第2部 交流学習 実践マニュアル


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6.遠隔・共同学習の支援方法

    Q1.他の学校の子どもへの遠隔指導を成功させる秘訣は?

       遠隔共同学習とは,一種のバーチャルな学習コミュニティーの形成を意味するものである。

       今まで,全く見知らぬものたちが,一つの目的のもとにつながれる。最初は,細い糸であっても,学習活動の広がりや深まりと共に,その糸は太くなり,同志的な集団を形成するに至るのである。しかし,自然とそのような集団が形成されるわけではない。強い絆で結ばれた集団形成には,そのバーチャルなクラスルームの担当教師の支援が重要な鍵の一つとなる。

       その鍵について,4つ紹介しよう。

      (1)バーチャルクラスルームの教師同士の連帯感を高める 

            〜メーリングリスト・携帯電話等の通信手段を組み合わせて活用〜

         子ども同士が仲良くなるには,まず,教師同士が親しくなることが必須である。仲良くなるには,実際に会うことのできる教師同士のオフライン会が一番である。しかし,互いに離れた学校に勤務しており,日々の仕事に追われ,実際に会って子どもたちの実態等について,ゆっくりと話をする時間は確保できない。そこで,メーリングリストで互いの学校の実態を出し合うことによって,相手の立場を理解していく。また,子どもたちの状況に応じた書き込みもできる。例えば,学習発表会等が迫っていてその準備に忙しいとしよう。ただ単に,他校の子どもたちに学習活動についての投げかけだけでなく,日々のくらしに踏み込んで,激励のメッセージなどを送ると子どもたちは大変喜ぶものである。自分たちの身近な担任ではなくても,このプロジェクトの担任の先生という意識が芽生える。   

         また,互いの教師の人間的な部分を知り合えると,それが子どもたちと親密感を形成するきっかけとなる。日々の暮らしの中での会話で,「○○小学校の○○先生は,△△が得意なんだよ!」などと子どもたちに話すことによって,「先生は○○先生のことよく知っているんだなあ。きっと仲良しなんだ!」と子ども自身も他校の教師を身近に感じるものである。

         メーリングリストという手段のみに頼ることなく,子どもたちと同様に様々な通信手段を活用して,他校の教師とコミュニケーションを取る努力が大切である。

         今や高度情報通信社会である。緊急の場合は,互いの携帯電話で連絡が可能である。また,相手校のインフラの環境によっては,メールよりFAXが効果的な場合もある。まずは,教師自身が,他校の情報をタイムリーに収集し,自校の情報をアウトプットするバイタリティーが大切である。

      (2)TV会議の前のリラックスタイムで教師のパフォーマンスを披露

         TV会議をする場合に,時間前10分ぐらいには回線をつなぎ,その時間をリラックスタイムと名付けて,子どもも教師もフリーに話し合える環境を設定するのは,他校の子どもと教師自身が仲良くなるために非常に効果的である。

         その際,教師をよく覚えてもらうためのアピールを展開したいものである。例えば,教師に関わる印象をフリーに話をさせ,それを実際に担任している子どもに当たっているかどうか判断させたりすると,大変その場が盛り上がる。

         無駄のようでもそのような時間が,後の会議の進行を大変スムーズに展開させるものであり,また,相手の学校の子どもたちへバーチャルなクラスルームの担任教師の存在を覚えてもらえる絶好の機会であると考える。 

         ぜひ,教師自身も子どもたちのリラックスタイムに自分をアピールするパフォーマンスをもちたいものである。

      (3)電子掲示板で子どもたちの書き込みにレスポンスをつける

         教師が,電子掲示板で他校の子どもたちの書き込みを認め励ますようなレスポンスを返すことは,他校の子どもたちと仲良くなるために大変重要なことである。

         大人でもそうであるが,子どもの出したメールに対しての返信は,自分のメールを見てくれたという満足感を彼らに味わわせることができ,それが,学習活動の意欲や仲間意識を高めていく力になる。しかし,それぞれの学校の実態により,タイムリーにメールが返信できるとは限らない。

         メールが届いていることが,子ども自身ではすぐに確認できない環境にあったり,学校行事等で返信を書く時間がなかったりと子どもたち同士では,タイムリーにメールを送受信できないこともある。そのような時,他校の教師が自校の子どもたちの代わりを務めることによって,子どもたち同士のつながりが保てる。

           自分の担当する子どもたちとは,電子掲示板でなくても話をできる環境にある。    他校の子どもたちも自分の担任する子どもの一人という思いを絶えず忘れず,こまめに電

           子掲示板のチェックをして子どもたちの書き込みへのレスポンスをつけたい。

      (4)オフラインで会う機会を作る

         インターネットでのやりとりが主になるとしても,やはりオフライン会は重要である。参加校が増え,それは容易ではない。だからこそ,肩肘を張らずにオフライン会はできるときにやっていく,何かの活動で会える機会を・・・というように柔軟に考えるべきである。

