6.4 インターネット利用実践の課題

6.4.1 利用実践から見たインターネット利用の課題

(1) ハードウェア面の課題
 各事例を概観すると、障害による操作上の不利を補うためのハードウェア的な配慮や工夫をさまざまな形で取り入れていることが各実践の特徴といえる。
 特に運動機能に障害のある肢体不自由児には、入力操作におけるアクセシビリティの工夫が必要である。ところがこれらの入力補助の程度と内容は個々の児童・生徒の障害の状況によって大きく異なると同時に、一人の子どもにおいても、その成長発達や麻痺等がある場合その進行などによっていつも同じ状況にとどまるとは限らない。
よって、たえずその体調や心理的負担などにも配慮しながらきめ細かな支援を続けていく必要がある。入力支援についての大きな課題はこうしたきめ細かな支援やフィッティングを常時行える機能を学校に付加するか、あるいは特殊教育センターやリハビリテーションセンターなどが技術的支援を行うなどの総合的な支援体制をとらなければならないということである。そうした配慮がないと各学校の担当教師の負担が大きくなり、技術的に詳しい教師がいない学校では児童・生徒の二ーズに応じた実践ができないなどの学校格差による問題が生じかねない。
また本事例においては、家庭と学校とをインターネット回線で結び、遠隔的な交流や教育指導ができないかと試みたものだが、現時点での回線速度(今回はPHSを利用しているので32k/bPsの通信速度である)やCU-SeeMeの性能では充分な動画再生は困難であり、さらなる技術革新が期待される。
 知的障害のある精神薄弱児においては、操作系列そのものを直感的でわかりやすいものとするため透過型のタッチパネルを利用する場合もあるが、個々の児童・生徒の認知発達や習熟度によってこうした入力補助機器の必要度は大きく異なる。教育指導の過程で入力操作の選択肢を多様化することによって学習計画を容易にすると言う観点と、本来学習させたい部分以外のよけいな操作上のストレスを子どもに与えないためのシンプルな操作系列を実現するといった観点において、知的障害児に対する配慮は意義がある。運動機能障害の場合は多くは機能的な不自由を補う、あるいは代替えする(子どもの側から見て最も使いやすい入力方法があればそれが主たる入力機器であり、代替えと呼ぶことは適切といえないが)目的でハードウェア的な工夫を取り入れるが、知的障害児の多くは機能の問題より学習の一過程としてハードウェア的な工夫を取り入れるところが微妙に利用意義の異なる部分である。
 視覚障害児の場合は、むしろ出力系列のハードウェア的配慮が必要となる。
 GUIであることがひとつの特徴であるインターネットにおいては、視覚情報を音声情報に代替えすることが難しく、課題となっていたが、福島県立盲学校で実践しているLynx mail gateway system は前述のようにWebサイトコンテンツ画面をシステムのあるサーバーに転送してメールの形で返送してもらい、そのテキスト化されたデータを音声合成装置にかけて聞き取ると言うものである。Web画面をそのまま音声化してもわかりよいとは言えないのだが、視覚障害者がインターネットを活用していくための現時点における有効な技術のひとつであり、本システムを設置したサーバーが各地にあり、多くの学校で利用できるようになることが期待される。また、本システムが決して最良の方法というわけでもないので、引き続き視覚障害者のインターネット利用について研究を進めていく必要がある。

(2) ソフトウェア面の課題
 現行のブラウザ、メーラーをはじめとしたインターネット関連ソフトウェアを利用するにあたっては、ハードウェアによるアクセシビリティと関連したソフトウェア制御機能がサポートされている必要がある。Windowsの場合はユーザー設定の中にあるキーボードナビゲーション機能(マウスによるポインティングを一つないし二つ程度のキーや外部スイッチ・センサー等で代替えする機能)やマッキントッシュではeasy accessの持つ機能に応じてさまざまな入力機器とソフトウェアが対応する必要がある。
 障害児はその感覚機能の障害や認知発達の段階によって画面情報の量や色・形などによって影響を受ける場合も少なくない。そこで、ブラウザやメーラーにも適宜画面情報をカスタマイズできる機能や余剰な刺激情報を制御できる機能が望まれる。これらについては、別紙「重複障害児のインターネット環境改善」の研究で詳細に検討する。

