第5章●実践事例の紹介

第1節 小学校

1. 電子メールと実物の郵送によるニュージーランドとの交流

1. 背景

 国際化の波はわが豊橋市にも押し寄せ,今や35人に1人の割合で外国人が居住する市となった。本市では,国際感覚を身につけた子どもを育成するため,昭和59年度から中学生を,平成6年度からは小学生の海外派遣を行っている。また,学校同士が友好提携を結び,作品交流と生徒代表の相互訪問を行う事例も報告されている。けれどもこれらの交流には三つの大きな壁が存在すると考える。それは,一部の児童生徒に限られている点,やりとりする時間がかかり即時性に欠ける点,共同学習の場が設定されにくい点である。

 6年3組の子どもたちも,3年前から学校に導入されたコンピュータを表現手段の一つとして親しんでいるが,英語に堪能な2名の帰国子女の影響もあって,英語圏の学校とインターネットを使った即時性のある国際交流をしたいという願いをもつ者が現われた。

 そこで,インターネットを利用して相手校を探したところ(募集要項や学級の様子をのせた英語版のホームページを作成し,海外の検索エンジンに登録した)志を同じくするニュージーランド(以下Nz)の小学校を見つけだすことができた。この機会をとらえて,6年3組全員をこの交流に巻き込み,新しい国際交流のあり方を模索してみたいと考え,学級全体に諮ったところ,2名の帰国子女の力を借りて学級全員で取り組んでみることに決まった。

2. 交流のねらい

 交流の際学級レベルで取り組むもの(実物の郵送)と個人レベルで取り組むもの(電子メールの交換)の二つの柱だてを考え,資料2のように指導計画をたてる。

3. 交流の実践

1)ニュージーランドの文化を知る

 9月2日にNzの子どもによる学校紹介とペンパルの募集の電子メールが届いた。それに対して子どもたちは,ペンパルを決定するとともに自分たちの紹介新聞を画用紙で作成し郵送した。新聞の内容は,日本の歴史を始めとして,授業や放課時間の様子,清掃,給食,部活動等が選ばれた。作品を見ると,辞書を引き,自分たちの分かる範囲で英語に直している努力がうかがわれる。この学習に関する子どもたちの感想を読むと,日本のことを分かってもらう作業を進める中で,より深く自国の文化を知ろうとする意欲が芽生えるとともに自国文化の理解が進んだことが伝わってくる。

 11月12日,Nzで作成された現地紹介が到着した。どの作品も鮮やかな色使いで仕上げられており,子どもたちは,自分たちとは感覚が違うということをすぐに悟ったようである。

 子どもは自分たちのまとめた紹介と共通点を見い出したり,相違点を話したりして,Nzに対する関心が高まったようであった。

2)文化の壁を知る

 さて,Nzからの紹介や個人レベルでの手紙の交換を通して,子どもたちの心にNzに共感する心が育ってきたように感じたのであるが,それはそれでとても大切なことである。しかし,文化を異にする人間とは共感できないものがあることも現実であろう。こういった受け入れにくい事実を知ることが,真の国際理解につながるという考えから,若杉氏(現地校に勤めている日本人)に日本とNzの違いについての資料を送っていただき,子どもたちと一緒に考えた。

 「ハンカチで鼻をかみ,くしゃくしゃにしてポケットにつっこむ」ということに子どもは我慢できないと答え,話し合いも,このことが1番の話題になった。ところが,初めは一方的に汚いと攻撃していた子どもたちが,話し合っていく中で,習慣は国によって大きく違うものだということに,少しずつ気がつきはじめ,その習慣の違いに対して寛容になってきたのである。この授業を終えた後,我慢できるかどうかを再び聞いてみた。我慢できない子どもは,31人から9人に大幅に減少した。

 文化の違いは互いに乗り越えなければならない大きな壁であるが,自分のものさしではなく,相手のものさしでものを見ようとした時に「相手を受け入れる」という一歩を子どもたちは踏み出せたのだと思う。

3)共同学習で心を合わせる 

 子どもたちの発案で,言葉の壁に影響されないですむ絵を使った共同作業をしようとすることになった。Nz側の了解もとれ,愛子の発案で,資料4のように旗を作ることになった。旗作りのテーマは,友情,花,鳥,食べ物,漫画などの多岐にわたった。旗は「友情の旗」と名付けられ,どの子もNzの子に喜んでもらおうと真剣に作成する姿が見られた。

 12月12日,待望の「友情の旗」が送り返されてきた。どの子も大喜びで友達と見せ合っていた。

4)電子メールによる友達作り

 個人レベルでの交流のために,インターネットでの電子メールを利用した。Nzからの最初のメールに日本と文通したい子どもが載っていたので,国際係が中心となって,本学級の希望者に振り分けた。抽出児童として,本学級の美沙とNz側のニクの手紙から,検証することにする。

