3.3.調査結果

3.3.1 アンケート調査結果の分析・評価

 インターネットによる新聞データベースシステム利用の可能性と教育的有効性の検証を目的として、実際にシステムを利用している学校の教師・生徒に対してアンケート調査を実施した。ここでは、このアンケート調査の結果の分析・評価を行う。なお、有効回答数は教師(13)、生徒(311)であった。
 

(1)利用状況に関して
・学校区分:全て高等学校
・教  科:情報、情報処理、情報管理、情報技術基礎、シスアド などの情報関連教科、電子計測制御、工業数理、工業基礎 などの工業科関連教科、社会、現代社会、地理歴史 などの社会科関連教科

・利用形態:ほとんどが「教師の指導の下、生徒が授業中に利用」である。その他、「教師の演示用として利用」、「教師の教材作成用に利用」、「教師の指導の下、生徒が授業時間外に利用」、「生徒が自主的に利用」はほとんど見受けられない。

・利用目的:・あるテーマに関する生徒の自主的な調査(調べ学習)

      ・授業および行事のための資料作成

      ・教材研究

      ・課題学習

      ・コンピュータ利用の実例として

      ・オンラインディベートにおける証拠資料

・利用時間:1回の授業当たり、平均43.5分

 

(2)システム評価

 

システムの操作性など、システム評価に関する結果を図10に示す。各評価項目とも平均評定値が高いほど評価が高いことを意味する。

 

 

図10 システムに対する評価

 

(3)教育利用の有効性に関する主観評価

 新聞データベースの教育利用の有効性を主観的な立場から検証するために、以下の項目(教師13項目、生徒12項目)からなる評定尺度法(5段階評定)によるアンケート調査を行った。アンケート調査は教師、生徒別個に行った。

 

@ 教師からの評価

 アンケート項目は以下の13項目である。

 A.教材作成用として利用する場合

    項目@ 教材作成にかかる時間を短縮することができた

    項目A 教師の授業準備の意識が高まった

    項目B 教師の授業意図に合致した教材を作成することができた

    項目C 生徒の関心を高める教材を作成することができた

 B.授業中にシステムを利用する場合

    項目D 生徒の授業内容への関心を高めることができる

    項目E 生徒同士が協調的に作業を進めている様子が見られた

    項目F 生徒が自ら問題を発見するような行動や発言が見られた

    項目G 生徒が授業に積極的に参加するようになった

    項目H 生徒の社会の様々な問題(教材として取り上げた問題)に対する意識が高まった

 C.課題時間に生徒が利用する場合

    項目I 生徒が自主的に情報を収集している様子が見られた

    項目J 生徒と教師とのコミュニケーションの回数が増えた

 D.その他

    項目K 生徒はコンピュータの有効性を感じているようだ

    項目L コンピュータに関して興味をもって学習しているようだ

 

 表1に項目間の相関係数と各項目の基本統計量(平均評定値、標準偏差)を示す。斜線の部分は相関係数の値が比較的高い(0.400以上)ことを示す。さらに、図11に各項目に対する平均評定値を示す。

 この結果から、以下のことを読み取ることができる。

  ・「B.授業中にシステムを利用する場合」と「C.課題時間に生徒が利用する場合」に含まれる項目群

   に対する評価が高い。標準偏差も小さい。

  ・「D.その他」に含まれる項目群に対する評価は非常に高い。標準偏差も小さい。

  ・「A.教材作成用として利用する場合」に含まれる項目群に対する評価は中間的であるが、項目群間の相関性は高い。

 

 よって、新聞データベースシステムを利用することにより、生徒の授業への関心の高まり、その結果としての授業への積極的参加を促進することができたものと考えられる。特に、生徒の自主的な活動や教師とのコミュニケーションの回数も増加していることは、コンピュータの教育利用のあるべき姿を示唆しているものと考えられる。さらに、コンピュータに関する興味、コンピュータの有効性を感じている点なども付加的な効果であると考えられる。また、教材作成に新聞データベースを用いる場合には、教師は時間短縮が可能か、授業を想定した情報を収集することが可能か、魅力的かつ効果的な教材を作成するための情報を収集することが可能か、を総合的に判断しているものと考えられる。これは、新聞データベースに限らず、一般のデータベースシステム、データ検索システムに関しては、操作性だけではなく、システムが提供可能な情報や内容も重要であることを改めて示していると考えられる。

 


表1 項目間の相関係数と各項目の基本統計量(教師)

 

