4.2 企画の実施

4.2.1 実施体制

 本企画を実施にあたり、実施目的、実施内容を明確にし、本企画の推進に対して専門的立場からの助言を行うとともに、企画の実施に伴う課題や教育的有効性の検討を行い、また観測結果データを有効活用するための活用方法について考察するための体制作りを行った。

4.2.1.1 定点観測企画研究グループ

(1) 研究グループの設置、委員構成
  本企画を実施するにあたり、以下の研究グループを組織した。研究グループの主査については本研究グループの上位組織である高度化教育ワーキンググループ主査(岡本敏雄:電気通信大学大学院教授)からの推薦を受け、また委員の構成については研究グループ主査(高度化教育ワーキンググループ委員)からの示唆を受け、「定点観測データの活用実験研究グループ」を平成9年9月1日付けで組織し設置した。

 設置した「定点観測データの活用実験研究グループ」の委員構成は以下のとおりである。

委員構成(敬称略)
主査、委員 委員名 所属
主査
生田 孝至 新潟大学教育学部
委員 浅野 智子 大和市立林間小学校
委員 石原 一彦 大津市立平野小学校
委員 苅宿 俊文 港区立神応小学校
委員 長  澤武 広島大学附属福山中・高等学校

委員

根井  誠 宮崎大学教育学部附属小学校

(2) 研究グループの活動
 研究グループは、定点観測型企画の観測結果データを学習に活用するための方法について調査を行うため、以下の検討会議を行った。

第1回研究グループ会議(他研究グループとの合同会議)
平成9年9月6日(土)
 本企画の主旨説明・詳細検討、実施スケジュールの検討、実施内容の検討・確認、主査との事前打合せ
平成9年12月25日(木)
 現状報告、今後のスケジュール確認、アンケート内容の検討、報告書の内容の検討

第2回研究グループ会議
平成10年1月17日(土)
 各企画の進捗状況の報告、課題の抽出・教育的効果の評価方法の検討、アンケート項目(設問)の検討・作成、報告書の項立の検討・執筆分担の検討

4.2.1.2 アンケートの実施

本企画の目的「観測結果データを有効活用するための活用方法」を調査するためアンケート調査を実施した。
 アンケート調査は本企画で対象とした5企画の参加校に対して実施したもので調査した項目は以下のとおりである。

【調査項目】

1. 定点観測企画に参加した理由。(自由記述)

2. 参加企画または他の定点観測企画の観測データを授業で活用したか。
 ・活用した観測データ
 ・活用した教科
 ・活用の方法
 ・活用しなかった、またはできなかった理由

3. 企画に参加して良かったと感じたこと。(自由記述)

4. 参加した企画を実践する上で困難だったこと。(自由記述)

5. 参加した企画の教育的効果について。(自由記述)

6. 参加した企画の課題について。(自由記述)

7. 参加した企画の実践に関しての改善点・要望等。(自由記述)

4.2.2 定点観測5企画の実施

 定点観測型企画の観測結果データを学習に活用するための方法について調査することを目的に各企画を以下のとおり実施した。

4.2.2.1 一本の樹プロジェクト

(1) はじめに
  本プロジェクトは、定点観測という視点では、小学校の低学年から取り組んでいる植物の観察を発展的な教材として活用していくだけで、子どもたちにもわかりやすい活動になることができた。この報告書では、「一本の樹プロジェクト」の新100校プロジェクトでの活動内容を中心に報告していきたいと考えている。

(2) 「一本の樹プロジェクト」のねらい
 「一本の樹プロジェクト」のねらいについては、プロジェクトのホームページでは、次のように説明している。『「一本の樹-SAKURA-」は、「一本の樹から『自然の社会』と出会ってみよう。」と「一本の樹とのかかわりを見直そう。」というふたつのテーマを持って、子どもたちが一本の樹を通して、植物の生きる力や植物と人間の文化的な関係を知り、自分たちの生活を見直すきっかけになることを期待して取り組んでいきたいと考えています。また、この「一本の樹-SAKURA-」の活動は、子どもたち同士のかかわりを大切にしていくために、参加する子どもたちで「あまのじゃくクラフ」というクラフを作って活動していきます。』
  また、定点観測の二つの柱である「一本の樹から『自然の社会』と出会ってみよう。」と「一本の樹とのかかわりを見直そう。」では、そのねらいについて、次のように説明している。「「一本の樹から「かかわり』を見直そう。」では、木と人間、動物なとのかかわりを調べていきます。昔の人々が「木」の性質をよく理解して、生活の中にたくみに利用していたことから出発して、木の持っているよさを十二分に出させるための昔の人の知恵を探る学習やいま自分たちの生活の中で、植物が必要とされていることなどを考えていきたいと思っています。そして、私たち人問と植物のかかわりを見直していきたいと思っています。そして、「一本の樹から『自然の社会』と出会ってみよう。」では、植物が自然のちょっとした変化をいつも感じられるようしていることや先々の準備が着実に進められていることを調べ合っていきます。植物には、いろいろな障害を乗り越えていく工夫があり、木によっては、何百年間も生き続けることができるものもあります。このような、「植物の生命力の強さ」をみんなで感じ合えるようにしていきたいと考えています。』
  このように本プロジェクトでは、子どもたちに木の観察を通して、自分たちの生活と植物のかかわりについて考えていくことをねらいとしている。

(3) 「一本の樹プロジェクト」の活動内容
  97年度の活動内容は、!00校プロジェクトからの取り組みを受けて、発展させていったものである。内容を大別すると、次のような5点になる。

1、定点観測の公開。
2、定点観測の交流。
3、定点観測の交換。
4、授業で活用して行くために。
5、ライフビデオの活用。

 本プロジェクトの構成は、東京都神応小学校、神奈川県林間小学校、新潟県中郷小学校、福島県葛尾中学校、静岡県清水国際中学校などを中心に定点観測のデータを送ってくれた学校で構成されている。

 次に内容に関しての詳細を報告する。

a. 定点観測の公開

 本プロジェクトの活動の中心である定点観測を子どもたちが実際とのような疑問を持ち、それをどのような方法で解決していったかということと本プロジェクトの方向性について、本プロジェクトのメインホームページを紹介する形で説明する。

 はじめに、子どもたちの疑問とその解決法を公開する場として「一本の樹で今知りたいこと 〜 まずはここを見てみよう! 〜」というページがある。内容は、秋の紅葉編では、

 1、何で紅葉ってするんだろう?。
 2、落葉の役割って何だろう?。
 3、落葉の役割って何だろう2?。
 4、紅葉・落葉の終わった木はどうなっているの?