(3) 利用環境面の課題
 在宅になっている児童・生徒や卒業生のアフターケアのために家庭とのインターネット回線接続を行う場合、その設備をどう整えるかは在宅福祉の問題でもあり、今後大きな課題となる。
 家庭で回線設備等を整えた場合でもその家庭にコンピュータ等に詳しい家族がいない場合には、インターネット接続やCU-SeeMeの設定などを誰かが支援する必要がある。
 また該当の児童・生徒のいる部屋と家庭の電話回線の位置などの制約がどうしても生じるため、本事例のようにPHSなどの携帯電話とノートパソコン等を使用するのは簡便さ、設備コストの点などで有効な方法である。ただし通話料は割高になるため、こうした目的の電話使用には使用料の減免措置がぜひ必要である。
 このように家庭などと連携した教育活動では、予算措置も含めた福祉的な支援、ボランティア等も視野に入れた技術支援、教育活動としての学校と家庭の共通理解と相互信頼が重要な課題となる。

(4) 教育課程等における課題
 今後の大きな課題となるのは、学校の教育課程にこうしたインターネットを活用した活動をどう位置づけるかと言うことである。
特殊教育諸学校の教育課程編成は個に応じた柔軟な編成が可能なように配慮されているが、障害児の情報教育といった分野の共通理解がまだ充分に確定しているとは言えず、各学校での試行錯誤と実践的な研究が続いている。本事例の各校の実践は、位置づけから言うと特殊教育独自の領域である養護・訓練に位置づけている例が多い。
 この領域は、個々に応じた障害の改善・克服を目指して設定される領域であり、特に柔軟な展開が可能なことから従来の教科等の枠組みに収まらない多様な活動を展開しやすいともいえる。
 今後教育課程編成について総合的に検討を進め、特殊教育における情報教育の位置づけを明確にすると共に、インターネットの活用によって得られる教育的な意義などを共通理解していく必要がある。
 一連の事例からもわかるようにインターネットは障害児の教育活動の幅を広げ、従来の方法だけでは得られなかった交流や学習を可能にする。こうした実践事例を積み重ねると共に、教育課程に明確に位置づけられるよう大局的な見地から研究を進める必要がある。

6.4.2 メーリングリスト「edhand]の活動と課題

 メーリングリスト「edhand」は、100校プロジェクト「特殊教育共同利用企画」推進のためのメーリングリストとして、95年12月14日に発足した。当初は100校プロジェクト参加校のうちの特殊教育諸学校担当者に、アドバイザーグループなどが加わって、15名の参加者で発足した。その後、いくつかの紆余曲折を経て、さらに、小・中・高等学校教員・教育委員会指導主事・障害児教育研究者・リハビリテーション工学研究者・システムエンジニア・技術ボランティア・地域の施設職員など、100校プロジェクト参加校以外からも参加を得て、98年2月現在で約100名の規模になっている。

 以下、メーリングリスト開設の第一報から、その一部を引用する。

100校プロジェクト特殊教育諸学校メーリングリスト「特殊教育利用企画(教員用)」発足にあたって。


 100校プロジェクトの特殊教育諸学校のメーリングリスト、「特殊教育利用企画 (教員用)」が発足しました。
 先進的かつよりよい教育の充実のため、先生方の積極的な意見交換や各学校の子どもたちの参加を期待したいと思います。
 障害児教育にとってのインターネットをはじめとした電子コミュニケーションの意義については、今後このメーリングリストの中で話し合われていくことと思われますので、詳細は省きます。しかし、移動やコミュニケーションに様々なハンディキャップを抱える障害児のパリアフリーの一つの手だてとして、障害児自らが自らの言葉(もしくはそれに代わるもの)で意見を表明していくための自由な場として、距離や空間と人種、性別、障害のあるなしを飛び越えたネットワークの世界は我々が日常接している障害をもつ子どもたちの将来のために大きな意義をもっていることだけは確実といえるのではないでしょうか。
 さて、そこで本メーリングリスト立ち上げの目的やその内容についてですが、一応次のように考えました。

目的
 100校プロジェクトの特殊教育諸学校8校における活用研究と実践が円滑に進むよう、各学校、先生方への支援と検討の場を提供する。
 また、子どもたちの積極的な企画が実現できるコミュニケーションの場として活用し、様々な試行を行いながら、障害児教育から様々な発信ができるよう、準備を整える。

