第2部 交流学習 実践マニュアル


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2.交流計画の共同策定

    Q1.指導者同士の情報や意見の交換方法は?

       交流を中心とした学習を進めるにあたり,それぞれの学校の担当者と密に連絡をとっていかないと,うまく進まない。交流校が増えるにつれ,その重要性は増す。連絡の善し悪しで交流学習の成否も決まるといってもよい。

      (1)メーリングリストの活用

         交流校が複数である以上,1校対1校の連絡であっても,その内容を別の学校が知っておくことも必要である。他の学校が,どんなことをしているのか,どういうことで困っているのか,どんな進め方をしているのかを知ることは,自校にとってとても参考になる。1対1の連絡でなく,他人のやりとりが見えるというのが,会議同様のメーリングリストの利点でもある。しかも,自分の発信した内容も再配信され,記録として残るので,打ち合わせの内容を正確に捉えることができる。

         では,このメーリングリストをどうやって開設するかであるが,学校内にメールサーバを所有していれば,すぐに開設できるが,現段階では,校内に外向けのメールサーバを所有している学校は少ないと思われる。したがって,メーリングリストの開設サービスをしている団体に依頼をするとか,都道府県単位の情報教育センター的な機関を利用するのが適切である。

        メーリングリストでは,次の項目が必要とされる。

          1) 件に通し番号が付くこと  ([サークル名0015]のように)

          2) 件名にメーリングリストであることを表す言葉が付くこと(asahiのように)

          3) メーリングリストで配信されたメールへ返信をかけると,発信者でなくメーリングリストそのものに返信されること

         特に,交流学習の初心者にとって,メーリングリストは初めての体験となり,個別のメールなのか,メーリングリスト内のメールなのかを判断するのに,多少の慣れが必要である。そのためにも,上記のような条件をきちんと整えることが大切である。

         また,メーリングリストで,配信することによりメールチェックの回数も必然的に増えることになろう。

      (2)個別メール

         人数が少ない場合,メーリングリストによるまでもなく,個人間のeメールでもかまわない。その場合,cc(複写)の扱いで,相手にも誰に同じメールを送ったかわかるようにしておくのがよい。その中に自分も入れておき,正しく送信できているかを確認する。まれにプロバイダーの不調で送信されない場合もあるので,それを防ぐためにも,この方法は有効である。

      (3)FAXマガジン

         それぞれの学校で学級通信などを利用して,自分たちの行っていることを保護者に伝えるようにしていると思うが,その相手を保護者から,交流校の教師へもという形に発展させたのが,このFAXマガジンである。子どもたちの感想文や,授業の流れを確認する情報提供に,この方法は有効である。

      (4)対面会議の実施

         交流相手が遠距離にある場合,ある場所に集まって直接対面の会議を行うことは時間的にも,経費的にも無理があるため,TV会議システムなどを使ってのバーチャル会議を行うことになる。ただし,このスタイルの会議は,ただ単に席に座っていればよいという会議ではなく,何らかの意思決定をするための会議であることを,教師間で共通理解しておく必要がある。相手のことを考えながら話をするという,子どもたちがTV会議を行う際によく指導をするスキルそのものを,教師自身が体験しているということになる。この経験が,子どもたちへのTV会議スキルの指導に生きてくるはずである。

         また,実際に場所を設けての対面会議の場合,できるだけそれぞれの学校を会場とした持ち回りがよい。それは,お互いの学校の学習環境や地理的な環境の理解に及び,さらには職員同士の交流につながることも多く,それ以降の共同学習が進めやすくなるからである。

      (5)電子掲示板の利用

         それぞれの学校で調べたことを,伝え合うための場として電子掲示板がある。教師にとっては,それぞれの学校の子どもたちがどんなことを調べているのかを知るための方法である。この電子掲示板は,Web上で展開されるので,インターネットにさえつながる場所にいれば,場所・時間を問わず読むことも書き込むこともできる。

         問題は,どうやって掲示板を開設するかである。完全にオープンにしてしまうと,「荒らし」などの被害を受ける危険性がある。また,実名などが登場する可能性があるので,特定の人だけが見たり,書き込めたりできるような工夫が必要である。誰でも見えて,書き込める掲示板は,無料サービスを行っているサイトを利用すればよいが,特定の人だけが使える掲示板は,自校や地域センターのサーバを使ったものになる。そういう部分のアシストが地域レベルの教育センターに必要となってくる。

      (6)その他

         以上の他に,内容や緊急性に応じて,電話やFAXを使うなどの組み合わせも,適宜併用する。長時間にわたる画像・映像の情報はビデオレターなどを作成して,利用する。また実物を送ったりすることも情報の交換といえる。

    Q2.交流校間で実践開始前に伝えておくべきことは?

       まず,複数校で同一テーマを学習材として取り上げる場合,そのテーマが学習材としてどのような価値を持っているのか,教師がそのテーマをどのようにとらえているのか,共通理解を図る必要があろう。例えば,川や街道は,環境・歴史・くらし・自然などいろいろな面で,学習として成り立つ要素を持っている。それらを洗い出し,交流学習に取り組む教師すべてがその川や街道の価値を理解する必要がある。

      この共通理解を図った後に,交流のプログラム作成に取りかかることになるのだが,効果的な交流を行うためにお互いに理解しておくべきことや,理解する上で望まれることを,次にあげる。

      (1)交流を計画する上で理解しなければならないことは?

