第3節 高等学校
1. 国際理解を深めるためのインターネット活用
1. 交流のねらい
高校生が世界の中で自らを見つめ,自発的に情報を収集し,判別し,消化したのちに自己の意見を発信していく態度を身につけていくことをねらいとした。生徒のコミュニケーション能力の向上に必要なものは何か。それは人と人とのコミュニケーションが成立するためには,その伝えるべき内容が最も重要な要素である。
1)他人の意見の受け売りではなく,自らの意見を自らの言葉で表現させるにはどうしたらよいか。
2)うわべだけの英会話でなく伝えたい内容をしっかりと多方面から考えさせるにはどうしたらよいのか。
3)自分の考えを伝えたい相手は誰か,教室という閉ざされた環境でよいのか。
以上の3点を考えたときに,教室の枠を越えて,自ら考え,発信する態度を養うには世界的規模のネットワークであるインターネットを利用するのが最適と判断した。
2. どうやって相手校を探したか
学校のWeb上に公開している生徒たちの自己紹介に対して興味を持った学校が交流を申し込んできた。
3. 交流内容の設定
昨年度,本年度共に,授業で書かせたものをインターネット上に公開し,それをもとに電子メールを使った意見交流を行うことを主眼とした。
4. テーマ内容
「ことわざ」という一つの共通テーマを掲げて,日本語と英語でのことわざのニュアンスの違いを理解させて,その意味が具体的に解るような物語りを英語で作成し,ホームページに掲載した。
高校生の日常生活,学校生活,核実験の是非,環境問題などのトピックスを選び各生徒に英文で文章を書かせ,完成後Web上に掲載した。
5. 活動領域
生徒の活動時間は英語学習の時間で2年生の全員を対象にしたライティング('96年度)と3年生の選択でのライティング('97年度)の授業で行った。外国人講師(以下ALT)とのティームティーチング形式(TT)で実施した。
6. 交流実践……ライティングクラスでの実践
1)対象:2年生全員,40名×7クラス 英語の授業 昨年(96年)。2年生のライティングの授業では週3時間のうち,1時間をALTとのTT形式で授業を行った。テーマに基づいた英作文をさせ,それらをWebに公開し,それを基に海外との意見を交換していく,というプロセスを念頭に授業をすすめていった。その前年度の経験から1対1の電子メールの交換を主にした交流だけでは,相手に依存するところが大きく,計画が立てにくいと考え,まず,生徒達の自己紹介をWebに掲載することにした。生徒2人に1枚のフロッピーを持たせ,そこに紹介文を入力させ,提出されたテキストを編集し,クラスごとにページ作成を行った。電子メール交流を求める海外の生徒,教師もそのページをみればこちらの様子がわかり,交流についてのイメージもわきやすい,と考えた。実際に現在でもこのページを見て,多くの人たちが交流を求めて来ている。
様々なテーマに基づいて英作文をしていったが,その中のテーマの1つとして「ことわざ」を選んだ。日本語のことわざと英語のことわざでは当然ニュアンスの違いもある。一通り英語と日本語のことわざの意味が分かったところで,次にそのことわざの中から1つを選び,それを基にライティングをさせることにした。選んだことわざに対して書くのは次のような事柄である。 @そのことわざの起源を説明する。Aそのことわざの使われる状況を考え,物語を作る。まず@は,英語の(あるいは日本語の)ことわざの意味を良く考え,なぜそのようなことわざが出来たのか,その基になるようなお話を作文する,ということで,Aはことわざの意味が具体的に分かるような物語を作る,ということである。
週に1時間しかないので次の時間までの宿題とし,出来上がったものはフロッピーディスクに入力させ,よく出来た作品についてはインターネットのホームページに掲載する,ということで作業をすすめた。この時にインターネットで「ことわざ」を検索し,「国際ことわざフォーラム」が開催されることを知った。
ホームページには@The most creative writing,AThe most original writing,BThe best explanation of Japanese sayings,CBest effort in Englishの部門でALTが審査したものを掲載しているが,生徒の発想にはとても面白いものがある。
2)対象:3年生選択者,7名×2クラス ALTとのTT(97年度)
目標:@ライティングにおける基礎的な文法事項,表現法を身につけること。Aコンピュータ操作に慣れること,e-mailの送受信ができるようになること。Bインターネットの概要(インターネットが使用出来ること)を理解し,ネットワーク上に自分の意見を発表できるようになること。ネットワーク上で意見交換をすることで,自分の考えを深めていくこと。
(1)Basic Skill
1学期はBasic Skillとして@コンピュータ操作に慣れさせること,Aライティングの基礎としてのブレーンストーミングを使って自分の意見を整理し,膨らませていく,ということから始めた。具体的には,@としてメールによるコミュニケーションに慣れさせるために,各自のフロッピーに教師へのメッセージ等を入力,それに対して次の時間までに教師が添削したり,返事のメッセージを入力しておく,という疑似メール交換を行った。Aとしては,あるテーマから連想する様々な語句を図に記入させ,さらに短文を書かせ,それをパラグラフに発展させた。