内容
1. 公開シンポジウム「障害児教育とネットワーク」

議題その1 アクセシビリティのあり方(障害児に優しいネットワーク環境を求めて)
議題その2 コミュニケーションとプライバシー(情報発信とプライバシーのはざまで)
議題その3 校内体制と教育課程(学校にネットワークを位置づけるには)
議題その4 こどもからの発信(こどもの自主性をどう引き出すか)
議題その5 フリートーク(ネットワークに期待するものなど)

2. 協同企画の試行
 子どもたちが参加できる企画を試行的に実施していく。子どもたちの自主的な企画が出てきたら、順次それらを尊重し、移行していく。

試行その1 「学級日誌」各校回り持ちで記入、今日あったおもしろかったことなどをできるだけこどもの目、先生の目両方で記入。それに様々なレスポンスを期待します。
 (マジカルバナナ・・・バナナといったら・・・なんて、リレートークもおもしろいかも)
試行その2 「学校と周りの人たち」リレー取材、各校持ち回りで、(週か月単位になるかな)自分の学校自慢や先生、働いている人の人物紹介、周りの産業、働く人たちの取材と紹介等々。(パソコンを捨てよ、町へ出よう・・古いかな)
試行その3 「夢を語ろう」一人一人の子どもたちの自分の夢、将来、意見、あったらいいなあなどを自分の表現で。たまにはシビアな問題提起も期待。
試行その4 「いい店、いいところ」車椅子で入れる店、対応のよかったハンバーガーショップなど、役立つ情報やちょっと嬉しかったことなどを情報交換。
試行その5 「ネットバザー」こんなの作ったよ、いりませんか?ください、あげますなど、金銭の移動がないことを条件とした(郵送費はかかるかも)バザー交換金。実際に物が届くというのも良い企画では?

 いかがでしょうか、とにもかくにも動き始めないことには問題点も明確にはなってきません。何しろ学校数は少ない(8校)障害種別はバラバラ(盲2校、ろう3校、精薄、肢体、病弱1校)、地域は広域(北は福島から南は?)ときてますから、集まって話すことも難しい。そこで、ネットのことはネット上で進めましょうと言うことになります。8校に加えて、すでにインターネット等を活用しているところや有識者(うーん、何を知っているのかだが・・)を加えて、まずは動き始めましょう。少人数の良いところを活かして、小回りよく進めていきたいと思います。そして、来年度以降に向けて、何らかの方向性なり成果が見られれば幸いです。

 子どもたちのために、障害種別を超えて交流の輪を少しずつ広げていきませんか。
 毎日メーリングリストを読んだり書いたりというのは最初は苦痛かもしれませんが、歯磨きみたいに習慣化すると何か発言しないと気持ちが悪いというようにきっとなりますよ。では、がんばっていきましよう。(^o^)/"

 ここで提起された

1. 公開シンポジウム「障害児教育とネットワーク」
2. 協同企画の試行
 のうち、後者についてはいろんなハードルがあり、実質的には、場所を移すような形(例えば、滋賀大学教育学部附属養護学校が運営しているチャレンジキッズ)で試行が繰り返されているが、前者の観点、公開シンポジウム「障害児教育とネットワーク」については3年を経た現在でも新たな課題として白熱した議論が続いている。
 100校プロジェクトがスタートした初年度は、翌96年10月30日まで続き、1210の書き込みが、次年度のメーリングリスト「edhand96」は、翌97年5月9日までの間に、のべ1216のメッセージが、本年度の「edhand97」は98年2月12日現在で1422の書き込みがなされている。
以下、最近の書き込みの中から、今後の実践に深く関わりそうな「キーワード」となるタイトルのみ一部を紹介して、討論の内容を提示してみた。

