2.5 レイティングソフトウェア利用の課題

(1) 小学校
1) レイティングソフトウェアの汎用性の確保
 レイティングソフトウェアを学校に導入するには、学校に設置しているコンピュータの多くに適応していることが必要である。学校には様々なメーカーによる異なったOSや同じOSでもバージョンの違いがある。また、コンピュータの性能もまちまちである。
レイティングソフトウェアはこのようなコンピュータの環境の違いに対して柔軟に対応できるのものでなければならない。したがって、古いバージョンのOSや、旧タイプの性能の低いコンピュータでも実用に耐えて満足に稼働することが求められる。
また、学校には専任の管理者を置くことが現実には不可能であるので、運用面でも容易さが求められる。インストールに高度な技術が求められたり、システムの運用が煩雑であってはならない。一般的なパソコンユーザーでも十分運用可能な扱い易さが求められる。同時に、学校には多くの端末が設置してあるので、各端末1台1台にインストールし、調整するのは大変手間のかかる作業になる。後述する、学習場面に応じた柔軟性を確保する意味でも、端末型のレイティングではなく、プロキシー型のレイティングソフトウェアが求められる。
 システムの価格も大切な要素である。IFSのような無償配布が可能であれば、それが一番望ましい形である。ラベル情報の更新など、全体の運用にかかる資金は必要となるので、公的な組織が、またはそれに準じた第三者機関が公共サービスの一環としてシステム全体の維持・運用を行ってもらえればそれに越したことはない。

2) 学習場面に応じた柔軟性や適応性の確保
 レイティングソフトウェアを学校で活用する場合、学校での学習場面に応じた柔軟な使い方が求められることになる。たとえば、性教育の指導の際に性表現に関する言葉で表示したいべージがフロックされたり、道徳の指導で、いじめや暴力的な表現の言葉を扱う教材が不用意にブロックされたりして学習指導に支障が出ては困るのである。このような学習指導の際には、一括して設定を変更できるような工夫が何よりも大切である。そのためには、学校用としてはサーバー型のレイティングソフトウェアを用いて、レイティングの適応範囲を柔軟に、しかも一元的に管理する方法が最も適切なシステムであると考えられる。

3) ラベル情報データベースの客観性の確保
 レイティングソフトウェアとは、本来、悪質な情報を技術的な方法で遮断し、安心して児童生徒がインターネットを利用できるようにするためのシステムである。このような技術的方策を用いることで学校にインターネットの普及を促進し、ひいては学校教育がより豊かなものになることをめざしている。言い換えれば、レイティングソフトウェアは、学校現場の中にインターネットの持つ自由な情報のハンドリングを実践指導する場を保証することで、表現の自由を守るための一技術であると考えてよい。
 しかし現状では、レイティングソフトウェアを都合のいい情報だけしか児童生徒に与えない「検閲」のようなものと誤解している人もいないわけではない。そこで、このレイティングソフトウェアで用いられるラペル情報データベースが客観的で教育的な意義を持っていることを主張してゆくことも大切である。そのためには、まずこのラベル情報をさらに充実させ、新しい有害サイトなどにも迅速に対応できるようにすることが大切である。また、ラベル判定に関する利用者からの情報提供や、発信者からの異議申し立てなどを公正に処理することも必要になる。

(2)中学校
 次々と新しいサイトができている現在、レイティングソフトウェアによって有害情報を完全に遮断することは不可能である。従って更新の頻度も重要であるが、それ以上に重要なのは、フィルタリングの基準である。特に教育利用という見地で言えば、フードというカテゴリーに対する基準が単に露出度だけでフィルタリングを行うのは好ましいことではない。その意味でも教育用のレイティング基準、あるいは教育用のホワイトリストの充実などが望まれるが、今後はホームページの設置者に対してセルフレイティングに対応するようにしつつ、そのレベルに問題があった場合はホームページの管理者に対して連絡できるようなシステムが必要になってくるのではないだろうか。
 また、設定や変更の容易さも重要な課題である。例えば保健体育や性教育、いじめについての学習など、教科や内容によってはフィルタリングを行わないようにしたり、レベルを変更する必要が生じてくるが、学校の数十台のコンピュータについて、その都度そうした変更を行うのは事実上不可能である。従って、学校に設置されているProxyサーバーでレイティングソフトウェアを動作させ、集中的に管理する必要がある。
 更に、生徒にとって有害情報をただ単に遮断するだけでいいのかという問題もある。どうしてそのべージがプロックされているのか、その理由などを表示したべージを変わりに表示したりして有害情報について考えさせるなどの手段を講じる必要もあると思われる。

