2.5 センターの役割

 教育センターに期待されているのは、教育ネットワークについて「教育的活用の責任をもつ」ことである。しかし、現状ではセンターが何でもしなければならない体制になっている。教育センターが負わされている役割を順に見ていく。

2.5.1 アクセス料金無料のプロバイダ

 今回調査した地域では、すべてが教育センターにインターネット接続設備を用意し、アクセス料金が無料の学校専用インターネットサービスプロバイダとして機能する設備を設置(もしくは設置予定)している。
 ところが、教育センターは設備に関しての補助や教育委員会予算によってシステムが構築されているため、多かれ少なかれ利用者の制限がある。利用できる学校は都道府県立や市町村立などの公立学校に限られ、私学や民族学校の接続はあまり考慮されていない。「教育ネットワーク」といいながら、センター接続の場合は、当該教育委員会の管轄範囲内に対しての利用を前提としている。
 今回の調査で1県だけが「県民のためのネットワーク」という趣旨から、私学の接続を受け入れている。
 また、ほとんどの地域では、教育センターと学校との間は公衆電話回線で接続させており、その通話料金は学校負担が前提である(2.3.1.1参照)。この場合、センターと学校との距離によって、電話料金のアンバランスが生じてくる。
 このため、全県を複数のエリアに分割し、各エリアにアクセスポイントを設けることで、電話料金のアンバランスに対処している地域がある。アクセスポイントの設置は以下の方法が採用されている。

 ・生涯教育用のネットワーク利用のために設置したアクセスポイントを活用
 ・防災無線ネットワーク基地にアクセス用電話回線を設置
 ・第3セクターのNOCを利用

 一方では、このアンバランスを解消するための予算がないため、センターへ直接接続させることをあきらめた地域もある。

2.5.2 指導者/利用者の養成

 2.4.2でも触れたが、教育センターが行っている最大の事業は教員研修である。
 現在はパソコンの利用研修と合わせておこなっている地域がほとんどであるが、今後はインターネット活用を中心とした講座が開かれていくことが予想される。
 しかし、パソコン教育を指導できる教員さえ少ない現状で、インターネットを活用するための講座の指導者を確保できるかどうかの悩みもある。この点に関して、B県では教育センターが主催するインターネット研修講座を第3セクターのソフトウェア開発会社に委託している(2.4.1.2参照)。

2.5.3 教育ネットワークの運営

 ネットワークを維持するためには専門知識を持った人材が必要である。しかし、教育センターに配置される人員は基本的に「教育の専門家」であり、ギャップが生じている。また「単にコンピュータに詳しい」職員がいても、ネットワークシステムの維持は不可能である。
 この点について組織としての対応が必要であるが、現状では特定の職員に頼っている。職員の関与の度合いによって、以下のタイプに分けられる。

  「教員や職員が対応」
  「障害切り分けをセンターがおこない、対策は業者に連絡」
  「ネットワーク基幹機器(サーバやルータ)の保守を業者に委託」
  「ネットワークそのものを業者に委託」
  「常駐SEがいる他の教育委員会施設からリモートメンテナンス」
  「第3セクタに依託」

・教育センターでは無理だろう
「私見になるかもわかりませんが、センターの職員だけでは無理でしょうね。だんだん技術も高度化するし、機械も高度化している中で、学校籍の教員、あるいは事務屋が寄ってたかってできる時代ではないだろうと思います。やっぱり専門家に任せる。どこまで任せるか、というところまでいかないといけない。全部お守りするのは無理です。センターで24時間監視などとてもできないし、しかも定時制高校がありますからね。『開かれた管理』をしなければいけないのかな、と」

2.5.4 ネットワーク資源の管理

 ドメイン名、ホスト名やIPアドレスといったネットワーク接続のための資源管理も教育センターの役割の1つである。これは2.5.1で示した通り、教育センターがプロバイダの役割を果たすための義務でもある。
 商用インターネットサービスプロバイダがホームページ開設やメールの利用者アカウントの交付をおこなっているように、教育センターもこれらのサービスをおこなっている。
 メールの利用者アカウント発行については種々の形態が見られるのは2.4.4.3で示した。
 多くの教育センターがメール利用者アカウントの発行を制限しようとしている中、できるだけ学校の希望に添うよう協力する予定の地域がある。この地域の学校は民間プロバイダに接続させるため、電子メールの利用者アカウントを必要数だけ取得すると費用がかかる。このため教育センターがメールアカウントを発行することで経費を削減し、あわせて教育センターへの求心力を持たせる考えである。
 しかし全管轄学校に1校あたり100個程度のメールの利用者アカウントを発行した場合でも、総数は数万個に上るため、センター職員だけで一元的に管理できるかどうか懸念している。

2.5.5 情報の整理

 教育センターがおこなう「情報の整理」には次のようなものがある。

  「不適切情報のフィルタリング」
  「アクセス集中に対するトラフィックの緩和(多段プロキシの設計、構築)」
  「学校が発信する情報のミラーサービス」
  「リンク集や教育活動に役立つ情報の集積(データベース化)」
  「検索サービスシステムの構築などによる情報検索の簡易化」
 これらの情報の整理はどの教育センターも着手している。
 しかし、その利用は当該センター内にとどまっているように思われる。これは集積したノウハウが一般的なものであるという自信がないためなのか、集積した情報を外部に公開するための手続きが明確でないため公開できないのかは不明である。
 今後、各地域の教育センターに集積されている情報が公開されることを強く望む。

2.6 まとめ

 以上、特徴のある教育ネットワークの運営をおこなっている地域への調査を通して得られた企画、構築、運営のパターンをまとめ、ノウハウを紹介した。
教育ネットワークを構築したあと、さらに実践を進めるうえで問題になると思われる事柄を最後に指摘しておきたい。
 行政は「平等」の原則の上に成り立っている。しかし、教育委員会が管轄する学校のすべてに等しく教育ネットワークが整備されたとしても、学校によって取り組みの差が生じるのは当然のことである。その場合、「平等」の原則が、熱意を持った学校の足を引っ張ることになりかねない。学ぶ意欲を持った子供を伸ばすことが教育の目的の1つであれば、それは学校にもあてはまるだろう。
 厳しい財政難の中では、学校が独自に取り組みのための資金を調達する道を開くことが必要であるように思える。ボランティアやPTAなど地域からの支援が今後ますます高まってくることは容易に想像できるが、教育委員会はその受け入れ門戸を広げることはもちろん、たとえば研究助成財団による研究助成金の一覧リストを学校に公開し、学校が独自に研究助成金を選んで応募できるような配慮も必要になってくる。学校が外部から支援を受けることについて、言葉を換えれば、認可制から届け出制への規制緩和である。
 ところで、今回の調査対象となった地域の多くで、教育ネットワークの整備を進める教育委員会と、その地域にある100校プロジェクト参加校との間の意思疎通がほとんどはかられていない傾向が見られた。100校プロジェクトの経験を生かすどころか、それを無視する形で教育ネットワーク整備が進められているところもある。現実に100校プロジェクト参加校がスポイルされる地域も現れている。
 その理由が何であるのかはわからないが、教育ネットワークは、けっしてインターネットというスター選手を追いかけるだけのブームであってはならない。「情報教育とは何か」ひいては「教育とは何か」を繰り返し問うことによって、21世紀を担う子供たちにふさわしい教育環境が築かれていくことを願いたい。



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