(1) 企画の目的
インターネット上には教材となる多様な情報があり、これらをできるだけ自由に検索し閲覧することが望ましいが,児童・生徒が閲覧するには、不都合な情報も含まれている。この問題に対処するためには、受信側で教師の判断により選択的に閲覧することが必要である。このため、ホワイトリスト方式やブラックリスト方式が用いられているが、現在国際的に採用が検討されており、校種や学年に対応したきめの細かい選択が可能となるレイティングシステムを、教育の現場において実験を行う。この実験により、レイティングシステムの活用方法について調査する。
(2) 企画の概要
教育現場でのインターネットの導入等の妨げとされる有害情報の問題に対して、インターネット上の有害情報をフィルタリングし、Webの利用をより安全なものとするレイティングシステムについて、その有効性を検証することを目的とし、実験を行うこととした。
具体的には、レイティングのためのソフトウェアを教育現場に提供し、その使用を通して、レイティングソフトウェア利用の課題を抽出し、教育的有効性の評価を行い、レイティングシステムの活用方法について考察することとした。
(3) 実験システムの概要
実験するレイティングシステムは、インターネットにおける情報発信を制限することなく、受信者が設定するレベルに合わせて選択的に情報を受信(フィルタリング)するために、PICS仕様に基づいて、財団法人ニューメディア開発協会(以下、NMDAという)が開発したSaftyOnlineを核としたものである。
NMDAでは、Webべ一ジの内容を評価したラベルデータベースを運用する。実験への参加組織はインターネット経由でラベルデータベースにアクセスできる。また、ラベルデータベースにアクセスするためのフィルタリングソフト(IFS)を提供する。IFSは、任意のWebをアクセスする際にラベル情報と照合し、不適切な情報へのアクセスを規制する機能を有する。なお、IFSはWindows95またはMacOSで動作する。
(4) レイティングシステムの解説
実験システムの概要で述べたレイティングシステムは、国際的に広く使われているRSACiの基準をべ一スに、日本のパッケージメディアの業界自主基準などを参考にして作られたPICS準拠のフィルタリング機能を有している。このシステムにより、情報発信を制限することなく、「見たくない(見せたくない)」情報をフィルタリングすることができる。また、ディレクトリ単位及ぴべ一ジ(URL)毎のフィルタリングが可能である。図2.1-1にレイティングシステムの概念を示し、以下に用語の解説を行う。
図2.1-1レイティングシステムの概念
[用語解説]
○レイティングシステム
狭義には情報内容の評価基準のことを指すが、ここでは評価情報(レイティングラベル)に基づいてインターネットから受信する情報の選別(フィルタリング)を行う技術環境全般のことを指す。
○フィルタリングソフト
フィルタリング機能を装備するためのパソコン側のソフトである。IFS,インターネットエクスプローラなどのことを指す。
○レイティング基準
インターネット上の情報内容を評価するための基準で、実験システムでは、ヌード、セックス、暴力、言葉、その他の5つの分野(カテゴリ)ごとに0-4の5段階の区分
(レベル)を設けて評価している。
○ラベル
インターネット上の情報内容に対する評価をPICS規格に準拠した方式で記号化したものである。フィルタリングソフトは、ラベルを参照して閲覧可否の判断を行う。
○ラベルデータベース
インターネット上の情報内容の評価を記したラベル情報をオンラインで提供するサービスで、ラベルビュー口とも呼ばれる。フィルタリングソフトは自動的にラベルデータベースに問い合わせを行って、個別の情報の評価ラベルを取り寄せてフィルタリングに使う。ラペル情報データベースともいう。
○ホワイトリスト
利用者が独自に作成する閲覧推奨サイトのリストである。
○ブラックリスト
利用者が独自に作成する閲覧禁止サイトのリストである。
