4.4.2(事例2) H養護学校におけるインターネットを利用した授業実践

4.4.2.1 はじめに

 本校高等部での、運動機能障害(肢体不自由)と知的障害を併せもつクラス(以下、重複クラスという。)の生徒たちのインターネットを利用した授業としては、クラス単位の「養護・訓練」と「クラブ活動」がある。また、「総合学習」と呼ばれる教科・領域を統合した学習形態の授業の一部でもインターネットを利用した授業を行っている。
 一方、肢体不自由のみの単一障害児の授業には、学年枠を外した「情報処理」という科目があるが本稿では扱わない。
 「養護・訓練」の時間では、主として重複クラスの3年生のクラスから個別の内容としてひとりの生徒に授業をしている。これは本人および担任がパソコンを使った授業を希望したことから行われており、個々の生徒に応じた教育を大事にするという本校高等部の趣旨にかなうものである。同様に「クラブ活動」も、個々の子供たちの自主的な活動を伸ばす意味合いから希望によって選択されており、単一障害の生徒と重複クラスの生徒が一緒に活動を行うような形態になっている。
  また、教科・領域を併せた学習である「総合学習」は重複クラス特有の授業形態であり、私の担当する授業では2・3学年が合同で行われている。

4.4.2.2 ホームページを利用した学習

 養護学校の県では県の公式サイトに各市町村のホームページがリンクされており、それぞれの生徒の出身市町村の公式ホームページを見ることによって「自分の家や街のことを話す」という授業展開を行った。また、その発展として、帰省時に出かけた近隣市町村や遊園地・テーマパークなど、あるいは親類・兄弟等が住んでいる市町村のホームページを見て、その感想を話しあうという学習も行った。
 本校は施設併設の肢体不自由児および重症心身障害児の学校であり、小学部入学前後から生まれ故郷を離れて施設生活をしている生徒がほとんどで、週末や長期休業中には一時帰省が許されているものの、どちらかというと閉鎖された限られた空間の中での日常生活を余儀なくされているため、パソコンのディスプレィに映し出される画像には非常に興味を示しながら話をしてくれることが多かった。生徒によっては、紙に印刷されたものに強く興味を引く者もいるために、その都度プリントアウトをして、それぞれの生徒に配布して話を引き出すようにもした。
 市町村によってホームページの内容やでき具合に差があるので、生徒の話を引き出すためには他の工夫を必要とすることもあったが、この授業はおおむね好評であり生徒によってはプリントアウトされた用紙を大事に持って帰る者もいた。
 肢体不自由養護学校ということもあって、機器の操作に関しては自分自身でできない生徒が多いために、教師の介助・補助や特別な入力装置を用いているが、「離れたところが見える装置」としての認識が生徒たちの中にできており、パソコン イコール インターネットという概念で捉えている者も多い。従って、何かを知りたいときに使えるものという意識が高く、修学旅行や遠足などの校外行事の下調べ学習にも、生徒の方から「コンピュータ室に行こう。」という意見も出てきた。
 ある生徒の場合には、同級生が身体障害者スポーツ大会に出場したことから、競技内容や競技結果をインターネットで調べたいと申し出たこともあった。また、同じクラスの生徒から応援している球団の情報を探して欲しいと頼まれたり、校外学習で行く予定の動物園の情報を知りたいと担任から依頼されたりして、自分が情報検索の係であるかのような意識を持つに至っている。

4.4.2.3 電子メールを利用した授業

  ホームページを使った授業に対して電子メールには、概念的な捉え方が難しい生徒にとっては理解しにくかったようである。即時的かつ具体的な反応がないために、やりとりをしているという概念では捉えにくかったようである。電子掲示板や電子メールの利点は、空間と時間を束縛しない点にあるが、その反面、知的障害を併せもつ生徒たちにとって捉えにくい場面が見られた。障害の程度にもよるかも知れないが、具体的な操作に対してすぐに反応が返ってこないだけに、抽象的な概念を必要とするからであろうか。ホームページのように自分から進んで取り組もうとする生徒は少なかった。
 以前会ったあるスポーツ選手のホームページでは、こちらから「ファンレター」を送ると「サイン」が送られてくるようになっていた。つまり、簡単な電子メールを送ることで即座に自動的に返信され、こちらのプリンタに「サイン」が出力されるような仕組みである。このときには、こちらが画面上で具体的な作業をしたことで「サイン」がもらえると言ったことから、電子メールを送ったとことが理解しやすかったようである。しかもこれは、ディスプレィに映ったホームページ画面を印刷するというのではなく、画面上に出ているものとは異なったものがプリントアウトされるという点で、「何かをすれば違ったものが出てくる」という、ひとつ上位の概念を形成させられる点で有効であった。また、この時点で授業者が「この線を通って行き来しているんだよ」という補足をすることがポイントになったと思える。つまり、説明による具体物を介在させる
ことによる理解の促進である。
 また、ある学校の教師が生徒の写真を電子メールに添付してくれたことがあって、もともとそこになかったものが「現れた」ということから「送られてきた」ことを理解した生徒がいた。これについては、その授業でホームページを探すというような具体的操作を何もしていないのに、知らない生徒たちの写真が現れたことへの興味や不思議さに対して、授業者が補足説明(実際の操作を含む)を加えることで広がった概念である。
 このような実践を通して感じたこととして、知的な遅れを併せもつ生徒にとって電子メールを使うことの利点としては、具体的な操作に対して具体的な反応が返ってくる「常識」を少しずつ広げていくことのきっかけとなるのかも知れないということであった。

4.4.2.4 この実践のまとめ

 養護学校の児童生徒の障害の重複化・重度化が言われはじめて久しいが、本校高等部においても重複クラスでは中程度〜重度の知的障害を併せもつ生徒が多くなっている。この生徒たちにとってインターネットの果たす現在の役割は、新しい教材・教具のひとつというべきものであると考えている。それは学校教育のみならず、身体障害者療護施設や更生援護施設に措置変更されていく多くの生徒たちの、人と人をつなぐ手段であったり余暇利用のQOLの向上の手段であったりするもので、彼ら自身が社会との接触を持つことや学ぶための教材・教具の役割を担うものであると考えるからである。
 今後いうならば、わかりやすい「手だて」が提供されるならば、重複障害児のインターネット利用教育に関しても充分に可能性が見いだせると感じている。

 

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