2. 国際教室とKIDLINK

1.  交流のねらい

 本校の国際教室には,日系の両親と来日している11人の子ども達が共に通ってきている。親学級が国語の時間に彼らは国際教室に来て日本語の勉強をしている。国別に見ると,ペルーからの7人,ボリビアからの3人,そしてフィリピンからの一人の合計11人である。子ども達は日本語がまるで出来ないまま日本の学校に入り,日本の子ども達と同じ授業を受けることになる。神奈川県では,こういう彼らが日本の学校の授業についていけるために日本語の指導をしようと国際教室を開設している。

「パッティー先生とブラジルの
リオデジャネイロで会う。」

 ペルー,ボリビアというスペイン語圏から来ている子ども達に日本語を教える時,彼らの母国語であるスペイン語の理解力を活かすことが出来ないかと考えた。また外国語としての日本語学習は,海外で日本語を習っている子ども達にとっても生きた学習の教材を提供することになる。

 そこでKIDLINKの世界の仲間によびかけた。英語・スペイン語・ポルトガル語そして日本語と,お互いに日常使っている言葉は違うが,言葉の違いを乗り越えて,「絵」を相互理解の助けとする方法で,そこに「橋」をかけようということになった。

2. 相手校を見つけた経緯

 アメリカはデルマー小学校のパッティー先生とは,1995年以来お互いのプロジェクトであるWWFAXプロジェクト95,96でこれまで共同研究を続けて来ている。今年はスペイン語圏の仲間を交えてこれまでのプロジェクトを更に拡大していこうと考えた。またKIDLINK本来のプロジェクトの中にも,アートとしての「絵」を世界の子ども達から集めようと言う取り組みもあり,計画を進めた。そこで,アメリカ・ペルー・ウルグアイ・ブラジルそして日本の五カ国共同プロジェクトとして取り組む事になった。

3.  交流内容の設定

 WWFAXプロジェクト97として,"Drawing us closer together"という取り組みを始めることにした。これは,これまでの英語-日本語だけでなく,更に多くの違った言葉を話す子ども同士が,「絵」を仲立ちに,相互理解を深めようとする内容である。

4. テーマ内容

 子ども達は,自己紹介から始まって,自分達ちの日常生活の様子について,「絵」と自分達が普段使っている短い言葉で交流を進めていくことにした。教師は,その際,自分達の子どもの様子を英語で短くコメントを付けるようにした。

5. 活用領域

 彼らの日本語学習と同時に,生活の違いを乗り越えて日本での生活に適応し,異文化理解の活動とした。更には,彼らの母国語であるスペイン語保持の学習の場にもした。

 国際教室の子ども達の日本語学習は彼らのメインの学習である。国語の分野では,二年生が「おてがみ」という物語教材を日米で共同読書をして「友情」について考え合った。

6. 交流実践

 交流の柱は二つある。一つは,「外国語としての日本語学習」をインターネットを通して海外のKIDLINKの仲間に紹介していく事である。学習の成果を「絵」に表わして送る事により「言葉の壁を乗り越えよう」という試みだ。他の一つは,日本語学習の方法として子ども達のスペイン語の理解力を活かすためにインターネットでスペイン語をも使った交流を続けることである。

 まず,自己紹介の文から始めた。

 「わたしのなまえは,○○○○,ペルーからきました。わたしのすきなべんきょうは,たいいく,すきなたべものは,いちごです。」銘々がこんな風に,文を書き,自己紹介の絵を描き,更には,日本語やスペイン語で録音して一つの「絵」を完成させて行った。これをまずアメリカのパッティー先生の所に送った。アメリカでもやはり自己紹介を写真入りで作って,先生のホームページに載せて紹介してくれた。

 またある時には,ひらがなやカタカナで「あいうえお」をまとめ,ローマ字も付けて送った。数字で一から十までをまとめた事もあった。

 子ども達はお絵描きソフトのスタンプ機能を利用して,そのスタンプの絵にひらがなとローマ字で名前を付けた。簡易絵辞典である。その後も,このお絵描きソフトを使って,日本語学習のまとめを行った。

 また,作文のまとめにも使った。その内容を「絵」で表現しその絵に声を録音して完成させた。二年生のある女の子は,この方法で運動会の練習の事,秋祭りの事,冬休みの事,生活科の授業で竹馬で遊んだこと,コンピュータで絵を描いた事等々いっぱい作品を残した。また,ある四年生の男の子は,遠足の事,運動会のこと,林小まつりの事,近くのサンホームという施設に訪問した事,等々の絵にスペイン語とひらがなの日本文を書いて行った。そのスペイン語と日本文を読んで録音も同時に記録して行った。

 これらの日本語の学習は,例えば,アメリカから,「日本語で数を数える時,どう言うのですか」とか「日本語で,赤,白,青等,色の名前を教えてください。」とかの質問に対する返事だったりした。

