遠隔の交流相手を意識し、それにあわせてメールを書いたり、コミュニケーションを図ることは、抽象的なイメージを持ちにくいとされる知的障害児には難しい場合がある。
・ そこで、いかにコミュニケーション相手を具体的に意識させるかが鍵となる。具体的な方策としては、以下のような工夫が考えられる。
・ 交流相手の顔写真を送ってもらい、アイコン化して相手先のアドレスとリンクさせておく。こうすることによって、顔写真のアイコンをクリックすればその相手のコメントが現れたりメールを着信するとその顔写真が点滅するなど通信先を具体的に印象づけることができる。
・ これはソフトウェア等の仕様とは関係ないが、コミュニケーション手段を電子メール に限ることなく、電話や手紙、ホームページ、ビデオレターなど多様なメディアを組み合わせて意識づけるような工夫をする必要がある。
・ 交流相手に対するメールの送信に際しては、慣れによる気安さにくわえて、親しい仲にも礼儀をわきまえた接し方も重要である。そうした学習は直接顔を合わせての 交流ではその場で意識することは難しいが、電子メール等によるコミュニケーションは随意の時間と空間でできるため、じっくりと相手のことを考えながら文章を作る余裕がある。こうした利点を生かしてじっくり考えさせる機会を多くとるべきである。
学習を進める中で、全く面識のない相手からメールをもらったりすることもあり得る。
ところが、コミュニケーションスキルが未熟な場合、どう対処してよいかわからないで返事が遅れたり、失礼な文面になってしまうことも考えられる。
・ そこで、あらゆる機会にコミュニケーション場面を想定して練習をするとともに、社会一般常識としてのことばの使い方やエチケットを学習させる必要がある。具体的には、次のような学習場面が考えられる。
・ 大勢の参加するメーリングリストや、クローズされたメンバーの交流で実践的なトレーニングをする。(チャレンジキッズの実践例を参照)
・ その際大切なのは、情報発信する障害児のことを十分理解した「優しい受け手」を必ず準備し、子供の発言に間髪を入れずに的確なRESを返し、コミュニケーションの楽しさを実感させながら強化していくことである。こうしたメールボランティアのような人材の育成も今後は大きな意味を持ってくることだろう。
・ 適切な用語の使用や、相手に対して失礼でない態度というものは、一朝一夕に身に付くものではないが、具体的な機会を経ないと身に付くものではない。国語や生活の中で学習させる場面と、こうした遠隔コミュニケーションで実践的に学ぶ部分とをうまく融合させるような総合的な教育課程を編成する必要がある。
これまでは、電子メールを中心とした相手を特定したコミュニケーションについて述べたが、その他今後の可能性として、次のようなコミュニケーションの拡大が想定される。
・ テレビ会議システムやCu-SeeMeなどの双方向画像通信システムによる交流。
メール等によるコミュニケーションを補完するものとして、顔を見ながらの交流にも 意味がある。特に聴覚障害児にとっては、手話等を用いたコミュニケーションが可能になる。
・ バーチャルシティなど仮想空間に参加するという学習も今後の発展として考えうる。
バーチャルシティなどはイマジネーションを豊かに持ち、一定のルールに沿って参する必要があるため、当初は知的障害児には難しいものと考えられる。しかし、こうした子供たちをも想定した柔軟なバーチャルコミュニティを想定すれば、かえって楽しく参加できる可能性があり、今後の研究課題といえる。