インターネット上の情報の中には、児童・生徒の教育にとって役に立たないばかりなくむしろ有害となる恐れのあるものもある。しかし、そのような情報の発信を法的に禁止することは、表現の自由を損なうこととなる恐れが高い。従って、情報の発信については法的な規制は必要最小限の範囲としたうえで、教育現場において教育上見せたくない情報を遮断するためのフィルタリング技術の導入が必要となる。
どのようにフィルタリングが最適かは、校種、学年、科目、教育方法等によって異なると考えられる。そこで、あらかじめ複数のカテゴリの各々について情報の内容を評価して複数のレベルのいずれかに格付け（レイティング）しておき、教師がその環境に応じて、各カテゴリ毎に適切なレベルを指定して情報を選択する方式を導入することが望ましい。レイティング情報を広く活用するためにはその構文仕様を標準化する必要がある。PICS(Platform
for Internet Content Selection)は、この目的に応用することをねらいとした仕様である。
PICSを用いたフィルタリングシステムを利用する際、第一の課題は、どのような基準に基づいてレイティングをすべきか、である。この点で先進的な活動をしてきた米国のRSAC(Recreational
Software Advisory Council)は、暴力、ヌード、セックス、言葉の４カテゴリの各々について５段階を設けたレイティング基準RSACiを開発した。例えば、ヌードのカテゴリではＮ４＝「刺激的な全裸」、Ｎ３＝「全裸」、Ｎ２＝「部分的ヌード」、Ｎ１＝「露出的な服装」、Ｎ０＝「これらに該当せず」の５つのレベルを定めている。ニューメディア開発協会(NMDA)は、RSACiを基にして第５のカテゴリ「その他」を追加したレイティング基準SafetyOnlineを定め、これに従って膨大なWWWコンテンツを対象とするレイティングを行った結果をラベルデータベースとして提供している。
研究グループでは、NMDAのラベルデータベースを試用するのと並行して、レイティング基準とフィルタリング・レベルについて調査を行った。調査方法はWWW上および用紙配布によるアンケートによるものとし、313件の回答を得た。その結果は本文に記述した通りであり、次の点に注目する必要がある。
レイティングのカテゴリについては、上述に対し、チャイルドポルノ、援助交際、薬物、犯罪等のように違法性のあるもの、さらに、偏見・差別、ハッカー行為、カルトのように違法とは断定し難いが児童・生徒に有害となる可能性の高いものを追加する希望が多かった。
フィルタリング・レベルは授業の方法等によって当然変化するが、校種と学年に応じて平均的な場合に対応する値を推奨することを期待して調査を実施した。その結果は予想以上に多様であり、単純に総括することはできないが、例をあげるならば、「ヌード」については、小学校、中学校ではレベルＮ１まで、高等学校ではレベルＮ２まで、という感じで推奨値を設定することが考えられる。しかし、アンケートの結果に基づいてすべてのカテゴリについて推奨値を設定することはできなかった。むしろ、インターネットを教育に活用する目的と利用形態に関する複数のモデルを設定し、それに対応して推奨値を決めるべきであるといえよう。