範囲なんです」
 そして、技術サポートはメーリングリストでおこなっている。
 「各学校の先生方が入っているメーリングリストがありまして、そのメーリングリストでは技術的に困ったときとか、わからない部分は相談できるという受け皿は作ってあるんです。いちおう地域インターネット運用組織には技術部会というものがありまして、これもボランティアチームなんですけれども、ここがそういう質問に対して答えてくれています。でも、学校のネットワークという意味の中で考えれば、たとえば高校の先生で詳しい人も多いので、そういう先生が答えてくれています」

 管轄以外の学校も巻き込むため
 
X市では、市の行政範囲の中の市立学校だけではなく、県立学校、私立学校、周辺市町村の学校を教育ネットワークで結ぶため、外部組織である教育ネットワーク研究会を作り、地域のすべての学校情報化の中心として位置づけている。事務局を市教育委員会内に置き、市教委の担当職員が職務として教育ネットワーク研究会のサポート窓口となっているほか、教育ネットワーク研究会のメンバーによるサポートもおこなわれており、外部によるサポートの1形態として取り上げることができる。

 共同研究の参加企業が協力
 
Y市はオリンピックで使われたVODシステムを活用するために市、市教育委員会、NTT支社がマルチメディア教育利用共同研究をスタートし、それによってセンターと市立全学校(68校)を12Mbpsの光ファイバー網(ATM)で結び、VODシステムを全学校に再配置している。このネットワークは実験フィールドという位置づけだが、共同研究に参加したNTT支社も巻き込んでサポートセンターを設置している。
 「共同研究ですから、教育委員会と情報推進室、NTTが話し合う場が多く設けられていますので、そこから3者共同でサポートセンターを作ろうという話が持ち上がってきたということだと思います。センターの2階にあるサポートセンターが保守窓口といいますか相談窓口です。NTTにも社内組織として教育プロジェクトチームがありまして、その職員が交替で2名、入っています。学校教育課からは、先生のOBが嘱託職員として1名、そして情報推進室の職員が1名。基本的には4名で体制をとっています。こういうトータルなヘルプデスクは、広くいえば、研究会が市の組織だからできたということです」

 研究会を行政が支援
 
Z町は町域が広く、学校が分散している。ここでは学校の教員・事務職員が中心になって結成した研究会を、町が教育研究所内の任意団体(コンピュータ教育研究特別委員会)として吸収し、その活動を支援することによって、町が出資する町営プロバイダを開設した。町立学校は町営プロバイダの会員となることでインターネットと接続しており、コンピュータ教育研究特別委員会と町営プロバイダの活動の中に学校情報化が位置づけられている。
 町として学校のサポートを専門に担当する専門技術者を採用する計画を持っているが、給与規定や地域性(僻地)などの理由で応募者がおらず、コンピュータ教育研究特別委員会、町営プロバイダのメンバーである教員・事務職員によるサポートがおこなわれているのが特徴である。
 一見すると教育委員会内部の人材による自前のサポートという形をとっているが、教員・事務職員は半ボランティア組織であるコンピュータ教育研究特別委員会のメンバーとして動いており、外部サポートに含められる。

2.2.4.2 特徴と課題

  教育委員会内部の人材だけで自前のサポート体制を組むことは、無理がある。スキルを持った人材は決定的に不足している。

  サポートの外部委託は、教育ネットワーク整備にあたって学校からの反発を緩和する効果があるが、サポートを請け負う業者にとって正規の業務というより実験的な試みであり、料金やサポート内容などを評価するまでにいたっていない。

  スキルを持った人材をボランティアとして活用するためには、行政の側からもボランティアに対して支援する姿勢が必要である。

 

 外部からのサポートが十分に機能しているかどうかはまだ評価できる段階ではないが、少なくとも外部からのサポートが必要であるという状況が広く認識されていることがわかる。

2.2.5 専用線接続かダイヤルアップ接続か

 本年度の面談調査の対象となった12地域では、6地域で専用線接続を採用(または予定)していた。
 また、ダイヤルアップ接続でもUUCP over IPなどで工夫しているところが3地域あった。

