a−1.3 「地域展開」のキーワードについて
計画当初から県内のすべての小学校のデータを集約したかたちでのWeb教材の作成を考えていたため,できるだけ多くの学校の参加を期待したが,インターネットに接続可能な学校が限られている現状においては参加校は限られてしまうことが容易に予想された。しかし,学校教育現場におけるインターネットの普及は今後急速に進展していくであろうことを考えたとき,現在接続している学校だけではなく,これから接続されてくることになる学校をも巻き込んだ展開が重要であると考えた。そこで,「地域展開」のキーワードのもと,県内218の小学校すべてに参加を呼びかけ,全県的な活動としての位置づけのもと企画を実施していくこととした。
a−1.4 作成経過・作業体制
前述したような考えのもと,実際に「山梨子ども風土記」の作成にあたることとなった。以下,作成経過を記す。
作成期間:平成9年6月〜平成10年1月
・6月〜9月 「山梨子ども風土記」案の検討(メーリングリストにて)
・9月6日(土)山梨県ネットワーク教育研究会において,「山梨子ども風土記」のプランを報告。
・9月6日〜10月3日 クリッカブルマップを採用したWeb教材の枠組み作成
・各校のページに掲載するデータの検討(メーリングリストにて)
・10月3日(土)山梨県ネットワーク教育研究会において,「山梨子ども風土記」の枠組み(クリッカブルマップを採用した構成)を発表
・10月7日(火)山梨県総合教育センターより県内の小学校218校にアンケートの依頼をFAXで送信
・10月24日(金)アンケート提出しめ切り(90%以上を回収)
・11月6日〜12月9日 各校からの回答・写真をもとに,html文書の作成と画像データの取り込みを行う
・12月11日〜1月30日 データ未提出校への協力要請とデータの追加・訂正作業
作成経過の大枠は以上のようなものである。
山梨県内の学校,ことに小学校においてはネットワーク未接続の学校が大部分であり,加えて,学校の紹介を写真でも行うことを考えていたため,データの収集はFAXや郵便に頼ることとなった。作成にあたっては,前述のように全県的な展開を意図していたため,可能な限りアンケートの回収率を高めることが必要であった。そこで山梨県総合教育センターからアンケートの協力について要請していただき,回収されたデータをWeb教材化する作業については山梨大学教育学部附属小学校が担当することとした。この体制により,県内の約97%の小学校のデータを収録することができ,内容の充実した教材の作成が可能となった。この参加校数は「地域展開」というキーワードを十分に実現できているのではないかと考えている。(データ提出校の割合は1月30日現在のもの)
a−2 Web教材「山梨子ども風土記」の特徴
a−2.1 クリッカブルマップの採用
「山梨子ども風土記」では,山梨県内の子どもたちどうしが互いの生活について理解を深めたり,学習活動に生かしたりすることや,県外の小学生に山梨県の子どもたちの様子を紹介することをねらいとしている。そのため,ウェッブページ上で子どもたちが直感的に操作できるような工夫が必要であると考えた。
今回の試みにおいては,作成する際に使用したWWWブラウザでサポートされるようになっていた「ユーザサイド・クリッカブルマップ」(1枚のイメージの中に複数の領域を選択し,そこにリンクをはったもの)を採用することとした。これにより,ウェッブページ上の地図の中の好みの部分をクリックすると,目的のページが開くような構成にすることが可能になり,低・中学年の子どもたちでも扱いやすいものとすることができた。
「山梨子ども風土記」は,全県の図のページ→県内8つの地区のページ→ 64市町村のページ→各学校のページという階層構造をもっている。いずれのページからもトップページに戻ったり直前のページに戻ったりすることができるような構造にした。さらに,WWWブラウザのバージョンによっては「クリッカブルマップ」が利用できないことも考えられたため,各地区・各市町村・各学校の名前をホットテキストとして用意した。また,県内の地区・市町村の位置などの理解に役立てるために地図上のポイントと場所の名前とを番号によって関係づけた。
全県の地図 → 各地区の地図 → 各市町村の地図
→ 各学校のページ
a−2.2 掲載データについて
各学校のページには,以下のような質問項目に対する回答と,各学校の写真が添えてある。
◎文字データ
1−学校の正式名称と創立時期及び創立からの経過年数
2−学校のある場所の高さ(海抜で表示)・桜が見頃になる時期・初雪が降る時期
3−平成9年度の夏休み・冬休みの予定