の四つが上げられている。それぞれ子ども同士の意見の交換や先生のアドバイスなど、実際の授業の様子を再現しながら、子どもたちの疑問と解決法を紹介している。子どもたちが調べたことは、例えば、1学期について、その一部を紹介すると、次のようになっている。「歴史と木のかかわりについて」「烏と木のかかわりについて」「動物と木のかかわりについて」「アリと木のかかわりについて」「毛虫と木のかかわりについて」「セミとスズメのかかわりについて」

b. 定点観測の交流

 本プロジェクトは、定点観測の交流の場としてもインターネットを活用している。その交流は、はじめに教師間の交流として、「桜前線」「桜マップ」「一本の樹・さくら便り」を作成している。このふたつの定点観測の交流は、林間小学校浅野智子氏の作成されたホームページ上で行われている。「桜マップ」は浅野氏がさまざまなメーリシグリストによびかけに応じて、定点観測をして、その結果を送ってくれたものをもとに日本地図上で桜の開花や紅葉の季節前線の移り変わりを公開しているものである。浅野氏の呼びかけとそれに答えてくれたメールを紹介すると次のようなものである。

浅野氏の呼びかけ
紅葉情報をsizen@mI.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp までお寄せ下さい。

1、観測地の住所・高度(国土地理院の地図で調べれば高度がわかりますが、わからない時は結構です。)
2、観察日(天気・気温)
3、樹の種類(サクラ・イロハモミジ・イチョウ)
4、樹の状態(観察日の状態をお知らせください)
 (1) 色づきはじめた
 (2) 見ごろ
 (3) 葉がすべて落ちた
5、自由なコメント

 ホームページをお持ちの方で、紅葉の写真を掲載して頂ける場合は、そちらにリンクをはらせて頂きたいと思っておりますので、URLをお知らせください。

<プロジェクトホームページ>
http ://shinno1.shinno-es.minato.tokyo.jp/IPPON97/Index.html

く桜前線>
http://www.rinkan-es.yamato.kanagawa.jp/~asano/SAKURA/cherry/index.html

<さくらMAP>
http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/WebCam/sakura.html


浅野氏の呼びかけに答えてくれたメール

浅野智子(林間小)さんより理科教育MLを通じて、新100校計画「一本の樹-さくら」を知りました。

サクラ情報をお届けします。

1、観測地の住所・高度

 所在地 大阪府泉南市樽井2-35-54
 北緯 34度21分51秒東経135度16分04秒
 高さ 20m

2、観察日 3、天気・気温 5、桜の状態

 3/23(月) 薄曇り、後曇り 10.7度(PM2:30) つぼみふくらむ
 3/26(木) 午前中薄曇り 10.1度(AM8:30) 開花

4、桜の種類

 ソメイヨシノ

5、自由なコメント

 昨年よりは2日早く開花しました。いつも入学式の頃がきれいなのですが、
今年はかなり散ってしまっているかもしれません。

6.URL

 http://www.osk.3web.ne.jp/~ngc2237/sakura.html
現在、上記のURLで昨年のサクラの写真が出てきます。できるだけ早く今年の写真に入れ替えるつもりです。


これらの情報をまとめて、浅野氏が出しているのが「一本の樹-さくら便り」である。
内容は多岐にわたっている。桜前線の移動の報告する「一本の樹-さくら便り」の一部である。

「一本の樹-さくら」便り(5号)1997/4/6


 3月下旬に一斉に開花した様子のソメイヨシノも、この所の雨で急速に花びら老し、若葉の季節に移って行くとともに、ヤマザクラも開花をはじめました。

3月29日 鹿児島県 鷹巣中学校(ソメイヨシノ/満開)
3月30日 千葉県 東金女子高等学校(ソメイヨシノ/1分)
3月30日 広島県 呉市(3分)
3月30日 神奈川県 林間小(ソメイヨシノ/開花)
3月30日 熊本県 黒髪8丁目(シダレザクラ/8分)
3月30日 熊本県 黒髪8丁目(チハラザクラ/8分)
3月30日 熊本県 蛇ケ谷(ソメイヨシノ/満開)
3月30日 神奈川県 桜丘高校(ソメイヨシノ/満開)
3月31日 広島県 乃美尾小学(ソメイヨシノ/分)
3月31日 熊本県 長陽西部小学校(ソメイヨシノ/1分)
3月31日 静岡県 清水国際中学(ソメイヨシノ/5分)
3月31日 熊本県 長陽中学校(ソメイヨシノ/5分)
3月31日 京都府 薪小学校(ソメイヨシノ/1分)
4月01日 千葉県 富里第一小学校(満開)
4月01日 長野県 下條小学校(ソメイヨシノ/1分)
4月02日 群馬県 前橋市立第四中学(ソメイヨシノ/5分)
4月02日 茨城県 笠間中学校(ソメイヨシノ/5分)
4月02日 奈良県 奈良教育大学(ソメイヨシノ/満開)
4月03日 熊本県 長陽西部小学校(ソメイヨシノ/8分)
4月04日 神奈川県 大和小学校(ヤマザクラ/開花)
4月04日 京都府 薪小学校(ソメイヨシノ/5分)
4月04日 長野県 下條小学校(ソメイヨシノ/5分)
4月04日 千葉県 麗澤高校(ソメイヨシノ/満開)
4月05日 熊本県 熊本大学(ソメイヨシノ/葉桜)

以上のような形で教師問のメールを活用した交流が本プロジェクトを支えていたのである。

C. 定点観測の交換

 教師問の交流に支えられた本プロジェクトでも、子どもを巻き込んだ形での交流は進めてきた。その一つが新潟の中郷小学校と東京の神応小学校の定点観測データの交換である。中郷小学校と神応小学校では、それぞれのホームページの中で子どもの観測データを紹介しあっている。中郷小学校では、「あずさの桜の木へ」「ゆきえの桜の木へ」「ゆかりのしらかばの木へ」「ゆかのもみじの木へ」「まきこの松の木へ」など、子どもたちが自分の観測する木を選び、定期的に観測をした。神応小学校でも、「葉を中心に調べた記録」「芽を中心に調べた記録」「花を中心に調べた記録」などの木の部分に注目した観察記録を交換した。
 子ども同士の交流を深めるために、「あまのじゃくクラフ」というクラブ形式のものをつくり、メンバーカードを作るなどでの活動をした。次に紹介するのは、クラブのメンバーの自己紹介です。

会員NO6. 5年 有希
 私は、5年の有希です。わたしがなせ、このクラブに入ったかというとまだ、わたしは、木や植物のことをしらないからです。そして、いろいろな発見ができると思って入りました。よろしくお願いします。私は、「桜の物語」を担当しています。桜のことがのっている物語があれば、教えてください。それから、これから、私と英子さんと桜の物語を作っていきますので、お楽しみにしていてください。

