インターネット電子地図を利用した
協働学習環境の構築


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2.プロジェクトの目的

       本プロジェクトは,CECの先進的情報技術活用プロジェクトの1テーマとして,インターネット電子地図を幅広い教育分野で活用できるように,情報システムの整備と教育法の研究・実証を行うこと目的としている。

2.1 背景

       総合的な学習の導入や教育現場への急速なコンピュータの導入などにより,コンピュータを利用したグループ学習や,インターネットを利用した調査や情報発信がますます重視されるようになってきている。グループ学習では,校区内などの身近な地域を対象として,あるテーマに沿った調査発表を行うことが広く行われている。このような学習では,大縮尺の地図を用いて調査したり,白地図に調査結果を書き込んだりして学習を進める。また,異なる地方の生活や文化を学習する際には,小縮尺の地図やインターネットなどを利用して調査を行うと共に,異なる地方への情報発信と交流・協働学習などを行う。どちらの場合でも,取り纏めや発表などに,地図やコンピュータのマルチメディア機能が重要な役割を果たすことになる。

       特に最近では,複数の学校が同一のテーマで取材調査,情報交換,意見交換を行いながら学習を進める協働学習の重要性が増してきている。このような協働学習を効果的に行うためには,調査によって得られたマルチメディアデータを,迅速かつ分かり易く交換できることが重要になる。このような情報交換には,インターネットを利用することが最も適していると考えられるが,情報を迅速かつ分かり易く交換できる協働学習用のプラットフォームが整備されていないため,早急にその整備を進める必要がある。

2.2 紙の地図からインターネット電子地図へ

       背景で述べたように,地域や全国の様々な事柄を調査・学習するために地図が利用されている。これらの学習と,コンピュータの利用やインターネットの利用と相乗効果をもたせるためには,単なる紙の地図ではなく,コンピュータ上で利用できる電子地図の役割が非常に大きくなると考えられる。さらに,調査結果の取り纏めをグループで行うためには,電子地図に複数の生徒が様々な調査結果を書き込める機能が必要である。また,協働学習や学校と社会のつながりを考えると,学習結果の発表を教室内にとどめず,全国に発信することが非常に重要となる。情報の発信により児童・生徒の学習意欲が向上するし,多くの人々に見てもらうことにより,大きな達成感を得ることができる。逆に,その学習内容を見る方にとっては,様々な地域の特徴などを調査・学習する優れた教材ともなる。

       このような教育環境を実現するためには,(1) コンピュータで利用できる電子地図で,(2) 様々な情報を書き込むことが可能で,(3) 書き込まれた情報をインターネット上で発信・共有でき,(4) 多くの学校が利用できるシステムが必要となる。本プロジェクトでは,このようなインターネット電子地図サーバーの構築と,それを利用した教育の実証実験を行おうとするものである。

2.3 インターネット電子地図の概要

       本プロジェクトの中核となるインターネット電子地図は,図 1に示すように,文章や画像などをはじめとするマルチメディア情報を,場所と関連付けて記録・参照できる機能を持っている。この機能を利用することにより,子供たちが学習における調査などで得た多様なマルチメディア情報を,コンピュータ上の電子地図上に記録,整理,分析,表現などしていくまとめ学習に利用することができる。学習の対象としては,簡単に思い付くものだけでも,地域の産業,商業,風物,歴史,環境,動植物,保健福祉など多岐にわたり,その活用範囲は非常に広い。


      図 1 インターネット電子地図の表示例

       インターネット電子地図に入力された内容は,インターネットを利用できるコンピュータがあれば,どこからでも参照することが出来る。このため,インターネット電子地図は,まとめ学習の成果の学外への発表・発信手段として活用することができる。インターネット電子地図を通じた情報発信によって,取材時に協力していただいた方々に学習成果を還元して学校と地域社会との関係をさらに強めることができるし,学校で学習した成果をその日のうちに保護者に見てもらうこともできるため,子供たちの学習意欲と達成感を大幅に高めることができる。

       また,インターネット電子地図を利用した情報の整理,取り纏め法は,多種多様な情報が場所に関連付けられて非常にわかりやすい形式で表現されると共に,入力された情報は,インターネット電子地図上にリアルタイムで反映されるという特徴をもっている。この特徴を利用することにより,複数の学校でテーマを決め,情報交換を行いながら学習を進めていく協働学習の強力なプラットホームとして利用できるものと考えられる。

       インターネット電子地図は,現在急速に発展している先進的な技術であり,導入・利用コストの高さが障害となり,教育に応用する例はまだない。また,今後も当分の間は,コストが障害となり教育用のインターネット電子地図システムの実現や,それに向けたシステムの機能や操作性の研究・開発は望めないと考えられる。本プロジェクトでは,コスト的な問題や技術的な問題を,提案者である硴崎が開発したインターネット電子地図の技術を利用することにより取り除き,実現可能なものにしている。本プロジェクトでは,協働学習の強力なプラットホームとしての特徴をもったインターネット電子地図のサービス基盤を整備すると共に,上記のような学習への活用が効果的に行えることを実証的に検証・評価することを目的としている。