 障害児教育フォーラムについて/自己決定の(スイッチを使う)意味/障害者採用情報of日本のコンピュータ関連情報/意外と簡単な、モバイル通信/電波による障害/動画処理/「メディアと教育」/Win&Macのファイル共有/「ホームページにおける著作権問題」/重点企画アイデアの募集/アクセシビリティ機器、ソフト支援サービス/光明の入力装置一覧/インターネットのありかた(長文)/教えて下さい字幕/ビッグマックと姿勢の問題/授業記録/フレキシブルスイッチ/チャレンジキッズでの交流/都肢研・速記録より/「平成9年度版高岡養護学校ホームページ」のお知らせ/シリアルキー/岩手の小学校で学級紹介のホームページに閉鎖指導/授業記録をオープンにすることについて/「学校マルチメディアウォーズ」/原稿:コンピュータを活用した学習指導/西垣通「思想としてのパソコン」/回線サービスの種別変更について/東京都開発ソフト発表会/スイツチ以前の問題(Re:光明>5月27日の授業)/学校HPについて/保護者が作ったホームぺージヘリング/学校をどうするか・・/Fw:病弱養護学校のネットワーク構成について(お願い)/光明・重度重複児>課題の整理/視覚・触覚・エチケット・・・/TAP>どんなパソコンにもアクセス/ホームページ作成ガイドライン/各大学の障害児対応/キッズタッチシリーズ>かくれてるのなーんだ/ユニバーサルデザイン/個別教育計画/今日は盲・ろう・養護学校研究協議会/山梨大学のLYNX-MAIL/教員支援システムに関する研究/夏休み中(から)の研修>公開講座内容/障害のある子どもも楽しめる玩具/specialneedsについて/肢体不自由教育の今日的課題と今後のあり方・第一次素案/重度の子どもの情報発信/養護学校におけるインターネットの活用/障害児のネットワークヘのアクセシビリティ改善/校内指針原案/ダイアルアップLANでのセキュリティー/シリアルキーデバイスについて/標準化と個別化/全体で理解しながら進めるということ/ブラウザのアクセシビリティー/ネットワーク環境/在宅学習(教員)支援の構想/テレビ会議システム/「高齢社会における製品/生活環境等のユニバーサル化に関する研究」のホームページ/特殊教育学会に行って来ました/ホームページに関する親向け文書/神戸市のガイドライン/一部医療行為について/デジカメによる自己表現/情報発信の意義/自己紹介とRe:情報機器を活用した指導/「先端」とは?/研修プログラム・利用規約・マニュアル・・・/うちの学校のボランティア/都肢研ワープロパソコン部会11月12日/SNE学会研究大会へ参加します/情報発信こそがインターネットの本質/AACの授業を聴講してきました/インターネットを使うということ/振動・センサー・電源/光明版マジカル?>キーボードナビゲーション/訪米感想文(長文)/学校と作業所の連携は可能?/ホームページ更新のお知らせ(11/21)/肢体不自由教育とは?/WingSKでトーキングエイドによる入力は?/コミュニケーション/ATACカンファレンス/マウスの代替機器/【重要】「事例」の扱いについて など/98NXのPS/2コネクタ/ポンキツキその後/一部医療行為について>fedhans「医療的ケア」について考える/機種の混合/複数機種の問題点/日本におけるシリアルキー/インターネット利用に関する校内規定(第1次案)/IE4.01からの英語版で追加されている身障者向けの機能/「組織と人」「特権と人権/インターネットの将来像/基本的人権.. /アップル教育事例集に・・・/情報発信にこだわる?!/情報ネットワークが利用される風景/電話は補聴器の産物?求むペルの伝記/校内論議の経過/他機関スタッフと話してる、、の件/「ネットデイ」日本版(?)/保護者の利用/情報教育とは? /ホームページのユニバーサルデザイン/後援や協力というのは・・・/テレビ会議システム/GlobalCardProject/新100校プロジェクトの今後について/子供用メールソフト/理想のホームページを目指して/高原光子氏の小説/図解できるパソコン接続/障害児コンピュータのホームページ作成/HTML研修なんていらない?! /製品への二ーズ今昔/パソコンあいうえおについて/IE4のオートパイロット/選択する気概/教育サービスVS儀式/オートパイロットの活用/療育センターのホームページを公開しました/多様な二ーズ/例会のご案内/障害児にかかわる指導者のためのメーリングリスト/センターの機能/校内LAN?の構築/実践報告会/京都のネットワーク構想/養護学校のセンター化について/情報の共有/情報教育って?!/国際シンポジウムのお知らせ/雷対策/インターネットと出版/visit tocanada and us/学習会のお知らせです/EKO響きあいのフェスティバル/プレゼンテーションについて/震災から3年たって思うこと/3rd.THE MAGICAL TOY BOX/神戸市防災教育研究発表会に参加しました/教育における「使いやすさ」と「わかりやすさ」/自立について/自己決定(選択)/震災・障害児教育/タッチスクリーン/地震対応マニュアル/シリアルキーインターフェース製作会/PHS in 久里浜/光明>学校公開/トップダウンかボトムアップか?!/situmon-basic/「相互」支援・・・/FW:なかよしボードの紹介とお願い/インターネットを利用した宿題?など/徳島】自主セミナーご案内/短期研修の方のML参加について/MESNewsletter N091 available/application deadline around the corner/つなぐ人/短冊の意義?!/等身大の技術/今日はテクニカルエイド研究会/情報教育は体系化されない?!/そこにある環境/支援する人材/まいったなあ・・・1998.3.31 TRAIN FINISH 24/OCNの情報源/環境が整備されていると楽に使える/ブレーメンの身体障害学校訪問(その1)/共通理解?!/要求に応えてくれる技術者/つなぐということ/困ったときにつなげなくなりますよ/コミュニケーション&つなぐ/ブレーメンの身体障害学校訪問(その2)/中邑賢龍さんがインターネット上でシンポルでやりとり/idea and technology/【重要】写真の貼付について/take a peek/MES七尾例会の報告/身近でパソコンパンク/手順こそ大事?!/シンポルのやりとり/アンケート集約/CU-SeeMeの感想/情報教育の行方・・・
障害児のネットワーク上のアクセシビリティのあり方・ネットワークの利用技術情報・技術論・障害児教育論・実践報告・教員の研修のあり方/研修会・セミナーの案内&報告/海外障害児教育視察報告等々、「障害児教育」と「インターネット」・・・これらに関するありとあらゆる話題について、活発に意見交換がなされており・実質的に、障害児教育に携わる人たちのインターネットを使った相互支援システムとして機能しているとも言える。