会員NO7. 5年 孝一
  僕の名前は孝一です。5年生です。僕はこのクラフに最初行ったとき、いろんな植物の観察をするなんておもしろいなと思いました。今、僕が観察しているのは、桜の枝です。毎日見ていると、微妙に変わってきているところがあるので、おもしろいなとおもいました。これから、いつも観察したいとおもっています。

d. 授業で活用して行くために

  本プロジェクトでは、授業で活用していくために、子どもたちだけではなく、先生方にも役に立つ、自然の見方を紹介するページを用意した。このページは、神応小学校の栗原良夫氏の考え方を中心にした活動である。栗原良夫先生の「心で感じる自然』という名前のこのページでのねらいは、「心で感じる理科の授業で、少しでも「わあ、すごい!」という感動を受けて欲しい。港区の白金という都心にも、自然は生きている。その中で心で感じ、感動することの出来る理科の授業をしていきたい。」というものです。栗原氏の「感動の理科」の中で一本の樹に関係する授業では、「桜の成長→人問の成長」「夏至」「サクラの木のまわりの虫たち」「川の不思議」「石もくさる?」「溶岩いろいろ」「2回石になる?」「イチゴがなった!」などがあり、その記録は、ホームページ上で公開されており、いろいろな先生から理科の見方がわかると好評である。

e.ライブビデオの活用

 ライフビデオの活用は、神応小学校と中郷小学校で、それぞれ子どもたちが観測している木をライフビデオで紹介している。中郷小学校は、豪雪地帯であり、神応小学校は、都心の学校であるので、気候や天候でも大きな違いがあり、比較していく上では、「百聞は一見にしかず」的な効果があった。また、本プロジェクトでは、次のホームページにリンクを張っているが、リンク先でもライフビデオ的なことに取り組んでいるところがある。リンク先は、「桜のデータベース」「ハイパー植物図鑑」「ある桜の開花」「もりもりパークの桜情報のページ」

(4) おわりに

 本プロジェクトでは、授業での活用の方法に関しての具体的な事例がもっと出てくれぱと考えているが、子どもの観察の中で、自然の見方やとらえ方に変容が見ることができた点や、ホームページ上で授業に役に立つ情報を公開したり、メーリシグリストなどを利用した教師問の交流ができたことで、定点観測の共有化の共有していくという点では大きな足跡を残すことができたと考えている。

4.2.2.2 お天気共同観側プロジェクト

(1) 企画の概要

 参加校の児童に共同観測をすることを知らせ、観測に先立ちテレビ会議システムを用いて観測項目を決定した。児童が観測したデータはメーリシグリストを使い参加校に配送するほか、写真をはれる電子掲示板にも掲示し同じ日の天気が比べやすいよう工夫した。参加校では、各校から送られてきた観測データや掲示板、気象衛星からの画像を利用して天気のかわり方を学習した他天気予報を行なった。

(2) 企画の実践

 97年10月いっぱい児童の共同観測は実施されたが、それに先立ち参加校間では学習方法や教材についての話し合いをもった。その結果、前年度の実践の反省から児童を主体的に観測に参加させることが学習が効果をあげる上で大切な要因であることが同意され、観測に先立ち乃美尾小と坂出小はテレビ会議で観測についての共同学習を行なった。その共同学習で今年度は、「雲量・雲の色・雲の種類・雲の動き・風の様子・気温」について観測し「気づいたこと」も知らせあうことになった。テレビ会議を実施できなかった本校と長陽西部小でもテレビ会議の様子を児童に伝え、同一項目で観測を行なった。

 観測データはメーリシグリストを使い配送する他、各校のホームページに載せた。また写真を簡単にはりこめる掲示板が用意されたので児童間の交流も兼ねて利用していった。

図 お天気掲示板

(3) 観測データの活用

 共同観測校のデータの読み取りから、天気予報ができないか考えさせる授業を行なった。以下に指導案を紹介する。



理科学習指導案

1. 学年・組第5学年1組

2. 単元名天気の変化

3. 単元の目標
 ○天気の変化には、大まかな規則性があることを知り観測結果や気象衛星の情報を利用して天気の予想ができる。

4. 単元について
 情報化の進展は今新たな段階を迎えつつあり、すべての小学校に2003年にはインターネットを導入すると文部省は公表した。インターネット通じて、双方向に文字・画像等の情報を融合して交換する授業を組み立てることが可能とり、.それは学校教育に大きな質的変化をもたらすことが予想される。
 指導計画を組むにあたり、小学生でありはじめての天気予報なので、学習の中心は空の雲を目で見て、風の様子や気温を皮膚で感じて、温度計や風向計を使いデータを標準化する観測に置きたいと思った。
 「天気の変化」の傾向を理解させる場面では、従来は新聞の気象情報を並べる活動が主流であった。新聞の気象情報は正確な情報ではあるが、児童の日常の観測活動との結びつきは強いとはいえない。そこでインターネットを利用して、熊本・広島・香川の小学校と同一項目・同一時刻に観測を行ない、電子メールや掲示板を使って観測データの交換をする活動を計画した。そして、その観測データを読み取ることにより「天気は概ね、西から東へかわってくる」という事を理解させた。また「天気予報」をする学習場面では、共同観測校から届く毎日の観測データの他にインターネットで受信出来る一時間ごとの気象衛星「ひまわり」の画像も利用させた。

5.指導計画
・ 1時間目
天気の共同観測をすることと、観測の仕方を知る。
・ 2時間目
「雲」について、本などを使い調べる。
・ 3時間目
「雲」の色や形、動きを観測する。
・ 4時間目
「雲の動き」と「天気」の変化について、新聞の切り抜きから調べる。
・ 5時間目
「雲の動き」と「天気」の変化について、コンピュータを使い調べる。
・ 6時間目(本時)
共同観測校のデータの読み取りから、天気予報ができないか考える。
・ 7時間目
共同観測校からの観測データや気象衛星「ひまわり」画像も利用して、天気予報をする。
・ 8時間目
学習のまとめをする。

<指導計画をたてるにあたって留意したこと>

 1学期が終了した時点で、指導の参考にするために理科を担任しているクラスの児童に対して、アンケート調査を実施した。

 その結果から、「天気」に関しても、「天気」の学習の基礎となる「観測」につい
ても児童の関心は低いことが明らかになった。「天気」は児童の身近の事象すぎ事、また「観測」は地道な学習方法であり、結果も「実験」に比べすぐにでないというのが児童の関心が低くなった理由であると考えられる。