        1)学校の地域環境や規模など

           学校と学習材(例えば,川,街道・・)との位置関係や,学校の規模によって,子どもたちが実際にできる活動の領域は変わってくる。また,交流学習では,オンラインの交流だけでなく,可能であれば相手校に出かけて直接交流することが,より有効であると考えられる場面もある。実際,オフラインミーティングは,交流学習において大きな成果を上げることは言うまでもない。直接的な交流学習を実現するためには,学校と学習材との位置関係はもちろん,地形や近くの利用可能な施設等,周辺の状況もお互いに理解しておくことが大切である。

        2)学校の行事予定

           交流の計画を提案する際に,相手校の学校行事を考慮することは,交流を続ける上での重要な点である。これらを相互に見ることのできる行事情報用のWebを立ち上げ,機能させることが,お互いの交流の時期を設定する参考となる。

        3)お互いの情報機器の環境,ソフトの整備状況

           交流学習を進める上では,情報機器が,お互いの資料の交換,意見交換に大きな役割を担うツールとなる。それらの情報機器が,交流校同士,同じように整備されていることが望まれるが,学校の情報環境はかなり違うことが一般的である。インターネット端末が複数台あり,コンピュータ室から子どもたちが自由にインターネットを活用できる環境の学校もあれば,職員室にしかインターネットを使えるコンピュータがない学校もある,自校で当たり前のことが,他校では考えられないというようなズレは,よく起こりうる。

           しかも,インフラやメディアに関しての違いというのは,交流学習において,重要なポイントを占める。気をつけなければならないのは,そういった整備状況の違いから,自校,他校とも惨めな気にさせないようにすることである。お互いの情報機器環境を理解し,「できることから始めよう」の体制で無理なく進めていくことが大切である。

        4)現在取り組んでいる学校の研究の状況

           総合的な学習の視点,情報教育の視点,環境教育の視点等から,各学校の研究の進行状況を理解しておくことが大切である。それにより,交流できること,相手校にお願いできることは違ってくるからである。各校の取り組みがあまりにも計画的であり,交流学習といういわば持ち込み学習が入る隙間のないようなカリキュラムでは困る。特に総合的な学習の時間においては,より柔軟な計画が望まれる。

        5)各学校の指導体制(TT,ゲストティーチャー,時間の確保等)

           交流プログラムを作成する上で,教育ボランティア・ゲストティーチャーの必要性は高い。交流学習では,それらの方々を,1校だけではなく,交流校全体で活用することができるようになる。活用できる教育ボランティアの情報を相手校に知らせておくことは重要である。それに併せ,学校内の指導体制として,TTの体制が取れるのかどうかを伝えておくことも重要である。これらによって,考えられる子どもたちの活動が変わってくる。

          また,総合的な学習が実施されつつある現段階では,それに利用できる時間は学校のカリキュラムの構成によってかなり違ってくる。お互いの学校がどれぐらいの時間を活用できるのかについても理解しておく必要がある。

      (2)共通理解を図る上で望まれること

        1) 推進的な役割を果たす学校(リーダー校)を決める

           交流学習では,それぞれが自由に交流プログラムを提案したのでは,なかなかまとまらない。中心となる1校が,全体を見渡した上で交流のプログラムを作成して提案したり,活動の状況を見ながら,プログラムの修正・調整案を提案したりするほうがうまくいく。特に時間の限られた交流プログラムでは,なおさらである。

           この中心校には,交流学習の経験を持つ学校がなることが望まれるが,いずれの学校もその経験がない場合は,各学校の研究の状況や人的環境等を鑑みて決定するのがよかろう。

        2)コーディネートできる人材の確保

           コンピュータに代表されるメディアの活用に関する教師の理解度・スキル等は,学校間や教師間によって差があるのが現状である。この差を埋める役割をしてくれる人が,これからの交流学習には欠かせない。

           このような立場の人を,情報コーディネータなどと呼んでいる。情報コーディネータには,新しい機器についての情報提供,機器を導入する際の在り方の助言,各種メディアの活用法についての助言,維持・管理,トラブルへの対処を主になって行うことが要求される。また,交流学習の方法や進め方について助言したり,教育ボランティアの活用に関する企画,連絡・調整を支援したりすることも重要な任務である。

           実践の場に,コンピュータ等のメディアに強い教師がいれば,交流時に発生するトラブルに即対応でき,学習がスムーズに展開できる。今後,このような立場の人材が学校や地域に配置される必要があることを,実践を通して痛感させられた。

           以上,交流前に伝え合うべきことを述べたが,これらを意識しすぎて,交流がなかなか始められなくなったり,活動を最初から固定してしまったりすると,かえって逆効果である。「できることから始めよう」の姿勢も必要ではないかと感じている。

    Q3.日程調整の図り方は?

