第2節 中学校
1. WSJと翻訳ボランティアの協力で国際交流
1. 交流のねらい
生徒には,@身近な自然観察から始めさせて,様々な環境問題に気づかせる。A自分の考えをまとめて発表できる力を育てたい。B異文化に触れながら,視野を広げさせたい。この3つが大きなねらいであった。
生徒は,遠い国の相手に事実や自分の考えを伝えるために,生徒自身の学びが深まっていた。
2. WSJの紹介で相手校を見つける
東京には,ワールドスクールジャパン実行委員会(WSJ)という環境教育プログラムや冒険学習,海外の生徒との交流を行っているNGOがある。本校では,1995年からこの委員会に参加した。本校の生徒は冬合宿でハクチョウの餌づけを体験し,餌づけの是非について考えはじめたが結論が出なかった。そこで96年1月,WSJ事務局に「外国での餌づけについての考えを教えてください」というメールを送ったところ,WSJ事務局の紹介により,アメリカ,ミネソタ州のRice Lake Elementary SchoolのPaula Andrzejewski教諭からメールが届き,それ以来交流が続いている。E-mailは,翻訳スタッフに翻訳していただいている。
重要な点は,@交流の分野が決まっていた。Aもっとも適切な相手を紹介していただけた。B翻訳ボランティアにより英語の壁が取り除かれて,交流が盛んになってきたと言えるだろう。
3. 交流内容は,野鳥の視点で環境問題
E-mailの交流を始めてみると,本校の生徒は武蔵野市内でツバメの繁殖調査をしており,Paula教諭のクラスは,学校の敷地内でBluebirdの巣箱を架けて観察していることがわかり,野鳥観察という共通点があることがわかった。
交流が始まってから約1年後の96年11月,Paula教諭から共同プロジェクト「Birds in Our Backyard」の提案があった。年度の区切れが日米で異なることや,卒業,入学で3.4月は忙しいことを伝えて,プロジェクトは96年12月からスタートした。参加校は,日本2校,アメリカ3校とWSJ事務局でスタートしたが,諸般の事情で最後まで継続できたのは,本校とPaula教諭の2校だけとなってしまった。内容により低学年の生徒には難しいことが多かったようだ。
4. テーマ内容
人間と自然環境や野鳥との関わりについて,事実と自分の意見発表,意見交換を中心に交流した。
5. 活動領域
生徒の活動時間は,放課後の部活動の時間であり,学年を越えた1〜3年生が同じテーマで意見交換を行ったので,下級生は上級生の意見を参考にすることもできた。内容は,理科の食物連鎖などにも関連し,意見発表では,国語科の文章作成の練習となっていた。
6. 交流実践 共同プロジェクト「Birds in Our Backyard 」
1)参加校
・Rice Lake Elementary School | 教諭 Paula Andrzejewski |
・Northridge Elementary School | 教諭 Vivian Meiers |
・Prairie Wind Middle School | 教諭 Becky Rennicke |
・新潟県湯沢町立上関小学校 | 教諭 佐藤 守正 |
・東京都武蔵野市立第六中学校 | 教諭 井口 豊重 |
2)地域の観察からクイズを作る
@クイズ:私達はどこに住んでいるでしょうか?
Aクイズ:私達の周りにはどんな野鳥がいるでしょうか?