4−子どもたちが楽しみにしている学校行事
5−学校の自慢
6−子どもたちに人気のある遊び
7−学校近くにある人々がたくさん訪れる場所(観光地)
8−学校の近くで毎年行われるお祭り
9−学校のある地区で多く作られている作物
※ 学校の住所・電話番号および,ウェッブページを開設している学校には,そのウェッブページへのリンクボタンを設定してある。
◎画像データ
各小学校から送られた写真をスキャナで取り込み,ダイアルアップによる利用を考慮し,JPEG画像にて表示した。
アンケートについては,対象校の数や時間的制約から調査は一度だけとなった。そこで,設問内容については9月半ばにメーリングリスト上で原案を示し意見をいただくなかで,掲載するデータに見合ったものとした。このようにして,学校そのものに関わるデータ・子どもたちの学校生活やふだんの生活に関わるデータ・学校のある地区に関わるデータの3種類のデータを収集することとした。これらの設問内容では,他校の子どもたちの生活を知るための材料になることや,社会科学習で県内の作物や自然について学習する際に役立てられるようにすることもねらいとしている。
a−2.3 利用者のために配慮した点として
「山梨子ども風土記」利用者への便宜を図るために,子ども向け・教師(大人)向けに利用の仕方や作成の経緯を知らせるためのページをトップページにリンクさせた。
子ども向けには,各学校のページに掲載してある文字データの内容(前述のもの)・クリッカブルマップの使用法・「山梨子ども風土記」活用例などを記載した。また,教師(大人)向けには,各学校のページに掲載してある文字データの内容(前述のもの)・作成の経緯を記載した。これに加え,県内の小学校218校の校名をテキストデータとして収録したページをも用意した。指導者は,これをワープロソフトやデータベースソフト,表計算ソフトなどに取り込むことにより,子どもたちが「山梨子ども風土記」を利用する際に持たせる学習シートの作成に役立ることが可能となっている。
「山梨子ども風土記」は山梨県総合教育センターのWebサイトに置かれネットワーク上で利用することが可能となっている。また,利用上の便宜を考え,山梨県総合教育センターではCD−ROMに全データを収録して希望校に配付した(平成10年2月)。CD−ROMに収録されたデータを使用すれば,ネットワークに接続していないスタンドアロンのコンピュータにおいてもWWWブラウザを使用して「山梨子ども風土記」を利用することが可能となる。この使用法は,ネットワークでの利用と比べて検索にかかる時間が格段に速くなるというメリットもある。
a−3.1 「山梨子ども風土記」の利用実践例
「山梨子ども風土記」がほぼ完成した平成9年12月に,中学年である3年生の子どもたちを対象に授業を実施した。以下,その折の指導の概要と児童の反応について述べる。
@ 対象児童:山梨大学教育学部附属小学校第3学年2組
A 指導者:石川等
B 活動名:「ホームページで調べてみよう」
C 活動について
本校では,平成8年度より「パソコンタイム」を教育課程の中に位置づけ,機器の操作方法と,お絵かきソフトやWWWブラウザなどのソフトの使用方法などを習得してきている。今回対象とした3年生の子どもたちも,この時期までに,データの保存・呼び出し・文字入力(五十音・ローマ字対照表使用によるローマ字入力)といったことができるようになってきている。
今回扱った「ホームページで調べてみよう」では,インターネット上のウェッブページの情報源としての機能に着目させ,その利用の可能性について感得させることをねらいとした。子どもたちは,これまでもインターネット上で公開されている様々なウェッブページを見ることは体験してきており,すでにウェッブページの情報源としての機能は十分に認識されてはいるものの,調べ学習での利用といった意識付けはまだ弱い状態であった。これに加え,本校で研究・実践している総合学習においては,ネットワークの利用も情報収集の手段として選択可能となっているため,低・中学年のうちからウェッブページに対する「調べ学習のための情報源」という認識を育てていくことは意味のあることであるとも考えた。このような理由から「調べ学習」の第一歩として「山梨子ども風土記」の利用を試みた。
指導上留意したこととしては,子どもたちそれぞれの「調べたいこと」を尊重し,使用させる学習シートも,それに見合ったものを作成して調べ学習を支援するということがあった。また,ウェッブページ上のデータを学習シートに転記することだけで満足させず,集めたデータから自分なりに導き出した考えや感想をまとめさせることにも力点をおいて指導にあたることとした。