 昨年度も共同観測を行なったが、学習が進み「天気」は西から東へ移動してくるという事を児童が理解するまでは、共同観測に対し積極的でなかったという反省がなされた。昨年度の観測は観測項目は教師サイドで決めたものであり、学習の初めから共同観測という意識を児童に.しっかりともたす事ができなかったのが原因と考えらる。

 そこで今年度の共同観測を行なうにあたり留意したのは、共同観測の初めから児童が学習の目的を理解して、学習に主体的に取り組めるように指導計画をたてた事にある。広島の乃美尾小学校と、香川の坂出小学校の間では9月30日にテレビ会議システムを用い、観測の項目をどのようにするかについて共同学習を行なった。そして「雲量」「雲の色」「雲の種類」「雲の動き」「風の様子」「気温」を観測して「気づき」も記入することになった。林間小学校は当時テレビ会議システムを使えない状況であったので、他校の先生から共同観測を行なうにあたりみんなに手紙が届いたという形で、9月30日の共同学習で決まった事について観測をすることを知らせた。

6. 本時の指導

1) 本時目標
 共同観測校から送られて来た観測データを整理し、天気は西から東へ変わっていくことがわかる。

2) 本時の展開
 本授業は、子ども達が観測したデータをインターネットを利用して共同観測校で交換し、それによって得た情報を整理して読み取ることによって天気のかわり方を理解させることを目的に計画した。

学習活動 指導上の留意点 備考
自分たちの観測結果や、共同観測校から送られて来た一週問分の観測結果を読み取る。 観測データから天気の変化の傾向をわかりやすくするために、表にあらわす。 観測データ一週間分・記録用紙
表を見て気づいた事
を発表する。
・晴れでも場所によって温度が違う。
・神奈川が晴れの時は他の所も晴れみたいだ。
●熊本の方が先に天気が悪くなった。
前時までの学習で大気が西からかわることに気がついている児童もいるが、自分たちが観測しているデータで確認させたい。 記録用紙
次時の予告を聞く。 自分達で天気予報をしてみることを、知らせる。  

7. 考察

<本時>
 前時までの学習で、天気は西からかわって来るようであるという考えにいたっている児童もいたが、多くの児童は、本時のはじまりの時点ではそのことに気がついていなかった。前時に使用した新聞の気象情報は多くの情報がありすぎて、5年生にとっては総合的に見ることが難しい為と思われる。本授業は自分の住む地域を含め3地点のデータの読み取りであるので、興味をもち調べることができ天気が西から変ってくるという事を理解することができたようである。

<単元を通して>
 昨年度の実践から、5年生の天気の学習においては他地域と共同で観測することは有効であることがわかっていたが、一月にわたる共同観測が児童に負担を強いることであることもわかっていた。そこで今年度は、学習のはじめから児童の自主的な活動となるよう工夫しできたわけであるが、昨年度に比べ観測途中でも息切れする児童は少なく、自分達の観測データを他校でも利用して学習しているという事を認識し、最後まで責任をもって観測にとりくめたようである。学習後の児童の感想を紹介する。

 ○ぼくはたいへんだったことは、天気予報や雲の量を調べることでした。最初は雲の量をたしかめるのはむずかしくて、一部を見ると雲はなくて全体を見るとたくさんあって、今は簡単に(雲の量を)8や1とかちやんと言える。あと天気予報ではパソコンでてきばきとみて発表するのがむずかしかった。今はちよっとてきばきできるようになった。楽しかったことは、班で交代でする観測が楽しかった。かんそくで雲の量や風向きをしらベ、写真をとったこととパソコンに感想を書くのが楽しかった。たまにわすれたこともあるけれど。テレビ電話では、そっちの天気や観測がすすんでいるかを話しだいです。


4.2.2.3 酸性雨調査プロジェクト

(1) 企画の概要

(a) プロジェクトのねらい

 酸性雨調査プロジェクトは、1995年8月、100校プロジェクトの企画の1つとして、100校プロジェクトの参加校を中心に参加校を募集、1995年度は40校の学校の参加を得てスタートしました。事務局は広島大学附属福山中・高等学校に置き、広島大学総合科学部の中根周歩教授を中心とした指導体制のもとに、参加校は雨を集めるレインゴーランドと、PHメーターを配布し、測定内容の統一と、観測されたデータの共有化を2つの柱としてプロジェクトを組み立てました。

 1995年12月、三菱総合研究所のバックアップのもと、データを蓄積するためのホームページが完成、各参加校にデータを入力するために必要なパスワードを通知しました。現在、このプロジェクトは3年目を迎え新たな参加校も含めて、47校の学校がデータの蓄積を続けています。

 プロジェクト2年目に当たる1996年度は、100校プロジェクトの共同企画の1つとしての位置づけがなされ、通常の測定に加えて、雨水に溶けているイオンの種類と量を明らかにするため、イオンクロマトグラフによる、雨水の分析が行なわれました。6校の学校が、凍結させた雨水を広島大学総合科学部に送付、1ヶ月をかけて行われた分析作業の結果、貴重なデータを得ることが出来ました。この結果は酸性雨プロジェクトのホームページに掲載してあります。

 プロジェクト3年目にあたる1997年度は、新100校プロジェクトの重点企画のなかの、定点観測データの利用というグループのなかに位置づけられ、データの蓄積がすすみました。1997年11月、これまでの活動をふりかえり、インターネットの教育利用の可能性を模索するための資料を得るため、参加校にアンケートを行い、問題点などを明らかにすることにしました。結果は酸性雨調査プロジェクトの報告書として、1998年3月にまとめられることになっています。

 振り返ってみますと、このプロジェクトは2つの側面を持っていたと考えられます。1つは広域ネットワークを、学校教育の中に取り入れていくための諸問題を明らかにするための実験であり、今1つは広域ネットワークという新しい手段を使った環境教育の実験です。現段階における参加校の意識、実践の内容等から判断すると、酸性雨調査プロジェクトは、広域ネットワークの利用に力点が置かれた活動であったと、理解することが出来ます。今後学校の教育内容、この場合でいえば、環境教育の推進に力点が置かれた活動に変わっていくためには、学校教育の根本にかかわる変化が、教師や行政の中に求められるのかもしれません。今後このプロジェクトは、そのような側面を明らかにするための活動に力点をおいていきたいと考えています。

