(1)発芽マップの内容と概要
全国発芽マップの企画上の取り決めは、次の1点である。
「全国各地で、一つの植物を同一日時に播種して、その後の成長の様子を電子メールやWebぺージで報告し合う」。
1998年度は、栽培する植物として1997年度に引きつづきケナフが選定された。昨年の実践から得られた教訓をもとに、本年度の学習活動では、次のような事柄が期待された。
@各地の気候の差による発芽・開花・結実の時期、成長速度などの違いへの気づき
A台風などの自然災害による被害時の交流を通しての感動の共有
Bケナフについての学習を通しての環境保全にかかわる知識および関心の高まり
Cケナフパルプによる葉書などの非電子媒体による交流による現実世界でのコミュニケーションの実感
こういった見通しに基づく教育活動はおおむね成功であった。特に、インターネットを利用した学習は、子供にとっての仮想現実の中だけでの活動に陥りやすいのではないかという当初の危惧を一掃した点が重要である。
全国発芽マップが発行した書物「インターネットがひらく総合的学習」の中で指摘しているように、この活動では「ケナフ」という具体的な植物に子供が感情移入することで、遠く離れた地方のケナフのことをまるで自分のケナフのように考えることができるようになっている。さらに、インターネットで交流していた相手からケナフ製の葉書が届くことで、活動のリアリティが実現している。
さらにこの活動は、子供が「義務感」で観察をするといったようなものではなく、活動を通してケナフへの思い入れや全国的な交流の中での責任感が培われたところにも意義がある。
学習活動の詳細は後に述べることにして、ここではメーリングリストの分析からみた全国発芽マップの姿をの分析結果から紹介したい。1997年度および1998年度のメールは表1に示すような本数であった。いずれの年度も「発芽」「開花」「災害」「紙すき」の時期にメールが集中しており、これらが学習の場づくりをしていることがうかがえる。しかし、両年度を同じ日数で比較した場合のメールの件数が1998年度の方が少なくなっていることは注目に値する。1997年度の参加校数は50校、1998年度が77校で、1998年度の方が多いにもかかわらずメールの総数は減少している。
表1. 1997年度と1998年度の電子メール件数の比較
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発芽 |
開花 |
災害 |
紙すき |
その他 |
合計 |
1997年度 |
55件 |
43件 |
66件 |
45件 |
282件 |
491件 |
(55件) |
(43件) |
(66件) |
(43件) |
(268件) |
(475件) |
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1998年度 |
28件 |
41件 |
36件 |
7件 |
191件 |
303件 |
1997年度:1997年4月8日〜1998年3月29日、( )は1998年1月8日
までの件数
1998年度:1998年4月8日〜1999年1月8日の件数
この原因として、ケナフの観察が2年目であることが考えられる。1年目は参加する教師にとってもほとんど未知であった植物が2年目には既知のものになっている。これは、全国発芽マップで同一植物を取り上げることの限界を示唆している。
に幹事校の役割の分析結果を表2に示す。
表2. 全電子メール件数とからの電子メール件数の比較
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全電子メール件数 |
からの電子メール件数 |
全体に占める割合 |
1997年度 |
491件 |
51件 |
10.4% |
1998年度 |
303件 |
52件 |
17.2% |
どちらの年度でも、幹事校からのメールの本数が非常に多く、全体の10%を越えている。内容は、「ホームページを作りました」という電子メールがくれば、「拝見しました」と返信し、なかなか花が咲かなかった学校から「花が咲きました」というメールが来れば「おめでとうございます」と返事を出すといったように常に参加校からのメールに反応をしている。ここにメーリングリストでの活動を活発にしようという意図が表の数値に表れている。
次に、参加校を対象とした調査結果の一部を表3に紹介する。調査はメーリングリストを利用して1998年の11月に実施され、77校中18校から回答が寄せられた。
表3. 参加校の教師を対象とした調査の結果
質問 番号 |
質 問 内 容 |
は い |
いいえ |
どちらでもない |
2 |
全国発芽マップに参加することで、子供が他の学校と交流できた |
9 |
9 |
0 |
3 |
全国発芽マップに参加することで、子供が植物成長の地域差を認識することができた。 |
14 |
4 |
0 |
6 |
全国発芽マップに参加することで、子供の学習意欲が向上した。 |
14 |
1 |
3 |
8 |
全国発芽マップに参加することで、子供が環境問題を考えるきっかけとなった。 |
14 |
3 |
1 |
10 |
全国発芽マップに参加したことで、子供の学習に変化があった。 |
13 |
4 |
1 |
この表の結果は、参加校の教師の判断によれば、当初意図していた学校間の交流、地域差の認識、意欲の向上、環境問題への関心の高まりがかなり実現できたことを示している。
また、1998年12月に宮崎大学教育学部附属小学校の5年生を対象として実施した調査の回答には以下のようなものがあった。これらの回答からも学校間の交流、地域差の認識、意欲の向上、環境問題への関心の高まりがあったことが裏づけられる。
@全国発芽マップは楽しく勉強できる。他の勉強より発芽マップの方が楽しい。国語などは自分のためだけど、ケナフは地球のためになる。
Aものが育っていく楽しみがある。1つの学習が2つの勉強をやっているような気がする。(例えば図工(紙すき)+環境問題についてなど)
B他の勉強はめんどくさいけど、発芽マップは楽しい。他の教科だと、言われてする時もあるけど、発芽マップは自分から進んでやる。
Cケナフの勉強では「地球を守ろう」っていう気持ちでやる!それに「おもしろい!!」ケナフを調べる時にどんなひみつがあるのかたのしみ!!
D普通の授業だと他の学校と交流をしないが、全国発芽マップは他の学校と交流ができる。(4名が回答)
E自然の大切さがわかる。今地球がどんな状態かが分かる。自然と親しむ。
F地球のためになっている。人とふれあいができる。
Gとても面白くて興味がわいてくる勉強だった。それに、ケナフでいっつも同じことをするのはつまらなかったと思うけれど、工作⇨図工、料理⇨家庭などと、いろいろな勉強が混じっていて、あきなかった。それにとっても楽しい勉強だった。
全国発芽マップの教育実践では、メール交換はほとんど教師によって行われており、設備の関係もあって子供自身がメールを出し合うことはまれであった。しかし、その制約の中で、子供はコンピュータやネットワークを身近に感じるだけでなく、それを環境学習や交流の道具として積極的に活用している姿が描き出されいる。
全国発芽マップの実践を通して、最低限のネットワーク環境でも意欲的な学習が成立することが確かめられた。しかし、最低限の条件としてのメーリングリストとWebページが作成できる環境が重要であることも確かめられたと言えるであろう。今後の課題として、会議室などのようなコミュニケーションの履歴が残る環境の整備や子供のメーリングリスト活用の試みが残されている。