 この報告を書き始めようとパソコンを立ち上げ、メールの受信を始めたら、98年2月現在アメリカの大学を訪問中の松本廣氏(国立特殊教育総合研究所)からのメールが届いていた。この報告のまとめにふさわしいと思われるので、その一部を引用してこの報告を終わりたいと思う。

Date:Fri,06Feb199804:45:15+0900
松本@Virginiaです。
昨夜、Web-Based Instruction/Learingという講座を聴講していて、
インターネットなどのテクニカルな機能は与えられるが、サイバー/バーチャル/コミュニティは与えられていない。
と聞いて、このMLのやり取りが思いうかび、このことばが印象的に頭に残っています。

MLに参加すれば、たくさんのメールが自動的に送られてきます。
これは全くテクノロジーの機能として自動的です。
しかし、送られてくるメールは自動的ではありません。
自らの思いを知って欲しい、あるいは知りたいという、
個人の主体的な意図、発信なのです。
これらは、テレビやラジオで流れてくるニュースやコマーシャルとは違いますね。
発信に対して対応があると、うれしいものです。特に異国に独りで居ると、知り合いになった人たちが笑顔で挨拶してくれること、さらに、家族は居るの?、
研究所はどこにあるの?長野は遠いの?などの話しかけと少しの会話があっただけでその人との距離が大変近くなる、うれしいですね。
これは大石さんのいう「癒し」ですかねぇ。
コミュニケーション、コミュニティですね。
小田さんのことばを借りれば、MLの機能は天から降ってくるが、MLによるコミュニティは天から降ってきません。
彼らは、サイバー/バーチャル/コミュニティについてどうしているか?
このためのロールプレイをやってるんです、これもびっくり!
でもなるほどなんですね。
コミュニティヘは、参加者である個々がどうすればいいか、ですが、個である自分の前にも、自分と同様な個である他人、他人、、、がいるんですね。

MLのコミュニティは、参加者達それぞれの地から湧く行為に支えられるんでしょうね。

インターネットもコミュニケーションの道具、
ここでも参加者それぞれのの主体性があらわれるようなコミュニティの共有、
インターネットをコミュニケーションの道具として
我々がどう使っていけるか、試されているのかも、、
私としても、互いのコミュニケーションを萎縮させる
典型的な諸行為をやってしまっているかも、と反省をこめて、、
松本廣:バージニア州、ジョージ・メイソン大学訪問中