2.2.5.1 専用線接続

 専用線接続による教育ネットワーク整備を進めている地域は、専用線接続を採用したことについて、次のように理由を話す。

 ダイヤルアップ接続では学校での利用時間が制限される(A県)
 「たとえば、ダイヤルアップ接続した場合、1日2時間といった利用時間を想定して、予算を措置するんです。そうすると一生懸命になる子供がいたり、一生懸命に教材開発しようとする先生がいればいるほど、結局、他の予算を食いつぶしていくことになるんです。電話代が厳しいところでは、『それ以上は使わないでください』となる。これはそもそもおかしい話ではないかと思うんです。予算化するときに、その加減を決めてしまうのは予算化する側の発想であって、学校としては1日2時間キッカリ使うというような使い方ではないわけです。ダイヤルアップでときどきしかつながないというのは、異常な形だと思います。日本だけの形で、ネットワークというのはつながっている状態がネットワークなんです。ですから、ポイントは24時間接続でした」

 活用が進むと専用線接続のほうが安くなり、コストが逆転する(B県)
 
「専用線接続にしたのは、コストの観点です。はっきりいってしまえば、通信費の関係だけです。ダイヤルアップでも、たとえば工業高校では情報処理といった専門の教科があった場合に、クラス数との関係もありますけれども、カリキュラム的に朝から晩までつながっているから、月100時間は超えてしまう。そうするとダイヤルアップと専用線のコストは逆転しまう。そういう事情も出てきていますので、そこは財政といえども安いほうを拒む理由はありませんから、利用が盛んになってコストの逆転が起きたところについては随時交渉して、専用線接続への転換を実現していきたいと思っているわけです。あと、国からの補助も出てきたり、NTTの価格を下げていただいたりという形で、専用線でできる時代が来るんじゃないかなという見込みもあります。専用線だからこそできることがあるという理由は、財政には通じないでしょうね。コストパフォーマンスだけですので」

ダイヤルアップ接続は必ずリニューアルしなければならない(C県)
 
「間に合わせるだけであれば、お金のことを考えれば、INS64のデジタル回線を入れてダイヤルアップで接続すれば、すぐに格好はつくんです。そして『全部の県立学校がつながりましたよ』という形にできるんです。しかし、それをやっても、必ず21世紀にはまたリニューアルをしなきゃならないだろう。そういった二度の手間を考えるよりは、最初から、25校ずつの4年計画だけれども、進んでいったほうがいいだろうと」

 このほか、学校へのサポート手段のひとつとして外部からのリモートメンテナンスを取り入れている地域では「ダイヤルアップだと苦しい」と打ち明ける。
 「ISDNで接続するのはしんどいんですよ。教育委員会に運用ログを送らなければいけなかったり、それからリモートでメンテナンスしようとすると、結局、メンテナンスする側が自前でお金を払って接続するわけですから、結構しんどい。だから、やがて専用線になってくれればいいなと思っています。楽しみとしては、いまISDNで接続する学校が増えていく、やがてはそれが専用線に変わっていくということですね」(D市)

2.2.5.2 ダイアルアップ接続での工夫

 ダイアルアップ接続でも「UUCP over IP」という技術を利用している地域が3つあった。UUCP方式で電子メールを利用するときには、インターネット側(プロバイダなど)と学校側と間で交わされる電子メールを一旦双方のスプールと呼ばれる場所に保管する。そして、スプールに保管された電子メールを定期的に交換することで通信をおこなう。
 この方法を利用すると、ダイアルアップ接続でも安心して、学校側で独自にメールサーバを構築することができ、学校側でメールアドレスを独自に発行することができる。したがって、メーリングリストなどの運用も可能となる。
 ネットワーク型ダイアルアップ接続そのままでも学校にメールサーバを設置できるが、この方式のままでメールサーバを設置すると、外部から学校にメールが送信される毎にプロバイダから学校に接続要求が発生し、そのたびに費用がかかる。これに対しUUCP over IPではスプールに保管された電子メールをあらかじめ指定した時刻に交換するように設定するため常時接続に陥る心配が少ない。さらに電子メールを交換するときにそのデータを圧縮することで、通信時間を節約することも可能である。
 しかしながら、