(b) 参加校

 全国で47校の学校が参加。1997年度の新規参加校は3校。

(2) 企画の実践

(a) これまでの経過

1995年8月 酸性雨調査プロジェクトを全国の学校に提案
1995年10月 参加校の締め切り。
機器の配布開始。10月16日から10月30日の間に完了。
10月26日メーリングリストを開設。
acid-menber@cec.or.jp
1995年11月 観測の練習開始。
これまでの観測データの送付を次の目的のため参加校に依頼
1. 参加校の観測体制の整備状況の確認・
2. 電子メールの利用状況の確認。
3. 観測上の問題点の抽出。
4. ホームページ作成のための資料の収集。
事務局用メーリシグリスト牽作成。
acid-staff@cec.or.jp
1995年12月 酸性雨調査プロジェクトのホームページ完成。
1996年1月

データ入力についての問題点の洗い出し。
参加校による入力開始。本格的な運用開始。
各校の取り組みについての調査。

1996年4月 1996年度の基本構想を決定。
1996年7月 100校プロジェクトの共同利用企画の1つに決定。
1996年8月 参加校の追加募集。
1996年10月 イオンクロマトグラフで雨水を分析するための試料の採取を参加校に依頼。冷凍して事務局に送付。
1996年12月 広島大学総合科学部中根周歩教授の研究室で分析。
導電率計と新規参加校への機器を送付。
1997年2月

英語版のホームページを公開。

1997年3月 1997年度の基本構想の決定。
1997年7月 新100校プロジェクトの重点企画の1つとなる。
高度化教育企画の「定点観測データの共有・活用実験」1つとなる。
1997年8月 参加校の追加募集。
1997年10月 各校の取り組みについての調査。
1998年2月 研究報告書の作成。
1998年3月 次年度以降の研究計画の作成。
ホームページの改訂。


(b)取り組みについての調査

(1997年10月1日に参加校に送付)

1. [主な調査項目]


 1. このプロジェクトに参加した理由。

 2. 酸性雨調査プロジェクトをどのような教育活動の中で展開したか。

 3. このプロジェクトに参加してよかった点。

 4. このプロジェクトを実行するにあたって、困難であった点。

 5. このプロジェクトのバックアップ体制について。

@ プロジェクトの事務局で、データをホームページに掲載するにあたり、データをグラフ化したり、分析した結果をホームページに掲載する作業を行うことについての意見。
A データを送信するとき等のトラプルヘの対応について。
B ホームページの運営について。
Cメーリシグリストについて。
D観測に当たっての疑問点等への対応について
E観測器具の配布やメンテナンスについて

 6. 酸性雨ホームページに蓄積されているデータを、教育活動の中に取り入れていくことについての現状。

 7. 参加校の生徒や指導教官の間などで行う、電子メールを使っての交流について

2. 調査から得られたもの

 アンケートの回答は参加校47校中33校からの回答がえられた。
 第1年次の報告書においても触れたように、このプロジェクトには様々な校種の学校の様々なグループが参加する事によって始まった。参加目的もグループによって異なり、ネットワークの利用が学校教育の中に、大きな変化をもたらすことに対する期待が膨らんだものである。3年が経過した今、調査を通して成果と問題点が明らかになりつつある。簡単にまとめておきたい。

a) プロジェクトヘの参加理由及ぴ参加してよかったこと

 クラフ活動の一環として参加を決めた学校が多い。あわせて理科及ぴ環境教育の教材として利用したいという希望がかなりある。インターネットの教育利用を経験したい、インターネットの活用研究を行いたいという気持ちがどの参加校にもあり、プロジェクト発足当時はこの部分の比重が大きかったと思われる。参加してよかったこととしては、酸性雨の実態が把握出来たこと、全国的な共同学習が出来たこと、インターネットの利点が理解できたことなどがあげられる。

b) プロジェクト推進にあたって、困難であったこと。

 長期間にわたって、観測体制を維持することが、生徒や教師にとって難しい。観測装置の破損等に伴う、費用の負担が大きい。学校における教育活動は1年を単位として進められており、担当教師の転勤等や熱心な生徒の卒業は、プロジェクトの継続的な推進に大きな障害となる。プロジェクトの推進方法に工夫が必要だとの印象をもった。

c) プロジェクトのバックアップ体制について

 ホームページの運用や、データの送信方法などについては、おおむねいい評価をいただいた。データの修正が出来るようにすること、事務局との交流の増加などの希望があったが、参加校と事務局との問の、意見交換の必要性を日常的な運用の中でも感じている。参加校の担当者が電子メールを常時チェックしていない 現実があり、メーリシグリストが機能しなかったことも、今後の問題として残る。
 事務局でデータを処理して、グラフ化したもの等をホームページに掲載することについては、当面行わない方針で進めてきたが、参加校にはいろいろなケースがあり、今後はある程度のまとめを行った方が、プロジェクトの推進や、インターネットの教育利用の推進につながるのではないかと考えている。

d) 教育活動への利用

 まだ利用できていないというケースが多い。プロジェクト3年目をむかえて、データの蓄積もすすみ、少しづつ利用が進んでいる様子である。このようなプロジェクトは長期間にわたる蓄積が必要であり、プロジェクトの継続的な運営を可能にする体制が求められる。100校プロジェクトの今後の課題となろう。

e) 他校との交流

 数校の学校で交流の経験があるだけである。このプロジェクトも今後、生徒や教師の交流を深めることで、一層の教育効果をあげるものと考えられる。このためのバックアップも事務局の仕事の1つである。

(3) 観測データの活用(参加校での実践事例)

 学習指導要領の3領域、教科・特別教育活動・道徳の中で、インターネットの活用が最も多いのが特別教育活動の領域である。これに比べて、日常の教科の授業の中での活用は、従来の教科の内容や、授業の展開の方法の上で、インターネットの特性を生かした利用が難しく、まだ試行的な実践が始まったばかりである。
 酸性雨調査プロジェクトの参加校においても、1スタートから3年を経て、いくつかの学校で授業への利用が試みられるようになってきた。教育活動へのインターネットの利用には、時間をかけての実証実験が必要なことがわかる。今回、9つの学校から、酸性雨調査プロジェクトを(データだけでなく、観測などめ活動も含めて)をどのように教育活動の中へ取り入れたかについての報告をしていただくことか出来た。代表的なものを5校紹介することにしたい。

a) 広島大学附属福山中学校

 1991年度から、カリキュラムの中で環境教育に取り組み、「環境に対する豊かな感受性や見識をもつ人づくり」を目指している。中学2年において、週1時間の理科の課題学習の中で、環境問題を取り上げ、気象及ぴ酸性雨の継続的な観測に取り組むとともに、酸性雨調査プロジェクトや「環境のための地球観測プログラム(GLOBE)」へ参加、1997年度から2年間は「環境データ活用事業(EILNET)」の研究指定校になっている。

