【資料1】小学校における実践事例

地域素材を教材化した共同学習 −パスワード付Webページを利用して−

呉市立三坂地小学校 小川雅史

1 はじめに

(1) これまでの実践

 これまで本校は「こねっとプラン」や「文部省の研究指定」を受け,インターネットを授業で活用する方法について,研究を進めてきた。CU-SeeMeや電子メールを交流の道具の一つとして位置づけ,様々な学校と交流を持ってきた。インターネットを活用することによって,学級や学校の壁を越えた学習集団が組織でき,異地域・異年齢の人たちとお互いの考えを交流することができた。この活動を通して,児童はさまざまな人と接し,ものの見方の相違点や共通点をみつけることができた。一方,実践を通して問題点も明らかになってきた。

 

(2) これまでの実践の問題点

@ 日常生活で交流がなければ,交流は一過性のものとなりやすい。

A インターネットに接続して交流できる機器が少ない場合,他の児童が交流してい るのを見ている時間が長くなり,一人一人が交流する時間が確保しにくい。

 このような問題点があり,新しい交流のあり方を探る必要があると考えていた。そのような中1998年,「ネットdeがんす」プロジェクトに参加することができ,光ファイバー専用線とUNIXサーバ機を学校に設置することができた。本校は,このシステムを調べ学習室に設置した。37台の児童用コンピュータのあるコンピュータ教室の隣に,調べるための本や資料を集めた調べ学習室がある。ここに,サーバ機1台とクライアント6台を用意し,ネットワークで結ばれたどのマシンからも,インターネットに接続できるようにした。また,サーバを使うことによって,電子メールアドレスを発行したり,自校内にWebページのデータを置くことができるようになった。これらの機器を利用して,新しい交流のあり方を研究してみた。

 

2 今年度の取り組み

(1)        地域素材の教材化

 本校の近くに流れる広大川(正式には黒瀬川だが児童は広大川と呼んでいる)を取り上げた。この川は東広島市を源として,黒瀬町を経て広島湾に流れ込んでいる。川で魚釣りをしたり土手の散歩をしたりと,地域住民の生活に密着した川である。「−広大川のすべてを知ろう−」という内容で,合科的な学習を計画した。1学期のある日,児童と話をしている時,「ブラックバス以外にもハゼが釣れる。その中には背骨の曲がったハゼがいた。」という話がきっかけとなって,この授業に結びついた。昭和40年代,広大川はひどく汚染され,おばけハゼ釣り大会まで開かれた。その後,急速に下水道が整備された。「下水道が整備され,きれいになったはずなのに。」「上流の町では下水道がついているのかな。」「広大川と黒瀬川は同じ川だけど,どこから名前が変わるのかな。」「水の中には,どんな生物がいるのかな。」など,疑問がたくさん出てきた。そこで,インターネット等の情報と実地調査等の体験的な学習を重ね合わせて,疑問を追究していく学習を計画した。

 

(2)        共同学習の呼びかけ

 黒瀬川をテーマにして,研究・発表を行う授業を共同学習で計画できないかと考えたのが,1学期の末のことである。幸い,私の所属している中国・四国インターネット教育利用研究会の会員の中に,黒瀬川中流域の学校に勤務している先生をみつけた。この先生は,Webページ等で黒瀬川の環境問題を発信している。そこで早速,電子メールを使って,共同学習をお願いした。「担当教科の理科と関わって何かできそうだ。」という快い返事をもらった。もう一校,上流域の学校と交流したいと考えていたが,市外であり知り合いの先生もいない。そう思っているとき,県立教育センターの講座で知り合った先生が,上流域の学校に勤務しているということを後日知り,早速電子メールで共同学習をお願いした。4年生の担任の先生で,「社会科で黒瀬川を取り上げて学習をする予定がある。」と,こちらも快く引き受けてもらえた。このように電子メールで呼びかけ,黒瀬川の下流にある本校と,中流にある黒瀬町立乃美尾小学校,上流にある東広島市立東西条小学校の3校を結んで,共同学習が始まった。

 

(3)        情報の収集と交換(インターネット等の活用)

