第2部 交流学習 実践マニュアル


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4.交流の導入方法 

    Q1.プロジェクトメンバーの紹介方法は?

       プロジェクトメンバーの紹介は,これから学習を進めていく相手をよく知ることによって,学習共同体を形成していくための重要な行為である。自己紹介だから適当にしておけばよいというものではなく,ここで形成されたお互いの印象は,後の学習活動をかなり大きく左右するという意味ではきわめて重要なステップととらえることができる。

      (1)電子掲示板による紹介方法

         電子掲示板の上での自己紹介は,インターネットに接続したコンピュータ環境が整っている場合にはもっとも簡単な方法である。しかし,小学校高学年までの子どもたちの場合,自己紹介文が単調で人格を想像させるものになりにくいところがあり,注意が必要である。また,クラスで作業をすると,いっせいに似たような自己紹介文が大量に掲示板に書き込まれ,誰に返答してよいかわからなくなってしまうことがよくある。子どもたちは自己紹介文を彼らなりに一生懸命書いているので,返事が来ないとがっかりして,掲示板に書き込む意欲を失うことがよく見られる。

         このような事態を避けるためには,順番を決めてゆっくりと自己紹介を行い,返事が来てから次の子どもに移るように手配したり,自己紹介文を時間をかけて練ったり,友達に紹介してもらうなどの工夫が必要である。どちらにしても,教師にとっては,国語の生きた指導のよい機会になるだろう。

      (2)写真・映像による紹介方法

         子どもたちにとっては,電子掲示板のような文章主体のコミュニケーションは,かなり難度の高いものである。言語能力の高い子や,コミュニケーション能力の高い子は,言語だけによるコミュニケーションをうまく成立させることができるが,そうでないと,建設的なコミュニケーションになりにくい。そういう時には,デジタルカメラで撮影した写真を掲示板上に投稿したり,電子メールの添付ファイルで送ったりすると,相手の具体的なイメージがわいて,コミュニケーションが活性化する。特に学習活動に密着した写真を送ると学習につながる会話が生まれてくるだろう。回線速度が高速であれば,映像(MPEG方式)を送ることも考えられる。回線などのインフラが整っていない場合は,従来から行われているようなビデオレターの交換でもよいだろう。

      (3)TV会議による紹介方法

         写真や映像の交換に加えて,TV会議もメンバー紹介によい方法である。単純な画像や映像の交換に比べてインタラクティブな会話ができるため,相手のことが印象に残りやすい。

         学習時に行われる本格的な討論(対立する二つの意見をTV会議でたたかわせる)をやる前に,一度,休憩時間などにクイズやゲームなどをやるのもよいだろう。

         ISDNによる電話回線が設置されている場合には,1台10万円程度の出費で,TV会議システムを購入することができる。それがない場合は,双方Windows機の場合は,Netmeeting(無償:Microsoft社のウェブサイトからダウンロード可能),Macintoshを利用している場合には,CU-SeeMeなどのインターネット経由のシステムを利用することになる。ただし,インターネット経由のシステムは,回線の状況によって音がとぎれとぎれになる場合がある。TV会議の時に重要なのは,映像のなめらかさより音声であるため,不安定な場合は,音だけ電話回線を利用するのも一つの選択肢である。

      (4)物の交換

         自己紹介とは少しはずれるが,交流相手との距離感を縮めるために,物を交換するのもよい方法である。インターネット経由の情報は,画面を切り替えてしまうと残らないが,物の場合は,教室にずっと展示・掲示しておくことができるからである。

    Q2.テーマを決定するまでの教師チームの作業内容は?

      (1)各校の提案

         学校には個性があり,それぞれ実践の歴史を背負っている。環境学習に十数年の実践の歴史を持ち,人材もノウハウも持っている学校もあれば,国際交流学習に取り組みはじめて,リソースをそれに集中したい学校もあるだろう。それぞれの状況をお互いに提案し合って,すべての学校がある程度のメリットを享受できるテーマを決定する必要がある。 同じことは,教師にもいえる。教師によって得意なテーマとそうでないテーマがあるだろう。それぞれの教師の個性がいい形で相乗効果を生むようなテーマがよい。例えば,地域の生き物に詳しい教師と,地域行政に詳しい教師がいれば,生物環境保護の問題などをより有機的に扱うことができる。

       

