1.5 授業を実施して

 研究グループで共同学習指導案を作成し、これに基づいて共同学習を実施した。実際に共同学習を実施した林間小学校の教師が、共同学習の内容検討、準備、実施および共同学習を終えてについてまとめた。

(1) 高速回線を用いた共同学習指導案

図1.5-1に共同学習指導案を示す。

高速回線を用いた共同学習指導案

1)日時
 1998年1月28日(水) 9:30〜11:00
 (予備日:2月12日(木) 9:30〜11:00)

2)参加校及ぴ参加児童
 東京都港区立神応小学校4・5・6年
 神奈川県大和市立林間小学校6年1組

3)学習会場
 神応小学校情報処理振興事業協会(秀和第二芝公園三丁目ビル2階会議室)
 林間小学校情報基盤センター(3Fコンファレンススペース)

4)共同学習の目的
○技術的側面
・先に文部省は、全国の公立中学校・高校を2001年までに、また全国の公立の小学校を2003年までに、インターネットで接続する予定を公表した。

・今後ネットワーク関連技術は高度化し、回線は高速化されていく事が予想されるが、それらか教育利用面においていかに利用実践できるかを検証し、今後のインターネット教育利用の在り方を調査研究するために共同学習実験を行なう。

・本授業では、将来予想される高速回線を用いた動画や音声等を活用したリアルタイムの共同学習実験を行い、高速回線を用いた教育利用の効果と課題を明らかにしたい。

○教育的側面
・両校の児童はそれぞれの観点から調べ学習を行ない、調べ学習からわかった事を、実物やビデオやWebやNetMeetingを用い発表しあう。

・発表する側に於ては、限られた時間内において自分たちが調べた事を、いかに相手に伝えるかを考える事が必要になってくる。聞く側に於では、自分たちのすむ地域と比べながら聞くことにより、相手の地域を知ることに加え自分の住む地域を見つめる新たな視点を見い出すきっかけとすることができる。

・上記のような活動を通して、児童の「ものごとに対する考え方・見方」が育っていくことを望んで、学習に取り組ませたい。

5)共同学習題材名「わか町紹介」

○指導計画
・第1次(事前交流)
学習用Webぺージを学校に立ちあげ、電子メールを使い両校で自己紹介・質問の交換等を行う。

・第2次(2時間一本時)
高速回線を用いた合同授業で、第1次で出てきた質問を受け両校はそれぞれ自分の住む地域の紹介を行ない、他地域を知ることから自分の住む地域を見直すきっかけとする。

・第3次(事後交流)
学習のまとめとして、合同授業に参加して得たことは何だったのか感想文を書き電子メールを使い交換する。

図1.5-1共同学習指導案(1/2)



○本時のねらい
・お互いの学校の様子について発表しあい、自分の学校にはない良さを認め合い、これからの学校づくりに生かしていく。
・それぞれの地域の特色を発表し、お互いの地域性に根ざした生活を理解し合う。

○展開
学習活動 教師の働きかけ 備考
・学習の進め方を聞く ・授業の参加の仕方について知らせる ・NetMeeting利用(教師)
・ホームページの発表資料とNetMeetingを使い発表を行なう。
・発表を聞きながら感想や質問を用紙に記入する。
・発表は、林間小学校から先に行う
・発表者には相手にきちんと発表が伝わるように、ゆっくりとはっきりした声で発表するように指導する。
・発表を聞き感想や質問を書く際には、自分の番号を記入する他、用紙を間違えないように指導する。
・Web及ぴNetMeeting利用(児童)
・質問と感想を区別しやすくするため、用紙の色を変える。
・児童が書いた感想や質問は、ビデオを利用してコンピュータに取り込み相手側へ送信する。(オペレータ)

・林間小学校側で、神応小学校が発表していた間に林間小学校に送られてきた質問や感想をわける作業を行い、神応小学校は作業の様子を見る。
・林間小学校からの質問や感想が神応小学校に戸届きしだい、神応小学校も作業にかかる。

・林間小学校側では、送られてきた質問を、どのような観点からわけていくのがよいか考えさせる。
・神応小学校側は、林間小学校側の整理の様子を見て整理の仕方を知り同様な方法で整理することを知らせる。
・Web及びNetMeeting利用(児童)
・質問用紙のコンピュータ画面上での操作(オペレータ)
・相手校からの質問に答える。

・児童の直接交流の場であるので、インターネットを用いた学習のよさを味わわせたい。

・NetMeetingを用い、質問者と回答者を同一画面に写す(オペレータ)
・共同学習の目的を聞く ・共同学習を通して児童に学んでほしかったことを伝える。 ・NetMeeting利用(教師)

図1.5-1共同学習指導案(2/2)


(2)共同学習を実施して(報告者:林間小学校浅野智子、藤倉秀明)

<参加まで>
 97年秋、CECより高速回線を用いた共同学習実験の参加依頼が届いた。

 実験の目的は、今後ネットワーク関連技術は高度化し回線は高速化されていく事が予想されるが、それらが教育利用面においていかに利用実践できるかを検証し、今後のインターネット教育利用の在り方を調査研究するために共同学習を行なうという事であった。校内研究推進委員会で参加依頼を受けるかどうかの話し合いを重ねた結果、高速回線を用いた共同学習は教育的に効果が上がると判断し学校として参加させて頂くことになった。