D 指導目標
◎機器・ソフト・ウェッブページ利用の点において
・WWWブラウザの操作法について知らせ,データ検索に生かせるようにさせる。
(ブックマークの利用,クリッカブルマップ・ホットテキストの使い方)
・データの階層構造を理解させた上で,利用を図らせる。(全県→郡市別→市町村別→各学校)
◎データ利用の点において
・調べ学習におけるインターネット上のウェッブページ利用の可能性について知らせる。
・掲載されているデータから,自分なりの考えを紡ぎ出すことの必要性を知らせる。
E 指導経過 (総時数4時間)
第1次第1時 「山梨子ども風土記」に慣れさせる時間を確保した。
第2次第1時 「山梨子ども風土記」でどんなことを調べるかを決めさせた。
第2時 調べたことと,自分の学校のこととを比較して考えたことをまとめさせた。
第3次 わかったこと・考えたことを簡単にまとめ,Eメールで担任に報告させた。
F 評価
・クリッカブルマップによる操作について
子どもたちは,第1時間目において,詳しい説明を必要とせずに短時間でクリッカブルマップの扱いに慣れることができた。ただ,地図上の位置が分からずに,地区・市町村・学校名が頼りになることも多く,用意していたホットテキストも役に立っていた。
・データの階層構造の理解について
初めの段階で自由に使わせた(試行錯誤の体験)後で,階層構造について説明したところ混乱もなく理解できたようであった。
・集めたデータから自分の考えを紡ぎ出すことについて
子どもたちは,ウェッブページから収集したデータと自分たちの生活とをくらべながら,簡単ではあるが自分なりの感想・考えをもつことができていた。勿論,それは調べ学習の初歩として認められるレベルであり,本格的な学習活動を考えた場合,その考えを深めるような話し合い活動も必要となってこよう。
G データ利用について
自分が調べたいことを,項目で選択させたことにより調べ活動を効率的に行うことができていた。また,学習シートも必要な事項だけ記入すればよい形(校名は記載済み・調べる項目により数字だけを書けばよいような状態)にしてデータ収集に当たらせたことも効率化に一役果たした。さらに,調べたいことを全県にわたって調べさせることによる時間のロスを考え,8つの地区のうちから選択させて調べ活動をおこなわせた。(学校ごとでは見えない差異も地区ごとになると見えてくる場合がある。例えば,桜の開花時期・初雪の降る時期・特産物など)
H 活動のまとめとして
子どもたちの活動を見つめながら,3年生の段階でも十分に利用可能な状態に仕上がっていることが確認できた。彼らは,読めない漢字や聞いたことのない言葉などに戸惑いを覚えながら,「『Sけん』ってどんな遊びかな。聞いてみたいね。」などといったつぶやきをしながらデータにあたっていた。このようなちょっとした疑問が,他校の子どもたちへの興味が起こってくるのではないかと考えられる。相手の学校がウェッブページを公開していればそこへ質問メールを送って答えてもらうようなことを通して交流活動を始めることもできよう。
a−4.1 「山梨子ども風土記」作成に関わる成果と今後の課題
子どもたちの手により収集されたデータをもとにWeb教材を作成することをねらった実践であったが,結果的には,子どもたちの声の他,学校の沿革や地域の様子に関わることなど,先生方に協力していただく形になった。その結果,上記のようなデータを集約することができ,内容の充実が図られたことに成果を見いだしたい。まさに「地域展開」企画ならではといったところであろう。また,子どもたちが実際に活用することを考えてクリッカブルマップの採用を図ったが,これについても子どもたちに無理なく扱うことができたという点で効果があったことが感得できた。さらに,利用を進めていくことにより,山梨県内の地区・市町村の位置関係などといったことに気付くこともできるのではないかと考えている。
今後の課題としては,データ編集作業上生じた入力ミスなどの訂正・データ未提出校への提出要請などといったデータ整備と,実際の活用に役立つための更なる仕様変更などが考えられる。2003年にインターネットの完全接続が実現し,データの投稿がEメールやWebにおいても行えるようになると,今回のような作業も短時間の内に完了することが可能となる。ネットワークを利用した教育活動のためには,大勢の人間が関わって教材の作成にあたることが必要になってくるであろうし,それこそがネットワークでつながる意義であると考える。そういう活動のための先行事例として本実践がとらえられれば幸甚である。