6.4.3 利用実践から見たインターネット利用の有効性と利用方法

(1) 視覚障害児とインターネット

 視覚障害児にとって、一般の高校生などと対等な立場で討論をするという経験は、なかなか得られるものではない。交流の場を設定して討論したとしてもどうしても双方構えたものになりがちである。ネットワークによる交流はそのバーチャルな空間においては障害の有無も性別も人種も関わりなく公平な世界である。当然それゆえの厳しさもあり、甘えも許されないが、むしろ彼らの社会参加において必要なのはそうした経験の積み重ねである。ただし、これらは画面情報を視覚以外の手段で得られるようなアクセシビリティの技術があってこそ可能になったものである。
 今回の試みはまだ実践途上ではあるが、画期的な試みとして注目に値する。たまたま選定されたディベートのテーマが「未婚女性の妊娠」という高校生としても関心のあるものであったが、現在の高校生などの性知識は日常主に視覚的なものから入ってくることが多く、予備知識の点で視覚障害児の不利はさけられなかった。しかし、かえって教師に聞いたり自ら調べるなど客観的な学習ができたというメリットもあった。
点訳される教科書等についても、どうしても性教育などに関するものは少ないのが現状とのことで、オンラインディベート等によって盲学校の中だけではなかなか取り上げられてこなかったような討論を重ねる経験によって、不足していた一般知識などに自ら気づき、学習意欲を高める結果になることが期待される。

(2) 肢体不自由児とインターネット

 運動機能、特に操作にかかわる手指等に障害のある児童・生徒のインターネット活用については、これまでの100校プロジェクトの研究の中でもさまざまな実践を進めてきた。またこうした子どもたちへのアクセシビリティについては全国の肢体不自由養護学校等で熱心な教師によって実践研究が進められている。
 今回の光明養護学校の実践は、さらに一歩進めて家庭において在宅治療を受けている子どもたちに対するインターネット利用の研究であった。
 養護学校の指導形態の一つに、重い障害や治療等のために学校へ通学することができず、在宅になっている子どもたちに対する「訪問教育」がある。これは、担当教師が週に2、3日家庭を訪問し、個々の子どもに応じた教育的活動を行うものである。
 こうした子どもたちの多くは重度心身障害と呼ぶ最重度の子どもたちであるが、中には知的障害は軽いが身体的障害が重い子どもやアレルギー疾患や紫外線に当たれないなどの医療的課題によって通学ができないが学習意欲のある子どもたちも少数ながらいる。こうした子どもたちに週2、3日程度の訪問指導だけではなく、より多くの教育機会を保障するために、インターネット等を活用した遠隔教育の導入が検討されている。現状においてはCU-SeeMeの性能や回線速度の制約によって十分な動画再生がかなわない状況にあり、テレビ電話やピアツーピアのコンピュータ会議システムの方が有効な場合もある。しかしこれらのシステムはデジタル電話回線を占有する上、通話料は相手が離れたところにある場合市外通話となってコストがかかるなどの欠点もある。その点インターネットによるCU-SeeMeが実用的になれば、近隣のアクセスポイントまでの通話料ですむ上、場合によっては何カ所かの複数のポイント間の相互通信も考えられる。このシステムは障害児のためだけではなく、独居老人のケアや不登校の子どもたちの教育などにも応用できる可能性もあり、ぜひ早急の技術革新を期待したいところである。

