1980年代後半,広島地区のパソコン通信ホスト局では小中高校の教員グループを対象とした電子掲示板を拠点として,パソコン通信を活用した学校間交流,国際交流などの様々なネットワーク利用教育実践が試みられた。同時に全国規模のパソコン通信サービスを使ってアクティブに活躍する教員が次々と輩出された。本プロジェクトをはじめ,現在全国各地でインターネットの教育利用を支えている教員の多くは,10年あまりの貴重な経験を踏まえた上でネットワーク利用教育実践を推進しているのである。
1994年,ネットワーク利用教育の主役はパソコン通信であったが,広島市立鈴張小学校をインターネットに接続しその環境を維持運用する研究プロジェクトが文部省科学研究費により実施された。鈴張小学校が公立小学校として日本で初めてドメイン名を取得し,インターネットに直接接続されたこの研究が契機となり,この地域で初等中等教育機関におけるインターネットの教育利用に焦点をあてた実践的研究が続けられている。
1995年,鈴張小学校が通産省・文部省による100校プロジェクトAグループ(64Kbps専用線)接続対象校となった。100校プロジェクトの中国・四国地区のNOC
(Network Operation Center: 接続収容先)となった地域ネットワーク中国・四国インターネット協議会(CSI)をベースとして「中国・四国インターネット教育利用研究会」(school@csi)が設立された。school@csiは,広島・島根・山口・高知を中心として小中高校および大学の教員,さらに一般の社会人も含めた60名あまりのグループとして活動を展開した。
school@csiは,1996年には100校プロジェクトの広島市立鈴張小学校,NTTこねっと・プランの呉市立三坂地小学校を,インターネットの仕組みを利用した動画像・音声で結び,小学校6年生国語科「インターネット俳句の会」を実践した。さらに,学校でのインターネット普及期にあたり,教員のインターネット利用の啓発を目的としたシンポジウムを1996年,1997年に開催した。シンポジウムでは動画像・音声伝送技術を駆使した遠隔プレゼンテーションを試み,各種デモンストレーションも実施した。school@csiメーリングリストは3年間で1万2千通におよぶ電子メールがやりとりされ,1998年3月には3年間の活動をまとめた「教室がインターネットにつながる日」(北大路書房)が出版された。この時点で,school@csiとしての活動は終了したが,今後の新たな展開を模索するためメンバーを再構成して「ネットdeがんす」プロジェクトが発足した。
school@csiの実践研究では,学校がIP接続され,学校にネットワークサーバを直接置く100校プロジェクト校と,ダイアルアップ接続によるNTTこねっと・プランの学校の利用形態の直接比較を行うことができた。その結果,学校としてインターネットを教育に本格的に活用するには,学校をIP接続し,学校にサーバを置いて運用する環境が不可欠であり,個人利用を前提とする端末型ダイアルアップ接続の形態は学校等の組織としての利用には問題が多いことが明らかとなった。一方,学校にサーバを置く形態は,学校でネットワーク管理業務が発生する。これら業務の一部は専門業者等にアウトソーシングすることが可能であるが,学校業務と密接に関連する部分や個人情報,セキュリティに関する業務は学校が直接行う必要がある。100校プロジェクトに関わった教員にはこれら業務のために本来業務に支障をきたす寸前まで追い込まれた例も見られた。学校での管理業務についての定義,切り分けや業務支援体制の確保が必要である。これらの点について実証的な研究を行うため,地域の企業をはじめ,各方面の協力を得て,本プロジェクトを企画することとなった。
「ネットdeがんす」プロジェクトでは,学校に専用線でインターネット接続されたネットワークサーバを設置し,連続運用しながら教育利用の実践的研究を行っている。その過程で発生する各種の問題を掌握し,それぞれについて適切な対処方法や外部組織からの支援のあり方についての検討を行うことを主な目的としている。
本プロジェクトは,中国・四国インターネット協議会(CSI)の教育研究部会,NOC運用技術研究部会の共同プロジェクトとして企画され,インターネットプロバイダ,関連企業等の協力を受け実施された。広島市,呉市の小中高校および広島市教育センターの合計9組織を研究協力校として新たにインターネット接続した。接続速度は専用線128Kbps,プロジェクトとしては接続回線,ルータおよびネットワークサーバを提供している。OSはPC
UNIX (FreeBSD)を使用し,ネームサーバ,WWWサーバ,キャッシュサーバ,電子メールサーバ等を動作させている。接続構成の概要を図1に示す。また,既に独自のインターネット接続を果たしている広島近隣の幾つかの学校が研究協力支援校として本プロジェクトへ参加し,サーバソフトウェアの評価および運用等についての検討を行う。プロジェクト参加者の一覧を表1に示す。研究協力校および研究協力支援校の一覧を表2に示す。