         UUCPのための設定作業が必要

         「スプール」があふれないように常に監視が必要

         プロバイダによってはUUCP方式をサポートしない

         大量のメールや、大きなファイルサイズのメールがあるとトラブルの元になる

 

 という問題がある。ちなみに今回の調査でUUCP over IPを利用していた地域は、いずれもプロバイダやセンターがかなりの知識と経験をもち、スプールの監視はプロバイダやセンター側でおこなうなどの運用努力を実施していた。
 このような運用努力は専用線が利用できれば、必要のないことであることを申し添えておく。

2.2.5.3特徴と課題

         財政当局はコストパフォーマンスしか見ないため、専用線接続よりダイヤルアップ接続を選びがちである。電話料金の学校向け割引サービスが実施されると、この傾向はさらに加速されることが予測される。

         利用時間が増えてくると、コスト的に専用線接続のほうが安くつくことがある。とくに新しい高校の指導要領では、新設科目(必修)の情報Aは1/2、情報B、Cは1/3が実習とされている。これ以外の教科でも積極的な活用を求められており、少なくとも高校は、ダイヤルアップ接続の学校向け割引サービスが実施されても、コストが逆転する専用線接続が必要になることに留意すべきである。

         ダイアルアップでは、外部向けコンテンツの登録(貸しWebサーバへのデータ転送)にも費用(プロバイダ接続費用や電話料金)がかかることを見落としがちである。

 

 教育ネットワークのランニングコストについての予算化は十分におこなわれていない傾向があるが、そのことをよく表しているのが、この専用線接続かダイヤルアップ接続かという接続回線の選択といえそうである。
 コストパフォーマンスの観点だけでダイヤルアップ接続を採用する地域が多いが、実際に活用が進むと、利用時間の制限が壁になる。その段階で、冷静にコストを比較し、活用の進展に見合った専用線接続に移行した地域も見られた。
 ところで、小中学校では学校間交流をするためにWebやメールなどのインターネットサーバの設置が必要になってくる。学年が下がるほど、文字情報から画像・音声・動画情報が求められるが、プロバイダの提供する貸しサーバでは容量に制限があるうえ、大量のデータを転送するためにも課金されることになる。また、そのような手間をかけなければ、インターネット上で利用できる情報が少なくなる。
 つまりダイヤルアップ接続は「誰かが情報を提供してくれるはず」という受け身の姿勢を前提にしているわけで、ネットワークの基本である「ギブアンドテイク」のルールからははずれていることに留意する必要がある。
 教職員が学校からメールを利用することについても、ダイヤルアップ接続の場合、教育活動目的でありながら、私用電話の禁止と同じ扱いを受けがちだが、定額料金の専用線であれば、利用料金は問題にならなくなることも指摘しておきたい。

2.2.6 学校にサーバを設置するか

 学校に設置するサーバには次のような種類がある。

         インターネットサーバ(Web、メール、キャッシュ、ネームなど)

         イントラネットサーバ(Web、メール、ファイル、プリンタなど)

 

 このうちインターネットサーバについて、すでに学校に設置している(計画中を含む)、または学校の自主的な判断にまかせているのは、1町、2市、5県の8地域であった。

2.2.6.1 学校に必要なキャッシュサーバ

 教育ネットワークの運用経験に基づいて、学校に最も必要なサーバは、トラフィックを軽減するためのキャッシュ(プロキシ)サーバであると考えている自治体・地域が多い。
 キャッシュ(プロキシ)サーバは1度でもアクセスしたインターネットのホームページなどのデータを一定期間ハードディスクの中にためておき、校内LANでつながったパソコンから接続の要求が来ると、インターネットに接続せず、ハードディスクにためておいたデータを提供する働きがあるため

@  生徒たちが頻繁にアクセスするホームページは表示が速くなる。

A  インターネットへの接続時間を短縮できる。

 

 という2つに加え、学校にふさわしくない情報をカットするフィルタリング機能を持たせることができる、というメリットがある。なお、ダイヤルアップ接続でもキャッシュ(プロキシ)サーバを設置しておくことができる。
 