 川とふれあった経験が多い児童と少ない児童がいるため,共通体験として「広大川とふれあおう会」を実施し,魚釣りをしたりスケッチをしたりした。広大川をいろいろな角度からしっかり見つめ,児童一人一人が身近な環境や環境問題の中からテーマを選択し,主体的に調べることができるようにしたいと考えた。情報収集の手段として,教育機器の利用を積極的に行った。調べ学習の時にサーチエンジンを利用して情報を集めた。「黒瀬川」「お化けハゼ」などのキーワード検索から,近所の研究者を探り当て,学校でお話を伺う機会ももてた。

 インターネット上の植物図鑑から,植物名を検索することなどもできた。(電子植物園 http://www.si.gunma -u.ac.jp/~aoki/BotanicalGarden/search.html)また,実際に微生物を顕微鏡で覗きながら,微小生物図鑑の動画と比較して検索することもできた。(サイバー図鑑 http://bio-eec.ipc.miyakyo-u.ac.jp/micro_zukan/owa/ms_trait_frame

 今回の共同学習では,それぞれの学校の授業内容に違いがあった。本校は,広大川をさまざまな角度から追究する学習。乃美尾小は理科的視点から,東西条小は社会科的視点からといろいろである。そこで,自分たちの求めている内容を,電子メールで連絡し,それぞれの地域で情報を集めてもらうことにした。「水」「土」「生き物」「環境」をキーワードとして情報を集めてもらった。デジタルカメラで撮影して,データを本校にあるインターネットサーバに送信してもらうことにした。また,MO等で画像や説明を持参していただき,実際に川の様子を情報交換することもあった。

 

(4) 情報交換のための環境づくり

@        パスワード付Webページの活用

   このページにアクセスすると,まずユーザ名とパスワードの入力を要求してくる。正しく入力すれば,3校共同制作のWebページにアクセスすることができる。一度入っていけば,あとは通常のWebページと同じように,情報を見ることが可能となる。校内で利用する場合も,同様にユーザ名とパスワードの入力が必要である。また,それぞれの学校からは,集めた情報をFTPでサーバに送ってもらう。FTPで送信する場合も,同じ様にパスワードの入力が必要である。今回パスワード等の入力は,教師が担当した。

 これまで,行事や学習の様子をWebページで発信してきたが,広い範囲に公開する内容なので,発信する内容について,時間をかけ吟味をしてきた。そのため,情報をリアルタイムに発信することが難しかった。しかし,パスワードを付けて使用者を限定したWebページであれば,不特定多数の人々に公開する情報ではないので,その日の学習内容や,見学したときの写真などをリアルタイムに情報発信することができた。

A 川の一部から全体へ

 このWebページの情報から,自分たちの集めたデータと他地域のデータとの比較が可能となり,新しい発見ができた。たとえば,土の様子を調べている児童は,まず,学校近辺の土を粒の大きさ,色,においなどの視点で調べた。学校に帰って,共同学習のWebページから,中流域の土の様子が似ていることを見つけた。それを不思議に思った児童は,休みの日に保護者と一緒に,下流域と中流域の中間点の土を採取に出かけた。ここで,おもしろい発見をする。中流域と下流域の間に大きな滝があり,この滝を境にして,すぐ下流では,巨大な岩石がごろごろしている。川の上流域のような風景に変化するのである。地殻変動によってこのような川ができたのだが,中流域の土が,下流域のような小粒の砂に近い状態になっていることを発見したことが,太古の川の歴史を学ぶきっかけとなっていったのである。

B 情報の共有化

 次に,集めたデータを学校内の他のグループが活用できたことも効果的であった。インターネットサーバはイントラネットサーバとしても利用できる,当然クライアントコンピュータから利用することができる。校内校外問わず共同利用できるのである。学習課題別にグループを作り,さまざまな場所で調査・研究をしているため,他グループの学習の様子が分かりにくくなりがちだが,このWebページによって,他のグループの動きもよくわかるようになってきた。「へえ,そんなこと調べているんだ。」といった会話から,お互いの持っている新しい情報を交換することにもつながった。