         例えば,遠足の日程のどこかに組み込むとか,社会参加の活動に自主的に参加し,一緒に活動する等の工夫はその一つである。

         なお,そのようなせっかくのオフライン会の場では,教師自身はありのままの姿で接してもらいたい。お客さんが来た!という構えたオフライン会ではなく,授業の延長線上のような雰囲気で取り組みたいものである。

         そうすることによって,オフライン会以後のネット上でのやりとりは,より親密感が増したものになる。

    Q2.Webツールの利用のポイント・その促進方法 

       各学校でのインフラ環境の整備に伴い,インターネットを活用した学習が開発されつつある。遠隔共同学習では,活用できる身近なメディアとして電話やFAXがあるが,TV会議やインターネットを活用していくことで学習効果をさらに上げることが期待される。特に,電子掲示版などのWebツールの活用を工夫することで,学習者がインターネットに親しみながら,共同学習をより円滑に進めることができる。

      (1)ツールの使い方と使い分けの指導

        1)電子掲示板活用のポイント

          a)カード型Webデータベース

             デジタルマップなどの1次情報データを蓄積して,遠隔地でも情報を共有するツールとして有効である。情報内容として,「気づき」を文章化するだけでなく,静止画や動画を添付させることで2次情報としても活用しやすいものになる。

             カード型Webデータベース(以降「情報カード」という)を作成させる際には,その目的をしっかり持たせ,「情報カード」の意味をきちんと理解させておく必要がある。

             「情報カード」作成は,当初,なれるまで多少時間がかかるので,データ入力のマニュアルなどを作り,入力操作の理解を深めておくとよい。また,「情報カード」と同じ形式の記入用紙を印刷しておき,事前に情報を下書きさせておく方法もある。

             「情報カード」の内容は,ふさわしい内容であるか,個人情報は漏れていないかなど,教師が事前に把握しておくことも大切である。

          b)電子掲示板(テーマ別の書き込み)

             プロジェクト学習の場合,役割別のグループ会議室は,各校のそれぞれの班が意見交換をする場として有効である。中心校からの活動内容についての提案をもとに,各校の意見をまとめながら,全体の方向づけをすることができる。また,各学校の活動内容や経過を確認することで,自校の活動内容の参考にするとよい。参加校全体の方向付けをしていくために,各校のそれぞれの班でよく話し合い,提案性のある情報をもとに意見交換をしていくようにすることが大切である。

             共同調査型の学習では,テーマや内容別の会議室を設け,それぞれの部屋での情報を発信することにより,それぞれの地域の特性などに気付かせることができる。また,それを比較・検討する場としても有効である。また,1次情報としてのデータとして蓄積しておき,例えば,共同作品制作などの際に活用するようにする。

             情報をアップする際は,それぞれの会議室の内容についてよく理解させ,その情報に適した会議室を選択できるようにしておく必要がある。

          c)チャットの利用

             相手校との身近な話題や疑問などについて意見交換をする場として適している。また,気軽に行えるので,相手を身近な存在としてとらえることができ,心情的なつながりが持てるようになる。身近な話題から,徐々にテーマに関する内容へと発展させていくことが大切である。

             事前に,相手校との時間の設定や,チャットのマナーについて指導しておく必要がある。

        2)TV会議利用のポイント

           電子掲示板だけでは,細かい内容を確認できなかったり,微妙なニュアンスが伝わりにくかったりする。また,時間的に遅くなってしまう場合がある。リアルタイムで相手の顔を見て意見を交換することができるTV会議では,それらの点で有効である。

           実施するにあたっては,相手校との時間を調整し,話し合いの内容を絞り,会議の内容を事前に相手校とFAXなどで確認しておくとよい。

      (2)コミュニケーションの日常的展開のための環境設定

        1)電子掲示板の情報の掲示

           各校が作成した「情報カード」や,掲示板の情報を印刷して掲示することにより,他校の取り組み様子がよくわかるようにしておく。

        2)「情報カード」形式の記入カードの利用

            「情報カード」形式の記入カードを印刷しておき,パソコンが利用できなくても,情報を得た時にはいつでも,それに記入できるようにしておく。パソコンを利用するときに,それらをまとめて入力させるようにする。

        3)TV会議用機器の常設

           TV会議に必要な機器を,決まった場所に常設しておき,いつでもTV会議が行えるようにしておく。 

        4)デジタルカメラ,デジタルビデオの利用

           デジタルカメラやデジタルビデオを複数台用意しておき,「情報カード」を作成する際に手軽に利用できるようにしておく。 

        5)パソコンの開放

           必要な時にはいつでも活用できるパソコンを設置し,電子掲示板で,情報を確認したり,「情報カード」を記入したりできるようにしておく。

 

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