(2)Using E-mail
疑似メールに慣れてきたところで,生徒にメールアドレスを持たせることにした。生徒のコンピュータはインターネットに接続していないので,教師用のコンピュータからWWWを使った。現在サービスを行っているサイトとしては,http://www.netaddress.com/ などがある。このサービスを利用して,メールアドレスを生徒に取得させ,さらに私個人で持っているサイトのメール転送を利用してメーリングリストを作り,アドレス宛てのメールは生徒全員が読むことが出来る。
(3)Topics
次にブレーンストーミング パラグラフ作成という方法を使って Dream Home, School life 等のトピックについて文章を書かせ,完成した文章をWeb上のBBS for Students に掲載した。
2学期は,上記のトピックライティングの実践で,日本についてのホームページ作成を実施した。グループごとにフリーのホームページサービス(http://www.tripod.com/)のアカウントを取得し,「日本についてのクイズ」,「お守りについて」,「たまごごはんについて」,「日本のアニメ」など生徒自身が考えたテーマについて画像を交えたページを掲載した。
ページ作成も終わった頃,海外から電子メール交換の誘いがあった。
フランクフルトのZiehenschule(16−17歳の生徒)高校である。同じ頃バッドスルザ町にあるRegelschule Bad Sulza(11−17歳の生徒)高校からもメールの誘いをもらった。このドイツ2校とメーリングリスト(以下ML)を組み,神戸市立兵庫商業高等学校の先生,生徒を加えて交流が始まった。個人対個人のメール交流では相手に依存する度合いが高く,相手からメールがこないと授業が出来ない状況が生じるので,「個人メッセージ+トピックライティング」という形式をとった。この形式をとるとメールがこない場合があってもテーマに沿って英文を書く事が出来るし,ML宛てに送るため,同じ国の他校のメッセージも読むことが出来る。自分の英文を考える際にも参考となる。テーマとしては「自分にとって大事なもの」「ニュースに関するもの」を扱っている。メールに画像を添付して送ることで相手をより近い存在として感じることが出来る。
7. 生徒の変容及び教師の変容
実践を通して生徒たちはインターネットを媒体に世界中に自分の意見を送ることが出来る機会を与えられ,今までなかった積極性を見せた。
自分の書いた物を読んでくれる読者の存在が彼らの学習意欲を高めた。英作文なんて難しい,と逃げ腰だった生徒も辞書を片手に必死になって取り組んでいた。教師も「教え込む」ことから「アドバイスし補助していく」立場への変容を感じた。
8. 先生の立場での成果と課題
1)テーマごとにブレーンストーミング,ディスカッション,ライティング,という流れをとったので,比較的授業はスムーズに流れた。今まであまり英作文をしたことのなかった生徒も少しづつではあるが英語で表現することに自信をつけた。
2)インターネットを利用した授業を通して多くの出会いがあった。
キャンピングカーで世界を旅しているグローバルスクールハウスプロジェクトのロジャーさんの来校,オーストラリアの学生たちとの出会い,アメリカでホームスクーリング(学校に行かず自宅で通信講座を受ける)をしている少年との出会い,そして生徒たちのメッセージを読んで質問や感想を送ってくれた人達との出会いなどである。
3)今後は,教科間の壁を取り払い,他の教科と連携を図った授業展開を行いたい。
4)ネットワーク利用の授業に関しては1クラス当たりの人数配分もこれからの課題となるであろう。
5)学校でのインターネット利用についてのある程度のガイドラインの整備が必要である。
9. これから始める方へのアドバイス
1)テーマの設定をしっかり決める。
2)生徒1対1の電子メールの交換より,グループでの交流が長続きする。
3)教師が事前に教材をネットワーク上から検索し,準備をしっかり行っておくことが大切である。
4)メールだけでなくWWWを併用することによって各方面からの意見を集めることが出来る。
5)メールに画像を添付して送ることで相手をより近い存在として感じることが出来る。
6)ネットワーク社会といえども現実社会の延長なので,そこに参加する際にはマナー(ネチケット)を守らせる必要がある。
10. その他
1) 相手校の簡単プロフィール
・日本:神戸市立兵庫商業高等学校(840名) (3年生)生徒: 5名
・フランクフルト(ドイツ):Ziehenshule高校(1200名) (16〜17歳のクラス)生徒:7名
・バットスルザ(ドイツ):Regel schule Bad Sulza (11〜17歳のクラス)生徒:8名
2) 本校の簡単なプロフィール
・2年生全員:40名×7クラス 英語の授業
・3年生選択:7名×2クラス 英語の授業
3) 交流期間
・1996年4月〜1997年3月
・1997年4月〜現在(継続中)
4) 実践上のネットワーク環境
・神戸市経由の専用線及びダイヤルアップ接続。
・インターネット用パソコン台数は,生徒用:7台,教師用:1台
5) 学校名と担当者,ホームページURLとE-Mailアドレス
・神戸市立赤塚山高等学校 校長 飛谷 直恒 / 教諭 桝井 伸司
・http://www.kobe-school.net/akatuka/masui@masui.com