       交流の場を設けようとすると,何をするにも学校間の連絡調整が必要となってくる。Eメールだけの連絡だけでは「お互いの忙しさ」という雰囲気を感じ取ることはできない。学級での出来事や学校で用意されている行事,さらに,その地域独特の行事などに,どの程度の準備時間を費やしているのか,こちらの意図するレベルの内容なのか等,当事者にしかわからないことを前提にするので,日程調整にはかなり前から取りかからねばらない。特に,交流校が増えるほどその調整は大変になってくる。場合によっては,休日に打ち合わせをしたり,夜間に連絡をとったりすることにもなる。

       日程調整には,中心校のリーダーシップが問われる。中心校の提案を吟味し,参加校が意見を述べ調整していくのがよい。どちらにしても少なくとも1年間を通した大まかな計画が年度当初にないと,行き当たりばったり的な実践に終始してしまう。また,オフラインミーティングの開催には,子どもたちの移動の関係から,輸送費の確保をしておく必要がある。そのためにも,年間の計画とその意義を各学校で確かめておかねばならない。行政区によっては急な輸送費の捻出がままならないことは多くのケースで考えられる。その場合,例えば,遠足に振り替えるなどの方法もよいだろう。

      (1)学校訪問の日程調整

         まず,中心校の担当者が相手校を訪問。正式な依頼をし,通信環境について調査をする。例えば,TV会議システムのカメラの位置や,インターネット端末の台数,利用しているメーラーやブラウザの種類,バージョンなどを確認する。これにより,どういう形式で交流を進めていくかを考える。それは,技術的なトラブルを解決する際の基本情報ともなる。これらの訪問は,相手校の管理職,教務主任などが学校にいる日を選び,企画の趣旨を十分にわかってもらうようにしなければならない。ここでうまく話を進めないと,後々の交流上のトラブルが生まれる危険性がある。特に,相手校が心配するのは,交流学習に引っ張り回されるのではないかという懸念である。何よりも,この交流学習が,お互いの学校の子どもたちにとって,有意義なものになるということを理解してもらう必要がある。

         相手校の訪問と同時に,その学校の周りの様子や,テーマに関係ありそうな情報を,学校の職員や子どもたちから聞く。また,道中をビデオで撮影しながら移動し,後日子どもたちに見せれば,交流の意識を高めることができる。

      (2)TV会議の日程調整

         お互いに学校を紹介し合うためのイベントで,自分たちの学校を相手に紹介するためには,自分たちの学校や地域のことを知っておかなくてはならない。この機会に,子どもたち自身で情報を集めるようにしむけなくてはならない。

         交流においては,お互いの学校の授業時間やカリキュラムを変更せずに実施できることが望ましいが,実際問題としてそのあたりが一番むずかしい点である。教師のある程度の準備が必要なうえ,そのことを相手校に十分伝えることができない場合もある。相手の時間を指定するメディアであるがゆえの問題である。

         また,顔と名前を相手に覚えてもらうための工夫も,子どもたちに考えさせたい。例えば,名前を大きく書いた名札を見せながら,自己紹介をする。よく似た名前の子がいれば,紹介し合う。聞く相手が退屈しないように,クイズを取り入れるなどの方法で,映像・音声が使えるメリットを十分生かした時間にしたい。

         当然,学級対学級の大がかりなものでなく,数回に分け小さな班同士で話をさせたり,休み時間に「かけてもいいよ」という形でお互いに開放したりすることもいいと思う。

      (3)電子掲示板の使用確認

         情報を共有しやすい,また,手軽に発言できるという理由で,電子掲示板を設けるのも有効である。しかし,すぐにはテーマに関する内容についての記述が始まるわけではない。雑談をする中で,交流へのステップをつくる。そのために,2種類の掲示板(交流用,テーマ用)を用意し,子どもたちの反応を見る。お互いに名前を少し覚えた頃,テーマへとつないでいく。

      (4)eメールの使用確認

         相手を時間の制約から解放するためには,やはりeメールが便利である。日に何度もメールチェックができるような職場でありたい。そのためにも職員室や教室でメールが常時見られる環境を整えるべきである。職員室LAN,教室間LANが早急に整備される必要性がここにある。その他,同じアカウントを何人が使うのかという問題もある。完全に個別メールアドレスにしてしまうと,端末数の制限から,頻繁なメールチェックが行いにくくなる。同じ内容を調べているグループに一つという形が望ましいが,校内に自由に使えるメールサーバがない場合は,フリーにアカウントをもらえるサービスなどを利用するほかはない。ただ,コマーシャルメッセージが入ることがあるので,教育の場で利用すべきかどうかは,疑問である。

      (5)オフラインミーティングの日程調整

         オフラインミーティングは,各校の学習者同士の心情的なつながりを持たせるために必要なものであるが,その実施は,実践はじめの段階(友だちになる),相互訪問(実際に行って各校の様子を肌で感じる),まとめの段階(共同作業とまとめの発表会)の3回程度は必要であろう。例えば,1回だけのオフラインミーティングでは,調べたことの交流というより,友だちを作る,行くことを楽しむという意識が強くなるだろう。やはり1度だけより多いほうが効果もあるので,予算と時間の許す限り繰り返し行うことが大切である。



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