キャッシュサーバだけでも置いてもらいたいと推奨(E県)
 
「キャッシュサーバを設置している高校は多いですよ。『少なくともプロキシだけでも置いてもらいたい』と推奨しています。それ以外のサーバを設置するかどうかは先生のやる気です。ですから、IIS(WindowsNTのWebサーバ)は立ち上げなくても、プロキシを立ち上げているところはたくさんあります。小学校は先生が忙しいのでサーバを置くのは難しいんですが、それでもプロキシサーバを置くと、結構アクセスが早くなるものですから、入れている学校もあります。プロキシだけでも置いてくれたら、えらく違うんですけれども」

 キャッシュサーバを置かないと無理だろう(F市)
 
「これは将来の問題ですが、パソコンの台数が増えてたくさんぶら下がったときに、どうするか。個人的には、各学校にキャッシュサーバを置かないと無理じゃないかなと思うんです。そこである程度キャッシュにしておいて、基本的に学校はそこで折り返して見てもらう。ですから、そこに教育的に使えるコンテンツをある程度キャッシュで貯めておくと、速い時間で生徒が見れますし、フィルタリングなどをやっておけば、変なサイトに行くことはありませんから」

2.2.6.2 学校の独自色を出す

 ユーザの登録や削除といったメンテナンス作業が伴なうメールサーバの設置は、学校の自主的な判断にまかせている地域が見られた。スキルを持った人材が学校にいないと指摘されている半面、サーバの設置は学校の独自な活用を促進するために不可欠であることが認識されている。また、学校へのサーバ設置は、センターへの過度の負担集中を避けられるというメリットも持っている。

 学校の個別要求は学校で(G県)
 
「センターで各学校50個のメールアカウントを発行していますが、それで飽き足らず『全生徒にメールアカウントを出したい』という学校は、学校にサーバを置いてもらうようにしています。センターでは50個まで。その先の学校の個別要求は学校でサーバを作ってもらうわけです。そうやって実際にメールサーバを置いている学校がありますが、メールサーバを置いている学校と置いていない学校の違いは、先生ですね。やる気のある先生がいて、メールも出したいという気持ちがあればやる。なければ、やっぱりセンターで出した50個のメールアカウントを使いまわしています」

 サーバ立ち上げも相談(H県)
 
「学校独自でサーバを立ち上げたいといった場合もヘルプデスクに来ていただいて、私どもで対応できないことは県が委託しているSI業者に相談をする。できるだけ、いろんな使い方をしてほしいものですから」

2.2.6.3 サーバのセキュリティ対策

 教育ネットワークを運営管理する立場から見たとき、学校にサーバを置くことによって生じる問題として考えられているのは、「サーバ管理の難しさ」ではなく、いわゆるシステムへの不法侵入行為の被害にあうことへの懸念であった。それに対しては、それぞれ防御策がとられている。

 OSとしては使わせない(I県)
 
「完全にシステムを学校にフリーにしてしまうと、そこからセキュリティホールが生まれる可能性があるんです。サーバにログインしてコマンドでさまざまな管理をするのは、UNIXを使える人には楽しみでもあるんですが、このサーバではいっさい止めています。外部からの悪意の攻撃に対してきちんと守るために、一番簡単にしたシステムでして、直接のところにはユーザは入れない。コンピュータのOSとしてのUNIXは使えないんです。しかし、サーバの運営や経営といったことは完全にできるんです」

 出入り口をふさぐ(J県)
 
「学校にサーバを置くとすれば、サービスは少々落ちても、外部からtelnetとかftpとかはいっさい入れないようなシステムを作らなければならないことは確かです」

2.2.6.4 特徴と課題

         学校には最低でもキャッシュサーバが必要であることが認識されている。

         学校独自の活用を進めるためには、メールサーバなど各種サーバの設置が必要である。

         サーバを学校の自由にさせるとセキュリティホールが生まれる危険がある。

 