      (2)地域のユニークな素材の同定

         学校や教師に個性があるように,地域にも特色がある。地方の学校で牛や馬を育てている実践を見て,都会の学校の教師が「この実践はうちではできない」ということを聞くが,牛や馬は育てられない代わりに,都市には,都市なりの問題設定がありうる。それは,街作りの問題であったり,身近なお年寄りが体験してきた歴史であったり,環境破壊の問題であったりと様々であろう。学校や教師の問題も考え合わせた上で検討する必要がある。

      (3)プロジェクト推進期間の再確認

        共同プロジェクトには,通常,1年から数年の期間が設けられる。このスケジュールの中で一定の成果をあげるために,あらかじめ,ある程度の時間的な見通しについて合意しておく必要がある。例えば,1年間のプロジェクトであれば,1学期中にだいたい問題意識を共有して,2学期中に問題解決のためのアウトラインを共同で作成し,3学期にはまとめるぐらいの構想でよい。実際には,学習が進行するに従って,この計画は変更されていくであろうが,目安となるタイムラインを決めておかないと,ずるずると後ろ側にスケジュールがずれていき,結局最後にあわてて形だけつくろう展開になりがちである。注意したい。

      (4)学習に結びつけられるかについてのシミュレーション

         共同学習のテーマを設定する際にもっとも重要な点は,子どもたちの学習にどのようにして結びつけられるかについての見通しである。もちろん,どのようなテーマでも一定の学習を行うことはできるが,以下の点において,子どもたちの学習に結びつきやすいものと,そうでないものがありうる。

        1)子どもたちに容易に理解できる問題構造の存在

           環境学習であれば,「農薬を使うべきかどうか」など,子どもたちが理解でき,かつ,奥<が深い問題構造がそのテーマの中に存在していることが重要である。この入り口の問いが,子どもたちの学習への動因となるからである。

        2)書籍などの資料の豊富さ

           課題が理解できても,それを解くための手がかりが存在しなければ,学習活動を構成するのは難しい。インターネット上の情報も一つの資料ではあるが,書籍がどの程度揃っているかが学習を展開する上で重要な要因となる。図書館の司書教諭とも相談してみるとよい。

        3)人的リソースの豊富さ

           共同学習を進めていく際には,専門家やボランティアなどの大人のサポートも重要になってくる。これらの人的リソースがどの程度確保できるか,確保できていない場合は,どのようにすれば確保できそうなかについても検討すべきであろう。

           以上のような点をふまえた上で,実際にクラスの子どもたちがどのように学習を進めていくか,シミュレーションを行うことが大事である。グループをどう編成するか,子どもがどのようなことを発見しそうか,どのあたりに問題意識が生まれそうかなどをあらかじめ考えた上で,実践に臨む必要がある。

    Q3.企画の子どもへの紹介方法は? 

       プロジェクト学習にとって,子どもたち自身がこれから取り組む企画(プロジェクト)に興味と関心をもてることは非常に重要となる。はじめに描いていたテーマが次第に明確になっていき,自分の興味ある活動をどんどん発展させていく個人ベースの活動とは異なり,プロジェクト学習は,はじめに全体のゴールを決めて,その達成へ向けて,みんなで力を合わせて計画的に取り組んでいくことを目指す共同作業ベースの活動である。そのため,企画(プロジェクト)と子どもを出会わせる時に,その課題が,まさに自分の課題として子どもたちが感じ取り,自分の役割や他の友だちとの関わりについて,ある程度見通しを持てるように紹介方法を工夫することが求められる。

      (1)ゴール(アウトプット)を示す

         最初に,このプロジェクトによって,何が見えてくるのか,何ができるのか,何が解決されるのか,子どもたちにゴールへの見通しを持たせることが重要である。

         そのためには,現状はどうなっているのか,いま課題となっているのは何なのか,など「what(何)」の部分を,教師側から具体的に,子どもたちの五感に直接働きかけるように示す。そして「why(なぜ)」そのような現状になっているのか,なぜそのような課題が残されているのかを,子どもたちに問いかけ,自分たちの課題として取り組んでいく雰囲気を作り上げていくことが必要となる。

         そして,子どもたちと教師による,この「what(何)」と「why(なぜ)」のキャッチボール通して,挑んでいく課題を明確にし,その中で自分たちにできることとして,どのような方法を用いて,どのような計画で挑んでいくか,課題の解決へと至るのかを,ある程度,明確な見通し(ビジョン)を子どもたちが描けるように,アウトプットの最終的な姿として,目に見える形で示すことが重要となる。