 今回,調べたものをまとめる時,デジタルカメラやスキャナを使って,写真をデジタル化し,簡単な言葉で説明を入れて,プレゼンテーション(以下プレゼン)を作った。これを発表で利用し,相手にわかりやすい情報提示の仕方を学ばせたいと考えた。プレゼンを作成する時,自分たちの発表画面の中に,共同学習のWebページのデータを利用していった。プレゼンを利用すると,自分の発表内容順に画面が表示できるので,発表時の緊張感を和らげる効果もあった。今年作成したプレゼン用データを,サーバの中に入れて,来年以降の学習でも,活用することが可能である。

 

 

「合科的な学習」の学習指導略案

1 単元名 「広大川のすべてを知ろう」(構成する教科等 国語科 社会科 図工科 特別活動 理科 道徳)

2 本時のねらい

・ グループの発表の意図が,はっきり表れるように,構成を考えることができる。(技能)

・ 聞き手によくわかるよう,工夫して発表することができる。(表現)

・ 聞き手は,メモを取りながら聞こうとすることができる。(関心・態度)

3 本時の学習展開

 授業の展開は,前半に研究・調査・まとめ,後半にはグループの発表という内容にしていった。課題解決的な学習をすると,グループによってかなり進度が違ってくる。それを考慮して,このような展開にして,まとめと発表を組み合わせた授業を3時間行った。

 

 (5)成果と課題

 地域性の強い「川」などを取り上げた授業の場合,図書資料だけでは資料が不足してしまう。それは,狭い地域のことを詳しく書いてある本は,小学校にはあまりないからである。このような時,インターネットを利用すると効果的である。

 本やインターネットからさまざまな事実を知った児童たちは,もっと調べてみたいことがはっきりわかるようになる。課題の追求は学校内だけの学習にとどまらず,家族と川の土や魚を研究に行ったり,地域の方にアンケートをとりに行ったり,川の研究をされている郷土研究家のお宅に訪問したりするなど,調査活動に広がりが見られるようになっていった。教師の知らない情報(昨年よりお化けハゼが増加していることなど)を得意顔で,教えてくれることもあった。

 また今回,共同学習で協力いただいた2校の先生方には,たいへんお世話になった。各地区の川の情報は日々新しい内容が追加されていった。その中には,児童の顔写真など,公開には慎重さを要求される情報が含まれている。Webページの内容によっては,広い範囲で公開するのではなく,パスワードで保護できるようにして,利用者限定のイントラネット的利用法も効果的であった。しかし,このシステムを作るにはサーバの設定が必要である。UNIXを使うのもサーバを設定するのも今回が初めてであり,”ネットdeがんす”の研究会のみなさんに多くの協力をいただき,どうにか動作するように設定できた。一人では困難な作業も,多くの方の協力のおかげで実現することができた。このシステムを使うことによって,それぞれの学校で作ったデータは,それぞれの学校の予定に応じて更新していくことができた。お互いに,それぞれのペースで学習交流ができることによって,学校間交流が,気負わず長続きができるものになると考える。

 この広大川を取り上げた学習は,11月末に行われた学習発表会へとつながっていった。児童は,「広大川にふれあおう会」から,発表,環境問題の呼びかけまでを劇化して,表現した。児童自らが台本をつくり,発表にも自分たちのアイデアを組み込んだ。この発表は,保護者からもとても好評であった。プレゼンする児童を見て,多くの保護者から「驚きました。家でもよく頑張って調べていましたよ。」という感想をいただいた。

 このように,地域教材である一つの川を取り上げ,校区を越えて広い視点で学習を計画する場合,インターネットを活用した学校間交流は,とても有効であると感じた。しかし,インターネット活用には,機器等の物的な環境とともに,それを運用するための人的な環境も必要となる。インターネットを図書資料と同じように利用したり,他校と共同で作成したデータベース的な利用をしたりして,児童が生き生きと学習できるための使い方を広げていくには,児童が十分に利用できる環境(機器と人)づくりが大切である。

 今回,電子メールの使用には十分に取り組めなかったが,今後教師児童ともに広げていきたい。また,メディアやツールの持つよい部分と陰の部分を理解し,自分たちの生活をよりよくしていこうとする実践に活用していきたい。

 

 

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