 教育ネットワークの整備に着手していない自治体では、一般には「サーバは難しい」という理由で、学校へのサーバ設置は最初から想定していないことが少なくないが、インターネットの活用はホームページを見るだけではなく、学校独自のインターネット活用の道を広げるためには、学校に何らかのサーバが必要であることがわかる。
 また、インターネットは共有の道路であり、そこに不必要な交通量を増やさないための配慮として、キャッシュサーバの設置が必要なことは強く留意されるべきである。
 学校でのサーバ管理の負担を考えると、OSとして操作するサーバではなく、ネットワークの運営・管理に特化したサーバの開発が望まれる。

2.2.7 市町村立・私立学校などの収容をめぐって

 本年度の面談調査の対象となった12地域のうち、都道府県レベルの教育ネットワークを整備しているのは4地域であった。それぞれ市町村立小中学校を収容しているが、積極的な地域と消極的な地域に分かれ、取り組みに大きな差が生じている。
 また、管内の私立学校の収容についても同様であった。

2.2.7.1 市町村を収容している地域

 スケールメリットを図る(K県)
 
「回線は細くてもいいから、全部の学校をつなぎたい。特定の学校に1.5Mbpsの光ファイバーを引くのではなくて、そのお金で、広く薄く広げてスケールメリットを図ろうとしているんです。ですから、市町村に協力をお願いしています」

 市町村の協力関係は研修会から(L県)
 
「市町村立小中学校の収容はこれからです。4回ほど小中学校の事務担当者を集めた研修会みたいなものを開いて、私どもも出席して、こういったことをお話しさせていただいたり、来年度から一般開放にするので、ぜひつないで、子供さん方、教室からどんどん進めていっていただかないと困るんですという話をしています。あとは町村会からも、情報関係の話をしてくれとか、いろいろ言われていますので。
 市町村役場だけではなくて、小中学校を一緒に連れてきて、つないでくれと言っています。できれば、県がしているものの市町村版でやってくれないかなというのが、一番の思いではあるんです」

 まだ行政内で整理がつかない(M県)
 
「市町村をどう含めていくかという。本当にまっぷたつなんですよ。それはコンピュータがどうこう、ネットワークがどうこうということ以前の問題なんです。学校教育課としては、市町村への指導がどの範囲まで及ぶのか、という問題を持っている。学習指導要領もそうですけれども、学校教育の直接的な運営上に関わることは指導します。しかし、それ以外については市町村まかせになっているところがあるわけです。だから、どこまで踏み込むか。いわゆる学校教育法なり、それぞれの法に基づいて、できることできないことがあるんですけれども、それだけの問題なんです。それと、ニーズの高まりというものを直に受け止めるところが、ものすごく差があるんです。しかし、市町村に対して『やりなさい』とか『こういったことをやるから』というところを押していいかどうか整理ができていない。
 もうひとつは、県がそれを作ってくれないとやらないという市町村のビジョンもあるわけです。県が先にやったら、それに準じてやるけれども、県がしないことについてはお金がつかないということが、やっぱりあるわけです。『県は何をしているのか。県全体でやろうとしていないものを、なんで市町村でしなくてはいけないのか』という見方も、実際のところ、あるんです」

2.2.7.2 私立学校の収容

 私学も市町村と同じ(N県)
 
「うちのセンターで、私立学校の教員研修はしています。いくらでも質問には応じます。研修もしています。うちでは私立学校の管轄は知事部局ですが、研修は教育センターが引き受けています。それは今までの慣例だから、それが普通だと思っていました。同じ県に住んでいる人ですから、誰も異論ははさんでいません。県が市町村を入れるのと、県が私立学校を入れるのとは一緒なんです」

2.2.7.3 特徴と課題

  私立・国立・民族学校と公立学校の地域内における協力体制を構築するための仕組みづくりが望まれる。

 学校がそれぞれ独自にインターネットに接続する学校分散型のインターネット接続形態を採用した地域には「収容」という言葉はあてはまらないが、センター集中型の接続形態を採用した地域では、管轄以外の学校の収容についてかならずしも積極的ではないことがアンケート調査結果にも現れている。ことに民族学校、国際学校について収容計画が「ある」と回答した自治体はなかった。
 地域内の学校が設置者や種別の違いを越えて協力しあえるような仕組みづくりを望みたい。

 

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