B答 え:私達の周りにはこんな野鳥がいます。
3)環境問題のレポートと意見交換
@農薬と野鳥の汚染
本校からは,OECD調査による先進国の農薬と窒素肥料使用量比較データから,農薬使用量が多い日本の農業につての意見。アメリカからは,DDT等の食物連鎖による濃縮でハクトウワシの減少について。
A日本海ナホトカ号重油流出事故と海洋汚染
日本からは,97年1月2日の重油流出事故とボランティアによる回収,海洋汚染,海鳥の汚染についてレポートと感想。アメリカからアラスカで原油流出事故についいて。
B生ゴミと野鳥(東京のカラスの増加)
東京では,5年間に2倍に増加しているカラスについて,原因の一つが人間が出す生ゴミをカラスが食べていること。間接的にカラスに餌をやっている現状について,専門家との意見交換のレポート。
C鉛の散弾による水鳥の鉛汚染
日本語版と英語版のビデオ「水鳥の鉛中毒」(IWRB国際水禽湿地調査局)を見て,その仕組みと日米での意見交換。
D洪水と人間生活
ミネソタ州のレッドリバーの雪溶けによる洪水のレポートから,洪水対策(日本の輪中,オランダのポルダー)や遊水池を調べたりして,洪水対策について意見交換。
写真 Paula先生が送ってくれた新聞を見て洪水の激しさを理解
Eまとめ
環境問題の中から,意見発表した農薬,重油流出,ゴミ,鉛中毒等を振り返り,自分の意見をまとめた。
4)野鳥の観察レポート
@アメリカからBluebirdの巣箱観察レポート
巣箱をめぐるBluebirdとスズメ,ミソサザイ,アメリカコゲラ,ヘビ,アライグマとの競争など観察記録レポート
A武蔵野からツバメの繁殖調査レポート
6年目を迎えたツバメの繁殖調査について。
5)トッピクス
@Paula先生が武蔵野六中を訪問して生徒と交流(1997.1.21)
写真 Paula先生と本校の生徒がプロジェクトについて交流
Aヘールボップ彗星を見て感想を交換
B学校の様子やクリスマス,正月,サンクスギビング等などでも交流
7. 生徒の変容
このプロジェクトに参加した生徒の感想文を紹介する。
「最初はクイズ感覚で始めたのですが,だんだん内容が複雑になってきて,意見を考えるのにずいぶん時間がかかりました。『鳥は環境のバロメーター』なのだということを実感しました。同時に自分の意見がはっきり言えるようになりました。行事のことやプレゼントの交換をしている内に,アメリカという外国が前よりも近くに感じられるようになりました。これからも自分の身の回りの鳥を通して,自分の視野,世界を広げていきたいです。」 3年生 Mさん
「ポーラ先生とプロジェクトを進めてきて,アメリカと日本のとても距離の離れた場所で,インターネットを通しての交流は,とてもいい経験になったと思います。また,何度もメールの交換をやっていくうちに,今まで苦手だった『文を書く』ということがとてもスムーズにできるようになりました。ポーラ先生とプロジェクトを始める前までは,野鳥のことに関しては自然探究部で市内のツバメのことについて調べたくらいしか知らなかったし,興味もあまりありませんでした。しかし,プロジェクトを始めてからは,身の回りの野鳥についてやポーラ先生の学校の近くに住んでいる野鳥などについて調べました。そして野鳥のことにも興味がでてきました。このプロジェクトを進めてきて,最初はあまり興味もなかったけど,農薬や洪水,ゴミ,重油などいろいろな観点から鳥について意見を交換していくうちに自分でも興味を持ち,いろいろと意見を言えるようになりました。このプロジェクトはとてもいい経験になったと思います。」3年生 B君
8. 教員の立場から
交流相手に恵まれ,予想以上に生徒の意見内容が深まったことに感謝している。お互いの学校行事や授業の進み具合により,スケジュールは大幅に遅れたが,思いやりと持ち味を生かして継続できた。
生徒は,自分の発表を通して思考力,表現力が高まっていった。この交流実践は,「総合的な学習」の一例と言えるのではないだろうか。
9. これから始める方へのアドバイス
1) 交流の分野をしっかり決める。
2) コーディネータに適切な相手を紹介していただく。
3) 言葉の壁を乗り越える翻訳ボランティアの協力依頼。
4) 交流内容は,幅をもたせて,相手の持ち味を認める。
5) 無理なスケジュールを立てない,気長に取り組む。
6) E-mailだけでなく航空便でプレゼントやビデオ交換も。
7) 相手に感謝の気持ちを忘れずに。
10. その他
1)相手校の簡単なプロフィール
アメリカ,ミネソタ州の小学校5年生の1クラス,児童29名
2)本校の簡単なプロフィール
東京都武蔵野市立中学校,部活動「自然探究部」1-3年の生徒20名
3)交流期間
1996年1月から継続中(1998年1月現在)
共同プロジェクト期間は,1996年12月から97年6月
4)実践上のネットワーク環境
インターネットへの接続は,商用プロバイダー経由のダイアルアップ接続。
インターネットを使えるWindowsコンピュータは1台のみ。
その他の生徒用コンピュータは,MS-DOSコンピュータが40台。
5)学校名と担当者 ホームページURLとE-mailアドレス
・武蔵野市立第六中学校 校長 菊山直幸,教諭 井口豊重
http://www.threeweb.ad.jp/~toyosan toyosan@tky.3web.ne.jp
・Rice Lake Elementary School Paula Andrzejewski教諭(5年担当)
http://www.centennial.k12.mn.us/rle/birds/birdsin/html
・ワールドスクールジャパン実行委員会
http://wsj.ecoclub.or.jp