○セルフレイティング
情報提供者自身がPICS規格に準拠して評価ラベル情報を提供している場合のことを指す。評価の正確性は情報提供者自身の判断に委ねられる。
○サードパーティレイティング
SaftyOnlineのように、情報提供者以外の第3者機関が評価ラペル情報を提供する場合のことを指す。評価の正確性は、評価機関の基準と運用方法に委ねられる。
・Windows95またはMacOSの動作環境を有していること。
・募集期間:平成9年7月3日〜9月30日
(2)参加校の一覧
応募した教育関連機関から、高度化技術ワーキンググループ及び事務局で審査の上、以下の学校(13校)および教育センター(2センター)を参加校とした。
1) 小学校
大津市立平野小学校、広島市立鈴張小学校、揖保川町立神部小学校、揖保川町立半田小学校
2) 中学校
金沢大学教育学部附属中学校、前橋市立第四中学校、慶應義塾普通部、牛久市立牛久南中学校
3) 中高等学校
多摩大学目黒中学高等学校、東北学院中高等学校
4) 高等学校
愛媛県立新居浜工業高等学校、岡山県立岡山芳泉高等学校、東金女子高等学校
5) 教育センター
兵庫県立教育研修所、山梨県総合教育センター
(3) 評価協力者
1) 募集について
参加校以外に、インターネット接続環境を有する学校等にレイティングシステムの評価を行う協力者を以下の条件で募集した。
・IFSを使用して、専用メーリシグリストでの意見収集、クレーム収集、アンケート等に協力すること。
・募集期間:平成9年11月5日〜平成10年1月31日
2) 評価協力者一覧(申込み順)
潮崎克幸(静岡県総合教育センター)
小川亮(上越教育大学学校教育研究センター)
吉沢信之(木更津市立清川中学校)
山田信雄(岐阜県各務原市立那珂第三小学校)
岩田正雄(岐阜県博物館)
芳賀高洋(千葉大学教育学部附属中学校)
杉崎忠久(奈良県立大淀高等学校)
力尚宏(長野市立北部中学校)
この実験は、具体的には参加校及ぴ参加協力者がフィルタリングソフト(IFS)を導入し、インターネット経由でNMDAが運用するラベルデータベースにアクセスしながら、レイティングシステムを使用評価するものである。このため、CECでは研究グループを設置し、参加校の実験を支援すると同時に、評価シートによる評価およびアンケートによって実験結果をまとめた。
(1)実施体制
CECでは、高度化技術ワーキンググループ(以下、技術WGという)を設置し、この実験の実施について検討した。技術WGの下に「教育用レイティングシステムの運用実験研究グループ」(以下、研究グループという)を設置し、実験実施上の課題検討や実施結果の評価のための体制を検討し、図2.1-2の体制とした。
事務局(CEC):研究グルーブの運用、参加校への支援、報告書のとりまとめ | |
NMDA:ラベルデータベース、IFSの提供、クレーム処理 | |
技術WG:企画の検討、参加校、研究グループ委員の検討 | |
研究グループ:具体的実験の指示、評価の分析、アンケート結果の分析、調査研究 | |
参加校:実験の実施 |
図2.1-2企画実施の体制
(2) 高度化技術ワーキンググループ
1) 技術WG委員構成
主査 苗村憲司(慶応義塾大学環境情報学部教授)
委員 国分明男(財団法人ニューメディア開発協会理事)
委員 高橋邦夫(東金女子高等学校総務部長)
2) 技術WGの活動
・第1回技術WG会議(平成9年5月30日)
重点企画のアイデア提案のうち東金女子高等学校から提案された「レイティングレベル付WWW検索エンジン」、「K-12認証サーバ運用実験」を重点企画候補として検討した。
・第2回技術WG会議(平成9年6月12日)
上記の2件を「教育用レイティングシステムの運用実験」の企画としてまとめた。
・第3回技術WG会議(平成9年7月3日)
企画の概要および参加校の募集要項をまとめた。
・第4回技術WG会議(平成9年7月30日)
企画の進め方および評価項目についてまとめた。
