情報教育は機器を導入すれば終わりではない。機器のメンテナンスや学校の実態(授業)に合わせた運営支援が必要である。ちょうど鉄道には保線員がおり、各駅のホームには係員が配備され、そうやって円滑な列車運行が可能なように、情報教育でも機器の保守と目的に合わせた活用のためのアドバイスができる部署が必要である。
そのために文部省は「ITコーディネータ」の設置を提言しているが、本年度の面談調査を通してみると、ITコーディネータの役割を担う専任職員がいなければ、十分な運用ができないところまで問題は顕在化しているように思える。それは「人材不足」の問題である。
ITコーディネータはけっしてコンピュータシステムの専門家である必要はない。ITコーディネータに求められるのは、トラブル発生時に原因を切り分けられない現場教員に代わって原因を切り分け、適切な業者を選択し、状況を正確に伝えることができる能力である。
いいかえると、学校と学校外の関係者との連携を仲立ちし、教育ネットワークの運用ノウハウを教員に伝え、また最新技術の取り込みをコーディネートすることで、学校での活用を支援するための調整作業である。
本調査でこの役割が最も重要であると感じられた。
知識不足の教員ほど、コンピュータを利用すれば、何でも「自動的に」「早く」できると考える傾向がある。いわば、コンピュータまかせの姿勢である。
今年度発表された指導要領改定案では、全ての教科で情報化が取り入れられているにもかかわらず、研修講座の席で「一年ぶり(にコンピュータに触った)」や、「あと5年(で退職するから真剣に研修を受ける元気がない)」という言葉を交わし、情報教育は他人事のような教員もいる。
いままでの情報教育で利用されたコンピュータは、ネットワークにつながっておらず、情報教育担当者は、不具合があると納入業者を呼びつけ、「導入時と同じようにしなさい」と命じるだけでよかった。ところが、ネットワーク化し情報を共有しはじめると、サーバに格納されている情報のメンテナンス(たとえば名簿の更新)や共有ソフトウェアのバージョンアップなどの作業が必要になる。
また、インターネットといえば、とかくホームページを見ることだけが重視されがちだが、インターネット上で情報を共有するためには、「ギブアンドテイク」という基本ルールを身につけるべきである。
教員を対象にした研修講座はそうした意識改革を促進するものでなければならない。パソコンの操作をテーマにした研修がいまだにほとんどを占めているが、ネットワークにおいては自分の都合だけでものごとを進められなくなるという感覚を浸透させられるような教員向けのカリキュラムが必要である。
ボランティアによる支援は今後ますます重要になってくることが予測されるが、それにも増して必要なのは行政によるボランティアに対する支援である。
行政はともするとボランティア活動を「安価な労働力」と考え、安易に利用する方向に流れがちだが、双方が支援しあえるような協力体制の構築がのぞましい。そのためには、ボランティア受け入れの条件を整備して門戸を開放するとともに、行政みずからボランティアを育成することが必要である。
ボランティアの支援がおよぶ範囲は、単に教育ネットワークの構築・拡張にとどまらない。情報教育のあらゆる面に広がっており、そのような支援はまた子供たちにとって、生きた教師となる可能性を秘めている。
行政に必要なのは、慣例にとらわれない柔軟な現行制度の運用である。
たとえば、学校への教員の加配も「フリーな人材」確保の有効な方法として活用できそうである。ITコーディネータもそうした現場教員の中から育成することはけっして不可能ではないだろう。
これらすべてにいえることだが、直面している課題は財政だけでなく、教育行政の裁量で克服しうることも少なくない点に注目したい。教育行政には、一層の慎重かつ柔軟な姿勢が望まれる。