1.2.3 国際動向                国分  明男    財団法人ニューメディア開発協会

 インターネットは国際ネットであるので、青少年が安心してインターネットを利用できるようにするためには、国際的連携が必要である。具体的には、産業界の行動規約、セルフレイティングおよびフィルタリングのメカニズム、ホットライン、法的規制が国毎に検討される必要がある。
  以下では、レイティングに関する国際的な取組みと各国の法的規制の動きを紹介する。

(1)レイティング
 レイティング基準の代表例として、RSACi(RSACによるインターネット上のレイティング基準)がある。RSACiでは、暴力、ヌード、セックス、言葉のカテゴリがあり、インターネット上のコンテンツが、各々のカテゴリに関して0から4までのレイティング値で格付できるようになっている。RSACiは、非営利団体RSAC(RecreationalSoftware Advisory Council)によるレイティング基準であるため、米国ではセルフレイティングの際の実質的な標準になっており、国際的なレイティング基準作成においても、この基準に基づいて検討が進められている。財団法人ニューメディア開発協会が推進しているレイティング/フィルタリング実証プロジェクトにおいても、RSACiの拡張であるSafety Onlineというレイティング基準を暫定的に使用している。
 RSACは本年初めに、資金難のため、ICRA(Internet Content Rating Alliance)に吸収されることになった。ICRAは、98年10月7日、OECD電子商取引会議の初日に、ドイツのElectronic Commerce Forum(電子商取引フォーラム、eco)、イギリスのInternet Watch Foundation(インターネット監視財団、IWF)および米国のRSACの3組織により結成された。これらの組織は共同して、RSACiをベースとする国際的なセルフレイティング基準の開発にあたる。
 使命は、世界中のインターネット利用者に、(とりわけ子供にとって)有害とみなされるコンテンツへのアクセスを制限する選択肢を提供するような、国際的に受容されるレイティング基準を開発することである。具体的には、RSACiを拡張して世界的に共通する部分と各国の実情に合わせる部分を整理して、真に国際的に通用するレイティング基準の開発をすることである。
 さらに、ICRAは世界的規模の包括的なコンサルテーションプログラムを計画しており、産業界、インターネット利用者、立法者および一般大衆からインターネットコンテンツに関してどのような不安があるかという見解を集め、新しいレイティング基準に反映させる予定である。主要なインターネット利用国の代表者たちはICRAの提案に強い関心を表明し、リファレンスグループに参加してコンサルテーションのプロセスを手助けしてもよいと提案している。ICRAは98年10月よりコンサルテーションを15ヶ月間行い、99年末までに新しいセルフレイティング基準を利用可能にしようとしている。
 バーテルスマン財団(Bertelsmann Foundation)も、国際的規模でレイティングおよびフィルタリングへの取組みを開始した。バーテルスマン財団はAOLのヨーロッパでのパートナであるBertelsmann AGの株式の68%を所有しているドイツの非営利団体(NPO)である。(Bertelsmann AGは世界第3位のメディア複合企業であり米国最大の出版社である。)同財団は77年に設立されており、オーナー一家が伝統的に行っている社会政治的・文化的コミットメントを継承する役割と、Bertelsmann社の存続を保証する役割を果たしている。
 レイティングおよびフィルタリングへの取組みとして、98年12月には、「インターネットに対する責任とコントロールのための自主規制」というプロジェクトを開始している。同プロジェクトの使命は、インターネット上の有害および違法コンテンツに対処するために、自主規制に基づく国際的かつ統合的なシステムの開発を促進することである。同財団はこの自主規制基準の開発促進にあたり、20人以上の専門家からなる国際ネットワークを設立した。同ネットワークは「産業界の行動規約」「セルフレイティングおよびフィルタリングのメカニズム」「ホットライン」「法規制」という4つの責任領域を分担して作業を進めることになる。
 同財団は、99年9月に「ヨーロッパのインターネット・コンテンツ・サミット」を開催し、同会議中に上記の4つの責任領域のコンセプトペーパーと国際ネットワークの活動が報告されることになっている。

(2)法的規制
 米国では、通信品位法(Communications Decency Act)によりネット上のアダルト情報の規制が試みられたが、その中で下品という用語が、憲法修正第1条(言論の自由)違反であるとして市民団体が提訴し、1997年6月に最終的に最高裁でも違憲判決が出された。その結果、米国政府は方針を変更し、技術的解決策(すなわち、コンテンツ・レイティングとフィルタリング)を支持するとしていたが、アダルト情報発信者に未成年者でないことを確認する義務を負わせる児童オンライン保護法(Children's Online Protection Act)が1998年10月に議会で成立したので、部分的には法規制をする方向に戻った。しかし、これも違憲であるとして市民団体が提訴して裁判所から施行の差し止め命令が出ている状況にある。
 EUのアクションプランでは、 非合法コンテンツ に対してはまず司法当局が対応すべきであるが、チャイルドポルノ、人種差別などの蔓延を防ぐために行動規範(Codes of conduct)の制定やホットラインサービスの提供で協力すべきであり、有害コンテンツに対してはコンテンツ・レイティングやフィルタリングの技術開発で対応すべきであるとしてきた。しかしながら、1998年5月にはEUとしては最初のコンテンツ規制である人権保護の観点からの勧告が出されている。
 わが国では、わいせつコンテンツを非合法として処罰対象としており、有害コンテンツに対しては1999年4月から風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)によって、インターネットを利用したアダルト映像営業などを無店舗型の性風俗関連営業として届け出制にし、18歳未満の少年を客にすることを禁止することにしている。また、チャイルドポルノを処罰する法案が議員立法の形で国会に提出準備中である。
 それらの法的規制に加えて、コンテンツ・レイティングに関してセルフレイティングの促進と第三者によるレイティングの補正の考え方が、警察庁報告書によって示されている。このように、公共の利益や安全性の大切さの観点からの法規制の動きはあるものの、言論の自由や市民の自由な意見交換の場の大切さも無視できない観点であり、また、インターネットは本質的に国際的な性格を有していることからくる実効性の限界もあるので、発信規制ではなく、コンテンツ・レイティングとフィルタリングに基づくく受信制御の技術開発の必要性が広く認識されている。

 

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