・第5回WG(平成9年9月2日)
実施計画についてまとめた。
(3) 研究グループ
1) 研究グループ委員名簿
主査 | 苗村憲司(慶応義塾大学環境情報学部教授) |
委員 | 国分明男(財団法人ニューメディア開発協会理事) |
委員 | 高橋邦夫(東金女子高等学校総務部長) |
委員 | 石原一彦(大津市立平野小学校教諭) |
委員 | 伊藤忠司(揖保川町立半田小学校教諭) |
委員 | 岡本育夫(揖保川町立神部小学校教諭) |
委員 | 玉井基宏(広島市立鈴張小学校教諭) |
委員 | 荒川昭(慶應義塾普通部教諭) |
委員 | 池田芳一(牛久市立牛久南中学校教諭) |
委員 | 折田一人(前橋市立第四中学校教諭) |
委員 | 浜坂昌明(金沢大学教育学部附属中学校教諭) |
委員 | 荒尾吉宣(多摩大学目黒中学高等学校教諭) |
委員 | 井口巌(東北学院中高等学校教諭) |
委員 | 宇佐美東男(愛媛県立新居浜工業高等学校教諭) |
委員 | 小網晴夫(岡山県立岡山芳泉高等学校教諭) |
委員 | 上谷良一(兵庫県立教育研修所) |
委員 | 清水紀久雄(山梨県総合教育センター) |
2) 研究グループの活動
研究グループの活動のスケジュールを表2.2-1に示し、以下に説明する。
表2.2-1研究グループの活動スケジュール
[1] 研究グループ会議
・第1回(平成9年9月25日)
今後の実験の進め方についての討議及ぴレイティングシステムのデモを行った。
・第2回(平成9年10月30日)
レイティング基準、評価協力者募集要項について討議した。
・第3回(平成9年12月11日)
実験の進捗、評価の方法及ぴ事例について討議した。
・第4回(平成10年1月26日)
評価シート及ぴアンケートの項目について討議した。
・第5回(平成10年3月5日)
評価シート及ぴアンケートの結果を分析し、報告書の内容について討議した。
[2] 実験の支援
参加校に対するIFSの提供を、Windows95版を10月から、MacOS版を12月から開始した。これに伴い次節で述べるメーリシグリストを9月に開設し、実験の参加校に対して情報提供を行うとともに、NMDAからは提供しているIFSに関する技術支援を行った。
[3] 評価シートの作成及ぴ評価
研究グループでレイティングシステムに対する評価シートを作成し、参加校は評価シートに基づき評価を行った。研究グループで評価シートの回収結果を分析した。
[4] アンケートの作成及ぴ実施
参加校の教師、評価協力者にアンケートを行い、研究グループで分析した。
[5] レイティングシステムの調査研究
IFS以外のフィルタリングソフトやレイティングシステムの事例等を研究グループ会議等で検討した。
[6] 報告書作成
評価シートの回収、アンケートの実施を踏まえて、研究グループで報告書を作成した。
(1) メーリシグリストの開設
以下のメーリシグリストを開設・運用し、実験に関する情報提供・情報交換および技術支援を行った。
・rating97@cec.or.jp
参加校の教師、研究グループ委員、NMDA、事務局担当者の意見交換および連絡のためのメーリシグリスト。
・rating@cec.or.jp
上記のメンバーに評価協力者を加えたメーリシグリスト。
(2) 情報提供・情報交換
レイティングシステムに関する情報提供及ぴ情報交換をメーリシグリストにより行った。また、研究グループ会議での調査研究の結果の情報をメーリシグリストにより、参加校に提供した。さらに、このメーリシグリストを運用し、システムの改善や利用の在り方などについても討議した。
(3) 技術支援
IFS提供による参加校からの問い合わせ、クレームや、NMDAからの問い合わせに対する回答、レベルアップの情報提供等について、NMDAと協力し、メーリシグリストを活用して対応した。また、CECのホームページからNMDAのホームページにリンクして、レイティング/フィルタリングに関する技術情報を得やすくするようにした。