2.4 学校と社会との連携

       インターネット電子地図の活用効果は,教育の情報化という狭い範囲に留まらない。社会と教育,学校,あるいは子供たちの関係を変革する力を秘めている。インターネット電子地図を利用して学習成果の取り纏めを行うと,特別な労力を払うこと無く,その結果がインターネットを通じて自動的に社会に発信,公開される事になる。社会や家庭において,学校内での教育の様子が手に取るように分かるようになるのである。一方,子供たちにとっては,自分たちの学習成果が広く社会の人に見てもらえることは,社会への参加意識を育むと共に,学習意欲や達成感の向上に寄与する事になる。このように,インターネット電子地図は,社会と学校を結ぶ強力な架け橋になるものと考えられる。

      2.4.1学校と学校

         インターネット電子地図の主要な目的に,複数の学校が連携して学習活動を行う,協働学習の支援がある。インターネット電子地図は,登録した情報が自動的にインターネット上で発信されることや,複数の子供や学校によって個別に入力された情報が自然に共有されるといった基本特性がある。このため,一対一はもちろんのこと,多数の学校の子供たちが自然に協働学習を行えるという特徴がある。きっかけが無かった学校間でも,インターネット電子地図上でそれぞれが入力した情報に互いに興味を持ち,そこから協働学習のプロジェクトが開始されることが頻繁に発生するものと考えられる。このため,インターネット電子地図は,協働学習の強力なプラットフォームとして広く利用されると共に,地図という我々が慣れ親しんだ情報の表現法とあいまって,多くの人間が協働で一つの目的を達成する楽しさを学ぶうえで,大きな成果を上げるものと考えられる。

      2.4.2学校と家庭

         これまでの教育や学習の成果は,基本的にクラス内や学校内で提示されるだけで,社会や家庭では,学校でどの様な教育が行われ,子供たちが何をどの様に学んでいるかを日常的に知ることはできなかった。インターネット電子地図を利用した学習では,子供たちが家に帰って家族との団欒の場などで学習内容を話すと,その内容をインターネット上ですぐさま確認できる事になる。これにより,家族は学校でどの様な教育が行われ,子供たちが何を学んでいるかを具体的な形で理解することができる。一方,子供たちにとっては,学習成果を家族に見てもらえることはこの上ない喜びであり,学習意欲や達成感が大きく向上する事になる。さらに,これをきっかけにして,家庭での話題が広がったり,保護者の学校への理解の増進や,学校教育への協力などのきっかけになるものと期待される。

      2.4.3 学校と地域社会

         これまでの地域学習では,地域の色々な方々に調査取材をして,その結果を取りまとめて学習を進めている。学習成果は,その調査取材に協力をしてくださった方々に,感謝の意味も込めて還元し,地域社会,学校,子供たちの絆を確かなものにしていくべきであろう。インターネット電子地図を利用して取材の取り纏めを行うと,付加的な労力を要すること無く,インターネット上で協力者に学習成果を見てもらうことができる。これにより,学校や子供たちと,地域の人々との交流を自然と深めることができる。また,学習成果にアドバイスをもらうことにより,さらに学習を有意義なものにしていくこともできる。これは,学校や子供たちにとって重要なだけでなく,地域の人々が学校教育に参加している一体感を育む上でも非常に重要である。

         インターネット電子地図を利用した学習が学校で進められると,地域の産業,商業,風物,歴史,環境,動植物,保健福祉などの様々なテーマの元に,子供の目で見た地域の有り様が,インターネット電子地図を通して蓄積,発信されていく事になる。これは,学校教育が地域文化の発信に寄与することを示している。

      2.4.4 学校と社会全体

         インターネット電子地図は,単に小中学校の児童・生徒の学習に利用できるだけではない。一般の大人にとっては,インターネット電子地図に蓄積された環境や福祉などの各種の調査学習や意見などを参照することにより,子供の目から見た社会のありようを再確認し,社会環境の改善の方向性を考えるよい指針になりうるものと考える。また,子供たちの学習活動によって蓄積された各種の情報は,年を経て積み重ねられることにより,その情報そのものが,社会的な資産となっていくものと考えられる。

2.5プロジェクトの提案内容

       本プロジェクトは,インターネット電子地図を総合的な学習や社会科学習に応用する実証実験である。本プロジェクトでは,以下のような活動を行う。

      インターネット電子地図サーバー(図 2)は,インターネット上で稼動するため,サーバーやネットワークの性能的な制約が問題とならなければ,本プロジェクトの中核校だけでなく,幅広い学校の参加を受け入れることができるものと考えている。


      図 2 インターネット電子地図のネットワーク概念図


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