教材作成に利用

授業中に利用

課外時間

その他

項目番号

@

A

B

C

D

E

F

G

H

I

J

K

L

@

1.000

0.747

0.487

0.570

0.326

-0.198

-0.071

-0.024

0.365

0.631

0.678

0.465

-0.134

A

 

1.000

0.624

0.780

0.450

-0.309

-0.302

-0.151

0.473

0.573

0.289

0.341

0.169

B

 

 

1.000

0.914

0.259

-0.604

-0.308

0.200

0.473

0.778

-0.046

0.240

0.399

C

 

 

 

1.000

0.291

-0.368

-0.328

0.132

0.626

0.691

0.057

0.255

-0.176

D

 

 

 

 

1.000

0.010

0.365

0.330

0.267

0.299

0.247

0.178

0.213

E

 

 

 

 

 

1.000

0.539

0.311

-0.033

-0.670

0.212

-0.079

-0.223

F

 

 

 

 

 

 

1.000

0.382

0.098

-0.245

0.222

0.234

-0.055

G

 

 

 

 

 

 

 

1.000

-0.039

-0.030

-0.021

-0.094

-0.074

H

 

 

 

 

 

 

 

 

1.000

0.132

0.038

0.171

0.018

I

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.000

0.238

0.564

0.424

J

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.000

0.621

-0.241

K

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.000

0.415

L

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.000

平均評定値

2.692

3.154

3.077

3.231

3.769

3.692

3.615

3.692

3.462

3.692

3.462

4.385

4.154

標準偏差

1.251

1.214

0.862

0.927

0.832

0.751

0.506

0.630

0.519

1.032

0.967

0.650

0.689

 

図11 各項目に対する平均評定値(教師)

 

A 生徒からの評価

 アンケート項目は、下記12項目に加えて、システムの操作性などのシステム評価と教育的有効性との関連性を調べるため、システムに対する評価に関する8項目を加え、20項目として分析を行った。

 A.教育利用の有効性に関する項目

    項目@ 新聞データベースから作った教材の方が今までの教材よりもわかり易い

    項目A 新聞データベースから作った教材の方が今までの教材よりも面白い

    項目B 新聞データベースから作った教材の方が今までの教材よりも興味がわく

    項目C 授業中に新聞データベースを使うと授業がわかりやすくなる

    項目D 授業中に新聞データベースを使うと授業が面白くなる

    項目E 授業中に新聞データベースを使うと授業に興味がわく

    項目F 新聞データベースを使うことで友達と相談して学習することが多くなっ           た

    項目G 新聞データベースを使うこと時に先生と相談することが多くなった

    項目H 新聞データベースを利用して何か自分で調べてみようと思ったことがある

    項目I 新聞データベースを利用することで社会のいろいろな問題に対する意識が高まった

    項目J 新聞データベースを利用してコンピュータの有効性を感じた

    項目K 新聞データベースを利用することでコンピュータについて勉強してみようと思った

 B.システムに対する評価

    項目L 情報を検索する速度について

    項目M 情報を検索する時の方法について

    項目N 情報を検索する時の検索条件の設定について

    項目O 検索方法についての説明について

    項目P 検索した結果の表示について

    項目Q 全文の表示について

    項目R 表示される内容について

    項目S 新聞データベースの使い易さについて

 

 表2に項目間の相関係数と各項目の基本統計量(平均評定値、標準偏差)を示す。斜線の部分は相関係数の値が比較的高い(0.400以上)ことを示す。さらに、図12に各項目に対する平均評定値を示す。

 この結果から、以下のことを読み取ることができる。

 

  ・評価は全て中間的である。

  ・「A.教育利用の有効性に関する項目」に含まれる項目群間の相関性は高い。

  ・特に、「項目@」〜「項目F」までの項目群間の相関性は高い。

  ・「項目A」は「A.教育利用の有効性に関する項目」に含まれる全ての項目との相関性が高い。

  ・「B.システムに対する評価」に含まれる項目群間の相関性は比較的高い。

  ・「A.教育利用の有効性に関する項目」に含まれる項目群と、「B.システムに対する評価」に含まれ

   る項目群の相関性は低い。

 

 よって、新聞データベースの教育利用の有効性は、新聞データベースを用いた授業や教材の、内容の分かりやすさ、面白さ、授業形態(生徒間、教師生徒間)のコミュニケーションの良さなどから総合的に判断している。特に、「教材の面白さ」は有効性を判断する上で極めて重要な要因となっていると考えられる。一方、システムに対する評価も、操作性だけではなく、情報の内容なども含めて総合的に判断していると考えられる。しかしながら、教育利用の有効性とシステム自体の評価との関連は低く、システムだけではなく、やはり情報の内容が重要であることを示唆していると考えられる。