 林間小学校は100校計画にはBグループでの参加いうこともあったのだろうか、子どもたちが期待を持って「気象画像」を見ようとしているのに画像をすべて読み込むことができず弁明にこれつとめた事を思い出すし、午後になると接続のスピードはさらにおそくなり、授業に使う時は前もってデータを保存するなどして学習にそなえ、オンラインでは安心して使えないという感覚を持つようになっていた。しかし97年秋には回線を64Kにしていただいたので、午後複数のクライアントをつないでも安心して使えるようになってきたが、Cu-SeeMeを使った学習では音が切れるなど、インターネットでできるすぺての機能を生かした学習は難しいなと感じることもある毎日であったので、高速回線を用いた共同学習に多いなる期待をもって参加することになった。

<高速回線(インターネット)を用いてどんな学習を組むか>
 学習におけるインターネットの利用は様々な形態が考えられるが、他の既存の媒体と比較して明らかに有効な使い方は、画像や音声を用いてリアルタイムの交流をできるということにある。「地域を隔てた者どうしの共同学習」こそ、インターネットの特質を理解した上での有効な使いかたであると言える。

 さて授業実施に向けては、共同実験参加校(東京都港区立神応小学校神奈川県大和市立林間小学校)・CEC・IPAの各担当者で研究グループが組織され、授業内容についても話あいをもった。その話し合いの中で高速回線をいかし、現在の時点で可能な最高の技術を用いながら、児童が参加してよかったと心から満足できる授業は何かという事で「我が町紹介」をとりあげることになった。

 「我が町」は、ふだんは意識することもなく何気なく見過ごしている場所である。
しかし「我が町」は児童が生まれ育っている場所であり、生存の根幹を占めている場所であるとも言えよう。「我が町」を相手に紹介するために、児童はいつもとは違った新たな視点で「我が町」を見つめ直すことになる。さらに相手を意識して紹介するためには、相手にわかりやすい発表の仕方を工夫するであろう。そして相手の発表を聞くことにより、相手の「我が町」を知ることに加え、他校の児童の発表の仕方や考え方も知ることができる。学習を通して他者を鏡として自己を見つめ直すことができるということも期待できる大きな成果であるといえよう。

<共同学習の前日まで>
 どんな心構えで学習に参加していこうかという話し合いから、学習はスタートした。
その結果児童は、

○ハイテクのメディアを体験する。
○お互い学校の良い所を見つけ自分たちの学校生活に生かす。
○話し合うことによって、さらに新たな発見をする。

といった目的を持ち学習に参加することになった。そして具体的には

○学校紹介
・林間小の今、昔・学校施設・行事・クラスの様子
○地域紹介
.位置、交通、有名な場所、人口密度・自然・公共施設・地域が抱える環境問題

 をとりあげグループ毎に調べ学習をはじめた。必要な時は現地に取材に出向きインタビューを行ない写真に記録した。集まったデータをWeb化するために、割り付け作業を行ない発表原稿も書いた。

<共同学習の当日>
 高速回線を用いた学習であるが、林間小学校にも神応小学校にも高速回線は設置されていない。そこで林間小学校は慶応大学湘南藤沢キャンパス内にあるIPAの情報基盤センターに、神応小学校はIPAの本部に出向いての学習となった。

 発表は児童が調べた事をWeb化した画面を使い行なった。モニターの表示は最大の解像度を用い、画面の半分には児童が作成したWeb画面を提示し、半分には発表者と発表を見ている児童のようすが写し出されていた。大型プロジェクターを利用して参加者は同じ画面を見ていたので対面式の学習と非常に似た環境で学習はすすんでいった。発表を聞いての感想や質問は、児童が手書きしたものをビデオカメラに取り込んで画像として相手方に学習中に届けられた。そしてその場で回答できるいくつかの質問については回答していった。

 あっという間の90分の共同学習であった。途中音がよく聞こえなくなるなどのアクシデントもあったが、どの児童も真剣に学習に参加できたと思う。共同学習が終わってから会場を去るまでの児童の顔は、喜びと誇りにあふれていたように見えた。

<共同学習を終えて>
 高速回線を用いた共同学習の話が持ち上がってから実際の学習までの期間は、冬休みをはさんでいたこともあり大変短いものであった。そのため学習を終えて考えれば、授業構成を含め様々な場面でもっとこうしたらより効果があがったのではないかと思う所もあるが、1.5メガという回線を学習に利用する事が可能ならば学習を効果的に行なう為の大容量の画像や音声データをファイルサイズを意識せず自由に用いることができると実感できた。

 学校におけるインターネットの活用も、黎明期を過ぎ普及の時代に入ってきている。
文部省も全国の学校にインターネットを整備する具体的計画を提案したが、配備された後は全国規模で多くの共同学習も行なわれるようになると思う。そうなった時に第一に考えていかなけれないけないのは「何」について共同学習することが、児童・生徒にとって教育的に効果があがるであろうかという事であるが、今回の実験に参加して回線の問題も授業を考えるについて大きな要因になっているのだと思った。

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