 次に示すのは、課題学習の年間計画の例である。

(1) 環境教育へのプロローグ(2時間)
  課題学習の概要説明。意識調査。
  大学の先生の講演(総合科学部中根教授)

(2) 基本的な技術の習得(15時間)
  コンピューターを利用したコミュニケーション能力の育成。
  (電子メールによる交流)
  雨の酸性度の測定と気象観測。
  インターネットを利用した情報発信・情報交換・情報収集。

(3) 課題研究(15時間)
  レポートの作成。
  発表・討議

環境(4)学習のエピローグ

-担当者のコメント-

 課題学習の授業における、「酸性雨調査プロジェクト」への参加は、「世界を視野に入れる」あるいは「世界と手を携える」ことを可能にすることになり、インターネットの利用によって、環境教育の大きな転換点を迎えたといえる。
 「Think Globally,Act Localy」の「Act Localy」の部分でこのプロジェクトは教材を提供しているといえる。

b) 岡山大学教育学部附属中学校

 第3学年選択理科を履修した25名の生徒が、第2学年の時に取り組んだ「環境のための地球観測プログラム」をもとに、それぞれが課題を設定し、1年間をかけて取り組んだ。課題は次の8つである。
 「雲」・「酸性雨」・「ランドカバー」・「生物調査」・「川の水質」・「樹木の研究」・「ヒートアイランド」・「自動販売機の省電力化」
 酸性雨の観測、科学部と選択理科を履修した生徒のうちの希望者によっておこなっている。酸性雨の状況は理科室前の廊下に掲示するとともに、インターネットでテータの送信を行った。
 酸性雨に関連するレポートのテーマはつぎの通り
「酸性雨測定器と校舎の距離は、調査結果に影響をどの程度及ほすか」
「酸性雨を探る 〜インターネットによる酸性雨調査プロジェクトに参加して〜」

-担当者のコメント-

 「インターネットを使えば離れたところで同時に同じ実験をすることが出来ることをしりました。時々忘れそうになるとき、他県の人もやっているんだと思うと続けることが出来ました。」という感想を生徒はあげている。インターネット利用による遠隔地共同学習では、生徒が視野を深めるとともに、単調な観測でも意欲や使命を継続することが出来る。インターネットのような通信系マルチメディアは、生徒と他の学校、専門家等を結びつけるとともに、今回の土庄中学校とのメール交換のように、双方向なコミュニケーションを今まで以上に実現することを本実践を通して実感することが出来た。

C) 福井大学教育学部附属小学校

 子供達の学びを中心とした総合学習の中で、酸性雨調査プロジェクトに参加、地域や地球の環境についての学習を、より拡がりをもった学習にしてきた。学習活動の主なものは次の通りである。

1. 総合学習の身近な環境調査活動

2. 雨の酸性度調査

3. データの登録

4. 他の学校とのデータの比較

5. 電子メールによる環境情報の収集

6. 公共機関への問い合わせ

7. ネットワークを利用したTV会議の実施

8. 酸性雨の影響についての話し合い。(国語のディベートの学習の中で)

-担当者のコメント-

 共同で学習する良さというものを自覚したようである。調べているのが自分たちだけでなく、他の学校の子供達が調べているというのが、仲間意識を生み、次への交流へとつながっていった。ヒューマンネットワークとしての良さを認識したようである。

d) 大分県立日田林工高等学校

 林産工学科の生徒から構成する林産クラフで取り組んだ。林産クラフは必須クラフであるが、必須クラフの時間だけでなく、年間を通して活動を行っている。

 酸性雨調査プロジェクトヘの参加目的

1. 日田地方の酸性雨の現状を調べ、地域の環境にたいする関心を高める。

2. 酸性雨の分析を行い、酸性の原因となっている物質とその由来について考察する。

3. 地元の特産物である「日田スギ」が酸性雨に対してどの程度の抵抗力を持っているかを調査する。

 観測された雨の酸性度の値や、広島大学総合科学部で行った雨の分析を通して、日田地方の酸性雨の現状についての考察を行うことが出来た。さらに「日田スギ」の耐酸性についても「蒸発量測定実験」や「生長量測定実験」等によって考察を深めることが出来た。

-担当者のコメント-

 私たちは生徒とともにこのプロジェクトに参加し、今まで授業などで取り上げていた酸性雨の問題がたいへん身近な問題であることを再認識した。酸性雨は地球のどの地方でも降っているのだということに気がついた。またそれが、その地方や国で排出された酸性物質が原因ではなく、周囲の地方や国から排出されたものが原因であることも知った。あらためて、「地球は一つなのだ」ということを考えさせられた。

4.2.2.4 全国発芽マップ

(1) 企画の概要

 「全国発芽マップ」はインターネットを活用した全国的な栽培学習である。概要は、まず同日、同時刻に一斉に全国各地で種をまく。その生育の様子や子供たちの活動を電子メールやホームページ等で情報交換したり、データをまとめたり、交流図ったりする。そのようなインターネットによる共同的な学びの場を通して・理科や社会科等の教科のねらいを実現すると同時に、総合的な学習に発展することを期待するというものである。100校プロジェクト校を中心に参加校を募り、これまでに平成7年度にかぽちゃ、平成8年度に綿を栽培した。現在、平成9年度にケナフ(アオイ科、Kenaf,(HibiscuscannabinusL.))の栽培を試みている。日本で学校がインターネットに接続し始めた時期に行われた実践であり、試行錯誤を繰り返しながら続けられてきた。その過程の中にインターネットの教育利用における示唆が含まれていると思われる。

(2) 企画の実践

 今年度は「全国発芽マップ97」と命名して全国50の団体や学校に広がった。さらに財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)の重点企画に選定され、「定点観測データの共有・活用実験」としても「酸性雨調査企画」などとともに、情報教育を実践する上で応用できるように観測実施、観測結果のデータ化・データの共有及ぴ共有データの利用を行うことになっている。

 全国発芽マップも3年目を向かえ、MLを通して全国に植える植物を募集したところ、横浜市立本町小学校から「ケナフ」という提案を受けた。
 この「ケナフ」は、アオイ科の植物である。成熟すれば下部が直径3〜5cm、高さが3〜4Mになる植物で、広く東南アジアや中国、アフリカ、カリブ海沿岸、米国南部で栽培されている。また、非木材紙資源として注目されている。さらに二酸化炭素を多量に吸収するために地球温暖化の防止にもつながると考えられており、理科教育ばかりでなく、環境教育の上でも.有用性がある。また活用の在り方しだいで「総合的な学習」にも発展していく可能性も高い。