 まず初めに,ニクが自分の友だちや,ペットの猫のことを紹介した。それを受けて,美沙は私も猫が好きだと返事をし,交流し始めた。

 

 ニクの4通目の手紙では追伸の部分に自分の名前をニックネームで呼ぶようにいっている。Nzの人がニックネームで呼び合うのは親しい証拠であるので,これから判断するとニクは美沙と親しくなろうとしていることが分かる。また,ニクは美沙の写真を欲し,美沙とも会うことができたらと考え始めているようである。こういったニクの働きかけに,資料5で美沙はニクを友だちとしてはっきりと自覚をしている。

 また先程述べた友情の旗では,美沙の旗にニクは「ともだち」とわざわざ日本語で書いていることからも,二人の友達意識は相当高くなっているように思う。

 さて,ここで,一つ留意したいことがあるそれは資料5において,美沙は実際に会うときのために英語を勉強し始めたと述べていることである。言葉の壁を乗り越えようとする気持ちが生まれていることが分かる。

4.  研究の成果

1)子どもたちの意識の変化から

 資料6の中で注目したいのはNzの子どもを変わっていると思いながらそれでも好きだと感じている点である。

 また,相手をおもしろいと思う子どもの急激な増加もあわせて考えると,子どもの成長の様子が次のように浮かび上がってくる。それは,異質な文化の違いを違いととらえながらも,興味をもち好意的に受け入れる姿である。ここからお互いのそれぞれの価値観を尊重し合う態度が育ってきていることが分かる。これは,昨今のいじめにみられるような,異質なものを排除しようとする態度とは正反対のものであり交流の大きな成果である。

 また,英語を介した電子メールは,Nzと日本の子どもとの友達意識を育み,国境をこえて人間が存在していることを肌で感じさせることができた。(実物を郵送したことは子どもたちのメールのやりとりに格好の話題を提供した。)そして,言葉の壁を体感させることで英語を学ぼうとする意欲も生まれてきた。

2)在日外国人への意識の変化

 12月17日に書かれた本交流の感想から子どもの意識が意外な方向に展開し始めたことが分かった。それは,日本国内に住んでいる外国人への意識の変化である。本校には国際学級が設置されており,校区には,多くの外国人の方が住まわれている。この方たちを見る目が変わってきたのである。

 資料7から,今まで外国人を怖がっていたことが分かる。これは,文化や習慣の違いからではなく,むしろ外国人とはどのようなものであるかを知らないためであるように思う。つまり,相手を知ったためでの恐れではなく,得体の知れないものへの恐れなのである。本交流を通して,この子は恐れて逃げていた自分を省み,相手のことを知ろうと努力する姿勢に変わってきている。ここに学習の真の成果を見ることができる。

5. これから始める方へのアドバイス

1)翻訳

 教師が語学に不得手の場合,翻訳ソフトに頼るか,地域のボランティアを捜 すとよい。本交流では,帰国子女2名が全ての英和訳を行った。帰国子女の英語力保持にもなるため,保護者の方にも積極的に支援していただくことができた。

2)交流校の探し方

 英語で自分の学校のホームページを作り,それを外国の検索エンジンに登録しておく。すると,それを見た外国の学校から交流の申し込みがたくさんくる。

 筆者のところには,一日おきに交流の申し込みがある。

 (参考 http://www2a.meshnet.or.jp/~yasu/)

 そのホームページに,どういう交流をしたいか等の条件を書いておけば自分にあった学校を選ぶことができる。

3)コーディネーターを見つける

 相手校に日本人または日本のことが分かる人が欲しい。細かな打ち合わせや文化の違う相手校教員との,意思の疎通を図るためである。打ち合わせは,電子メールで頻繁に行うことが必要である。

4)実物の郵送は必要

 電子メールによる交流をベースに手作りの新聞や絵,旗,お菓子等の郵送を行うとよい。実物は電子メールのやりとりに格好の話題を提供するとともに,文化の違いを体感させることができる。ただ,このためには若干の金銭が必要になる。(筆者の場合はポケットマネー)

6. その他

1)相手校の概要 Hampstead School (Asuburton,New Zealand)
全校10学級 児童数約300人 教員数13人 対象児童5,6年生
2)本校の概要 19学級 児童数約550人 対象児童6年3組(男19女14)
3)交流期間 平成8年9月から平成8年12月まで
4)ネットワーク環境  PC17台 商用プロバイダーにppp接続
5)学校名 愛知県豊橋市立羽根井小学校
6)作成者 鈴木康弘 (y-suzuki@mxd.meshnet.or.jp)

 


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