      (2)これまでの取り組みとの関連を説明する

         次に,このプロジェクトが,自分たちにとってどのような意味があり,どのような関係にあるのかを,次の2つの視点で子どもたちに説明していくことが重要となる。

        1) 自分たちの学習活動のこれまでの取り組みと関わって

           これから取り組むプロジェクトは,自分たちが取り組んできた学習活動の成果や自分たちが学んできた探求方法をどのように反映させ,実際に役立てていけるのか,学習活動の連続性を説明することが必要となる。なぜなら,実際に自分たちがやり遂げられる活動であり,もう少し工夫したら,もっと深く広く探求できるといった実現可能性のイメージを子どもたちに自覚させることが,やる気を起こさせることにつながるからである。

        2) 全国の学校でどのように取り組まれているのかと関わって

           これから取り組もうとしている課題は,「全国の他の学校ではまだ取り組まれていないことである」,「他の学校と協力してはじめて成功するプロジェクトである」など,プロジェクトそれ自体の持っている意味や位置づけを子どもたちに伝えることも重要となる。学習活動がまさに教室を越えて広がっていき,自分たちが取り組んでいるプロジェクトの社会的な役割(何に貢献しているのか)について自覚することができたとき,子どもたちは自信を持つことができるからである。

      (3)具体的に子どもたちが扱える道具(ツール)を示す

         プロジェクトの遂行をさらに子どもたちがイメージできるようにするために,必要となるものを明確にし,扱える道具を示すことが重要となる。

         例えば,取材に i) デジタルスチルカメラ,ビデオカメラが使える, ii) 調査の情報交換にインターネットの電子メールや電子掲示板が使える, iii) Webページを作り成果を発表できる, iv) TV会議で他校と交流できる,など,プロジェクトを遂行する場面を例に挙げながら,具体的にその活用場面をイメージ化させていくのである。

         留意点としては,あくまで企画(プロジェクト)の紹介時なので,このような道具を示す際には,使い方の説明は手短にすることが肝要。既に利用している道具にしても,新しく出会わせる道具にしても,それが持っている機能に着眼して,どのような可能性があるのかを示すことが重要となる。

      (4)スケジュールや役割分担などの方針を示す

         最後に,このプロジェクトの遂行に関わって,スケジュール案や分担して取り組む役割案を示し,子どもたちが自分の役割を選び取り,どのように学習活動を進めていくのかを見出せる機会を作ることが重要となる。

         はじめて,プロジェクト学習に取り組む場合は,特に教師が,このようなプロジェクト遂行のコーディネートの姿や原案の出し方を子どもたちに示し,プロジェクト学習の雛型を見せる機会を意識的に作ることが不可欠である。なぜこのようなスケジュール案が必要なのか,なぜこのような役割分担をする必要があるのか,プロジェクトの中身と関わって,その意味を子どもたちに説明することが重要となる。これは,たたき台や取り組みへと進む足場を作ることが必要であるためである。最終的には,子どもたちが,プロジェクトを自分たちで計画し,全体をコーディネートして,遂行していけることを目指したい。

         以上,プロジェクトの子どもへの紹介方法を4点にわたって述べてきた。繰り返しになるが,重要となるのは,プロジェクト自体に子どもたちが興味を持て,自分の役割自覚し,具体的な見通しをもてるような出会いの方法を工夫することである。

    Q4.具体的な活動の開始方法は?

       具体的な活動を開始する際には,プロジェクトに加わる参加校同士が,ゴールイメージの共有,スケジュールや役割分担の合意などを作り上げて行かなくてはならない。それには,参加校の中で中心校を決め,そこを要として走り出していく積極的な姿勢,第一歩の具体化を検討しておく必要がある。

      (1)中心校の子どもからの呼びかけ

         プロジェクトに取り組む参加校の教師間で,ある程度の見通しが持てたとしても,子どもたちがそのプロジェクトにのってくるとは限らない。そのため,とりわけ,子どもたちの意欲の高い学校や経験のある学校が中心校となり,中心校の子どもたちを中心にして他校の子どもたちに働きかけをしていく機会を作ることが重要となる。ある学校の子どもたちが別の学校の子どもたちに働きかけるほうが,子どもたちのやる気を引き出すことができるからである。