 全国で一斉に平成9年5月12日の正午に種蒔きを行った。北海道から鹿児島まで、気象条件や地域性の違うそれぞれの学校の子供たちはそれぞれの思いでケナフの種を蒔いたのである。さらに秋には、ケナフから紙をすいて葉書への加工があり、子供たちの夢をのせた手書きの葉書がそれまでの電子郵便にとって代わってわって、全国の子供たちの間を行き交う見通しがもてた。

 5月12日正午、共に感じ触発しあい、共に創りあげていく活動 〜創らずにいられない〜 そんな活動への扉が今開かれた記念すべきスタートの日であった。

 さらに以下のような活動が展開された。

掲示板機能の活用
 

 滋賀大学教育学部附属小学校と岡山芳泉高等学校に、児童生徒が自由に育ちや感想などを書き込める環境を整備した。

ケナフを送ろうプロジェクト

 

 熊本県湯島小中学校が、ケナフの生育が悪い学校に自校で育てた苗を送り交流のきっかけとなった。

紙すきの実施
   ケナフの特徴を生かし、葉書等に加工して地域での環境活動や遠隔地との交流活動に生かしていった。またこの活動をもとに地球温暖化京都会議に生徒の意見として提言した学校もあった。

総合的な学習へ

   6年生の理科学習を中心にしながら、環境教育の視点も視野に入れながら授業実践した。そのなかで,交流が生まれ、テレビ会議システムの利用からさらにリアルタイムでの授業へ発展していった。
共同編集絵本制作「ケナフは虫たちのホテル」
   静岡の清水国際学園が中心となり、みんなで絵本を制作していこうという試み。

その他

   各学校独自に委員会活動、クラブ活動で活用された。

(3) 観測データの活用

・小学校6年理科授業実践「わたしたち地球人」

・はじめに

 最近インターネットやコンピュータネットワークなどのことばは、あたりまえのように聞くようになってきた。またテレビ会議システムや衛星を使った同時授業なども盛んに行われるようになってきた。
 しかし大切なことは、活用を図ることで子供たちの学びがどう変わるのかということである。それがなければただの流行にのった授業ということになる。
 私たちは今、未来を生き抜く子供たちを目の前にして、何をするのか、何ができるのか、しっかりとした見通しをもって日々の実践を進めていかなければならない。

・これからの理科教育
 これからの理科教育では、単なる知識ではなく生き方を含めた知を形成していく必要がある。その1つとして考えられるのが、子供の活動を教室内に限定せず、より広い地域のより多様な子供と情報交換する方法である。今から述べる時空を超えて人類が初めて得た手段がそれである。幅広い知の交流は、思考力や表現力を高め状況に応じた判断力を育成することになる。
 このことが、生きる力の基盤となり、自ら学び続ける人問の基礎を培うと考える。
 コンピュータネットワークを利用することで、子供たちに新しい学び方を提案できると考える。その一つは人々とのかかわり方からという視点である。
ネットワークは多様な人々とのかかわりが含まれた学習環境である。多様な人的資源を子供自身が活用することは、将来の情報化社会に必要な力となる。
 またもう一つは表現方法の工夫とプレゼンテーションの日常化を推進することでる。ネットワークでは子供一人一人が、情報の収集家になったり、発信者になったりすることができる。このような情報の収集、加工、発信という表現のサイクルの中で、子供たちは自分のよさを発揮する。さらに遠隔地へ時空を超えて情報を発信していく。共感・共創できる教材の開発はこれからのネットワークを利用した学習の課題であり、生き方を含めた知の形成に役立つはずである。これがまさに目指したコラボレーションである。


・テレビ会議システムの利用
 全国発芽マップ97に参加している学校の中から、これまでも交流の深い滋賀県平野小学校や福井大学附属小学校、さらに環境教育を推進している熊本県人吉東小学校と同時授業を実践した。

 次のような会議が行われた。(一部抜粋)

平野小学校:: 「ケナフを使って紙すきしました。こんな紙ができました。」

福井小学校: 「私たちも年賀状にして宮崎に送ります。」
宮崎附属小: 「4mの大きさに育ったケナフを紙にするのは楽しみです。このことは非木材での紙づくりなので森林保護につながりまね。」
人吉東小: 「私たちも球磨川の環境を調べています。これからも一緒に環境について調べていきましょう。今度ごちらで育てている蛍を送ります。」
宮崎附属小: 「今日はみなさんありがとうございました。」

このような交流を通して子供たちは本当の意味での共感を深めたのである。

・紙すきの実施

 紙に加工できるケナフの特性から、紙すきを実施できた。児童は、ケナフの変身を目のあたりにしながら、でき上がった葉書に思いをめぐらせていったのである。さらに身の回りにもケナフ製品があることを知り、身近な環境へ興味を持ちはじめたのである。

 1つの身近な植物「ケナフ」からのメッセージをもとに、様々な環境問題に気付かせていく試みであった。コンピュータネットワークを利用した時空を超えた学習は、また新しい授業スタイルを生みだした。共通な事象をもとに感じながら学び、そして伝えあい、創りあっていく活動は、これからの理科教育にとって素敵な提案となった。その後紙すきに夢中だった子供の葉書は、手書きによる郵便となり夢字を載せて全国の子供たちをはじめ、多くの人の問を行き交うことになった。

・総合的な学習へ
 次のような学習指導過程を計画実践した。

4.2.2.5 ライブ・カメラ

(1) 企画の概要
 本企画は、各地の学校にライブカメラを設置し、日本各地の現在の空の様子を観察しながら、インターネットに発信されている気象衛星「ひまわり」の日本付近の雲の画像と組み合わせて、理科の気象の学習に役立てることを目的としている。

 気象の学習では、自分たちの身近な天気や気温の変化を根気よく観察し、記録することで気象の変化の法則性を見いだすことが大切な学習課題となっている。しかし一方で、身近な気象の観察にとどまっているだけでは児童生徒の視野に広がりを持たせるのはむずかしい。従来は、テレビの天気予報や新聞の切り抜きなどを活用させていたのであなずれやリアルタイムで観察するような臨場感に欠けていた。そこで、インターネット1を活用することで、教室にいながら日本各地の空模様を観察し、気象衛星ひまわりの画像をもとに日本全体の気象の変化をダイナミックにとらえることができるようなデジタル・アーカイブの提供を試みたのである。