(3)高等学校
 NMDAによって開発されたIFSを利用し、インターネットを利用した授業展開を行ってきた。この中で、IFSのインストールから現在開発済みの様々なモードの運用実験までを行ない、いくつかの改善点を見いたすことができた。
 現在のIFSが要求するマシン環境は、高等学校に導入されているマシンよりも、少し高めである。そのため、多くの学校ではIFSを利用できる対象のマシンが少なく、クラス単位等多人数の授業では利用できないことがある。また、クライアント毎にIFSをインストールし、ラベルビューロをダウンロードするか、コピーをしなけれればならない。対象台数が多数の場合は大変な労力が必要となる。この点については、プロキシータイプのIFSの開発が強く望まれている。更に、IFSそのもののスモール化を進めることも期待されている。また、IFSはクライアント単位での設定作業が必要だが、LAN上で利用する場合などには、設定作業が一斉にできると大変便利である。各クライアントから、サーバの設定用ファイルを取り込み、ユーザ(生徒)自身が簡単に設定作業ができる機能の付加なども一案であろう。
 IFSを実際に稼働させた場合、かなりの重さを体感することがあり、この点も改善の余地がある。
 また、ラベルビュー口については、国内だけが対象であり、海外のサイトは対象外である。高等学校においては、授業で海外サイトヘのアクセスも頻繁であるし、高校生たちは、海外へのアクセスを日常的に行っている。この点からも海外サイトの有害情報フロックを視野に入れた、IFSの開発が待たれるし、海外のレイティングシステムとの相互利用も検討の時機が来ていると思われる。
 IFSを機能させた状態で有害情報サイドヘアクセスしようとした場合、メッセージが表示されるが、この機能をURLを記述できる機能に改善することができるとよい。更に、IFSが機能してる場合、画面上にアイコンが表示されるが、高校生たちはこれが気がかりらしく、しきりとクリックしたり、実際にフィルタリング機能を確かめ、興味半分でテストを行うことなどもある。できればアイコンを隠して機能させた方がよいと思われる。
 インストールや管理者機能については、ほぼ満足できる環境である。
 今後はラベルビュー口の分散化(ミラーサイト)をすすめ、全国各地から、短いパスで利用できるシステムになることを期待している。
 有害情報排除は学校教育だけの問題ではなく、家庭でも、実社会でも共通の問題である。特に家庭へのパソコン普及に伴って、インターネット利用者も急増している状況を踏まえ、家庭用IFSの開発が強く望まれる。

(4) 教育センター
 教育センターは、各都道府県により設置形態が多様であるが、情報教育や情報ネットワーク拠点としての役割を中心に考えると、次のような業務が行われているところが多い。
 1) 教職員に対する情報研修
 2) 教育用ソフトウェアやコンテンツの開発や利用研究
 3) 学校のインターネット利用の接続拠点
 4) 学校等の教育機関のネットワーク拠点としての教育情報の収集・整理・発信
 5) 産業教育を中心とした生徒実習教育
 6) ライブラリーセンター等における一般県民を含めたソフト等の試行・閲覧
各業務でインターネットを活用することが多く、その利用者は所員、研修生(教職員)、実習生(児童・生徒)、一般県民及びセンターを経由した学校での児童生徒の利用等多様である。
 教育センターは教職員の情報リテラシーの育成をする過程で、責任あるインターネット利用者としての情報倫理観の育成をすることが大切である。インターネットを活用できる学校が増加しつつある状況では、インターネット利用推進を担う情報管理者の育成が急務である。
 情報管理者となる教職員に対する研修は、ネットワーク社会における情報流通、インターネットにおける有害情報の認識、不正行為を避ける情報リテラシー、情報の愛発信におけるアクセスコントロールシステムの必要性、規制のための運用管理と組織、情報に対する教育的な評価方法とラベル付け等を研修する必要がある。
 これらの研修や各種業務で活用するためには、レイティングソフトウェアは次のような性能が必要になる。
1) 汎用性・・・・・・・・・ ネットワーク形態、機種、OSの違いがあっても利用できること。
2) 柔軟性・・・・・・・・・ 業務内容や利用者に対応したレイティングレベルを設定でき、また容易に変更可能なこと。
3) 導入の容易さ・・・・・・ ソフトウェアのインストールや設定が容易であること。
4) 管理の容易さ・・・・・・ 維持管理が容易であること。
5) マッチングの容易さ・・・ 的確にフィルタリングできること。
6) 価格の安さ・・・・・・・ IFSのような無料配布が一番望ましい。
7) 表示速度の早さ・・・・・ 同時に利用するコンピュータが多くなっても、Webべ一ジの表示が低下しないこと。
8) 公正さ・・・・・・・・・ レイティングの公正さをアピールしやすいもの。

 

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