 これが後に英語-スペイン語-ポルトガル語-日本語の一覧表にまとめられた。そこには,色の名前,月の言い方,数字の一から十までの数え方が出てくる。

 一方でスペイン語に関しては,ウルグアイの子ども達の「ぼくのねこがどこかへ行っちゃった」(El gato se esta escapando)というメッセージから始まった。「言葉の壁に橋をかける」ことはKIDLINKの課題でもある。

 しばらくしてアメリカのホームページに,「ねこはみつかりましたか」とか「スペイン語を教えてくださいね」という子ども達のメッセージが紹介されて行った。

 今度はペルーからカラフルな絵が届けられた。パッティー先生は,その絵のプリントを持って喜んでいるアメリカの子ども達の様子を写真入りで紹介してくれた。日本でも,それをプリントして廊下の掲示板に張っておいた。

 1997年12月にはブラジルからクリスマスの絵が届けられた。南米の学校が長い夏休みに入る寸前の事であった。それに対して,アメリカと日本の私たちもクリスマスの絵を描いて送り合った。

 ねこの話が盛り上がっていったので,日本からもねこの絵を送った。 パッティー 先生が自分のホームページに紹介してくれている。

6年生が描いたねこの絵

7. 児童の変容

 子ども達もコンピュータを使う事は好きなので,積極的に取り組みは始まった。しかし,文を書き,絵を描き,更に録音までするという課題は彼らにとってはそんな簡単な事ではなかった。特に日本語でしゃべって録音する事とか,スペイン語で録音する事には躊躇があった。だから,小さい声でしかしゃべらず,ノイズの多い録音になってしまった。

 それが何時頃からか,この方法にもなれていったようだ。まずスペイン語で文を書き,次に絵を描き,更に,日本語とスペイン語で録音するという一連の活動も助けてもらわなくても自分一人で出来るようになっていった。

 コンピュータを使わない学習においても,大きな声で発表するようになったり,積極的に日本語を使おうという姿勢が出てきたりした。まだ日本語がよく分からない友達の学習では,スペイン語と日本語の通訳をかって出てくれる子も出てきた。

8. 先生の立場での成果

 日本語が全然分からない子ども,それも外国から来た子どもに「外国語としての日本語」を教えると言っても,どこから始めたらいいかよく分からなかった。絵がふんだんに使われているテキストを使ったり,書く事を多く取り入れた授業作りをしてみたりしてきた。またパズルやカードを使って,遊びながら日本語を楽しく学べるように工夫もしてみた。 

 それは成果があり,子ども達は喜んで国際教室に通ってくるようにはなってきた。しかし,彼らの母国語であるスペイン語を無視して,日本語だけを教える事に対する疑問が出てきた。自分自身がまるで分からないスペイン語を扱う事に躊躇はあった。しかし,KIDLINKの仲間に助けられて,日本語-英語-スペイン語の三つの言葉を行き来するようになって行った。子ども達にもその様子を紹介してきた。話がスペイン語となると彼らの本来の明るさが表面に出てきた。

 インターネットを日常的に使って,スペイン語の学びを始める事ができた。私自身のこの学習が子ども達の日本語学習に活かせるものと考えられる。日本語を教える時には,私が先生であるが,スペイン語を学ぶ時は,子ども達が先生になる。そんな生徒と先生の間柄が子ども達の更なる学習の励みになればいいと願っている。

9. これから始める方へのアドバイス

1)英語が分からなくても,「絵」を使うことで,交流を進める事ができる。そして,英語も少しずつ覚えるようになるものである。他の言葉に関しても,この事は言えると思う。

2)インターネットでの交流だけでなく,国際郵便を使って,ビデオや手紙を交換することも有意義である。

3)テレビや新聞のニュースでは報道されないごくごくささやかな事柄もお互いの「今」を伝える貴重な情報になり相互理解に役立つものである。

10. その他

1)交流した相手校の簡単なプロフィール

 アメリカ・デルマー小学校,二年生から六年生及びペルー,ウルグアイ,ブラジルの小学校

2)林間小学校の簡単なプロフィール

 国際教室,11人,二年生から六年生,日本語学習,国際理解

3)交流期間

 1997.9-1998.3

4)ネットワーク環境

 新100校 計画に参加,専用線にて24時間接続,サーバはUNIXマシンでPANIXソフト使用,クライアント2台,別途国際教室内LANによりMacintosh 4台教室内接続

5)学校名と担当者,ホームページURLとE−Mailアドレス

 大和市立林間小学校

 校長 岩崎 隆 / 教諭 島崎 勇

  http://www.rinkan-es.yamato.kanagawa.jp/

  simazaki@rinkan-es.yamato.kanagawa.jp

6)注釈その他

・KIDLINKの簡単な紹介

 KIDLINK は,15才までの子ども達が集う世界的なネットワークです。

 電子メールによりいろんな話題が活発に議論されています。

・KIDLINKのホームページ

 http://www.kidlink.org/

 日本語のページ

 http://www.kidlink.org/japanese/general/

・WWFAXプロジェクトについて

 WWFAXというのは,WorldWide Friendships Are eXcitingの略です。

 「インターネットでの出会いは楽しいよ」という意味です。


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