図1 ネットワーク接続構成概要
相原 玲二 |
広島大学総合情報処理センター 助教授 |
石川真由美 |
広島大学工学部第2類情報工学課程 学生 |
石田 寛治 |
広島市立鈴張小学校 教諭 |
板敷 憲政 |
広島市教育センター 指導主事 |
小川 雅史 |
広島県呉市立三坂地小学校 教諭 |
神津 住男 |
広島市教育センター 主任指導主事 |
清水 博雄 |
広島県立宮島工業高等学校 教諭 |
杉浦 透 |
広島市立井口明神小学校 教諭 |
関戸 直樹 |
広島県立竹原高等学校定時制 教頭 |
染岡 慎一 |
安田女子大学文学部 助教授 |
田原 潤 |
広島市立長束小学校 教諭 |
玉井 基宏 |
広島市立鈴張小学校 教諭 |
難波 太 |
広島市立基町高等学校 教諭 |
西川 和子 |
広島市立古田中学校 教諭 |
藤原 淑都 |
広島県立呉工業高等学校 教諭 |
前田 香織 |
広島市立大学情報処理センター 講師 |
前田 憲壮 |
広島市教育センター 指導主事 |
前田 真理 |
広島市立吉島東小学校 教諭 |
森本 康彦 |
広島市立牛田中学校 教諭 |
籔田 芳雄 |
広島市立古田中学校 教諭 |
渡邉 俊二 |
広島市立古田中学校 教諭 |
表1 プロジェクト参加者
研究協力校 |
広島市教育センター 広島市立井口明神小学校 広島市立長束小学校 広島市立吉島東小学校 呉市立三坂地小学校 広島市立牛田中学校 広島市立古田中学校 広島市立基町高等学校 広島県立呉工業高等学校 |
研究協力支援校 |
広島市立鈴張小学校 広島県立宮島工業高等学校 |
表2 研究協力校および研究協力支援校
これまでにプロジェクト全体として実施した主なミーティングを表3に示す。この他,1998年11月13日に開催された新100校プロジェクト中国・四国地区活用研究会では,本プロジェクトの概要を発表するとともに,本プロジェクト関係者が多数発表を行った。中国・四国地区活用研究会の開催案内を図2に示す。さらに,1999年6 月には本プロジェクト独自の成果発表会を計画している。
年月日および会場 |
主な内容 |
1998年8月12日 呉市立三坂地小学校 |
三坂地小学校のサーバ設置および動作確認 三坂地小学校内LAN(1階と3階の間)設置工事 |
1998年8月21日 広島大学総合情報処理センター |
ネットワークサーバのインストール講習会 |
1998年10月24日 広島市立鈴張小学校 |
各学校の導入状況確認 サーバの設定に関する情報交換 |
1998年12月27日 広島市立基町高等学校 |
各学校の導入状況確認 新100校地域展開企画報告書作成打ち合わせ |
1999年1月23日 広島市立井口明神小学校 |
「ネットdeがんす」成果報告会の企画 新100校地域展開企画報告書作成打ち合わせ サーバリモートインストール,バックアップ実験 |
1999年3月6日 広島市立基町高等学校 |
「ネットdeがんす」成果報告会打ち合わせ |
表3 開催されたミーティング等
新100校プロジェクト 中国・四国地区活用研究会 開催日時 : 平成10年11月13日(金) 10:00〜17:10 会 場 : 広島県情報プラザ(広島県立産業技術交流センター)多目的ホール TEL:082−240−0410 定 員 : 100人(定員になり次第締め切らせていただきます) 参 加 費 : 無 料 共 催 : 情報処理振興事業協会(IPA) 財団法人
コンピュータ教育開発センター(CEC) 中国・四国インターネット協議会(CSI) 後 援 : 広島県教育委員会,広島市教育委員会 プログラム 9:30 受付開始 (敬称略) 10:00 開会挨拶 第T部 学校におけるインターネット接続の諸問題 10:10 基調講演:学校のインターネット接続 −光と影− 講 師:広島大学 助教授 相原玲二 11:20 技術解説:ネットワークサーバ管理入門 講 師:広島市立吉島小学校 教諭 前田真理 12:20 休 憩 第U部 学校におけるインターネット実践事例の発表 13:20 特別事例紹介:ネットワークサーバ構築とLAN管理の実際 発表者:広島市立鈴張小学校 教諭 玉井基宏 14:40 休 憩 15:00 実践事例1:ネットdeがんすプロジェクト報告 発表者:安田女子大学 助教授 染岡慎一 15:40 実践事例2:小学校社会科4年「交通事故を防ぐ」における 調べ学習の実践 −Webとアンケートソフトを活用して情報発信・収集,深化の学習− 発表者:高知県南国市立大篠小学校 教諭 田村剛啓 16:20 実践事例3:アジアの高校生との海外交流 発表者:広島市立基町高等学校 教諭 難波 太 17:00 閉会挨拶 |
図2 中国・四国地区活用研究会の開催案内