(3) 精神薄弱児とインターネット

 知的な障害のある児童・生徒へのコンピュータ利用やインターネットを利用した教育について、未たにその意義を疑問視する声がある。これは精神薄弱教育を長く経験している人たちと、逆に実態をよく知らない人たちの双方から発せられる意見であるが、その意味するところは同じではない。
 精神薄弱教育の経験者からの意見の背景には、従来から蓄積してきた伝統的な教育観がもとにあると考えられる。すなわち、精神薄弱者の社会参加や社会への適応は、知的生産活動ではなく労働や単純作業によって行うものであるという考え方である。
これは、確かに抽象的な思考や論理的な判断において困難のある精神薄弱児の認知発達等の特性から発想されたもので、「働かざるもの食うべからず」と言った社会風潮の中で彼らの社会参加の方法を労働力の提供に求めたと考えることもできる。
 よって、これまで精神薄弱教育は、前述の認知発達の特性をふまえて、実体験や日常生活を主体にした経験主義の学習展開を採ってきた。彼らは確かに論理で学ぶより体験で学ぶ方が直接生活に役立つスキルとして定着させやすい。コンピュータやインターネットと言ったいわばバーチャルな世界で進められる学習分野が何かと敬遠される理由はここにある。
 しかし彼らの知的活動は発達が遅れているのであって、適切な教育活動と支援によって伸びて行くものであることは明らかである。それにもかかわらず、精神薄弱児はコンピュータのように難しいものはできないはずだと考えるのは早計であり、彼らの学習の機会と可能性を限定してしまうことになる。
 一方一般的な知的障害児への見方は、知的レベルの高さあるいは学歴の高さが人間の価値と考えられている我が国の社会においては、さまざまな誤解や偏見が存在している。中でもコンピュータやインターネットについては知的活動のステータスと見なされているため、知的障害児に使えるわけはないと言う根拠のないイメージが先行している。
 さて福井大学附属養護学校における実践研究は、日常の学校活動の中で無理なくコンピュータやインターネットを取り入れている点が特徴である。精神薄弱児の場合、学習への動機付けや意欲の喚起が大切であり、無理強いしたり本人の意思を尊重しない教育活動は学習効率の上からも好ましくない。その点、楽しみながらネットワーク交流や情報収集などを自然に身につけるように配慮しているのは適切な方法である。
精神薄弱教育においては地域や学校による実態の差が大きい上に、知的な障害の程度やさまざまな配慮事項など、実際の態様は極めて個別差があり、知的障害であるということ以上に個々に応じた教育的配慮が必要となるため、今後さまざまな実践を積み重ねながらその教育的な効果や意義について研究を深める必要がある。
 インターネットなどを用いることで子どもたちに提供できる交流や人的広がり、インタラクティブな学習環境は、新たな社会参加の形をもたらし、精神薄弱教育全体を質的に改革する契機となるものと期待される。

(4) 特殊教育におけるインターネット活用の意義

 各障害種別ごとに新100校プロジェクトにおける実践研究を概観してきたが、共通して言えることは、各校とも担当教師の創意工夫と努力によって、インターネット及びその周辺の技術を活用して障害のある子どもたちの学習活動を豊かにするために、さまざまな実践を積み重ねていることである。
 インターネットは、学校から社会や他の世界へと「つながりあう」ための窓であり、パイプである。障害のためにどうしても移動が困難であったり、補助的手段を仲介させるためにどうしても同しべースでコミュニケーションをとることが困難な場合、このインターネットをはじめとした広域ネットワークは、自分のべースで随意の時間に情報発信の準備をし、学校や地域社会だけでは触れることのできなかった人々に自分の意思や自らの持つ情報を発信することができる。
 こうした活動は、従来の学校教育の中だけではどうしても体験できない分野であり、障害児にとって学習する機会の乏しかった分野である。各学校の実践事例でも、同世代の高校生とのディベート、在宅になっている子どもとのリアルタイムのコミュニケーション、知的障害児の情報活用と他校あるいはボランティアとの交流など、従来の教育方法では実現し得なかった事柄ばかりである。教育の可能性を積極的に広げ、よりよい社会生活を送る上で大切な要素を学習する場として、インターネットは今後より多くの期待を抱かせるメディアといえる。
しかし、こうした実践を支えるには、障害に応じたアクセシビリティをはじめとした技術的な支援と研究開発、および教育課程に位置づけてすべての子どもたちがこうした新しい教育リソースの恩恵を得られるよう、さらなる研究の場が必要である。
 こうした研究は、決して一部の障害児のための特別な機器開発にとどまるものではなく、今後迎える高齢化社会をはじめ、さまざまなユーザーフレンドリーな情報環境を考える上で重要なキーワードとなっている。障害のある人にとって使いやすい機器やシステムは、万人にとって使いやすいものの追求に他ならないのである。こうした考え方の元に機器を開発、デザインしていくことを「ユニバーサルデザイン」と呼ぶが、それは今後の社会全体が自分の問題として取り組んでいかねばならない重い課題でもある。誰もが年齢を重ね、老いていくのはさけることができない運命である。そうしたとき、社会は相互に支え合い、誰をも切り捨てないというコンセンサスを持った社会を作り上げていく必要があるからである。インターネットのような先端技術は、すべての人々の共有できる財産としてこそ存在意義がある。今回の研究で実践された事例は確かにまだ試行錯誤の段階であるが、将来における学校教育全体の充実発展につながる貴重な実践と評価することができる。今後は、こうした実践を支えるさまざまな支援体制を、ソーシャルリソースを共有するという観点から、メーカー、行政、ボランティアなどの積極的な協力・連携の上で整えていくことが必要であろう。

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