         例えば,手紙やビデオレター,またTV電話等を使って,中心校の子どもたちが自分たちのプロジェクトに対する思いや見通しを参加校の子どもたちに語り,積極的に参加を呼びかける試みなどがあげられる。このような働きかけは2つのやる気を引き出せる。

         1つは,子どもたちに,他の学校に一緒に学んでいる探求の仲間の存在を感じ取らせることができることである。もう1つは,中心校からの呼びかけは,ある程度,企画に関しても他校より一歩先んじており,参加校全体の探求の雰囲気を高めていくことに意味を持つ。そのため他の学校の仲間に対する責任として,自分たちの果たす役割は,何であるかをもっと考えていこうとする気持ちを,子どもたちから引き出すことができることである。

         このように中心校の子どもたちからの呼びかけによって,教室を越えて一緒に探求している仲間がいることを,子どもたちに意識化させることが,具体的な活動を作る第一歩となる。

      (2)複数の学校からの提案をすり合わせ

         他の学校の仲間に子どもたちを出会わせた後,次の課題となるのは,プロジェクトの遂行を共同的,継続的に進めていくための工夫である。そのためには,まずプロジェクトへの参加,その遂行に向けて,どのような方針を考えているのか,各学校が提案する機会を用意しなければならない。

         例えば,各学校からの提案を郵便で送り合う,電子掲示板やWebに書き合う,TV電話で交流するなどの方法を用いる。続いて,出てきた提案を出しっぱなしにしないように,中心校は,出てきた提案を整理し,プロジェクト遂行に向けて提案のすり合わせ作業をしていくことが必要となる。このすり合わせ作業とは,具体的には, i) 各提案の整理とその図式化, ii) 中心校からのプロジェクト遂行に関わる原案の提示が含まれる。そしてこのすり合わせの結果をもとに,プロジェクトへの各学校の関与のあり方を明確にしていくことが次の作業となる。

         この際, i) 学校ごとに別の役割を与え,プロジェクトへの関与を決めていく場合と, ii) 役割の種類を全体に明示し,そこに各学校の子どもたちのグループが,選択的に関与していく(もちろん学校の事情によっては関われない役割もあるので,全部の役割に均等に関与するように無理強いする必要はない)などの場合が出てくる。

         複数の学校が共同して進めるプロジェクト学習の理想としては,後者のケースが望ましい。しかし,参加校間によって事情が異なるため,適宜関与の仕方を決めていく柔軟さがプロジェクトの運営に必要である。

      (3)他のプロジェクトや大人の取り組みへの参加

         プロジェクトが進み,子どもたちの活動をさらに質的に高めていきたい場合,本物の世界と出会わせ,子どもたちに自分たちの活動をあらためて外の目から見つめさせる工夫があげられる。例えば,子どもたちの今のプロジェクトと関係のある大人のプロジェクトとの出会いを組織するなどである。それには次のような点に気をつけて取り組むと効果的である。

        1) 他のプロジェクトに向けてアンテナを張る

           いま,大人のグループや専門家の入っているプロジェクトについて,どんなものが存在し,どこで,誰を中心に行われているか,常に様々な人材ネットワークやインターネットなどを活用して教師がアンテナを張っておくことが重要となる。

           直接,会える地域のプロジェクトから,直接は会えないが,手紙やTV電話やインターネットなどを活用して交流できるプロジェクトまで,可能性のあるものは,連絡先リストなどを作っておく工夫が必要である。

        2) いつ誰と出会わせるかは重要なポイント

           他のプロジェクトとの交流や参加などを考える場合,注意しなくてはいけないことは,会わせるタイミング(いつ)と誰に合わせるかという点である。子どもたちのプロジェクトがある程度確立したが,活動がマンネリ化してきたときなどは,他のプロジェクトとの交流は非常に効果的である。

           また,誰と出会わせるかという点は,最も重要であり,教師と子どもたちの成長に関わって,話し合え理解し合える人物,また子どもたちに対して語りかけが非常に上手な人が望ましい。

           以上,プロジェクトを進めるための具体的開始方法について,どのような手続きがはじめの一歩を踏み出せる「しかけ」となるかを述べてきた。このような手続きを踏む場合,参加校内での教師の共同だけでなく,参加校間での教師の共同が不可欠となる。教師間の連携を深めていくためには,プロジェクトに関わる教師集団のメーリングリストは不可欠であり,そこでかなり論議や質疑,プロジェクトの検討をしていくことが可能となろう。

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