(図1)全国ライブカメラMAP      

 この試みは、学校がインターネットに接続してすぐに使える学習教材の一つとして企画したものである。この理科の教材を通して、多くの子どもたちがインターネットのよさを感じ取ってくれれば、この企画の目的は達成されたと考えられる。
 「全国ライブカメラMAP」は平野小学校のサーバーに保存されているが、これは自由にコピーして加工し、それぞれのサーバーや端末にインストールしてもよいことになっている。
 日本地図の中の、気象衛星の絵をクリックすると、気象衛星「ひまわり」が撮影した日本付近の雲の様子を見ることができる。この雲の画像は1時間ごとに更新されるので、ほぼリアルタイムに近い観察が可能である。また、定期的に画像ファイルを保存することによって、雲の変化を継続的に知ることも可能である。


      (図2)気象衛星「ひまわり」の画像   

 この「全国ライブカメラMAP」には日本列島の各地域に赤いポイントが打たれている。この赤いポイントをクリックすると、その地域の学校に設置されているライブカメラが映し出す空の様子を見ることができる。ライブカメラとはビデオカメラの画像をキヤプチャーボードなどでコンピュータに取り込み、その画像を定期的にサーバー内に更新して保存するソフトを使って、リアルタイムに近い画像をインターネットに自動的に発信する仕組みである。
 ひまわりの雲の画像どこの日本各地のライブカメラを組み合わせることによって、より充実した理科学習の教材になるのではないかと考えている。

(2) 企画の実践
 今年度の新100校プロジェクト重点企画の一つである「高度化教育利用企画」の第1回ワーキンググループ会議で、この「ライブカメラ」の企画が提起され、実施に向けて取り組みが具体的にスタートした。
100校プロジェクト関係のメーリシグリストやパソコン通信の掲示板などに呼びかけて参加校を募集し、多くの学校から参加の連絡を受けた。

学校名 設置場所
東北学院中学高等学校 宮城県仙台市
葛尾中学校 福島県葛尾村
笠間中学校 茨城県笠間市
中郷小学校 新潟県中郷村
平野小学校 滋賀県大津市
滋賀大学付属小学校 滋賀県大津市
山口大学付属光小中学校 山口県光市
宮崎大学付属小学校 宮崎県宮崎市
(表1)「全国ライブカメラMAP」参加校一覧

 現在までに本企画には全国から9校が参加している。これらの学校には97年の秋にCECより、全天候型のビデオカメラが貸与され、各種ソフトの設定やビデオカメラとの接続など技術的な支援は平野小学校で行った。その結果、各地でライブカメラが立ち上がり、インターネットを通して日本全国各地の空が簡単に確認できるようになった。


(図3)中郷小学校のライブカメラ


(図4)笠間中学校のライブカメラ


(図5)宮崎大学付属小学校のライブカメラ

(3) 観測データの活用

 この「全国ライブカメラMAP」は、すぐに授業に利用できるものとして企画したものである。本校でも、このデータを3学期の5年理科の学習で利用した。以下はその指導案と授業の様子である。

@ 教科5年理科
A単元名「気温と天気の変化」
B単元目標川

 気温と天気の変化を調べて変化の特徴をとらえるとともに、観測結果や気象情報をもとに、日本付近の天気の変化特性について理解することができる。

C 指導計画
 第一次 気温の変化と天気

・空気の温度を観測し、一日の変化を記録する。
・気温のはかりかた、天気の判別のしかたを確認し、器具や記録用紙の準備を
する。
・雨の日と晴れの日の気温の変化を記録する。
・なぜ、雨の日と晴れの日では気温の変化が違うのか、理由を考える。
・太陽高度と気温の変化の関連に注目し、調べる。
・晴れた日の気温の変化を太陽高度の変化と関連づけてまとめる。

 第二 次天気の変化と気象予報
・天気の変化を知る情報を普段とのように得ているか話し合う。
・天気の変化の法則について意見を出し合い、数日間天気の変化を継続的に記
録する。
・天気の記録をまとめ、天気の変化に決まりがあることを話し合う。
・インターネットの気象衛星「ひまわり」の画像とライブカメラの各地の天気
をもとに、気象予報を考える。・・・本時
・天気の変化についてまとめ、天気予報が社会生活の中でしめる重要性につい
て理解を深める。

D 本時の目標
インターネット上に発信されている気象衛星「ひまわり」の画像と、「全国ライブカメラMAP」の日本各地の空の様子をもとにして、各地の明日の天気を予想することができる。

E 学習の展開

学習活動 教師の支援
1、 本時の課題を知る
天気の変化の記録を調べ、明日の各地の天気を予想しよう。
2、 グループに分かれて、気象衛星「ひまわり」の画像をインターネットで見て、観察カードに担当地区の雲の動きを記録する。
3、 全国ライブカメラMAPを見て、観測地の天気の様子を観測し、記録する。
4、 担当している地域の明日の天気を予想する。
5、 「○○地方の天気予報」を発表する。
6、 次時の予告
 
 グループごとに端末を利用させる。
 雲の変化がわかるように観察カードに記録させる。
 自分たちが担当している地域のライブカメラをインターネットで観察して、記録用紙に天候の様子を記録させる。
 グループごとに話し合いを持たせ、担当地区の明日の天気を予想させ、その理由も考えさせ
る。
 グループの話し合いをもとに、クラスで明日の天気予報とその理由を発表させる。
 

F 児童の様子
 子供たちは各グループに分かれて、インターネット上に発信されているひまわり画像の雲の様子とライブカメラの天気の様子を継続的に観察していった。

 翌日の天気を予想する話し合いでは、今までの観察ノートをもとにして真剣に話し合いを行うことができた。
子供たちは顕微鏡をのぞくのと同じように、インターネットを日常の観測機器として使いこなしているように思われた。

G 成果と今後の課題
 今回用いたインターネット上の教材は実際の授業の場面で大変有効であることがわかった。これは、気象という自然現象を学ぶ際に、学習者の身近な事象を継続的に観察・記録するだけではなく、マクロ的な気象衛星の雲の画像なども併せて活用させることが大切であるからである。今回の企画は、気象衛星の雲の画像と共に、ライブカメラで日本各地の実際の空模様を見させることによって、児童の学習意欲をより高めながら授業を行うことができたと考えている。
 ただ、現在の「全国ライブカメラMAP」は、観察地点が九カ所しかなく、十分な数ではない。全国の児童が実際に見たいと考えるすべての場所をカバーするためには、今後すこしでも多くライブカメラ設置校を増やすと共に、学校以外の企業や地方自治体が運営している既存のライブカメラにリンクを張らせていただいて、観察ポイントを確保することが必要であると考えている。
 s 現在の技術を用いれば、専用線に接続されていないサイトでもライブカメラを運営することが可能になってきている。ダイアルアップ接続でもライブカメラが運営可能になっているのでより広範な学校に呼びかけて、多くのポイントにライブカメラを設置したいと考えている。

 

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