 

表2 項目間の相関係数と各項目の基本統計量(生徒)

 

教育利用の有効性に関する項目

システムに対する評価

項目番号

@

A

B

C

D

E

F

G

H

I

J

K

L

M

N

O

P

Q

R

S

@

1.00

0.63

0.52

0.44

0.44

0.41

0.32

0.30

0.26

0.36

0.36

0.39

0.19

0.24

0.29

0.30

0.46

0.36

0.29

0.32

A

 

1.00

0.75

0.61

0.60

0.61

0.44

0.45

0.40

0.41

0.44

0.44

0.16

0.22

0.33

0.32

0.36

0.36

0.34

0.27

B

 

 

1.00

0.67

0.64

0.69

0.46

0.38

0.36

0.37

0.40

0.39

0.21

0.21

0.25

0.33

0.36

0.36

0.36

0.31

C

 

 

 

1.00

0.73

0.68

0.49

0.35

0.33

0.43

0.43

0.41

0.23

0.19

0.29

0.35

0.34

0.38

0.34

0.28

D

 

 

 

 

1.00

0.77

0.48

0.39

0.32

0.43

0.41

0.45

0.17

0.16

0.18

0.27

0.26

0.31

0.33

0.26

E

 

 

 

 

 

1.00

0.50

0.42

0.32

0.45

0.44

0.43

0.16

0.20

0.26

0.27

0.31

0.39

0.39

0.26

F

 

 

 

 

 

 

1.00

0.74

0.41

0.43

0.38

0.44

0.12

0.10

0.21

0.20

0.37

0.43

0.37

0.23

G

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.47

0.44

0.29

0.45

0.07

0.03

0.16

0.26

0.33

0.36

0.32

0.22

H

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.51

0.38

0.37

0.11

0.20

0.24

0.24

0.24

0.19

0.24

0.20

I

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.38

0.53

0.13

0.18

0.26

0.20

0.25

0.34

0.35

0.35

J

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.48

0.17

0.18

0.32

0.28

0.34

0.34

0.38

0.22

K

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.13

0.14

0.23

0.18

0.30

0.37

0.33

0.29

L

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.48

0.36

0.34

0.26

0.23

0.23

0.45

M

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.58

0.46

0.34

0.30

0.26

0.41

N

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.50

0.43

0.06

0.39

0.33

O

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.46

0.36

0.42

0.35

P

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.56

0.49

0.40

Q

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.63

0.43

R

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

0.38

S

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.00

平均評定値

2.80

2.80

2.88

2.84

2.98

2.93

2.55

2.40

2.77

2.77

3.12

2.65

3.08

3.14

3.00

3.04

2.85

2.69

2.95

3.02

標準偏差

1.00

1.06

1.09

1.04

1.17

1.12

1.08

1.08

1.22

1.11

1.07

1.08

0.94

0.79

0.80

0.75

0.95

0.98

0.81

0.87

 

図13 各項目に対する平均評定値(生徒)

 

(4)改善点・要望など

 【教師から(主なもの、重複あり)】

   ・新聞の種類の充実

   ・英字新聞の採用

   ・操作の簡便性の向上

   ・文字情報だけではなく、画像、グラフ、数値データも必要

   ・インタフェースがシンプル過ぎる

 

 【生徒から(主なもの、重複あり)】

   ・新聞の種類の充実

   ・操作の簡便性の向上

   ・文字情報だけではなく、多彩な情報が必要

   ・インタフェースが親しみにくい

   ・記事の内容、表現が硬く理解しにくい。

 

(5)機能についての意見(主なもの、重複あり)

   ・キーワード検索機能の拡充

   ・様々な情報へのリンクの充実

 

(6)まとめ

 インターネットによる新聞データベースシステム利用の可能性と教育的有効性の検証を、アンケートによる主観評価を中心に行った。その結果、新聞データベースシステムを利用することにより、生徒の授業への関心の高まり、積極的参加、生徒同士また教師とのコミュニケーションの活性化が期待されるとの結果を得た。これはインターネットやコンピュータの教育利用のあるべき姿を示唆するものであると考えられる。しかしながら、新聞データベースに限らず、一般のデータベースシステム、情報検索システムの教育利用システムの機能そのものよりも、システムが提供可能なコンテンツ(情報やその内容)が重要であることが示唆されている。この点を十分に考慮し、システムの発展が期待できれば、データベースの教育利用は21世紀における教育において極めて有効なものとなるであろう。

 

[前のページへ] [次のページへ]